第 2 章 MEMS 技術を用いたデバイスの設計
2.6 スパイラルインダクタの設計
2.6.3 シミュレーション結果
L値,Q値の計算式を基にして電磁界解析シミュレーションソフト(S-NAP/Field)8を利用しスパイラルインダク タの特性を検討した.
線幅と線間距離の割合について
外形を固定し,線幅と線間距離の割合を1:3,1:1,3:1と変化させた時の巻数に対するインダクタンス値LとQ値の 特性を図2.38に示す. 右上がりの曲線がインダクタンス値,右下がりの曲線がQ値の特性となる. これよりQ値は線 幅が狭いほど低い事が分かる.また,1:1と3:1は近い特性を示しており,4巻以下では1:1が一番良い特性となってい る. インダクタンスは巻数の増加と共に増加してゆき,外形を固定すると線幅を変えてもインダクタンス値には影響 しない事が分かった.
図 2.38: 図2.35のスパイラルインダクタで,線幅と 線間距離の割合を変化させた時のインダクタンス値 とQ値特性.L値(点線:右上がり)は線幅の割合に依 存しない,Q値(実線)は線幅の割合が大きい方が,同 じ巻き数でも高い.
図 2.39: 図2.35のスパイラルインダクタで,線幅と 線間距離を1:1に固定した時に,線幅を変化させた 時のインダクタンス値とQ値特性.L値(点線:右上が り)は線幅が広い方が大きい,Q値(実線)は線幅が狭 い方が高い.
8S-NAP/Field:シールド領域のモーメント法解析エンジンを搭載したプレーナ回路用電磁界シミュレータでL,C,Rトランジスタなどのような
回路部品を混在させて解く事ができる新しいタイプのマイクロ波シミュレータ.かつて別々のシミュレーション問題とされていた回路シミュレー ションと電磁界シミュレーションを統合して解く事により,回路要素を考慮した電流分布,電界分布などがシミュレーションでき,アクティブアン テナなどもいながらにして解析可能.即ち,モーメント法を用いた新しい回路解析手法.(株)M.E.L
図2.40: 図2.35のスパイラルインダクタで,線幅と線間距離の割合を変化させた時に,巻き数に対する共振周波数特 性.線幅が線間距離より小さい時,同じ巻き数でも自己共振周波数は高くなる.
以上の結果より,線幅と線間距離の割合において,線間距離よりも線幅の割合が大きい方が,同じ巻き数においてQ 値は高くなり,自己共振周波数は低くなることが確認できた. また,線間距離と線幅の割合が同じ場合には,線幅が大 きいほど,インダクタンス値は高くなり, Q値は小さくなることが確認できた.
内径サイズの影響
内径サイズが与えるインダクタンス値とQ値の計算式(2.37,2.38)式より,巻き数に対するインダクタンス値とQ 値の特性をシミュレーションにより求めた. 図2.41のような四角形型のスパイラルインダクタにおいて,内径サイズ aを変化させた時の,インダクタンス値とQ値の特性を図2.42に示す.
図2.41: 四角形型スパイラルインダクタのインダクタンス値とQ値の計算式で用いた各パラメータ:p=線幅,q=線
間距離,a=内径,D=外形.
図 2.42: 図2.41のスパイラルインダクタで,内径の 大きさを変化させた時のインダクタンス値とQ値特 性.:L値(点線:右上がり)は内径が広い方が同じ 巻き数でも大きい.Q値(実線)は内径が狭い方が大 きい.
図 2.43: 図2.42の結果を内径の大きさをパラメータ とした時の,インダクタンス値とQ値の特性.:50nH 以下より小さい時,同じインダクタンス値でも,内径 サイズが大きい方がQ値は高くなる.
