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議論と実践の中でみえる位相の誤差

  ここまで障がいのある人の創作活動に関する歴史的変遷を、呼称とその呼称を用いて 活動を推進する鍵となる人物を軸に見てきた。ここからは現在、障がいのある人の創作 活動を社会との関係の中で捉える際に浮かび上がる、公での議論においての課題や、障 がい者支援施設により発信されている活動意義や目的との誤差、また、実践や議論の際 に生じている障壁について情報を整理する。 

 

2000 03

アウトサイダー・アート 現代美術が忘れた「芸術」出版 アール・ブリュット アート 日本 出版 13

ABLE ART 新しい価値を提案する 出版 09

観点変更 なぜアトリエ インカーブは生まれたか 出版 しょうぶ学園 40周年記念誌 出版 93

日本のアール・ブリュット/ 

アウトサイダー・アート元年 小出由紀子事務所設立

04

ボーダレス・アート・ミュージアムNO-MA 設立

06

スイス アール・ブリュット・コレクション JAPON展 パリ アール・ブリュット ジャポネ展

11

11-13 日本凱旋展覧会

アール・ブリュット・ネットワーク

94

障害者芸術文化ネットワーク  準備委員会 設立

日本障害者芸術文化協会 設立  (現 エイブル・アート・ジャパン)

95

エイブル・アート・ムーブメント 提唱

96

96-03 トヨタ・エイブル・アート・フォーラム 開催 芸術文化選奨受賞

02

アトリエ インカーブ 設立

N.Y.アウトサイダー・アート・フェア出品

85

工房しょうぶとして活動開始  クラフト工芸活動中心にシフト

芸術,表現活動の広がり

2010 2020

1990

障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会

17

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会 に向けた障害者の芸術文化振興に関する懇談会(予定)

08 障害者アート推進のための懇談会

エイブル・アート・ 

フォーラムなどで  アウトサイダー・ 

アートを紹介

86

「手づくりの生活展」(東京)

全国巡回展など実施-アール・ブリュット アウトサイダー・アート エイブル・アート・ムーブメント 現代アート アート

4.1  省庁主催の懇談会での議論 

  近年、障がいのある人の創作活動に関し、「障害者の芸術文化活動」について厚生労 働省と文部科学省が共催した、推進事業が行われている。これまでに、「障害者アート 推進のための懇談会」(2007-2008 年)、「障害者の芸術活動への支援を推進するための 懇談会」(2013 年)、「2020 東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた障害 者の芸術文化振興に関する懇談会」(2015 年-継続中)が開かれ、先の 2 回については報 告書がまとめられている。2008 年にまとめられた報告書では、「障害のある人たちが創 造するアート」に関し、日本では定着した名称がないので概念・名称・定義について議 論は交わされたが厳密な定義はせず「障害者アート」が用いられた  (厚生労働省, 2008)。

また、2013 年の懇談会の報告書である「中間取りまとめ」では、「障害者の芸術活動」

に使用する概念・呼称を「アール・ブリュット」とするのが適当か否かについての議論 もあった(厚生労働省, 2013)。詳しくは本章で後述するが、障がいのある人の創作活動 に関しどの呼称を用いるかという議論は、各呼称が持つ概念とも関係しており、障がい のある人の創作活動を捉えるコンテクストとも深い関係にある。 

  また、「中間取りまとめ」の冒頭には、「障害者の芸術活動の意義」として、ふたつの ことが記されている。ひとつは「障害者の芸術活動」の支援が、障がいのある人の「社 会参加」を進め、「障害の有無に関わらず人々がお互いを尊重しながら共生する社会を 実現」するために非常に有用であること。もうひとつが、障害者が生み出す芸術作品」

