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博 士 論 文

下水汚泥焼却灰を活用した樹脂系防食被覆材 による管路施設の補強工法に関する研究

黒 住 光 浩

2017 年 9 月

首都大学東京大学院

(2)

論 文 要 旨

日本の下水道は,他のインフラ施設より着手が遅く,短期間で集中的に整備されてき たことが特徴である。したがって,今後,耐用年数を超過した施設が急増する。加えて,

硫化水素などによるコンクリートの劣化が発生しやすい施設である。このため,劣化し た施設を適切に補修し長寿命化を図ることで,再構築事業を平準化して実施することが 重要な課題になっている。

また,都市部では開削工事の困難性から,管路施設の補修や再構築において,非開削 で施工できる更生工法や防食工法が多く採用されている。しかし,これらの工法では,

内面を防食材等で被覆するため,マンホールや管路の内部空間が縮小される。また,湿 潤な環境下での施工による,防食材の剥がれや硬化不良等が指摘されている。このため,

マンホールの維持管理空間や管路の流下能力を阻害することなく,耐荷性能や耐久性能 を確保できる技術が求められている。

一方,日々大量に発生する下水汚泥の最終処分地の残余年数はひっ迫しており,下水 道事業の持続には,減容化のため焼却処理された焼却灰のリサイクルの拡大が喫緊の課 題になっている。

本論文は,これらの課題に対応するため,焼却灰を活用した新たな防食被覆材の開発 について述べるとともに,管路施設の断面縮小を伴う既往の防食工法に対し,薄い塗布 厚であっても補強効果を有する本防食被覆材の特性を,外圧強度試験や非線形有限要素 解析により検証し,既設コンクリートの劣化厚に応じた,本防食被覆材の必要塗布厚の 設計方法を提案したものである。

本論文は,全6章で構成されている。

1章は,本研究の背景を整理し,本研究の意義を示している。

2章は,防食被覆材に求められる基礎的な性能に加え,管路施設特有の性能や厳し い施工条件をまとめている。また,既往の技術の課題を抽出するとともに,新たな防食 被覆材の開発に向けた課題を整理している。

3章は,新たな防食被覆材の開発について述べている。まず,質量比で焼却灰を20%

以上活用できることのほか,第2章で整理した課題に対応する5つの開発目標を設定し た。次に,この開発目標を満足できる防食被覆材の層構成,仕様,配合を決定した。決 定した防食被覆材について,耐久性などの基礎的な性能に加え,硬化性に関する目標を

(3)

達成できることを確認した。これは,施工後速やかな下水の通水を求められる管路施設 の特性を踏まえ,独自に設定した目標である。また,東京都の12か所の実現場におい て,実証工事を実施した結果,人力で目標時間内での施工が完了できるとともに,求め られる品質が確保できた。

4章は,本防食被覆材の補強効果を検証している。本防食被覆材の低弾性,高引張 強度の物理的特性に着目し,はり部材の曲げ試験により,プライマーを含む防食被覆層 の補強効果を確認した。また,内側に本防食被覆材を塗布した円形マンホールの外圧強 度試験により,原マンホールより薄い塗布後の部材厚でも,原マンホールより高い破壊 荷重値が得られること,コンクリートと防食被覆材が剥離しないことを明らかにした。

さらに,荷重と鉛直変位やひずみの関係の検証により,コンクリートのひび割れ発生後 は防食被覆材が引張力を負担し,曲げ耐力が増加したことなどの破壊メカニズムが推察 できた。

5章は,円形マンホールに対する非線形有限要素解析により,ひび割れ発生から 破壊に至るまでの挙動や応力負担等を数値解析により検証している。その結果,外圧 強度試験結果と同様の補強効果が確認できた。また,①初期ひび割れはコンクリート 部から生じること,②防食被覆材のひび割れはコンクリートとの境界面で発生し,内 側に進展していくこと,③本防食被覆材を塗布した場合の破壊に至る挙動が,鉄筋コ ンクリートと類似していることなどの補強メカニズムが明らかになった。このため,

鉄筋コンクリートの曲げ終局耐力算定式を適用し,劣化厚に応じて,新設マンホール と同等以上の耐荷性能の確保に必要な塗布厚の設計方法を提案した。試算では,50mm の劣化厚に対して15mmの塗布でよく,標準マンホールの90㎝の内径を97㎝に拡大で きる。管路施設でのテレビカメラ調査や更生工法の適用が増える中,資機材の投入等 のため,マンホール内の作業空間の拡大が求められていることから,本防食被覆材に よるマンホール内径の拡大効果は大きいものと考えられる。

6章は結論であり,本研究で得られた知見をまとめている。本研究では,本防食被 覆材の主な適用対象として無筋マンホールを想定しているが,鉄筋コンクリート管への 補強効果についても外圧強度試験により確認している。今後,局所的な損傷が多い大口

(4)

下 水 汚 泥 焼 却 灰 を 活 用 し た 樹 脂 系 防 食 被 覆 材 に よ る 管 路 施 設 の 補 強 工 法 に 関 す る 研 究

目 次

1章 序論 ... 1

1.1 背景 ... 1

1.1.1 老朽化した下水管路施設の急増 ... 1

1.1.2 下水汚泥の最終処分地の残余年数のひっ迫 ... 10

1.2 本研究の意義 ... 13

1.3 本研究のフロー ... 16

1.4 本論文の構成 ... 17

参考文献 ... 23

2章 既往の技術,文献 ... 24

2.1 下水管路施設の腐食メカニズム ... 24

2.1.1 硫酸によるコンクリート腐食が発生する条件 ... 24

2.1.2 下水管路施設で腐食環境下となりやすい箇所 ... 26

2.2 既往のコンクリート防食技術 ... 29

2.2.1 コンクリートの腐食対策 ... 29

2.2.2 塗布型ライニング工法 ... 30

2.3 コンクリート防食技術に求められる基礎的な性能 ... 32

2.3.1 腐食環境の分類 ... 32

2.3.2 腐食環境と適用可能な防食工法の規格 ... 32

2.3.3 断面修復層に求められる性能 ... 33

2.3.4 防食被覆材に求められる性能 ... 37

2.4 管路施設内の厳しい施工条件,管路施設特有の性能 ... 41

2.4.1 管路施設内の厳しい施工条件 ... 41

2.4.2 下水管路施設特有の性能 ... 43

2.5 下水管路施設に適用可能な防食被覆材の開発に向けた課題の整理 ... 43

2.6 まとめ ... 46

参考文献... 47

3章 下水汚泥焼却灰を活用した樹脂系防食被覆材の開発 ... 48

3.1 開発の経緯 ... 48

3.2 開発目標の設定 ... 48

3.3 本防食被覆材の層構成,仕様 ... 52

3.3.1 本防食被覆材の層構成 ... 52

(5)

