Parasitic capacitance
4.7 動ひずみ測定での寄生容量の影響除去方式の提案
B. 構成 以下提案方式の詳細を説明する(図4.13(a)). 搬送波用交流電源(周波数ω1)をブリッジ回路へ入力する.
ブリッジ入力信号をAD変換しデジタル化する. またブリッジ出力信号をACアンプで受けて増幅してその出力を AD変換しデジタル化する. このAD変換器はこれまでの経験から帯域30kHz程度,分解能17-18bitが必要であるが 市販の∆Σ型ADCでこの性能を満たすことができる.
入力搬送波(ω1)と,ブリッジ出力電圧との位相検波を行うことで出力電圧の同相成分(実数部)を,入力電圧を90 度移相させたものとの位相検波で直交成分(虚数部)をそれぞれ得ることが出来る. 入力信号の90度位相シフト,検 波のための乗算とDC成分抽出(低域通過フィルタリング)はデジタル的に行う(図4.13(b)). また,正弦波フィッテ ングアルゴリズムを用いて同相成分と直交成分を得ることもできる[20].
この2つの検波情報から,デジタル演算処理によって,寄生容量成分C1 をキャンセルし xを計算し, その値と式 (4.2)からひずみ量εを得ることが出来る.
このようにすることで精度劣化の大きな影響となる寄生容量を検出しキャンセルして,ひずみ測定の精度を向上さ せることが出来る.
C.寄生容量キャンセルアルゴリズム 図4.5(b)の寄生容量C1をもった1ゲージ・ブリッジ回路を周波数領域で解 析するとブリッジ出力伝達関数H(jω)を用いて式(4.4)-(4.7)のように求めることができる.
次に時間領域で解析する. ブリッジ入力信号Vin(t)を周波数ω1の余弦波とすると出力信号Vout(t)も同じ周波数 の余弦波となる.
Vin(t) = cos(ω1t),
Vout(t) = a1cos(ω1t) +b1sin(ω1t).
位相検波回路でcos(ω1t)とVout(t)を掛け合わせると a1
2 +a1
2 cos(2ω1t) +b1
2 sin(2ω1t)
となる.低域通過フィルタでDC成分のみを取り出すとa1/2の値が得られる.この値はH(jω1)の実数部と等しいの で次の式を得る.
HRE(ω1) = a1
2 . (4.43)
同様にsin(ω1t)とVout(t)を掛け合わせてDC成分を取り出すと次の式を得る.
HIM(ω1) = b1
2. (4.44)
後述のように正弦波フィッテングアルゴリズムを用いてもa1,b1 の値を求めることができる[20]. ここで HRE(ω1), HIM(ω1)はそれぞれ式(4.5), (4.6)で定義されたHRE(ω),HIM(ω)のωにω1の値を代入したものである.
未知数2つ(C1, x)に対して2つの方程式(4.43),(4.44)が得られるのでC1をキャンセルしてxを求めることがで き,その値から式(4.2)を用いてひずみ量εが得られる. なお,厳密にはC1をキャンセルしたxの式はxの3次方程 式であるが, デジタルで計算するので数値計算により解を求めることができる.
この導出したアルゴリズムのチェックのためシミュレーションを行ない, ブリッジ回路の入力電圧Vinと出力電圧 Voutを直交検波して得られる伝達関数VCR, VCIのSPICEシミュレーション結果と式による計算結果は一致するこ とを確認した(図4.14). これにより,伝達関数の計算が正しいことが確認できた.
VCR
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
Parasitic Capacitance C[pF]
VCR[mV]
calculation spice simulation
VCI
0 10 20 30 40
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
Parasitic Capacitance C[pF]
VCI[mV]
calculation spice simulation
図 4.14: 図 4.13 の提案システムでの導出式に基づく計算結果と SPICEによるシミュレーション結果の比較.
(VCR, VCI, ωin, C =C1 は図4.5,図4.13参照. ωin/(2π) = 10kHz,20kHz. )
M U X
Bridge Circuit
ADC ADC
Memory&DSP AC AMP
Analog Digital ω1
ω2
(a)
M U X
Bridge Circuit
ADC ADC
90°phase shift
Memory
& DSP VCR1(VCR2)
VCI1
AC AMP
Analog Digital
Strain ω1
ω2
(b)
図4.15: (a)提案する動ひずみ測定回路のブロック図(2ゲージ法).(b)直交検波をデジタル的に行う.