図2.42より,線幅と線間距離が等しい場合,内径サイズを大きく取ると,インダクタンス値は高い値を得られるが,Q 値は低くなってしまうことが分かる. また,図2.43からも内径サイズが大きい程, Q値は低い値を得られることが分か る. しかし,参考文献[8]によると,実測結果からの考察において,「同一の配線と配線間幅であれば,内径の大きい方 が,また, 同一の内径であれば,配線幅が広く,配線間の割合が少ない方が,高いQ値を得られることが分かる.」とあ る. この考察は,我々のS-NAPのシミュレーション結果と異なっている. この理由として,S-NAPのシミュレーショ ンにおいては,磁気エネルギーの影響がない場合の理想モデルとした時の結果であり,実際は,内径が小さいと反対側 セグメント(電流が逆方向に流れている)が近づき,内径部での磁界が打ち消され,磁気エネルギーが小さくなる. こ れによりインダクタンス値が低下し,Q値も減少する. 電流も微妙に変化するので抵抗による損失エネルギーも同じ にはならない. よって,インダクタを設計する場合には,互いに逆行する電流成分を有する導体セグメントをできるだ け引き離す必要がある.
メタルの厚さについて
次に,配線であるメタルの厚さを変化に対する,インダクタンス値とQ値の特性をシミュレーションにより求めた.
図2.41のようなスパイラルインダクタにおいて,配線のメタルの厚さを変えた時のインダクタンス値とQ値の特性 を図2.44に示す.
図2.44: 図2.41のスパイラルインダクタで,同一線幅と線間距離の場合,配線のメタル厚を変えた時のインダクタン
ス値(点線:右肩上がり)とQ値(実線)の特性.メタル厚が厚いほどQ値が高くなることが確認できた.
図2.44より,配線厚を厚くすると,インダクタンス値には影響はないが, Q値は改善することが分かった. (2.29,2.30) 式からこの特性は説明出来る. (2.29)式において,インダクタンス値は配線厚に関する項は入っていないので,インダ クタンス値は配線厚には依存しない. また(2.30)式から, Q値と配線抵抗は反比例の関係にあることから, 配線厚と Q値は比例の関係にある. よって,配線厚を厚くするとQ値は大きくなる.
しかし,配線厚を厚くするということは,製造上の問題がある. エッチングによる形成を行う際,完璧に直角に作る ことは不可能であり,深くなればなるほど,表面は目標の値よりも削れ,谷のような形状になってしまう. よって,配 線の厚さを厚くするには,製造上の制限がある. 試作に向けての検討の際,スパッタ蒸着で配線の厚さを2μmまで, 厚く出来ることが分かっている.
絶縁層の厚さについて
参考文献[7]に,「シリコン基板の高抵抗化がQ値の向上に効果があることが分かった. また,絶縁層を厚くするこ とも有効であり,従来に比べ絶縁膜厚を2倍にした場合,全体的にQ値を2〜3程度の改善を実現出来た.」とある. そ こで,我々は,図2.45において,絶縁膜厚を変えた時のQ値の特性をシミュレーションにより求めた.
図2.45: 図2.41の四角形型スパイラルインダクタの 断面図. 基板と1層目のメタルの間の絶縁膜を1層 目の絶縁膜,1層目と2層目のメタルの間の絶縁膜 を2層目の絶縁膜とおく.
図 2.46: 図2.45において,横軸を1層目の絶縁膜の 厚さ, 縦軸をQ値とする.2層目の絶縁膜厚を1µm とした時の, 1層目の絶縁膜の厚さを変えた時のQ値 特性:1層目の絶縁膜の厚さを6µm以上にすると,Q 値は大きくなる.
図2.47: 図2.45において,横軸を2層目の絶縁膜の 厚さ, 縦軸をQ値とする.1層目の絶縁膜厚を1µm とした時の, 2層目の絶縁膜の厚さを変えた時のQ値 特性:2層目の絶縁膜の厚さを10µm以上にすると,Q 値は大きくなる.
図 2.48: 図2.45において,横軸を1層目(=2層目)
の絶縁膜の厚さ, 縦軸をQ値とする.1層目と2層 目の絶縁膜厚を同じにした時の,一つの絶縁膜の厚さ を変えた時のQ値特性:絶縁膜の厚さを4.5µm(全
体では9µm)以上にすると,Q値は大きくなる.
以上より,1層目の絶縁層の厚さを厚くする方が, 2層目の絶縁層を厚くするよりも,Q値の改善には効果があるこ とが分かる. また,参考文献[8]によると,基板に高抵抗のものを使用することでも, Q値の改善が見られたことから, 我々は,試作でガラス基板を用いた.