3.4 防食被覆層の配合設計 ... 57

3.4.1 配合決定のプロセス ... 57

3.4.2 粒度調整灰を最大量添加可能な暫定配合の決定 ... 58

3.4.3 作業性を改善した最終配合の決定 ... 63

3.5 最終配合供試体の性能検証 ... 73

3.5.1 断面修復層に求められる性能の検証 ... 73

3.5.2 防食被覆材に求められる性能の検証 ... 75

3.5.3 防食被覆層等の硬化性の検証 ... 76

3.6 実施工による本防食被覆材の施工性等の検証 ... 84

3.7 まとめ ... 89

参考文献 ... 91

4章 本防食被覆材の補強効果の検証 ... 92

4.1 本防食被覆材の物理的特性と検証すべき課題 ... 92

4.1.1 本防食被覆材の物理的特性 ... 94

4.1.2 検証すべき課題と研究目標 ... 95

4.2 はり部材等を用いた補強効果の検証 ... 98

4.2.1 モルタル製角柱供試体等を用いた基礎実験 ... 98

4.2.2 モルタル製角柱供試体を用いた補強効果の検証 ... 104

4.2.3 コンクリート製角柱供試体を用いた補強効果の検証 ... 111

4.3 無筋コンクリート製円形マンホールに対する補強効果の検証 ... 119

4.3.1 実験目的および方法 ... 119

4.3.2 実験ケース ... 120

4.3.3 実験結果 ... 122

4.3.4 考察 ... 124

4.4 無筋コンクリート製円形マンホールの破壊時挙動の検証 ... 128

4.4.1 実験目的および方法 ... 128

4.4.2 実験ケース ... 129

4.4.3 実験結果 ... 131

4.4.4 考察 ... 134

4.5 鉄筋コンクリート製円形管に対する補強効果の検証 ... 137

4.5.1 実験目的および方法 ... 137

4.5.2 実験結果 ... 138

(6)

5章 非線形有限要素解析による再現解析と

本防食被覆材塗布厚の設計方法の提案 ... 146

5.1 非線形有限要素解析による再現解析 ... 146

5.1.1 目的 ... 146

5.1.2 解析モデルの選定 ... 146

5.1.3 解析概要 ... 148

5.1.4 解析結果 ... 155

5.1.5 本防食被覆材の補強効果に関するまとめ ... 169

5.2 本防食被覆材塗布厚の設計方法の提案 ... 171

5.2.1 基本事項の整理 ... 171

5.2.2 耐力評価方法の検討 ... 172

5.2.3 必要塗布厚の試算 ... 177

5.3 まとめ ... 179

参考文献... 181

6章 結論 ... 182 謝辞

(7)

1

章 序 論

1.1 背景

1.1.1 老朽化した下水管路施設の急増

(1) 東京都の下水道事業の成果

1884年,神田下水の第一期工事が着手され,東京の近代下水道の幕が開かれた。レン ガ積みの卵形管(写真1.1)で建設された神田下水は,130年余りを経過した現在も現 役で活躍しており,東京都指定史跡や土木学会選奨土木遺産に指定されている。

写真1.1 今でも現役で活躍している神田下水1) 一方,多くの管路は老朽化が急速に進行

1950年頃の東京都区部の下水道普及率は,わずか10%程度であったが,1975年頃に

60%を突破し,下水道の整備促進とともに河川の水質は大幅に改善されていった。

かつては悪臭漂う「死の川」であった隅田川に,再び生命の息吹が取り戻され,隅田川 支流の神田川にアユの遡上も確認され,1978 年には隅田川花火大会,早慶レガッタも 16年ぶりに復活した。(図1.1)

そして,神田下水の着工から110年後,本格整備開始から50年程度後の1994度末,

東京都区部の下水道は100%普及概成を達成した。表1.12015年度末の東京都区部 下水道の概要を示す。

(8)

1.1 隅田川の水質と下水道普及率1)

1.1 東京都区部下水道の施設概要 下水道計画面積 約58,000 ha

管路 約16,000

マンホール 490,000箇所

ます 1,930,000箇所

水再生センター 13箇所 ポンプ所 82箇所

(2) 下水道施設の老朽化の急速な進行

下水道事業は他のインフラ施設と比較して着手が遅かったため,極めて短期間で集中 整備されてきたことが特徴である。

加えて,下水道施設は,硫化水素など厳しい環境下にあることから,腐食などの損傷 が発生しやすい施設である。

このため,老朽化に伴う施設の劣化が急速に進んでいる。すでに,先行して整備を進 めてきた東京都など大都市を中心に,老朽化の問題が顕在化しており,硫化水素などに よる鉄筋やコンクリートの腐食やひび割れ,継手不良などの下水管路施設の損傷に起因 する道路陥没が,2014年度には全国で約3,300件,とりわけ東京都区部ではその20%

程度に当たる約600件が報告されている。

一方,中央道笹子トンネルの天井崩落事故などを受け,都市インフラ全体に対しても,

適切な維持管理や更新を求める声が大きくなっている。

(9)

予防保全の観点からも,施設の適切な維持管理に基づく,計画的で平準化した更新事 業の推進が重要な課題になっている。

(3) 東京都の管路施設の更新事業

2014 年度末現在,東京都区部の管路施設の総延長は約 15,900km である。このうち,

約1割に相当する約1,500kmが法定耐用年数の50年を超過している。

東京都では普及概成を達成した翌年の1995 年から,これら老朽管の更新事業を「再 構築事業」として実施している。(以下,「再構築事業」という。) 再構築事業は,更 新事業と能力増強,耐震化などの事業を合わせて行う効率的な事業であり,東京都独自 の事業である。

2015年度末で,図1.2に示す都心部周辺の第一期再構築エリア(芝浦処理区,砂町処 理区,小台処理区,落合処理区)約16,300haのうち,約 40%の約 6,560haの再構築が 完了している。

一方,今後20年間で新たに約6,500kmが法定耐用年数の50年を超過するため,老朽 化対策のスピードアップと事業の平準化が急務となっている。

このため,東京都は2013年に策定した「経営計画2013」2)で,図1.3に示すように,

下水管路施設のアセットマネジメントのイメージを初めて示した。

第一期再構築エリアのみを対象とする再構築計画は,1992 年の「第二世代下水道マ スタープラン」3)で示していたが,区部全体を対象とする再構築計画は策定されていな かった。そこで,対象エリアを区部全域に拡大し,図1.2に示すように3つの区域に分 けて再構築する方針を示した。

(10)

1.3 下水道管きょのアセットマネジメントのイメージ2)

また,図1.4に示すようにライフサイクルコストが最小となる80年程度を経済的耐 用年数とし,区部全域を80年程度で,平準化して再構築する中長期的な事業計画を示 した。

1.4 下水道管きょのライフサイクルコスト(LCC)2)

これにより,中長期的な再構築事業の概ねの事業量と事業費が想定できるようになっ た。この計画では,事業量を平準化することで,1990年頃のピーク時の事業量の1/2程 度まで圧縮している。しかし,財政的には再構築事業のさらなるコスト縮減が必要であ るとして,「新技術や新工法の積極的な活用により,建設コストの縮減を進めます。」3) としている。

