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静電アクチュエータの設計

第 2 章 MEMS 技術を用いたデバイスの設計

2.4 MEMS アクチュエータの設計

2.4.8 静電アクチュエータの設計

静電アクチュエータの中で,最も一般的な電極が櫛歯状になっている櫛歯型静電アクチュエータの設計・開発を行っ

た[39]. 設計した櫛歯型静電アクチュエータを図2.18に示す. 下の電極が固定側,上の電極が可動側の電極である.

また,この静電アクチュエータは平成18-19年度文部科学省 派遣型高度人材育成協同プランの援助のもと,富士電 機システムズの協力により作製されたものである.

(100μm)

ユニットセルの長さ:2(w+g)= 144μm

→セル数 N=16 0 , 全体の幅 W= 23040 μ m

w= 60 g= 12

s=50 h=10 0 l=600

バネ係数:Ky

バネ係数:Kx

C

tip

C

side

3000 μm

〜 8000 μm

図2.18: 設計した櫛歯型静電アクチュエータ

静電アクチュエータの設計のポイントしては,以下の5つが挙げられる.

1. 櫛歯電極の側壁間距離を出来るだけ小さくする 2. 変位量を大きくするためには線形領域の確保が必要 3. 横方向のバネ係数を大きく、縦方向のバネ係数は小さく 4. プルイン状態に陥らないための工夫

5. ばね形状の設計(弾性力と静電引力との関係)

それぞれについて設計手法を記す.

1.櫛歯電極の側壁間距離を出来るだけ小さくする

電極間に距離を出来るだけ小さくするには,製造装置の精度に依存する. 今回はICP(Inductively Coupled Plasma)

エッチャー6を用いてICPエッチングを行った.ICPエッチャー装置の仕様から,電極の厚みを100µm,電極の側壁間 距離を12µmと設計した.

6ICPエッチャーとは高密度プラズマエッチング装置のことで,ドライエッチング装置の一種.反応性ガスによる低温プラズマ中の活性化原子

(ラジカル)と試料の化学反応により揮発性化合物を作り試料を加工する技術.

2.変位量を大きくするためには線形領域の確保が必要

線形領域を確保するには,部分モデルでの解析が必要となる. 図2.18において,櫛歯電極の先端容量Ctip と櫛歯電 極の側壁容量Csideは以下のように表される.

Ctip = 2ε0

wh

s−x (2.10)

Cside = 2ε0(l−s+x)h

g . (2.11)

式(2.11)から,アクチュエータのストロークに注意しながら,即壁間距離gを小さくして,(静電力を大きく取るため

に)静電容量が最大になるように設計する. 櫛歯電極の一つのユニットセルの長さは2(w+g)となるから,全部の櫛 歯電極の数をNとすると

N = W

2(w+g) (2.12)

と表される.これより櫛歯型静電アクチュエータ全体の静電容量は以下のようになる.

C = (Ctip+Cside)×N (2.13)

= ε0 ( w

s−x+l−s+x g

) W h

w+g (2.14)

図2.19に櫛歯の静電容量と変位の関係を示す. 静電容量が変位に応じて線形に変化している領域をここでは線形 領域と呼び,この間は発生力が一定である. この線形領域をアクチュエータ動作として使用する.

この範囲で容量が線形に変化

→発生力一定(線形領域)

※ここの範囲でアクチュエータを使用する

図2.19: 櫛歯の静電容量と変位の関係

図2.20に設計した櫛歯型静電アクチュエータの櫛歯の静電容量と変位の関係を示す. 線形領域は0µmから35µm であることが確認できる.

静電容量

0.116 0.118 0.12 0.122 0.124 0.126 0.128 0.13 0.132 0.134 0.136

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

変位量

静電容量[F]

[μm]

]

図2.20: 櫛歯の静電容量と変位の関係

また櫛歯型静電アクチュエータの静電力Fは,電極間の距離と印加電圧で決まり, F = 1

2 dC

dxV2 (2.15)

となる. 図2.21に静電引力と可動電極の位置との関係の例を示す.

dx dC

m F / 10

9

×

重なりなし

重なり始め

重なっている状態

静電引力・大

力 力

図 2.21: 櫛歯の静電引力と変位量の関係

また設計した櫛歯型静電アクチュエータの静電引力と変位量の関係を図2.22に示す. 印加電圧を50[V],70[V],120[V]

と大きくすれば発生力は大きくなるが,線形領域が狭くなることが確認出来る.

