第 3 章 下水汚泥焼却灰を活用した樹脂系防食被覆材の開発
3.5 最終配合供試体の性能検証
3.5.3 防食被覆層等の硬化性の検証
既往の防食被覆材に関する技術基準等では,硬化性に関する性能は規定されていない。
しかし,管路施設内の高湿度の施工環境の中,現場では硬化不良の課題が指摘されてい る。
また,施工後短時間で下水を通水させなければならないという管路施設特有の制約条 件を考慮する必要がある。
このため,本研究では独自の検証項目として,防食被覆層とトップコートの硬化性の 検証を行った。
表3.1に示す開発目標②では,「養生時間2時間で下水を通水させても防食被覆材が 変形しないこと」としている。このため,塗布後2時間経過後の通水による変形の有無 を確認する試験を実施した。
具体的には,室内試験①として,下水の流れが本防食被覆材に及ぼす水圧を想定し,
それに対する本防食被覆材の変形性能を検証した。
また,室内試験②として,強度等から変形性能を検証する試験を行った。防食被覆層 については,硬質プラスチックの圧縮特性の試験方法(ASTM D 695)を準用して求めた圧 縮強度から変形性能を検証した。トップコートについては,ゴムの硬さを測定する試験 (ASTM D 2240)を準用し,表面硬度を測定する試験を実施した。
(1) 室内試験① 1) 試験方法
モデルケースとして,φ450鉄筋コンクリート管,水深36cm(最大流速となる水 深として内径の8割を設定),勾配2‰とし,マンホール内で下水が流れる部分のイ ンバートに接触する圧力を想定した。防食被覆層とトップコートを塗布した試験片 にこの圧力相当の荷重を作用させて,変形の有無を検証した。
【想定圧力】
圧力算定に必要な流速はマニング式を用いて算出する。
(算出方法)
・・・・・・・・・・・(式-1)
・・・・・・(式-2)
・・・・・・・・・・(式-3)
・・・(式-4)
・・・・・・・・(式-5)
ここに,
Q:流量(m3/s) V:平均流速(m/s) n:粗度係数(-)
R:径深(m) (A/ S) S:潤辺(m)
A:水路における流水の断面積(流積)(m2) θ:水面と中心とのなす角度(rad)
I:勾配
水深0.36m,管径0.45mの時,θ=4.4(rad) を(式-4)に代入して R=0.45
4 �1−𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆𝑆 �= 0.1125�1−−0.954.4 �= 0.137 となるので,(式-5)に代入して
V= 1
0.014(0.137)23(0.002)12= 0.85 m/s A=0.1364 ㎡
Q=A・V=0.85×0.1364=0.116 m3/s
H 流積A
θ 管径D
潤辺S
これより,単位インバート面積当たりの作用力は,
P/a = 98.6N/0.636m2=155N/m2=155Pa
a:インバート部面積(1号マンホールにおける流水断面部として)
3.14×0.45/2×0.9=0.636㎡
以上より,防食被覆層とトップコートの塗布後に,155Paの荷重を被覆面に作用さ せ,変形の有無を検証する。
2) 試験結果
防食被覆層5mmの上にトップコート0.5mmを塗布した後,想定した作用力以上の 荷重を有する載荷物を供試体上に置き,時間の経過ごとに防食被覆層等の変形(く ぼみ等)を観察した。載荷物は重量40g,平面積9㎠で,4.44 g/㎠(435Pa)とし た。想定作用力(155Pa)の約3倍に相当する安全側の実験となっているが,これは 載荷物が軽すぎる場合,変形の有無の判断が目視では難しいためである。
試験方法を写真3.11に示す。
載荷物(40g)の計量 (防食被覆層+トップコート) 塗布後の供試体
載荷状況
写真3.11 試験方法
試験結果を表3.13および写真3.12に示す。防食被覆層等は,塗布後1時間以上の 経過で,変形が生じないことを確認した。