(11)

2012年度末の再構築完了面積の累計約4,520haに対し,2015年度末では約6,560haが 完了しており,直近3年間の実績約680ha/年は,目標の700ha/年を概ね達成している。

その結果,第 1期再構築エリアにおける,管路施設の損傷に起因する道路陥没は,図 1.5に示すように着実に減少している。

1.5 再構築整備による道路陥没の減少4)

(4) 再構築事業の効率化の取組み

下水管路施設は主に管路とマンホールで構成される。また,管路は労働安全衛生の 観点から人が入れない内径800㎜未満の小口径管路と,800㎜以上の大口径管路に区分 される。東京都区部では小口径管路の延長が82%,大口径管路が18%を占めている。

※ 下水管路施設は,管きょ,マンホール,雨水吐,吐口,ます,取付管等の総称 で,管きょは下水を流下させる機能を有するパイプ状の構造物をいう。本論文で は,参考文献の引用箇所を除き,管きょを「管路」と表記し,主な管路施設とし て管路(管きょ)とマンホールを対象とする。

東京都区部の小口径管路は管路全体の82%,13,000kmと膨大であることから,特に

(12)

また,東京都は,1986年から民間企業と共同で更生工法(SPR工法)を開発,導入し てきた。この工法は,既設管の残存強度を活用し,内面に設置する硬質塩化ビニル製の 更生材との間に特殊モルタルを注入し,既設管との一体的な複合管を構築する工法であ る。非開削で施工でき,布設替えより半分以下のコストに縮減できるとともに,道路交 通や都民生活などへの影響を軽減できる。30 ㎝程度以下の水位であれば,下水を流し ながらの施工も可能である。

写真1.2に示すように,この工法は大口径管路や矩形管路などにも適用できることが 特徴である。更生工法には管路の流下機能を阻害しないことが求められるが,たとえば 1800㎜の管路にこの工法を適用した場合,仕上がり内径は1650㎜に縮小される。しか し,更生材の表面がコンクリートより滑らかになり,粗度係数が0.013から0.010と小 さくなるため,流下能力の維持が可能である。

日本の都市部やドイツ等において,930㎞程度の施工実績を有し,管路施設の再構築 事業の効率化に大きな効果を発揮している。

写真1.2 更生工法よる大口径管路の再構築(千川幹線)2)

(5) 管路施設の再構築事業の課題

東京都の管路施設のアセットマネジメントは,図1.6に示すように「法定耐用年数よ り30年程度延命化し,経済的耐用年数(80年程度)で再構築するアセットマネジメント 手法により効率的に再構築します。区部を整備年代により三期に分け,再構築事業の平 準化を図りつつ計画的に推進します。」2)としている。また,「アセットマネジメント手 法を用いた効率的な施設の再構築などにより,機能の維持・向上を図りつつ,建設から 維持管理までのトータルコストの縮減に取り組みます。」2)としている。

(13)

本論文では,以下のように定義する。

耐用年数を新たに設定できる更新の実施にあわせて,耐震性能等の機能向上を図る対 策を再構築と定義する。

また,既存施設の設置時点からの使用年数を,標準耐用年数以上に長寿命化すること が可能な対策を長寿命化対策と定義する。既往の更生工法は更新に適用されており,第

55.2.1 で示す新設と同等の性能(耐荷性能,耐久性能,耐震性能,環境適用性能な

ど)が求められる。一方,既往のコンクリート防食工法は長寿命化対策に適用され,第 22.3で示す性能(耐荷性能,耐久性能,施工性)が求められる。

1.6 長寿命化による再構築事業平準化のイメージ1)

事業の平準化を図るためには, 管路施設を80年程度まで長寿命化できる技術が必要 である。また,再構築事業のさらなるコスト縮減が図れる技術が求められている。

一方,管路施設は以下のような特徴を有している。

下水道施設には,処理場における池状の水処理施設等と,道路下に埋設されている管 路施設がある。水処理施設の1つである最初沈殿池1池の大きさが幅5m×長さ40m×深

5m~10m程度であるのに対し,東京都区部の管路の平均管径は60㎝程度,標準的な

(14)

① マンホールの再構築事業の課題

2015 年に下水道法が改正され,施設の維持修繕基準が創設された。管路施設の点検 が義務化され,とりわけ「コンクリートなどが腐食するおそれが大きい施設の点検は,

5年に1回以上の適切な頻度で行うものとすること」。と定められた。また,下水道管路 施設ストックマネジメントの手引き5)では,点検は人がマンホール内に入り,目視によ り確認することを基本としている。

定期的な点検により不具合が発見された場合は,詳細な調査を行い対策が講じられる。

内径800㎜より小さい小口径管路の調査は,マンホールからテレビカメラを挿入して行 う。その際,マンホールは重要な作業空間となる。

また,都市部では道路交通などへの影響から開削工事が困難になっており,管路の再 構築では,非開削で施工できる更生工法の適用が増えている。この場合も,資機材の投 入はマンホールから行われるため,マンホール内の作業空間の確保が不可欠になってい る。

従来,標準的なマンホールの内径は,主に人による管路の点検や清掃作業を想定し,

90cmとされてきた。しかし,管路施設の老朽化が進む中,テレビカメラ調査や更生工事 などにおける資機材の投入等のため,より大きな作業空間が求められている。

しかし,マンホールの再構築においても,非開削で施工できる更生工法や防食工法の 適用が増えている。しかし,これら既往の工法は既設マンホールの内部を更生材や防食 材で被覆するものであり,施工後はマンホールの内部空間が縮小される。

また,短い施工時間や高湿度,施工空間の制約など,マンホール内の厳しい施工環境 下での施工となるため,防食被覆材の剥がれ等が課題として指摘されている。

このように,マンホールの再構築においては,耐久性能,耐荷性能などを確保しつつ,

マンホール内の作業空間が拡大できる技術が求められている。

② 大口径管路の再構築事業の課題

2006~2008年度に東京都は,大口径管路約2,900㎞のうち,特に大きな「幹線」と呼

ばれる管路約880㎞の健全度調査を実施した。

その結果は,対策不要延長が約530㎞(60%),要対策延長が約350㎞(40%)であった。

また,要対策延長のうち約70%(調査全体延長の28%) 1スパン(マンホール間の平

均延長100m)当たり10か所未満の局所的な損傷が発生しているスパンであった。

東京都では,図1.7 に示すように,1 スパン当たりの損傷が10箇所未満の場合は,

(15)

損傷個所のみへの防食工法などによる長寿命化対策を,10 箇所以上の場合は,更生工 法によるマンホール間全体への再構築を行うことを基本としている。これは,経済性に 加え,防食被覆材等により,管路断面を部分的に縮小した場合に発生しやすい,下水の 流れの乱れによる防食被覆材の剥がれなど,既往の防食工法などの課題を考慮したもの である。

