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障がいのある人の創作活動の指標に関する研究

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

障がいのある人の創作活動の指標に関する研究

村谷, つかさ

https://doi.org/10.15017/1931925

出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

               

障がいのある人の創作活動の指標に関する研究 

A Study on Criteria for Artistic Activities by People with Disabilities   

                     

 

村谷つかさ  Tsukasa Muraya 

 

2018 年 3 月   

   

(3)

はじめに     

  障がいのある人の創作活動という言葉を聞いたとき、どのようなことが心に思い浮か ぶだろうか。色鮮やかで大胆な構図の絵画や、何かはよくわからないがエネルギーに溢 れた造形物。いずれにせよ、 「障がい者」という言葉を単体で聞いたり、 「支援」や「理 解」などという言葉と一緒に聞いたりする時とは、少し違った感覚を持つのではないか。

そして、この「少し違った感覚」の正体は、私たちや、私たちが暮らす社会にとって、

とても大切なものとなりうる。筆者自身、障がいのある人とほぼ接点がない状態から、

障がいのある人の創作活動との出会いを通し、この「少し違った感覚」から広がる可能 性に惹かれ、自身のテーマとして関わり続けている。 

 

  創作活動を行うことで生じる、障がいのある人自身や、身近な人との関係性、地域や 企業など社会との関係性の変化について検証すべく、筆者は、知的に障がいのある人が 通う障がい者支援施設において、プロジェクトを発足し 10 年あまり実践を行った。創 作の機会や場づくりにはじまり、展示や商品開発などの企画や執行、支援員への助言な ど創作活動を統率する立場にあると共に、日常生活のケアや支援計画の作成、若手への 支援技術の指導なども行い、ケアと創作両方に携わる中での取り組みだった。この実践 は、ケアと創作の関係性、障がいのある人の創作活動のあり方の多様性と共に、知的に 障がいのある人の表現の場づくりにおける、「支援者」の存在の重要性を強く認識する ものとなった。 

  適切なケアにより安心できる居場所として感じられる環境、強い欲求やこだわりに対

し、健康や安全に配慮しつつ存分にこだわれる環境、経験のなかったことに出会い、表

現や行為の喜びを徐々に深めていける環境など、支援者は個別性の高い障がいのある人

の状態に対し、適した創作環境を作ることが求められる。創作活動のあり方や行う目的

は一人ひとり異なる。特に知的に重たい障がいのある人は、毎日の生活におけるあらゆ

る自己決定に他者の介入を受けることが多く、その中で行われる創作活動にも、支援者

の存在は欠かせない。しかし、支援者によって創作活動についての考え方や意識の差は

大きく、作品が早く仕上がるように支援者が善意で筆を入れる、画面に満遍なく色がつ

いた時点で「絵が描けた」と支援者が判断して制作を終了させる、などということも実

際に起きていた。支援者が活動の目的を捉えられていなければ、 「絵を描かせる」 「作品

にする」ことが目的化し、活動が形骸化することもあり得る。これまで、支援者の関わ

りを前提とした創作活動とはどのようなものか、支援者の「支援」のあり方についてな

ど十分な議論はされていない。また、支援者自身にも障がいのある人の創作活動に関わ

(4)

る主体としての意識や、影響を与える大きさへの自覚は薄い場合がある。作品の美術的 価値や、仕事につながる経済的価値など、結果としての生まれる作品の価値を語る前に、

プロセス(創作過程)において生じているかたちのないものを、支援者の存在も含め、

注意深く捉える必要があるのではないか。 

 

  また、本文で詳しく述べるが、障がいのある人の創作活動について概念的な議論の場 においては、どのような呼称を用いた、どのような価値を重視した活動が正しいか、異 なる主張がなされている。異なる主張をしている人同士の意見は、噛み合っていない印 象を受けた。それぞれ正しい意見に聞こえるが、各人が思い描いている障がいのある人 の創作活動に対するイメージや、その価値を判断している基準が異なったまま議論がさ れている状況が見受けられた。しかし、主張されている論点にはいくつか共通している ものもあるように感じた。 

 