表3.13 変形試験結果 (防食被覆層+トップコート)塗布
後の経過時間
試験結果
0.5時間 変形発生,載荷物が供試体に接着
0.8時間 変形発生
1.0時間 変形なし
1.5時間 変形なし
2.0時間 変形なし
2.2時間 変形なし
塗布後0.5時間で載荷した場合:変形が 発生,載荷物が供試体に接着
塗布後 0.8 時間で載荷した場合:変形が 発生
塗布後1.0時間で載荷した場合:変形は 生じなかった。
塗布後1.5時間で載荷した場合:変形は 生じなかった。
塗布後2.0時間で載荷した場合:変形は 発生じなかった。
塗布後2.2時間で載荷した場合:変形は 生じなかった。
写真3.12 試験結果
(2) 室内試験②
防食被覆材の時系列的硬化特性を把握することを目的として,防食被覆層とトップコ ートそれぞれの供試体を作製し,成型後から経過時間ごとの硬化状況を検証した。
1) 試験方法
①防食被覆層
型枠を用いて,防食被覆層の供試体を作製した。試験方法はASTM D 695(Standard Test Method for Compressive Properties of Rigid Plastics1:硬質プラスチック の圧縮特性のための標準試験方法)に準拠した。(試験片:10×10×50㎜)
試験状況を写真3.13に示す。
容易に変形する状態 写真3.13 試験状況
②トップコート
塗布厚が0.5㎜と薄く,防食被覆層と同様の圧縮試験が困難であるため,トップコ ートの表面硬度を測定した。
試験方法は,ASTM D 2240(Standard Test Method for Rubber Property:ラバー プロパティ-デュロメータ硬さのための標準試験方法)に準拠した。試験状況を写真 3.14に示す。
2) 試験結果
①防食被覆層
表3.14 に試験結果を示すが,成型後2時間経過後の防食被覆層は,脱枠は可能で あるものの,圧縮強度は測定できなかった。
表3.14 経過時間ごとの防食被覆層の圧縮強度(ASTM D 695)
経過時間 防食被覆層の圧縮強度
1時間 脱枠不可
2時間 脱枠可能,圧縮強度の測定不可
3時間 6.35 N/㎟
1日 45 N/㎟
3日 58 N/㎟
28日 65 N/㎟
②トップコート
試験結果を表3.15に示すが,トップコートは,成型後2時間後にはショア―A硬 度 77度であった。ショアーA硬度で自動車タイヤと同等程度の硬さが得られたこ とで,材料がある程度硬化し,荷重に対して反発力を持てるようになったことを確 認した。
表3.15 経過時間ごとのトップコートの硬度(ASTM D 2240)
経過時間 トップコートの硬度
1時間 脱枠不可
2時間 ショア―A硬度※ 77度 3時間 ショア―A硬度※ 96度 1日後 ショア―A硬度※ 97度
※ショアーA硬度:
・ASTM D 2240で定められた試験方法であり,規定荷重を作用させた際 の,くぼみ深さを測定し,材料の硬さを数値化するものである。
・80度は自動車用タイヤ程度の表面硬度である。
(3) 現場試験
室内試験に加え,実際の現場における養生時間2 時間後の硬化性の検証を行うため,
本防食被覆材の塗布後2時間を経過した現場1か所で,下水を通水して変形の有無を確 認した。
写真3.15に示すように,通水による変形等は生じなかった。
<本防食被覆材塗布後>
・トップコートを施工し,インバート内面 は白色に仕上がっている。
<通水後の状況>
・本防食被覆材塗布後 2 時間経過後に通 水し,表面を目視により確認した結果,
変形は生じなかった。
写真3.15 現場での通水試験結果
(4) 室内試験及び現場試験結果のまとめ
室内試験①,室内試験②,現場試験の結果から,本防食被覆材はトップコート塗布後 2時間の養生により,通水による変形が生じない程度まで硬化すると判断した。
以上より,表3.1の開発目標②の「養生時間2時間で下水を通水させても変形しない こと」を達成できた。