4.7.2 2ゲージ法の場合の提案方式
A. 概要 : 2ゲージ法(図4.6, または図4.7)において寄生容量C1, C2 (またはC1, C3)の影響を受けずに入力 Vin(t)と出力Vout(t)からx= ∆R/Rの値を得ることを考える.
• 図4.15において, 周波数ω1 およびω2のそれぞれで,ブリッジの「入力信号」および「出力信号をACアンプ で増幅した信号」をAD変換する.
• その周波数ω1, ω2それぞれのデジタルデータを用いて直交位相検波を行う. すなわち式(4.8)-(4.17) (また は式(4.18)-(4.24))に基づき,周波数伝達関数H(jω)で入力周波数ω1に対する実数部 Re{H(jω1)}と虚数部 Im{H(jω1)}およびω2に対する実数部Re{H(jω2)}の情報を利用する.
• これらの情報を利用し寄生容量C1,C2 (またはC1,C3)をキャンセルしてxを計算し,式(4.2)からひずみ量 εを求める.
• 直交位相検波,ひずみ量の計算は全てデジタルで行う.
B.構成 以下提案方式の詳細を説明する(図4.15(a)). 搬送波用交流電源の周波数を2種類ω1, ω2 入力し,マルチプ レクサーでブリッジへ入力する周波数を選択する. ω1/(2π) = 20kHz で,ω2はたとえばω1 を2分周して生成する.
各々の周波数入力信号に対して,ブリッジ入出力信号をAD変換しデジタル化する.
周波数ω1, ω2に対してそれぞれ入力搬送波と,ブリッジ出力電圧との位相検波を行うことで出力電圧の同相成分
(実数部)を,入力電圧を90度移相させたものとの位相検波で直交成分(虚数部)をそれぞれ得ることが出来る. 入 力信号の90度位相シフト,検波のための乗算とDC成分抽出(低域通過フィルタリング)はデジタル的に行う(図
4.15(b)). また, 正弦波フィッテングアルゴリズムを用いて同相成分と直交成分を得ることもできる[20].
この4つの検波情報(ω1に対する実数部, 虚数部,ω2に対する実数部, 虚数部の情報)のうち3つを使用して,デ ジタル演算処理によって,寄生容量成分 C1,C2 (またはC1, C3)をキャンセルしxを計算し, その値と式(4.2)か らひずみ量εを得ることが出来る.
C.寄生容量キャンセルアルゴリズム (i)隣辺2ゲージの場合
図4.6(b)の寄生容量C1, C2をもった2ゲージ・ブリッジ回路を周波数領域で解析するとブリッジ出力伝達関数H(jω) を用いて式(4.8)-(4.14)のように求めることができる.
次に1ゲージ法と同じように時間領域で解析する. ブリッジ入力信号Vin(t)を周波数ω1の余弦波とすると出力信 号Vout(t)も同じ周波数の余弦波となる.
Vin(t) = cos(ω1t),
Vout(t) = a1cos(ω1t) +b1sin(ω1t).
位相検波回路でcos(ω1t)とVout(t)を掛け合わせると a1
2 +a1
2 cos(2ω1t) +b1
2 sin(2ω1t)
となる.低域通過フィルタでDC成分のみを取り出すとa1/2の値が得られる.この値はH(jω1)の実数部と等しいの で次の式を得る.
HRE(ω1) = a1
2 . (4.45)
同様にsin(ω1t)とVout(t)を掛け合わせてDC成分を取り出すと次の式を得る.
HIM(ω1) = b1
2. (4.46)
次に,ブリッジ入力信号Vin(t)を周波数ω2の余弦波とすると出力信号Vout(t)も同じ周波数の余弦波となる.
Vin(t) = cos(ω2t),
Vout(t) = a2cos(ω2t) +b2sin(ω2t).
同様にして位相検波回路でcos(ω2t)とVout(t)を掛け合わせると a2
2 +a2
2 cos(2ω2t) +b2
2 sin(2ω2t)
となる.低域通過フィルタでDC成分のみを取り出すとa2/2の値が得られる.この値はH(jω2)の実数部と等しいの で次の式を得る.
HRE(ω2) = a2
2 . (4.47)
後述のように正弦波フィッテングアルゴリズムを用いてもa1,a2,b1の値を求めることができる[20].