  このような、他者との密接な関係の中で行われ、多様な価値が語られる、障がいのあ る人の創作活動は、社会のあり方の変容とどのようなつながり方をしており、変容する ことで社会における個の尊重がどのように実現しうるのか。この問いを解決するには、

現場と概念、両方からアプローチし、継続した実践や議論が必要となるだろう。本論は、

そのような実践や議論の際に、個人レベルと社会レベルの価値をつなぎ、継続的、発展

的に実践や議論を促進するためのプラットフォーム作りを試みた研究である。

(5)

目次 

 

第 1 章  研究の概要 

1.  はじめに ... 1 

2.  研究目的 ... 7 

3.  研究方法 ... 9 

4.  本論文の構成 ... 9 

 

第 2 章  背景と課題  1.  第 2 章の目的と研究方針 ... 13 

2.  「福祉と芸術の領域を超える」 「社会との関係の中で捉える」 ... 14 

2.1  社会との関係で捉える「障がい者福祉」 ... 14 

2.2  社会との関係で捉える「アート」 ... 17 

2.3  社会との関係の中で捉える「障がい者福祉」と「アート」 ... 19 

2.4  社会との関係で捉える「障がいのある人の創作活動」 ... 20 

2.5  社会との関係で捉える「障がいのある人の創作活動」先行研究 ... 22 

3.  日本における障がいのある人の創作活動の呼称と鍵となる人物 ... 24 

3.1  呼称と鍵となる人物 ... 24 

    1)     アール・ブリュット  Art Brut ... 24 

    2)     アウトサイダー・アート  Outsider Art ... 26 

    3)     エイブル・アート・ムーブメント  Able Art Movement ... 28 

    4)     現代アート  Contemporary Art ... 29 

    5)     障がい(害)者アート  Disability Art ... 30 

    6)     アート  Art ... 30 

3.2  日本における障がいのある人の創作活動の歴史的変遷と呼称まとめ .. 31 

(6)

4.  議論と実践の中でみえる位相の誤差 ... 32 

4.1  省庁主催の懇談会での議論 ... 33 

4.2  先進的な創作活動を行う障がい者支援施設における活動内容や目的 .. 34 

4.3  障がい者支援施設に対する実態調査から見えるもの ... 36 

4.4  議論と実践の中でみえる位相の誤差まとめ ... 37 

5.  議論と実践における問題点 ... 38 

5.1  言葉の概念・情報の整理による問題 ... 38 

    1)     言葉の概念定義 ... 38 

    2)     「アート」と自身の着目点との関係 ... 38 

    3)    始点となる過程(プロセス) ... 38 

5.2  専門領域や立場の違いによる問題 ... 39 

    1)     理想のあり方と実際の現場 ... 39 

    2)     主張点のみの比較 ... 39 

    3)    呼称の概念と意味する範囲 ... 39 

5.3  価値判断の基準についての問題 ... 40 

    1)     福祉の領域・芸術の領域、 「福祉と芸術の領域を超える」 ... 40 

    2)    生じる関係性の具体化 ... 40 

    3)     ピークか裾野か ... 40 

5.4  課題解決の方針 ... 41 

6.  第 2 章のまとめ ... 42 

 

第 3 章  課題解決に向けた研究アプローチ  1.  第 3 章の目的 ... 43 

2.  ふたつのズレの解消 ... 43 

2.1  変数の定義 ... 43 

(7)

2.2  立ち位置と論点の共有 ... 44 

3.  論点を共有するための指標づくり手順 ... 44 

3.1  著者が価値判断をしている論点を捉える ... 44 

3.2  指標作成の参考研究 ... 45 

3.3  文献調査による項目表の作成 ... 46 

3.4  文献の著者による項目表の検証 ... 47 

3.5  支援者による項目表の検証 ... 48 

3.6  回答者の基本情報と意識調査 ... 48 

4.  第 3 章のまとめ ... 49 

 