0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00

0 10 20 30 40 50

変位量[μm]

発生力F[nN]

静電引力[nN]V=50[V]

静電引力[nN]V=70[V]

静電引力[nN]V=120[V]

図 2.22: 櫛歯の静電引力と変位量の関係

3.横方向のバネ係数を大きく,縦方向のバネ係数は小さく

静電アクチュエータをアクチュエータとして使用するには,ストロークを長く取る必要がある. 長ストロークを実 現するには,y方向の移動を容易にしx方向の静電力を増加する必要がある. すなわち,y方向のばね定数を小さく, x 方向のばね定数を大きく設計する必要がある.

図2.23に可動電極と固定電極,及びばねの模式図を示す. ここで,

櫛歯電極間のギャップ:g

櫛歯電極の高さ:h

櫛歯の数:N

印加電圧:V

y方向のばね定数:Ky

初期のオーバーラップ長さ:y

x方向のばね定数:Kx

x方向の可動電極のぶれ量:x を表している.

可動電極

固定電極

ス ト ロ ー ク

可動電極

固定電極

ス ト ロ ー ク

図2.23: 可動電極と固定電極,およびばねの模式図

力学的エネルギー保存則より,y方向の静電引力は Fy=εN hV2

2g =ky(y−y0), x方向の静電引力は

Fx=N( εhyV2

2(g−x)2 εhyV2

2(g+x)2) =kxx となる.

図2.24に設計した静電アクチュエータの弾性力と静電引力の関係を示す.

0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00

0 10 20 30 40 50

変位量[μm]

発生力F[nN]

バネの弾性力[nN]

静電引力[nN]V=50[V]

静電引力[nN]V=70[V]

静電引力[nN]V=120[V]

図2.24: 弾性力と静電引力の関係

ここで,弾性力よりも静電引力の方が強い領域においては,プルイン状態7 になってしまいアクチュエータとしての 動作は不可能となる.

この図より,印加電圧を大きくすると発生する静電引力は大きくなり高速動作が可能になるが,線形領域は狭くな り,同時に可動範囲も狭くなる. 反対に,印加電圧を小さくすると,線形領域は大きくなり,可動範囲も広くなるが,発 生する静電引力は小さくなるので,動作は遅くなる. これらのトレードオフの関係を考慮して,今回は印加電圧に70V と設定し,線形領域は0から30µm,静電引力は0から2nN と設計した.

4.プルイン状態に陥らないための工夫

電源-駆動電極間に100kΩの抵抗を付加することで,流れる電流を制限し,プルイン状態を回避する方法がある[39].

今回はこの手法を用いることと,更にバネの形状を工夫してストッパ部分を可動電極と固定電極の間に設置すること で,プルイン状態に陥らないよう設計した.

5.ばね形状の設計(弾性力と静電引力との関係)

図2.25に設計した櫛歯電極静電アクチュエータを示す. 弾性力の計算には,ばね形状によるばね定数を使用する.

ばね定数はばねの材質と断面形状,そしてばねを曲げる向きによって決まる.

固定電極 可動電極 バネ部

バネ部

図 2.25: 櫛歯静電アクチュエータの全体図

ばねの材質

ばねの材質はヤング率やポアソン比で計算されるが,これらは物質によって決まっており,通常はSiを使用する.

(Siのヤング率;E= 0.13[kgf /μm2],ポアソン比;0.27,密度;2.5×1015[kg/μm3])

ばねの断面形状

ばねの断面形状は断面二次モーメントで決まり,曲げの方向から見て幅をb,高さをhとすると断面二次モーメン トIは以下のようになる. また,2.4.5節に述べた構造計算の場合と同様に計算出来る.

I=bh3 12

ばねを曲げる向き

ばねの構造が片持ち梁の場合,ばねを曲げる向きに対する断面二次モーメントをIZとし,ヤング率をE,ばねの長 さをlとすると,ばね定数は以下のようになる.

k=12EIZ l3

また片持ち梁以外の複雑な形状の場合は,下記のような境界条件を設定する必要があるが,今回は片持ち梁の構造 体を設計し,上式を用いて計算を行った. 以上の計算結果から図2.24を導出した.

1. 境界条件として外力を設定

2. 固定されている箇所は外力=0として計算

3. 構造体自身の重さ(自重)は外力等分布荷重として計算 4. 設定した条件から微分方程式を解く