が、これまでの「芸術の評価軸に影響を与え」、「芸術の範囲に広がりや深まりを持たせ 得る」ということである。しかし、取りまとめの後述内容には、支援の方向性として「裾 野を広げる」という視点と「優れた才能を伸ばす」という視点が必要であり、それに沿 った仕組みづくりについて言及されている。しかし、「障害者の芸術活動」と、「障害の 有無に関わらず人々がお互いを尊重しながら共生する社会を実現」することとがどのよ うな関係を持つのか、「芸術の範囲に広がりや深まりを持たせ得る」とはどういうこと なのかについては示されていない。さらに、「障害者の芸術作品」の評価の在り方につ いて、美術関係者だけでなく、福祉現場・医療現場等の人材が共同して調査を行うこと が重要であり、その継続により練り上げられていくことが期待されている。また、議事 録では作品が生まれる現場の課題に関する言及もあったが、取りまとめには反映されて いない。「障害者の芸術活動」の支援者の育成に関する必要性に関する記述はあるが、

多くが「作品」の取り扱いや、関係者のネットワークの構築に関する内容である。 

  これらから、行われた懇談会では、アート「作品」の方に強い関心がもたれ、特に創 作過程(プロセス)における支援者との関係性については、比較的関心が払われなかった ことが言える。また、活動による社会変容についての内容だと推察される「共生する社

会の実現」に関する言及はあるが、そのイメージは、美術的に高い評価をうける「作品」

を通して、行われる社会参加に対する意識が強いと言える。このように、障がいのある 人の創作活動がもつ多元的な意義が明らかにされないまま、美術作品としての意義が強 く押し出された内容となっている。 

 

4.2  先進的な創作活動を行う障がい者支援施設における活動内容や目的 

  一方で、活動が行われる現場となることが多い障がい者支援施設が、創作活動を行っ ている内容や目的について、各施設が開設するウェブサイトからみてみる。ここでは、

障がいのある人の創作活動が施設の方針として取り組まれており、書籍や映像メディア で紹介されることや、セミナーなどで支援員が登壇することなどが多い注目度の高い、

全国の障がい者支援施設 9 施設を選出した(表 2.1)。表 2.1 から、創作活動の内容が多 岐に渡ることがわかる。絵画や造形など制作活動のほか、展覧会の企画展示、作品を活 用した商品開発や、企業とのコラボレーション、イベント企画などが行われている。ま た、ギャラリー運営やショップ経営、ライブハウスの運営までしている施設もあった。

障がい者支援施設で行われている創作活動は多岐にわたっている。 

 

表 2.1  創作活動を行う障がい者支援施設のウェブサイト調査:  創作活動の内容(筆者作 成) 

   

       

表 2.2  創作活動を行う障がい者支援施設のウェブサイト調査:  創作活動の目的・メッ セージ  (掲載内容の要素を筆者が抜粋し、意味が変わらないよう注意しながら編集し た) 

 

  なぜそのように多様な活動が行われているのか、ウェブサイトに掲載されている創作 活動を行う目的やメッセージ(表 2.2)から、その理由が推察できる。障がい者支援施設 は、障がいのある人自身の好きなこと・得意なことをいかして、豊かな人生を送れるこ とを大切に考えており、そのための戦略として「アート」を活用していると考えた。し かし、ことさら「アート」にこだわっているわけでもなく、むしろ、アートという言葉 によって、自分たちの活動や障がいのある人の価値が制限されることを嫌っていた。一 般の社会の常識とは少し違っているが、多様な価値観を持つ障がいのある人たちの魅力 を最大限生かし社会に発信するための取り組みが、施設で行う活動の多様さに現れてい る。そして、そのようなスタンスをとるまでに各施設が、一般社会の通念や経済的不安 など様々な常識と戦い、支援者自身も自身の常識を疑い、発想を転換していった歴史が みてとれる。 

  しかし、これらの施設での活動の目的は、アーティストとしての成功、福祉とアート の葛藤などは、大きな問題とされていない。むしろ、障がいのある人の生活がより豊か になるように、障がいのある人が自分の好きなことを見つけそれに好きなだけ取り組め る場をつくるために、障がいのある人本人の幸せを中心に考え環境づくりをしているこ とがうかがえた。また、障がいのある人が豊かな生活を送れるために、施設の中だけで 過ごすのではなく、地域の人と触れ合ったり、市民として生きていけるための、交流の 機会を持ったり、障がいのある人の魅力を伝えられる機会をつくることが非常に重視さ れていた。このように、公の場で議論がなされている内容は、施設で行われている創作 活動のほんの一部分にすぎず、その一部分(障がいのある人の創作品を美術作品として 取り扱うこと)を一番大きく取り上げて、推進しようとしているところに、現場にかか わる人々の違和感が生じているのではないか。 