第 4 章  文献調査による項目表の作成  1.  はじめに ... 50 

1.1  第 4 章の目的 ... 50 

1.2  研究方法 ... 50 

2.  調査対象者と著(監修)書籍の情報整理 ... 50 

2.1  文献 A:  アール・ブリュット  アート  日本 ... 50 

2.2  文献 B:  アウトサイダー・アート  現代美術が忘れた「芸術」 ... 52 

2.3  文献 C:  観点変更  なぜ、アトリエ  インカーブは生まれたか ... 54 

2.4  文献 D:  しょうぶ学園  40 周年記念誌          創ってきたこと、創っていくこと ... 56 

2.5  文献 E: ABLE ART  新しい価値を提案する ... 58 

3.  項目表の作成 ... 62 

3.1  項目表作成のステップ ... 62 

3.2  結果 ... 63 

4.  障がいのある人についての項目表 ... 64 

(8)

4.1  「障がいのある人についての項目表」の案出結果 ... 64 

4.2  「障がいのある人についての項目表」の考察 ... 65 

4.3  「障がいのある人についての項目表」のまとめ ... 70 

5.  「支援者が持つ意識についての項目表」に関する考察 ... 70 

5.1  「支援者が持つ意識についての項目表」の案出結果 ... 70 

5.2  「支援者が持つ意識についての項目表」の考察 ... 72 

5.3  「支援者が持つ意識についての項目表」のまとめ ... 78 

6.  第 4 章のまとめ ... 78 

 

第 5 章  文献の著者による項目表の検証  1.  はじめに ... 80 

1.1  第 5 章の目的 ... 80 

1.2  研究方法 ... 80 

2.  方法 ... 81 

2.1  「創作過程に関するアンケート」調査用紙の作成 ... 81 

2.2  「回答者の基本情報と意識についてのアンケート」調査用紙の作成 .. 84 

2.3  調査手順 ... 85 

2.4  分析方法 ... 86 

3.  2 つの項目表に対するインタビュー結果概要 ... 87 

3.1  著者 A: ... 87 

3.2  著者 B: ... 88 

3.3  著者 C: ... 89 

3.4  著者 D: ... 90 

3.5  著者 E: ... 92 

3.6  2 つの項目表に対するインタビュー結果概要まとめ ... 93 

(9)

4.  主観評価調査結果: 2 つの項目表 ... 94 

4.1  「障がいのある人についての項目表」に関する主観評価調査結果 ... 94 

4.2  「支援者が持つ意識についての項目表」に関する主観評価調査結果 .. 97 

4.3  主観評価調査まとめ ... 100 

5.  インタビュー調査結果: 2 つの項目表 ... 101 

5.1  障がいのある人について重視する項目 ... 101 

5.2  支援者が持つ意識について重視する項目 ... 103 

5.3  インタビュー調査まとめ ... 104 

6.  項目の妥当性の検証と改善に向けた 5 名の著者のフィードバック ... 105 

6.1  項目表と項目の内容に関する意見 ... 105 

    1)     現況の項目内容の妥当性 ... 105 

    2)     項目の意図の理解 ... 105 

    3)     「支援者」の解釈と項目の意図の理解 ... 106 

    4)     「障がいのある人」の解釈と項目の意図の理解 ... 106 

    5)     専門領域や立場の違いが与える「創作過程」の項目に対する        理解の違い ... 106 

    6)     前提として大事なこと・自己表現に至る段階 ... 106 

    7)     相反する価値を捉えること ... 107 

6.2  追加すべき新たな項目に関する意見 ... 107 

6.3  指標作成の方針に関する意見 ... 108 

6.4  フィードバックまとめ ... 108 

7.  回答者の基本情報と意識についてのアンケート ... 109 

7.1  意識調査に関する主観評価の結果 ... 109 

7.2  意識調査に関する主観評価結果の相関分析結果 ... 113 

8.  呼称に関するインタビュー結果の考察 ... 113 

(10)

8.1  呼称の原義 ... 114 

8.2  障がいのある人の創作活動との関係 ... 115 

8.3  自身の関心、活動との関係 ... 116 

8.4  呼称に関する考察 ... 117 

9.  第 5 章のまとめ ... 118 

 