このため,薄い防食被覆材による,下水の流れを妨げない長寿命化技術が求められて おり,この技術を1 スパン当たり10 箇所以上の損傷を有する管路に対しても適用して いくことで,さらなるコスト縮減が可能である。

また,大口径管路は施設規模が大きいことから,更生工法によっても多くの費用を必 要とする。加えて,大口径管路の損傷は局所的なものが多いことから,スパン単位の施 工とならざるをえない既往の更生工法では,コスト縮減が課題となっている。このため,

損傷箇所のみに適用できる部分的な更生技術が求められている。

1.7 大口径管路の健全度調査に基づく対応

(16)

1.1.2 下水汚泥の最終処分地の残余年数のひっ迫

東京都では,下水汚泥などを処分する廃棄物処分場の確保が極めて困難であることか ら,汚泥処分量の削減による最終処分場の延命化が強く求められている。

下水処理は,汚泥を適切に処理処分することで完結する。このため,汚泥の減容化や 安定化を図る全量焼却化を進め,2003年に完了している。また,汚泥の資源化によるリ サイクルを進めてきた。

東京都では,2003年に汚泥焼却灰の粒度調整を行う施設が稼働している。これは,焼 却灰には可溶性シリカ(二酸化珪素)が含まれており,セメントとの水和反応にお いて長期的な固化強度を増大させる性質を有していることから,図1.8に示すよう に,汚泥焼却灰の破砕により細かい粒子に調整し,粒子の表面積を増加させることで 反応性を高めた焼却灰(以下粒度調整灰という)を製造する施設である。

1.8 焼却灰の改質特性1)

1.9 に示すように,粒度調整灰は,2010 年度の東京都区部の資源化率の7%を占 めている。

(17)

1.9 東京都区部の下水汚泥資源化状況 (2010年度)1)

汚泥の資源化の課題は採算性や販路の確保である。図1.10 に示すように,これまで も,1983年には軽量細粒材,1911年にはレンガ,1992年には溶融スラグなどを自ら開 発,製造してきたが,今日ではいずれも休止し,採算性や市場の確保が可能な資源化メ ニューに転換している。具体的には,資源化製品を自ら製造する手法から,焼却灰の粒 度調整など簡易な加工を東京都が行い,製品の材料として民間企業に販売する手法への 転換である。図1.11 に示す,民間企業が製造した鉄筋コンクリート管,セグメントな どのコンクリート製品は,全量を東京都が買い取り,再構築事業や浸水対策事業などに 活用する方式を2000年から構築し,自己完結型のリサイクルを実施している。

下水汚泥の資源化率71% (2010年度)

粒度調整灰 7% 軽量骨材原料化 19%

(メサライト)

セメント原料化 37%

汚泥炭化 8%

埋立 29%

(18)

1.11 粒度調整灰の資源化

なお,下水汚泥焼却灰には重金属等の有害な物質が含まれることがある。そのため,

焼却灰,粒度調整灰,資源化製品のそれぞれについて,水銀,カドミニウムなどの重金 属等の溶出量を測定し,金属等を含む産業廃棄物に係わる判定基準や土壌の汚染に関す る環境基準を満足することを確認している。

しかし,図1.9に示すように,2010年度の資源化率は71%に留まっている。また,

資源化率の56%を占めるセメント原料化や軽量骨材原料化は,建設需要の変動などの影 響を受け,安定的な資源化が難しい。また,採算面から,セメント会社などに焼却灰を 有価で販売することが難しいため,東京都が費用を支払い処分する方式を採用している。

近年,この処分費用が上昇しており,将来的にも費用面でのリスクが大きい。さらに,

2011 年の東日本大震災における原子力発電所の事故を受け,汚泥中に集積した放射性 物質のため資源化が一時は完全停止した。その後回復傾向にあるものの,2015 年の汚 泥資源化率は40%に留まっている。その中でも,粒度調整灰は発災から半年後には再開 し,資源化率の5%を占めるなど,重要な役割を果たしている。

東京都区部の下水道からは,毎日脱水汚泥ベースで2,600t程度の汚泥が発生してい る。これら大量の汚泥を将来に向け安定的に処分していくためには,全量資源化,安定 的な資源化に向け,資源化メニューの多様化が強く求められている。特に,粒度調整灰 は下水道事業での確実な利用が見込める資源化メニューであることから,粒度調整灰の 利用用途と利用量の拡大を図ることが効果的である。

(19)

1.2 本研究の意義

管路施設は膨大である。加えて,道路交通,沿道の市民生活,業務活動などとの調和 が求められる厳しい施工環境下で,管路施設の維持管理や更新を円滑に行っていくこと は容易ではない。

今後急増する老朽化した管路施設に的確に対応していくためには,再構築事業の平準 化に不可欠な長寿命化技術や,再構築事業のさらなるコスト縮減に貢献できる技術が求 められる。

一方,下水汚泥の埋立処分地の残余年数はひっ迫しており,下水道事業の持続には,

全量資源化,安定資源化に向けた粒度調整灰の利用用途の拡大が喫緊の課題となってい る。

本研究では,Step1として,下水道事業が抱える,これら二つの課題に対応するため,

粒度調整灰を活用した樹脂系防食被覆材(以下,本防食被覆材と呼ぶ)を開発した。

開発に当たっては,以下のような既往の防食被覆材の課題に対応することを基本とし た。

既往の防食被覆材では,既設コンクリートの劣化部を同じ厚さまで断面修復した後,

防食被覆材を塗布する。このため,管路施設の内空断面が縮小され,管路施設特有の性 能である流下能力やマンホールの維持管理性能に影響を与えている。

さらに,厳しい管路施設内の施工環境下において,防食被覆材の剥がれ等の課題が指 摘されている。

これらの課題に対応するため,表1.2に示すような開発目標を設定した。

1.2 本防食被覆材の開発目標の概要

① 粒度調整灰の活 用

・主要構成層となる断面修復層及び防食被覆層には,下水汚 泥焼却灰を分級・微粉化した粒度調整灰を充填材として添 加する。

・粒度調整灰を使用する上での課題となる混練性,施工性の 確保が可能な防食被覆材とする。

②管路施設内の施工 環境への対応

・狭い,湿潤,短い作業時間など,厳しい施工環境下にある 管路施設内においても,コンクリートとの一体性の確保が

(20)

Step2では,外圧強度試験などにより,本防食被覆材の補強効果の検証,界面の挙動 の分析,補強メカニズムの解明等を行った。

これらの検証により,既設コンクリートより薄い本防食被覆材塗布後の部材厚で も,新設と同等以上の耐荷性能を確保することができれば,管路施設の流下能力の維 持や維持管理空間の拡大にも貢献できる。