 

4.3  障がい者支援施設に対する実態調査から見えるもの 

  障がいのある人の創作活動に関して、各地で目的に沿った実態調査が行われている。 

例えば、2009 年に大阪府内の障がい者支援施設に対し行われた調査において一番要望 が多かったのは「表現の幅を広げるため、利用者の意欲や才能を引き出すためにも、ア ートの知識をもった専門家のサポートを望む」(回答のあった 114 の障がい者支援施設 箇所中 38 箇所)という内容だった(大阪府,  2009)。また、2010 年に広島市で行われた 調査では、アート活動の支援・指導者は「団体職員」(障がい者支援施設の支援員)(「団 体職員」: 76%,  「外部の専門家・講師」:    52%)であり、今後必要な支援策として第 1 位が「アートに関する知識・技術を持った指導者・技術者の協力」(73%)であった(障害 者アートを活用した障害者の自立・社会参加に関する研究プロジェクト推進委員会, 

2010)。さらに、国の助成により開設された全国 7 箇所の「障害者芸術活動支援センタ ー」に寄せられた相談内容もほとんどの県で「創作環境に関する相談」の割合が一番多 かった(障害者の芸術活動支援モデル事業連携事務局, 2016)。これらの調査結果から、

障がい者支援施設において活動を試みるにあたり、その支援者は施設の支援員である割 合が高く、活動の際に専門知識を持った人材の確保など創作環境づくりに関して障壁が 生じていると言える。また、前述の大阪府による 2009 年の調査では、いい絵を描いた からといってすぐに「作家」と呼べるのか、また、アーティストとしてやっていけるの かなど、障がい者支援施設における大きなミッションである就労(工賃支給)と創作活動 のバランスや、創作活動を施設でどのように位置付けたらいいのかという迷いもみてと れる(大阪府, 2009)。今日までにそれらの悩みは解消できているだろうか。 

  障がいのある人の創作活動を、障がい者支援の現場である障がい者支援施設でどのよ うに捉え、位置付けたらいいのかという疑問について、施設での方針を明確にするとい うことは、特に就労支援を推進する流れにある障がい者福祉の状況からは、大胆な発想 の転換を求められることにもなり、非常に困難な作業となりうる。 

 

4.4  議論と実践の中でみえる位相の誤差まとめ 

  ここまで、障がいのある人の創作活動を社会との関係の中で捉える際に浮かび上がる、

公での議論においての課題や、障がい者支援施設により発信されている活動意義や目的 との誤差、また、実践や議論の際に生じている障壁について情報を整理した。 

  まず、公での議論として、国が主催した「障害者の芸術文化活動」を推進するための 懇談会の報告書から、議論の中心にあるのが「芸術的価値の高い作品」を重視する芸術 の論理であったと考えた。そのため、活動の意義として「障害の有無に関わらず人々が お互いを尊重しながら共生する社会を実現」とありながら、「福祉と美術の領域を超え」

「社会との関係の中で捉える」点は、「芸術的価値の高い作品」を介した社会参加のあ り方に限定されていることが示唆される。 

  また、先進的な創作活動を行う障がい者支援施設における活動内容や目的について、

ウェブサイトを調査することで、ユニークな活動を行っている障がい者支援施設で行わ れている創作活動は、絵画・造形に限らず、障がいのある人の個別の関心や可能性に沿 って無限に考えられ、展開されていることがわかった。この点により、「芸術的価値の 高い作品」を重視する公の議論の方向性に違和感を感じる施設が生じていると考えた。 

  さらに、各地で行われた障がい者支援施設に対する実態調査から見えるものとして、

施設で生じている葛藤が浮かび上がった。それは、創作活動を行うにあたって、施設の 支援員が中心となって支援を行う際の手法に不安があり、美術の専門家の力を求めるこ