第 6 章  支援者による項目表の検証  1.  はじめに ... 120 

1.1  第 6 章の目的 ... 120 

1.2  研究方法 ... 120 

2.  方法 ... 121 

2.1  「創作過程に関するアンケート」調査用紙の改定 ... 121 

2.2  調査対象者の情報 ... 125 

2.3  調査手順 ... 127 

2.4  分析方法 ... 127 

3.  主観評価調査:  合計点と平均点の比較 ... 128 

3.1  「障がいのある人についての項目表」主観評価調査結果 ... 128 

3.2  「支援者の持つ意識についての項目表」主観評価調査結果:          合計点と平均点の比較 ... 133 

3.3  合計点と平均点の比較のまとめ ... 139 

4.  主観評価調査:  解析による相関の検定 ... 139 

4.1  ピアソンの積率相関分析 ... 139 

    1)     「障がいのある人についての項目表」相関分析結果 ... 140 

    2)     「支援者の持つ意識についての項目表」相関分析結果 ... 140 

4.2  分散分析 ... 140 

(11)

    1)  「障がいのある人についての項目表」分散分析結果 ... 140 

    2)     「支援者の持つ意識についての項目表」:  分散分析結果 ... 141 

4.3  量的分析とインタビュー内容をあわせた考察 ... 143 

5.  支援者のフィードバック ... 144 

5.1  項目表と項目の内容に関する意見 ... 144 

    1)     項目内容の妥当性 ... 144 

    2)     項目の意図の理解 ... 145 

5.2  追加すべき新たな項目に関する意見 ... 147 

5.3  指標作成の方針に関する意見 ... 149 

    1)     最終的なイメージ ... 149 

    2)     方針の考え方と留意点 ... 150 

    3)     活用方法・可能性:  支援者の専門領域における意見 ... 152 

6.  支援者の基本情報と意識調査結果 ... 157 

6.1  意識調査の主観評価結果回答 ... 157 

    1)     合計点が高い項目 ... 161 

    2)     合計点が低い項目 ... 162 

    3)    平均点の差が大きな群 ... 162 

6.2  相関分析結果 ... 162 

7.  呼称の捉え方に関するインタビュー結果 ... 163 

8.  第 6 章のまとめ ... 164 

 

第 7 章  考察  1.  はじめに ... 168 

1.1  第 7 章の目的 ... 168 

1.2  考え方の規範を得る方法 ... 169 

(12)

2.  「考え方の規範」に関する考察:     

        著者調査「障がいのある人についての項目表」 ... 169 

2.1  背景の総合的な把握 ... 170 

2.2  主体性の創出 ... 170 

2.3  独自性の発露 ... 171 

2.4  障がいとの関係 ... 171 

2.5  意識のあり方との関係 ... 172 

2.6  心のあり方との関係 ... 173 

2.7  環境との関係 ... 173 

2.8  評価の影響 ... 174 

2.9  「考え方の規範」に関する

考察:                

著者調査「障がいのある人についての項目表」まとめ ... 175 

3.  「考え方の規範」に関する考察:          著者調査「支援者が持つ意識についての項目表」 ... 176 

3.1  既存の概念、価値観の打破 ... 176 

3.2  情報、役割の整理 ... 177 

3.3  意識的な支援 ... 177 

3.4  表現に至る過程への意識 ... 178 

3.5  評価の意味 ... 179 

3.6  相互変容 ... 180 

3.7  視点の転換 ... 180 

3.8  「考え方の規範」に関する

考察:                

著者調査「支援者が持つ意識についての項目表」まとめ ... 181 

4.  支援者調査:  障がいのある人についての項目表「考え方の規範」 ... 181 

5.  支援者調査:  支援者が意識についての項目表「考え方の規範」 ... 182 

(13)

6.  「指標」に関する考察 ... 183 

6.1  「考え方の規範」と「指標」に関する考察 ... 183 

6.2  「項目表」と「指標」に関する考察 ... 184 

6.3  「指標」に関する考察まとめ ... 184 

7.  指標作成の調査手法に関する考察 ... 186 

8.  課題の解決 ... 187 

8.1  「言葉の概念・情報の整理による問題」 ... 187 

8.2  「専門領域や立場の違いによる問題」 ... 188 

8.3  「価値判断の基準についての問題」 ... 190 

9.  第 7 章のまとめ ... 192 

 

第 8 章  結論   1.  はじめに ... 194 

1.1  第 8 章の目的 ... 194 

2.  研究内容のまとめ ... 194 

3.  今後の展開の可能性と課題点 ... 198 

 