Step3では,コンクリートと本防食被覆材の複合構造を再現した非線形有限要素解析

を行い,数値解析による本防食被覆材による補強効果や補強メカニズムの検証を行った。

解析結果から,本防食被覆材における,鉄筋コンクリート構造物の曲げ終局状態との 類似性が実証できたことから,鉄筋コンクリート構造物の曲げ終局耐力算定式を基に,

劣化厚に応じて,新設と同等以上の耐荷性能の確保に必要な本防食被覆層の設計厚を算 定する設計方法を提案した。

これらの成果に基づき,本防食被覆材をマンホールや管路の再構築事業に適用するこ とで,①マンホールの維持管理空間の拡大と長寿命化,②大口径管路の流下機能の維持 と長寿命化,③大口径管路の流下機能の維持と損傷箇所のみの部分的な更生により,管 路施設の再構築事業の平準化や,さらなるコスト縮減に貢献できる。また,下水汚泥の 資源化の拡大にも貢献できる。(図1.12 本研究の背景と意義)

(21)

下水汚泥焼却灰(粒度調整灰)を活用した 樹脂系防食被覆材の開発

開発 ポイント①

開発 ポイント②

開発 ポイント③

 粒度調整灰を可能な限り多く活用できる防食被覆材  の開発

 管路施設内の厳しい施工環境下でも剥がれ等が無く,

 耐久性能を確保できる防食被覆材の開発

 水理性能,維持管理性能が確保できるよう,可能な  限り薄い防食被覆材の開発

本防食被覆材の補強効果の検証

既往の防食被覆材

・ 既設のコンクリ―ト厚まで断面修復層で修復後,防食被覆層を   塗布するため,管路施設の内部空間が縮小

外圧強度試験等による本防食被覆材の補強効果の検証

・ コンクリートと比べ,本防食被覆材の低弾性,高引張強度の特性 に着目

・ 外圧強度試験により,既設厚より薄い塗布後の部材厚でも,新設   と同等以上の耐荷性能を有することを検証

非線形有限要素解析による補強メカニズムの検証 と本防食被覆材の必要塗布厚の設計方法の提案 ・ 数値解析により,本防食被覆材の補強メカニズムを検証 ・ 新設と同等以上の耐荷性能の確保に必要な,本防食被覆材の   塗布厚の設計方法を提案

下水道事業が抱える課題解決への貢献

○下水管路施設の再構築事業の平準化やコスト縮減に貢献 ・ マンホール:維持管理空間の拡大と長寿命化

下水道事業の

課題①  下水管路施設の再構築事業の平準化,効率化

 下水汚泥の資源化拡大に効果的な粒度調整灰の利用拡大

Step3 Step2 Step1

【本研究の背景】

下水道事業の 課題②

【本研究の意義】

(22)

1.3 本研究のフロー

本研究の全体フローを図1.13に示す。

1.13 本研究の全体フロー

【第1章】序章

下水道事業

の課題① 本研究の意義

 課題①,課題②の解決に貢献  できる粒度調整灰を活用した  防食被覆材の開発

塗布型ライニング工法に 求められる基礎的な性能 の整理(耐久性能,耐荷 性能など)

下水管路施設の再構築事業の 平準化,効率化

下水汚泥の資源化拡大に効果的 な粒度調整灰の利用拡大 下水道事業

の課題②

管路施設の厳しい施工 条件の整理

・施工時間,施工環 境,施工空間の制約

管路施設特有の性能 の整理

・水理性能,維持管 理性能

管路施設に適用可能な防食被覆材の開発に向けた課題の整理

【第2章】既往の技術,文献

下水汚泥焼却灰を活用した 樹脂系防食被覆材の開発

開発目標の設定

①粒度調整灰の活用,②管路施設内の厳しい施工環境下での作業性及び品質の 確保,③水理性能,維持管理性能の確保,④事例の多いマンホール内の腐食環境 への対応,⑤現場の実施工における目標施工時間の順守,品質の確保

Step1  層構成,仕様,混練・作業性等を考慮した配合を決定

Step2  耐荷性能,耐久性能,養生時間2時間での硬化性を検証

Step3  実施工における施工時間,品質を検証

【第4章】本防食被覆材の補強効果の確認

 断面修復層と防食被覆層の一層化と  防食被覆材の補強効果による

 防食被覆材厚の薄層化の可能性に着目

○本防食被覆材の補強効果を  外圧強度試験等により検証

○補強メカニズムを推定

○補強効果及び補強メカニズムの検証

○鉄筋コンクリート構造物の曲げ終局状態との類似性の実証

○劣化厚に応じた本防食被覆層の塗布厚の設計方法の提案

【第6章】結論

○下水管路施設に適用可能な粒度調整灰を活用した薄い防食被覆材を開発した。

○低弾性,高引張強度の本防食被覆材の補強効果により,薄くても新設と同等以上  の耐荷性能が確保できることを明らかにした。

○既設コンクリートの劣化厚に応じて,新設と同等以上の耐荷性能の確保に必要な,  本防食被覆材厚の設計方法を提案した。

○本防食被覆材は,マンホールの維持管理性能や水理性能の維持・向上を図りつつ,  再構築事業の平準化,コスト縮減に貢献できる。また,下水汚泥の資源化拡大に  貢献できる。

非線形有限要素解析による再現解析と 本防食被覆材塗布厚の設計方法の提案

【第5章】

【第3章】

(23)

1.4 本論文の構成

本論文は,全6章で構成されている。以下に各章の概要を示す。

1 章は,本研究の背景として,東京都区部を例に,下水管路施設の老朽化の現状,

再構築事業の実施状況,管路施設の再構築事業の課題について整理している。

また,下水汚泥の最終処分地の残余年数のひっ迫の状況,リサイクルの必要性を述べ ている。特に,汚泥の資源化メニューのうち,資源化製品を東京都の下水道事業で買い 取り再利用する自己完結型の方式を採用している,粒度調整灰の利用拡大の重要性につ いて述べている。

本研究では,粒度調整灰を活用した防食被覆材について,その開発,補強効果の検証,

補強メカニズムの検証,新設と同等以上の耐荷性能の確保に必要な本防食被覆材の塗布 厚の設計方法の提案を行っている。

これらの成果に基づき,本防食被覆材を管路施設の再構築事業に適用することで実現 できる,①マンホールの維持管理空間の拡大と長寿命化,②管路の流下機能の維持と長 寿命化及び損傷個所の部分的な更生による,管路施設の再構築事業の平準化とさらなる コスト縮減への貢献,下水汚泥の資源化拡大への寄与などの本研究の意義を示している。

2章は,下水管路施設におけるコンクリート腐食のメカニズム,既往の防食被覆技 術及び技術基準,課題を整理した。これらをもとに,防食被覆材に求められる基礎的な 性能に加え,管路施設の厳しい施工条件と不具合,管路の流下機能やマンホールの維持 管理空間等,管路施設特有の性能についてまとめるとともに,第3章で述べる管路施設 に適用可能な防食被覆材の開発に向けた課題について提案している。

