第 3 章 下水汚泥焼却灰を活用した樹脂系防食被覆材の開発
3.4 防食被覆層の配合設計
3.4.3 作業性を改善した最終配合の決定
3.4.3 作業性を改善した最終配合の決定
(2) 暫定配合の見直し
図3.6 の標準施工サイクルが満足できるよう,表3.5 に示すプロセスで配合を見直 した。なお,配合の見直しに当たっては,主剤,硬化剤のそれぞれで用いる充填材は,
同一のものを同一比率(100:50)で用いることを基本とした。
その結果,粒度調整灰を質量比で 20%以上活用すること(表 3.1 の開発目標①),標 準的なマンホールを1日・8時間で塗布作業が完了できること(表3.1の開発目標②), 養生時間2時間で下水を通水させても防食被覆材が変形しないこと(表3.1の開発目標
②),厚塗りが可能であること(表3.1の開発目標②)を満足できるものと考えられる,
表3.5に示す防食被覆層の最終配合を決定した。
表3.5 最終配合の決定プロセス
プロセス 暫定配合 Step1 Step2 Step3(最終配合) 配合見直しの目的 粘度の
安定化
厚塗り 対策
施工時間の短縮 (混練時間の短縮)
質 量 比 (%)
主 剤 エポキシ樹脂
45.0 31.5 31.5 37.3
硬化剤 ポリアミン
充填材 粒度調整灰 55.0 38.5 25.0 20.0 フュームド
シリカ 8.0 8.0 8.7
珪砂 22.0 22.0 21.3
軽量骨材(ビ ニロン),マ イクロバルー ン等
13.5 12.7
合 計 100.0 100.0 100.0 100.0
表3.6に最終配合に向けて検討した充填材の特徴,配合目的,物理特性等を示す。検 討は,3段階のステップで実施し,Step1,2は,主剤・硬化剤の比率を固定して,粒度 調整灰の一部を他の充填材に置換,Step3(最終配合)で主剤・硬化剤の比率変更を含 めた検討を行った。Step1 では粘度の安定化を目的として,粒度調整灰よりも粒子径,
かさ密度が小さく,比表面積が極めて大きいフュームドシリカと,逆に粒度調整灰より も粒子径が大きく,かさ密度も大きい珪砂を組み合わせることで,粘度の調整とチキソ 性付与に加えて,作業用の金属コテとの離れ性改善を図った。Step2では,厚塗り対策 として,軽量かつ繊維状形状で樹脂との接着性が高く,液垂れ性改善効果が期待できる 軽量骨材(ビニロン)と,粒子径は粒度調整灰と同等程度でありながら,見かけの密度 が小さいマイクロバルーンを組み合わせることで,軽量化と液垂れ性改善を図った。
表3.6 充填材の特徴,配合目的,物理特性等
*物理特性等は一般的な値を例示したもので実際に使用した材料とは必ずしも一致しない。
粒度調整灰 フュームド シリカ
珪砂 軽量骨材 (ビニロン)
マイクロ バルーン 特徴 下水汚泥焼却
灰を改質(粒 度調整)した もので充填材 の基本材料。
フュームドシ リカと珪砂の 中間的な物性 を有する。
SiO2を主成分 とする高純度 ガラスの微粒 子で球状の粒 子が数珠状に 凝集体を形成 し粘度調整や チキソ性改善 効果がある。
SiO2を主成分 とする石英砂 で充填材の中 で粒子径・密 度共に大き く,作業用コ テとの離れ性 改善効果があ る。
真密度が1.3 g/cm3と軽量 で,構造が繊維 状であるため,
樹脂との接着性 が高く液垂れ性 改善効果があ る。
球状の発泡体 であり内部の 気泡分を考慮 したみかけ密 度は0.3~
1.1g/cm3と軽 量で粘度調整 効果もある。
配合目的 充填材の 基本材料
粘度調整,
チキソ性※4 付与
作業用コテ との離れ性 改善
軽量化,液垂 れ性改善
軽量化,
粘度調整
検討手順 <ベース材料> Step1(粘度 の安定化)