参考文献   ... 202 

 

謝辞       ... 216 

 

付録       ... 218   

 

(14)

                       

第 1 章  研究の概要 

 

                                   

(15)

 

第1章 研究の概要   

1.   はじめに 

  「障害者が自己の利益のためのみでなく、社会を豊かにするためにも、自己の創造的、

芸術的及び知的な潜在能力を開発し、及び活用する機会を有することを可能にするため の適切な措置をとる」。これは、2006 年に国際連合(以下、国連と表記)で採択され、2014 年に日本も批准した障害者権利条約(第 30 条  2 項)(外務省,  2016)に記されている内容 である。世界においては、障がいのある人の創作活動の意義は障がいのある個人のみに 帰結するものではなく、豊かな社会の創造とのつながりが明示さている。 

  日本における障がいのある人の創作活動は、医療やセラピーとは異なる枠組みで「障 がい(害)者アート」 「障がい(害)者の芸術文化活動」などとも呼ばれ、障がい者支援施設 などで意図的、偶発的に行われてきた。2007 年からは、福祉と芸術の双方に関わる領 域として、厚生労働省と文部科学省が共催で有識者を集めた懇談会が断続的に開かれて いる。そして、その取りまとめに沿った事業が各省でおこなわれるなど、国による活動 も推進されている。特に、2020 年のオリンピック・パラリンピック開催に向け、文化 面からも世界にアピールしようという動きとも相まって、社会的な認知や関心が高まっ ている。しかし、障がい者支援施設などの関係者からは、一部の障がいのある人の美術 的価値が高いと評価される作品が、特定の呼称が持つ概念に沿って持て囃されたうえ、

一過性のブームとしてすぐに忘れ去られることを不安視する声もあがっている。 

  2020 年を過ぎた後、障がいのある人の創作活動は、社会にどのような意味をもち存 在しているのか。社会的な関心の高まりが見られる今、活動の推進に長期的な視野を持 ち、福祉や芸術の領域を超え、社会との関係の中で捉えられるような仕組みをつくるこ とは、早急な課題である。 

 

  では、ここでいう「福祉や芸術の領域を超える」、 「社会との関係の中で捉える」とは どういう意味をもつのか。これまで、障がいのある人の創作活動は福祉や芸術(特に美 術)の領域で語られることが多かった。まずは、これまで障がいのある人の創作活動に ついて、福祉の領域、芸術の領域として議論されてきた内容の概略をおさえる。そのう えで、今後必要となる「福祉や芸術の領域を超える」、 「社会との関係の中で捉える」こ との考察につなげる。 

  障がいのある人の創作活動に関して、現在に続く福祉と芸術の領域による議論が日本

で活発化したのは、1990 年代後半からであった。障がいのある人の創作活動に関し語

(16)

られる福祉の領域とは、平等主義や教育主義(はた, 2009)などと形容された。みんな頑 張っているからという理由で、作品の質に関係なく一緒くたに(公民館での文化祭のよ うに展示され)取り扱われること(服部, 1999)や、質の高い作品であっても障がいのある 人が制作したということで価値を低められてきたこと(播磨, 1996)、また、障がい者を どのように教育するかという教育の問題となり、美術作品としての価値がきちんと評価 されにくいこと(服部, 2003)などが指摘された。そして、障がいのある人の創作活動に よって生じたものに美術的な魅力を感じた関係者は、作品そのものの美術作品としての 価値を正当に捉えるため、できるだけ福祉の領域とは切り離し美術の領域の中で位置付 けようとした。障がい者支援施設などで生まれる障がいのある人の創作品を美術の領域 で捉える際、福祉と芸術は対立関係として捉えられた。しかし逆に、美術作品としての 価値を主軸にすると作品の質のみが問われ、作者である障がいのある人は置き去りにさ れることとなる。作者の幸福とつながらない評価のあり方に対し、障がいのある人の創 作活動を実践する支援者たちからは違和感が語られるようになる。 