3章は,本防食被覆材の開発について述べている。

粒度調整灰の活用,管路施設内の厳しい施工条件下での作業性及び品質の確保,管 路施設特有の水理性能や維持管理性能の確保のための防食被覆材の薄層化,薄層化し た防食被覆材の耐久性能の確保,実現場における目標施工時間の順守や品質確保等,5 つの開発目標を設定している。

この目標を達成するため,Step1では,プライマー・防食被覆層(断面修復層を兼ね る)・トップコートの3層で構成する本防食被覆材の基本的な層構成,仕様を決定し

(24)

Step 3では,Step2で課題として残された,混練時の粘度の安定化を図るため,粒度 調整灰の一部をフュームドシリカ等他の充填材に置換した。また,混練時間の短縮のた めの配合調整を行い,標準マンホールの目標施工時間8時間を満足できる最終配合(粒 度調整灰の質量比20%)を決定している。

最終配合で作製した供試体について,断面修復層に求められる要求性能4)および防 食被覆材に求められる要求性能4))等を満足することを検証した。加えて,本研究で独 自に設定した開発目標である,2時間の養生での硬化性を検証した。

Step4では,東京都の実工事において,施工時間の順守や品質確保が可能であること

を検証した。

3章の研究フローを図1.14に示す。

1.14 3章の研究フロー

目標③ 水理性能,維持管理性能 の確保

目標② 管路施設内の厳しい施工 環境下での作業性及び 品質の確保

目標① 粒度調整灰の活用

・耐荷性能,耐久性能を確保しつつ,

 防食被覆材を薄層化

目標④ 事例の多いマンホール内 の腐食環境への対応

・防食被覆材が薄くても,塗布型  ライニング工法規格C種の  要求性能を確保

目標⑤ 現場の実施工における目 標施工時間の順守,品質 の確保

防食被覆材の設計  Step1  層構成,仕様の決定

防食被覆層と断面修復層の兼用など

 Step2  防食被覆層の配合の決定 粒度調整灰の混練,粘度の安定化,混練 時間の短縮等が可能な配合設計の決定

 Step3  性能検証

断面修復層に求められる耐荷性能を検証 防食被覆層に求められる耐久性能を検証

独自目標である養生時間2時間での 硬化性を検証

防食被覆材の施工性検証 東京都の実工事において,施工 時間,品質を検証

 Step4 開発目標の設定

・粒度調整灰を重量比で20%以上活用

(25)

4章は,主にマンホールへの本防食被覆材の適用を想定し,外圧強度試験等によ る本防食被覆材の補強効果の検証,コンクリートと本防食被覆材の界面の挙動の分 析,補強メカニズムの解明等について述べている。

既往の防食被覆材では,塗布した防食被覆層相当の管路施設の断面が縮小され,流下 能力の低下や維持管理空間の縮小が課題となっている。

一方,本防食被覆材は,断面修復層と防食被覆層を同一仕様の一層構造とし,耐荷 性能と耐久性能を併せ持たせている。

また,コンクリートと比べて,低弾性,高引張強度の物理的特性を有している。こ れらを踏まえ,本防食被覆材塗布後の全体の厚みが既設コンクリートより薄くても,

新設と同等以上の耐荷性能を有することを,外圧強度試験等により検証している。

さらに,下水管路施設内の厳しい施工環境下において,防食被覆材の剥がれ等の課題 が指摘されていることから,コンクリートと本防食被覆材の界面の一体的な挙動の検証 を行っている。

加えて,本防食被覆材の管路への適用拡大の可能性を検証している。管路は鉄筋コン クリート製が多いため,鉄筋コンクリート管での外圧強度試験を実施している。その結 果,コンクリートが腐食劣化して鉄筋が露出した管であっても,原管のかぶりまで本防 食被覆材を塗布することで,原管と同等程度の耐荷性能が得られることを明らかにした。

また,管路への適用にあって必要となる,マンホールとは異なる管路の適用条件に 合わせた材料性状の改良や施工方法の検討などの課題を整理している。

4章の研究フローを図1.15に示す。

(26)

1.15 4章の研究フロー 既往の防食被覆材の耐荷性能に関する課題

既設コンクリートと同じ厚さまで 断面修復した後,防食被覆層を塗布

防食被覆層の厚み相当の 管路施設の断面が縮小

本防食被覆材の物理特性,仕様など 断面修復層と防食被覆層を同一仕様,

一層構造とした層構成,仕様 コンクリートと比較し,

低弾性,高引張強度な物理特性

はり部材等を用いた補強効果の検証

無筋コンクリート製円形マンホールに対する補強効果 の検証(マンホールへの適用を想定)

外圧強度試験

・荷重と変位の関係の分析

・荷重とひずみの関係の分析

・破壊メカニズムの推定 Step3

Step2 Step1

塗布後の部材厚の薄層化の可能性に着目 部材全体での耐荷性能の検証が必要

コンクリート製角柱供試体を用いた補強効果の検証

・荷重とたわみの関係の分析

・荷重とひずみの関係の分析

・破壊メカニズムの推定

鉄筋コンクリート製円形管に対する補強効果 の検証(管路への適用を想定)

外圧強度試験

・鉄筋の有無による,本防食被覆材の補強効果の差異を検証

・ひび割れ荷重値の検討,破壊荷重値の検討

本防食被覆材の耐荷性能の検証

○本防食被覆材の補強効果により,塗布後の薄い部材厚でも原マンホール  と同等の耐荷性能を有することを検証

○原管のかぶりまでの本防食被覆材の塗布により,原管と同等程度の  耐荷性能を確保できることを検証

○マンホールの内部空間の拡大と長寿命化に貢献

○本防食被覆材を管路に適用するための課題の整理 モルタル製角柱供試体を用いた補強効果の検証

・本防食被覆材の各層(プライマー,防食被覆層,トップ  コート)の補強効果の検証

(27)

5章は,第4章で述べた,無筋コンクリート製円形マンホールに本防食被覆材を塗 布した供試体の試験結果に基づく,非線形有限要素解析による再現解析により,無筋コ ンクリート製円形マンホールに対する補強効果や補強メカニズムを検証した。その結果,

無筋コンクリート製円形マンホールに本防食被覆材を塗布した場合,数値解析において も補強効果があることを明らかにした。

また,本防食被覆材における,鉄筋コンクリート構造物の曲げ終局状態との類似性を 実証した上で,鉄筋コンクリートの曲げ終局耐力算定式を基に,既設コンクリートの劣 化厚に応じて,新設と同等以上の耐荷性能の確保に必要な本防食被覆材の塗布厚を算定 する設計方法を提案した。

この設計方法での試算によれば,劣化部位の除去量(厚み)に対しての防食被覆材の 塗布量(厚み)が小さいにもかかわらず,耐力(側方曲げ強さ)が確保できる。

テレビカメラ調査や管路の更生工事などにおける作業空間,資機材投入空間などとし て,マンホールには従来以上に広い空間が求められる中,本防食被覆材は,マンホール の内部空間の拡大が可能であることから,マンホールの長寿命化に加え,管路施設の維 持管理性の向上などにも貢献できる。