同左 Step2(厚塗り
対策)
同左
主要成分 SiO2
(30%程度)
SiO2
(>99.8%)
SiO2
(90~98%)
ポリビニル アルコール樹脂
SiO2
(>99.8%) 粒子径 1~100μm
(10μm)
(凝集前) 10~30nm (凝集体) 0.1~0.4μm
50~200μm
(100μm)
約100μm 5~50μm
(30μm)
比表面積*1 (m2/g)
>0.8 100~300 - - - 真密度*2
(g/cm3) 2.6 2.2 2.5~2.6 1.3
2.2 (気泡考慮 0.3~1.1) かさ密度*3
(g/cm3) 0.6~1.4 0.04 1.1~1.4 - 0.2~0.4
*1 充填材の単位質量当たりの表面積で,この値が大きいほど粒子は細かい。比表面積は,粒 子に細孔があるとその分増加するため,必ずしも粒子径とは一致しない。比表面積が大き いほど,充填材の高分散・高充填が期待できる一方,凝集しやすくなる。
*2 充填材の粒子を構成する物質そのものが占める体積のみを密度算定用の体積とした密度。
粒子の細孔と内部空隙は,密度算定用の体積に含めない。例えば,フュームドシリカ,珪 砂,マイクロバルーンは,粒子径が異なるなど,性質が異なる充填材であるが,いずれも 二酸化ケイ素(SiO2)が主成分で同一であるため,真密度は2.2~2.5g/cm3で同一であ る。
また,最終配合における密度を概算した結果を表3.7に示す。主剤(エポキシ樹 脂)や硬化剤(ポリアミン)と充填材を混練した状態においては,充填材の粒子間の 隙間にも一定程度の樹脂が付着するため,充填材の密度は真密度とかさ密度の中間的 な性質となる。しかし,混練時において,充填材の密度が真密度と同等となるには充 填材の粒子一つ一つの全て表面が樹脂と接触していることが前提となり,現実的では ないことから,最終配合での実際の密度はかさ密度に近いものと推察される。以上よ り,表3.7に示した最終配合相当の密度は,表3.6に示したかさ密度の値を参考に,
充填材の密度を想定して概算したものである。なお,最終配合における密度について は,直接計測しており,1.1 g/cm3であることを確認している。
表3.7 最終配合における密度の概算
構成材料
質量比 (%)
密度*1 (g/cm3)
mi di mi/100×di
主 剤 エポキシ樹脂
37.3 1.17 0.436
硬化剤 ポリアミン
充填材 粒度調整灰 20.0 1.40 0.280 フュームドシリカ 8.7 0.40 0.035
珪砂 21.3 1.40 0.298
軽量骨材(ビニロン),
マイクロバルーン等 12.7 0.40 0.051 Σ(mi) 100.0 Σ(mi/100×di) 1.100
*1 粒度調整灰と珪砂については,表3.6におけるかさ密度の上位値1.4g/cm3,フュ ームドシリカ,軽量骨材(ビニロン),マイクロバルーンについては,マイクロバ ルーンのかさ密度の上位値0.4 g/cm3を使用して概算した。
※粒度調整灰の物理・化学特性4)
改質前後の焼却灰の電子顕微鏡による観察結果の例を写真 3.5 に示す。改質前の焼却灰 原粉は,表面に微粒子が凝集し団粒化した状態となっているのに対し,改質した粒度調整灰 は,粉砕により微粒子は分散されるとともに,角張りがとれ丸みを帯びた状態になっている。
また,粒度調整灰の原料となる原粉(焼却灰)とそれを改質した改質焼却灰(粒度調 整灰)などの化学成分の例を表3.8,粒径変化の例を表3.9に示す。
写真3.5 改質前後における焼却灰の電子顕微鏡拡大図(例)4)
表3.8 焼却灰及び改質焼却灰※の化学成分4)
種類 ig.