    社会人間学を専門とし、障がいのある人の自己表現に関し多く著述している藤澤美 佳は、障がいのある人の創作活動に関する議論で主張される論理について言及している。

アートについて福祉・医療の場に変化をもたらし、平等や人権意識を重視する考え方を

「医療・福祉の論理」、個性や表現を尊重し「芸術的価値の高い作品」を重視する考え 方を「アートの世界の論理」と表現している。そして、これらの論理は衝突する場面が 多くみられるが、両者はより調和する可能性を求めるべきだとしている(藤澤, 2014)。

同じように近年、福祉の領域で大切にされていることは平等主義や教育主義ばかりでは なく、障がいのある人一人ひとりを丁寧に見つめ幸福を願うあり方であり、福祉と芸術 の領域は対立するものではなく両方必要であるという認識がみられる  (宮地, 2013;  山 田, 2010 など)。 

  このように、「福祉や芸術の領域を超える」とは、対立関係であった福祉の論理と芸 術の論理が調和や融合した状態を指すのか。第 2 章において、これまで議論で前提とさ れることが多かった、平等や人権意識を重視する福祉の論理、芸術的価値の高い作品を 重視する芸術の論理とは異なる視点で、福祉と芸術それぞれの領域の変遷を辿り、障が いのある人の創作活動について「社会との関係の中で捉える」ための糸口を探る。そこ では、障がい者福祉の領域と芸術の領域に共通する活動の場での主体相互の関係から起 こる、個人の認知転換と行動変容により生じる個人変容から社会の変容へ相互作用的展 開の在り方が示される。またこれは、N.グッドマンらが述べる世界の新しいヴァージョ ンをつくる(グッドマン,  訳 2008)こととの関連もみてとれる。 

 

(17)

  また、これも第2章で詳しく見ていくが、日本において特定の呼称を用いて障がいの ある人の創作活動を思想的・実践的に推進する団体(個人)の主張の間には位相の誤差が 見られる。また、障がいのある人の創作活動に関する公の場での議論は、藤澤の言う「芸 術的価値の高い作品」を重視する芸術の論理によって展開されているように見える。し かし、創作活動に関しユニークな取り組みを行っている障がい者支援施設で大切にして いることは、障がいのある人が自身の好きなこと・得意なことを生かして豊かな人生を 送ることであり、 「芸術的価値の高い作品」を生み出すことを目的としていない。また、

現場に対する実態調査からあげられる、創作活動を行ううえで一番問題とされているこ とは、「美術関係者がいないから、どのように活動したらいいかわからない」という方 法論的な内容である。これらから、同じ「障がいのある人の創作活動」に関する内容で あるが、各論点は異なる位相にある状況がみてとれる。 

  このような位相の誤差を解消し、障がいのある人の創作活動について「福祉や芸術の 領域を超え」、 「社会との関係の中で捉える」ための仕組みをつくることは可能か。これ には、障がいのある人の創作活動に関する情報を整理し、 「社会との関係の中で捉える」

際の課題を示すことで手がかりを得る。 

 

  これまでも、障がいのある人の創作活動については多様な視点から重要な知見が示さ れてきた。概略を示すと前述の藤澤は、他者との相互作用における関わりの中での自己 表現から、表現したものに他者が共感する全過程を包括して「プロセスとしてのアート」

というアートの概念を再定義化した。そしてそれは、表現者、鑑賞者を変化させるアー トであるとともに社会の変化を促す原動力になるとした(藤澤, 2014)。 

  プロセスの中でも、作品が生まれる過程(プロセス)に着目した岸中聡子は、作品ばか りが注目されることに疑問を呈し「障害者アート」を、表現することを契機とした障が いのある人と支援者の相互関係的な「共同性」の発露とした(岸中, 2004)。文化人類学 者の中谷和人も創作過程(プロセス)において、障がいのある人が「あくまで理知的な言 語コミュニケーションを駆使する」「自律的主体」を前提としていることに異を唱え、

その点が障がいのある人の創作活動の特質だとしている(中谷, 2009)。また、障がいの ある人の「芸術活動」における相互行為のプロセスの中に固定的・非対称的な関係を更 新していく契機が潜在するとした。それを「対話や親密な相互行為を通じて自らの生の 活動を洗練・差異化させていく」場としての「コミュニティ」と表現し、「芸術活動」