5章の研究フローを図1.16に示す。

無筋コンクリート製円形マンホールの外圧強度試験結果に基づく,

構造解析モデルによる再現解析 構造解析モデルの選定

○無筋コンクリート構造物に適する離散ひび割れモデル

解析①

○試験結果と解析結果の比較(最大荷重値,変形性状)

⇒解析モデルの再現性を確認

解析②

○補強効果を確認

○補強メカニズムを確認

・初期ひび割れはコンクリート部で発生

・防食被覆材のひび割れは,コンクリートとの境界面で発生し,界面から内側に進展

・鉄筋コンクリート構造物における鉄筋と同様の機能(引張力を負担)を本防食被覆材  が担うことで耐力向上に寄与

既設コンクリートの劣化厚に応じた,

本防食被覆材の必要塗布厚の設計方法の提案 水理性能の確保

防食被覆材厚を薄 層化し,管路の流 下機能を保持

維持管理性能の確保 防食被覆材厚を薄層 化し,マンホールの 内部空間を拡大

経済性の確保 最小の防食被覆材 厚の設計により,

コストを縮減

(28)

6章は,第3章から第5章で得られた知見をとりまとめるとともに,今後の課題に ついて,述べている。

本防食被覆材は,コンクリートよりも弾性係数が小さく,変形性能に優れるため,既 設管との一体性を確保しやすい。防食性能も有することから,耐荷性能,耐久性能を満 足する,大口径管路の断面を阻害しない薄い長寿命化技術として,また,部分的な更生 技術として活用できる可能性がある。

しかし,管路において考慮すべき条件はマンホールとは異なるため,今後,管路へ の適用にあって必要となる,マンホールとは異なる管路の適用条件に合わせた材料性 状の改良や施工方法の検討などの課題を整理している。

本研究の結論と今後の課題を図1.17に示す。

1.17 本研究の結論と今後の課題

 結論

① 下水管路施設に適用可能な粒度調整灰を活用した樹脂系防食被覆材を開発した。

② 外圧強度試験により,無筋コンクリート製円形マンホールに対する本防食被覆材の   補強効果が確認できた。また,破壊メカニズムが推察できた。

③ 非線形有限要素解析により,無筋コンクリート製円形マンホールに対する本防食被覆材   の補強効果を検証できた。また,補強メカニズムが推察できた。

④ 既設コンクリートの腐食厚に応じて,新設と同等以上の耐荷性能の確保に必要な,

  本防食被覆材の塗布厚の設計方法を提案した。

⑤ 本防食被覆材は部材厚の薄層化が可能で,円形マンホールの耐荷性能の確保に加えて,

  マンホールの内部空間の拡大にも貢献できることが明らかになった。

⑥ 本防食被覆材は,マンホールの長寿命化による再構築事業の平準化と下水汚泥の資源化   拡大に貢献できる。

 本防食被覆材の管路への適用拡大に当たっての検証と今後の課題 管路断面を縮小しない長寿命化技術,

損傷個所の部分的な更生技術として活用

管路の長寿命化と再構築事業のコスト 縮減に貢献できる。

 鉄筋かぶりまでの本防食被覆材の塗布により,新管と同等程度の耐荷性能の確保が可能で  あることを明らかにした。

今後の課題

・管路への適用拡大に当たり,管路とマンホールの施工時間の差(資機材の運搬時間等),

 管路直上部への塗布時の垂れ等を考慮した材料性状の改良の検討

・管路直上部への施工方法の検討

・更生工法に求められる耐震性能の検討   など

(29)

<参考文献>

1) 黒住光浩,家壽田昌司,岩佐行利:下水道管きょのアセットマネジメント~再構築 の平準化に資する長寿命化技術の開発~,コンクリート工学(CONCRETE JOURNAL), Vol.54,No.1,pp. 105-110,(公社)日本コンクリート工学会,2016

2) 東京都下水道局:東京都下水道事業「経営計画2013」,2013.2

3) 東京都下水道局:第二世代下水道マスタープラン,pp.82-85,1992.7 4) 東京都下水道局:東京都下水道事業「経営計画2016」,p.20,2016.2

5) 公益社団法人日本下水道協会:下水道管路施設ストックマネジメントの手引き(旧 下水道管路施設腐食の手引き(案),pp.2-13,2016.12

(30)

2

章 既往の技術,文献

下水道施設に適用可能なコンクリート防食に係わる基準としては,「コンクリート改 修技術マニュアル(処理施設・管路施設編)」1)や,下水処理場・ポンプ場に適用する

「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食マニュアル」2)がある。本章で は,これら既往の基準の一部を引用するなどして,コンクリート防食に関する知見や 課題を整理するとともに,下水管路施設に適用可能な防食被覆材の開発に向けた課題 について検討した。

2.1 下水管路施設の腐食メカニズム

「下水道管路施設ストックマネジメントの手引き(旧下水道管路施設腐食対策の手 引き(案))」3)を一部引用し,下水管路施設のコンクリートの腐食に関する知見をま とめる。

2.1.1 硫酸によるコンクリート腐食が発生する条件

「下水道施設に特有な硫酸によるコンクリート腐食のメカニズムを示す。

① 嫌気性状態の下水中や汚泥中での硫酸塩還元細菌により,硫酸塩(SO42)から溶存 硫化物(H2S,HS-,S2-)が生成(生物的作用)

② 液相から気相へ,硫化水素(H2S)ガスが放散(物理的作用)

③ 密閉されたコンクリート構造物の気相部内面の結露水中における好気性の硫黄酸 化細菌の活動により,硫化水素ガスから硫酸が生成(生物的作用,化学的作用)

④ 硫酸とコンクリート中の成分との反応により,コンクリートが劣化(化学的作用,

物理的作用)」3)

2.1に,下水道施設に特有な硫酸によるコンクリート腐食のメカニズムを示す。

(31)

2.1 下水道施設に特有な硫酸によるコンクリート腐食のメカニズム3)

「硫酸によるコンクリート腐食が発生する環境は,以下の3つの条件をすべて満足する 箇所である。」3)

「1) 溶存硫化物が生成される水質的条件

① 下水中に硫酸イオンが存在すること

下水中の硫酸イオンは,水道水に含まれているもの,し尿中に含まれるもの,洗 剤等の化学製品や薬品類に含まれるもの等が考えられる。」3)

「② 下水が嫌気性条件であること

管路施設内で下水が滞留する場合や圧送管内等で溶存酸素濃度が 0.1~1.0mg/L 程度になる場合は,硫酸塩還元細菌の働きにより,硫酸イオンが還元され溶存硫化 物が生成される。3)

③ 下水中に有機物(BOD)が存在すること

硫酸塩還元細菌は,硫酸イオンと有機物を利用して生命活動をする。」3)