loss
化学成分(%)
SiO2 CaO Fe2O3 Al2O3 MgO P2O5 SO3 K2O Na2O Cl -A処理場 2.56 35.1 11.9 6.4 15.9 3.1 17.8 1.37 2.41 1.21 0.03 B処理場原粉 3.79 27.7 13.3 5.9 15.3 3.4 23.3 1.43 2.44 1.15 0.02
B処理場
改質焼却灰※ 3.60 28.3 13.1 6.0 15.5 3.3 22.8 1.43 2.43 1.17 0.02 C処理場 1.94 29.7 9.9 9.7 13.3 3.9 24.1 0.96 2.80 1.36 0.05 D処理場 2.39 32.0 11.3 7.0 14.1 3.6 20.5 1.44 2.49 1.78 0.06 E処理場 3.48 29.1 16.1 7.5 12.9 4.1 17.3 2.52 2.16 2.43 0.25 F処理場 2.66 29.7 11.1 4.0 16.4 4.2 24.8 0.93 3.29 1.06 0.02 G処理場 2.26 24.3 9.2 9.5 16.2 3.1 28.7 1.28 3.05 0.84 0.01
セメント(参考) 1.1 21.5 64.0 2.9 5.2 1.5 0.13 2.0 0.47 0.30 0.01
フライアッシュ
(参考) 1.6 62.6 1.3 2.8 27.0 0.9 - - - - -
※本表では,粒度調整灰を「改質焼却灰」と表現している。また,B処理場以外は,全て原粉
(焼却灰)のみである。
表3.9 焼却灰及び改質焼却灰※粒径の変化(例)4)
種類 中心径(μm) 体積平均径(μm) 比表面積(cm2/g) 原粉 改質焼却灰 原粉 改質焼却灰 原粉 改質焼却灰 A処理場 22.32 8.97 23.95 11.77 5,910 9,690 B処理場 12.20 5.63 17.01 8.32 9,160 12,680 C処理場 48.12 9.56 62.06 13.94 2,780 9,180 D処理場 19.17 10.37 19.29 12.44 5,170 8,390
焼却灰原粉 改質焼却灰(粒度調整灰)
① Step1
粘度を安定化させるため,粒度調整灰の一部をフュームドシリカ,珪砂に置換した。
一般的にフュームドシリカの添加により,図3.7に示すように,樹脂との間に化学 的な結合を増大させ,エポキシ樹脂の粘度を容易に上昇させることができる。
図3.7 フュームドシリカ添加に伴う化学結合(水素結合)の発生
また,珪砂は塗布作業で用いる鉄製コテとの離れ性を改善し,作業性の向上に寄与 する。
Step1では,粒度調整灰とエポキシ樹脂の比率は,基本配合の55:45を維持し,エ
ポキシ樹脂31.5%,粒度調整灰38.5%,フュームドシリカ8.0%,珪砂22.0%の配合に 見直した。
写真3.6に示すように,この配合では粘度は安定したものの,厚塗り時に垂れが発 生した。
粘度は安定 厚塗り時に垂れが発生 写真3.6 Step1の配合見直し後の状況
② Step2
次に,コンクリート改修技術マニュアル(処理施設・管路施設編)3)に規定されて いる一回の塗り厚2㎝が可能になるよう,粒度調整灰の一部をマイクロバルーン及び 軽量骨材に置換した。軽量骨材として短有機繊維(ビニロン)を使用するとともに,
マイクロバルーンを使用することで,密度を低減させ,写真3.7に示すように厚塗り が可能になった。
Step2の配合見直しにより,厚塗り2㎝が可能になった。
写真3.7 厚塗りの状況
Step2では,エポキシ樹脂31.5%,粒度調整灰25.0%,フュームドシリカ8.0%,珪砂
22.0%,軽量骨材及びマイクロバルーン等13.5%の配合に見直した。
しかし,写真3.8に示すように,主剤と硬化剤の混合後のまとまりが不足しているこ と,混練に10分程度を要することから,さらに改善が必要と判断した。
主剤 粒度調整灰との混練後 硬化剤 粒度調整灰との混練後
主剤と硬化剤の混合後のまとまりが不足していること,混練に10分程度を 必要とすることから,さらに改善が必要と判断
写真3.8 Step2の配合見直し後の写真
③ Step3
Step2 の見直し後の配合では,混練時間は10分であった。図3.6 に示す標準施工サ
イクルを満足するためには,混練時間を5分に短縮する必要がある。
混練が難しい理由は,充填材の多さにあると考えられた。一方,粒度調整灰を除く充 填材の配合は,配合の見直しプロセスごとの目的に応じて決定してきた経緯があるため,
主に粒度調整灰をエポキシ樹脂に置換することで,表3.10に示す防食被覆層の最終配 合を決定した。
最終配合による混練状況を写真3.9に示す。
表3.10 防食被覆層の最終配合
配合材名 単体配合(%) 全体配合(%) 備考
主 剤 (充填材 を含む)
主 剤 エポキシ樹脂 37.3 24.9
粒度調整灰 20.0%
密度 1.1 g/cm3 充填材
粒度調整灰 20.0 13.3 フュームドシリカ 8.7 5.8
珪砂 21.3 14.2
軽量骨材(ビニロン), マイクロバルーン等
12.7 8.5
計 100.0 66.7
硬化剤 (充填材 を含む)
硬化剤 ポリアミン 37.3 12.4
充填材
粒度調整灰 20.0 6.7 フュームドシリカ 8.7 2.9
珪砂 21.3 7.1
軽量骨材(ビニロン),
マイクロバルーン等 12.7 4.2