ここで HRE(ω1),HRE(ω2),HIM(ω1)はそれぞれ式(4.9), (4.12)で定義されたHRE(ω)のωにω1とω2の値を, 式(4.11), (4.12)で定義されたHIM(ω)のωにω1の値を代入したものである.
未知数3つ(C1, C2, x)に対して3つの方程式(4.45),(4.46),(4.47)が得られるのでC1, C2をキャンセルしてxを求 めることができ,その値から式(4.2)を用いてひずみ量εが得られる.
(ii)対辺2ゲージの場合
また,図4.7(b)の寄生容量C1, C3をもった2ゲージ・ブリッジ回路を周波数領域で解析するとブリッジ出力伝達関
数H(jω)を用いて式(4.18)-(4.23)のように求めることができる.
隣辺2ゲージの場合と同様にして,未知数3つ(C1, C3, x)に対して式(4.19),(4.20), (4.21)よりHRE(ω1),HRE(ω2), HIM(ω1)が得られる. これらの式と後述の正弦波フィッテングアルゴリズムを用いて得られるa1,a2,b1から3つの 方程式が得られる.
これらの3つの方程式からC1, C3をキャンセルしてxを求めることができ,その値から式(4.2)を用いてひずみ量 εが得られる.
この導出したアルゴリズムのチェックのためシミュレーションを行ない, ブリッジ回路の入力電圧Vinと出力電圧 V を直交検波して得られる伝達関数V , V , V のSPICEシミュレーション結果と式による計算結果は一致
VCR
4.9 4.925 4.95 4.975 5 5.025
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
Parasitic Capacitance C[pF]
VCR[mV]
VCR1̲calculation VCR1̲spice simulation VCR2̲calculation VCR2̲spice simulation
VCI
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
Parasitic Capacitance C[pF]
VCI[mV]
calculation spice simulation
図4.16: 図4.15の提案システム(隣辺2ゲージブリッジ回路)での導出式に基づく計算結果とSPICEによるシミュ
レーション結果の比較. (VCR, VCI, ωin, C1, C2 は図4.6,図4.15参照. ωin/(2π) = 10kHz,20kHz, C=C1 =C2.)
VCR
0 1 2 3 4 5 6
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
Parasitic Capacitance C[pF]
VCR[mV]
VCR1̲calculation VCR1̲spice simulation VCR2̲calculation VCR2̲spice simulation
VCI
0 10 20 30 40 50 60 70
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
Parasitic Capacitance C[pF]
VCI[mV]
calculation spice simulation
図4.17: 図4.15における提案システム(対辺2ゲージブリッジ回路)での導出式に基づく計算結果とSPICEによる
シミュレーション結果. (VCR, VCI, ωin, C1, C3は図4.7,4.15参照. またωin/(2π) = 10kHz,20kHz, C=C1=C3. )
4.7.3 提案方式の考察
ブリッジ回路の入出力信号をAD変換器を用いてデジタルに変換しこれをデジタル演算することでアナログ演算の 場合のノイズ,ドリフト,非線形性の影響を除去できる. たとえば直交位相検波のため入力余弦波から正弦波をデジタ ル的に構成すればアナログの90度位相シフト回路の非理想特性の問題を回避できる. 直交位相検波のときの乗算お よび低域通過フィルタリングもデジタルで行う. また. 直交検波と等価なことを次節で説明する正弦波フィッテング アルゴリズムを用いてデジタル的に計算することもできる. このような提案構成で,寄生容量値が未知でまた温度と ともに値が変化しても精度の高い動ひずみ測定が可能となる.
2ゲージ法では入力には2つの周波数(ω1, ω2)のACブリッジ電源が必要であるが,2分周回路を用いれば比較的 簡単な回路構成でω1 のACブリッジ電源からω2=ω1/2 のACブリッジ電源を作ることができる. 近年のA/D変 換器とDSP技術の著しい進展により,提案手法が性能的・コスト的に可能になることが期待できる. なお寄生容量の 値が大きいときは, 5節に示したような容量バランス(アナログ)回路で寄生容量をほぼキャンセルしておき,温度変 化・ドリフトによる寄生容量値の変動を提案デジタル手法でオンラインでキャンセルする. (寄生容量大のときは容 量バランス回路がなければひずみがゼロのときの回路の動作点が大きくずれてしまう. 例えば5000pFの寄生容量が 付いた場合, 30,000µε相当のひずみが発生する. )