「2) 硫化水素ガスが放散される水理的条件

下水中の pH は中性に近いため,下水又は汚泥の流れに乱れを生じる落差等があ る箇所では,下水中の溶存硫化物は硫化水素ガスとして気相中へ放散される。」3)

(32)

2.1.2 下水管路施設で腐食環境下となりやすい箇所

以下の箇所については,2015年の下水道法の改正で,5年に1回以上の点検が新たに 義務づけられた。

(1) 圧送管吐出し先

「圧送管内は酸素供給がないため,下水の通過時間が長い場合に嫌気性化しやすく,

溶存硫化物が生成されやすい。滞留時間がおおむね1時間以上の場合,ポンプの運転 停止時間が数時間に及ぶ場合等に高濃度の溶存硫化物が生成される可能性があり,実 態調査から圧送距離がおおむね 500m 以上の場合がその目安とされている。生成され た溶存硫化物は,ポンプ稼動とともに,吐き出し先下流部のマンホールの落差,段差 等の流れの乱れにより,硫化水素ガスとして液相から気相へと放散され,硫酸による コンクリート腐食が発生する。」3) 当該コンクリート腐食の概念図を図2.2に示す。

2.2 圧送管吐出し先の管路施設におけるコンクリート腐食の概念図3)

(2) 落差・段差の大きい箇所

「溶存硫化物を含む下水の流れが,落差,段差等により乱される箇所において,下水 が嫌気性条件下で流下している場合は,腐食は発生しやすく,好気性条件下で流下し ている場合は腐食が発生しにくい。嫌気性条件下で流下している場合には,下水中に 溶存硫化物が生成され,流れの乱れにより硫化水素ガスが液相から気相へと放散する ため,高濃度の硫化水素ガスが滞留しやすく,コンクリート腐食が発生しやすいとさ れている。」3) 当該コンクリート腐食の概念図を図2.3に示す。

P

硫化水素 ガス放散

硫化水素 ガス放散 酸素供給

腐食箇所

圧送管

自然流下管 吐出し先マンホール

(33)

落差のあるマンホール 段差のあるマンホール

H2S

H2S

H2S

H2S

H2S

2.3 落差・段差のあるマンホール部での硫化水素ガスの発生イメージ3)

(3) 伏越し下流部

「長大伏越しや合流式下水道の伏越し等で滞留時間が長くなるような場合は,伏越し 内部で溶存硫化物が生成され,下流部で流れの乱れが生じる箇所でコンクリート腐食 が発生することが知られている。」3) 当該コンクリート腐食の概念図を図2.4に示す。

2.4 伏越し下流部におけるコンクリート腐食の概念図3)

自然流下管きょ

溶存硫化物生成

伏越し

伏越しマンホール

(下流)

硫化水素 ガス放散

流れ方向

汚泥堆積 腐食箇所

(34)

物が沈殿,腐敗,嫌気性化し,溶存硫化物が生成される可能性がある。」3) これが下 流部で流れの乱れがある箇所で,硫化水素ガスとして気相部に放散され,管きょの腐 食の原因となる。当該コンクリート腐食の概念図を図2.5に示す。

2.5 小流量時や不等沈下等が原因で最小流速を確保できない箇所 の上下流部におけるコンクリート腐食の概念図3)

② ビルピット排水が排出される箇所

都市部では近年,ビルピットからの排水が原因の臭気が急増している。「地下階を 有するビルでは,ビルピットに汚水を一時貯留しポンプにより排水することが多い。

排水ポンプの起動水位の設定の高すぎる場合や,ピットの容量が大きすぎる場合等,

適切な設置管理が行われない場合,ビルピット内での汚水の滞留時間が長くなること で嫌気性化し,溶存硫化物が生成される。生成された溶存硫化物は,ポンプ稼動とと もに,管きょへの流入部での流れの乱れにより硫化水素ガスとして液相から気相へと 放散される。」3) 当該コンクリート腐食の概念図を図2.6に示す。

2.6 ビルピット排水が排出される箇所の上下流部における コンクリート腐食の概念図3)

汚泥堆積 (溶存硫化物生成)

不等沈下 (管きょのタルミが発生)

マンホール マンホール マンホール

腐食箇所

硫化水素 ガス放散

※ 下流部で落差、段差のあるマンホール等、流れの乱れが生じる箇所で硫化水素が放散し、

硫酸によるコンクリート腐食が発生。

ビルピット排水槽 取付管

自然流下管きょ 硫化水素

ガス放散 流れ方向

溶存硫化物生成

腐食箇所

図 1.3 下水道管きょのアセットマネジメントのイメージ 2)  また,図 1.4 に示すようにライフサイクルコストが最小となる 80 年程度を経済的耐 用年数とし,区部全域を 80 年程度で,平準化して再構築する中長期的な事業計画を示 した。  図 1.4  下水道管きょのライフサイクルコスト(LCC) 2) これにより,中長期的な再構築事業の概ねの事業量と事業費が想定できるようになっ た。この計画では,事業量を平準化することで, 1990 年頃のピーク時の事業量の 1/2 程 度まで圧縮している。しかし
図 1.11  粒度調整灰の資源化  なお,下水汚泥焼却灰には重金属等の有害な物質が含まれることがある。そのため, 焼却灰,粒度調整灰,資源化製品のそれぞれについて,水銀,カドミニウムなどの重金 属等の溶出量を測定し,金属等を含む産業廃棄物に係わる判定基準や 土壌の汚染に関す る環境基準 を満足することを確認している。  しかし,図 1.9 に示すように,2010 年度の資源化率は 71%に留まっている。また, 資源化率の 56%を占めるセメント原料化や軽量骨材原料化は,建設需要の変動などの影 響を受け,安
図 1.15  第 4 章の研究フロー 既往の防食被覆材の耐荷性能に関する課題既設コンクリートと同じ厚さまで断面修復した後,防食被覆層を塗布防食被覆層の厚み相当の管路施設の断面が縮小 本防食被覆材の物理特性,仕様など断面修復層と防食被覆層を同一仕様,一層構造とした層構成,仕様コンクリートと比較し,低弾性,高引張強度な物理特性はり部材等を用いた補強効果の検証無筋コンクリート製円形マンホールに対する補強効果の検証(マンホールへの適用を想定)外圧強度試験・荷重と変位の関係の分析・荷重とひずみの関係の分析・破壊メカ
図 2.1  下水道施設に特有な硫酸によるコンクリート腐食のメカニズム 3)  「硫酸によるコンクリート腐食が発生する環境は,以下の 3 つの条件をすべて満足する 箇所である。 」 3)  「1)  溶存硫化物が生成される水質的条件  ①  下水中に硫酸イオンが存在すること  下水中の硫酸イオンは,水道水に含まれているもの,し尿中に含まれるもの,洗 剤等の化学製品や薬品類に含まれるもの等が考えられる。 」 3)  「②  下水が嫌気性条件であること  管路施設内で下水が滞留する場合や圧送管内等で溶存酸素濃度
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