を「コミュニティ」として位置付け、全ての関係者が当事者として自身の生き方と接合

させている場とした  (中谷, 2009)。障害学や美学を専門とする田中みわ子は、中谷が指

摘した障がいのある人に対する前提としての「自律的主体」の問題を指摘し、「専門家

(18)

と障害を持つ表現者」との間に生じているいくつかのコンフリクトに着目する。そして、

支援者が知的障がいのある「アーティストたちの創造性に寄り添い、そこに生命を吹き 込む」関係のあり方を「共犯的な関係」と表現した(田中, 2012)。アートマネジメント を専門とする長津結一郎は、「共犯」としての「障害者芸術」の目指すべき在り様とし て、関わる人々の「主体を多元化」し一人ひとりの声として表現させることで結果的に 相互作用を生み出し続ける「すべての関係を問い直す行為」とした(長津, 2012)。 

  そして、心理学者の斎藤環は、知的障がいのある人の行為と、その「意味」を発見し た障がい者支援施設の支援員との深い関係性そのものが「アウトサイダー・アート」と 言えるとした。現場に居る支援員でなくても作り手たちと「関係」するためには、作り 手の視点に立ち表現の意味を見出す「視力」と、そのために自らが変わる「覚悟」をあ わせて持つことが必要だとした(斎藤, 2009)。 

 

  このように、障がいのある人の創作活動は社会との関係について考察する際、作品よ りも過程(プロセス)に対し注目されており、そして、その中で最も核となる関係性が生 じる過程(プロセス)として作品を生み出す創作過程が着目されている。そしてそのよう な過程で生まれる関係性こそ「アート」であるという、「プロセスとしてのアート」が 定義されていた。その中では、障がいのある人・支援者が固定的・非対称的な関係を常 に更新しながら、相互作用し続け、関係する全ての人が当事者として自身の生の活動と 接合した状態である。「全ての関係を問い直す行為」としても「障害者芸術」は捉えら れている。 

  また、障がいのある人を「自律的主体」とする前提が問題視されており、特に知的障 がいのある人についてイメージされることが多いようであった。創作過程において「専 門家と障害を持つ表現者」の間に生じるコンフリクトに着目している。また、関係性の あり方に対しては「共同性」や「共犯性」という言葉で表され、障がいのある人の状態 にあわせた繊細な働きかけやそのバランスが必要となる。また、障がいのある人の行為 に対し関係するには、支援者側が、障がいのある人の視点に立ちその行為の意味を見出 す「視力」や、それを受容できるよう自らを変化させる「覚悟」が必要となるという。

そのような中、成り立つ関係は相互に影響を受け変容する場であり、関わる全ての人が 当事者として相互作用し続ける「コミュニティ」としてのあり方も示されている。 

 

  障がいのある人の創作活動に関して認知転換と行動変容、障がいのある人が主体とな

る個人変容から社会の変容への相互作用的展開を起こしうる概念や要素について、これ

まで多様な研究が行われてきた。これらの先行研究はいずれも障がいのある人の創作活

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動を社会との関係で捉える際に、重要な示唆を与えるものであるが、すべて芸術(芸術 の再定義、拡張を含めながら)の視点から述べられていることに特徴がある。 「福祉と芸 術の領域を超え」「社会との関係の中で捉える」ためには、障がいのある人の創作活動 を「芸術(アート)」としての枠から一度離して考えることは有効ではないか。また、フ ィールドワークを通した調査によって導き出されたことも、具体的な内容であれば部分 的な言及となり、総体的な言及であれば概念的なものとなる。有益な研究がなされても、

障がい者支援施設における創作支援や議論の場において具体的な場面を総体的に捉え ることは難しく、論理と実践に隔たりが生じている状態だと言える。 

  進むべき方向に牽引する人物が存在する施設であれば大きな問題にはならないと考 えるが、そうではない施設にとっては目的が定まらず絵を描くという形骸的な活動にも なりかねない。よって、概念的思考と具体的な場面に橋をかけ、具体的な支援場面にお いて支援者が行う行動と、目標とする活動の在り方について行き来しながら、認知転換 や行動変容を起こせるような仕組みをつくることは必要だと考える。 

  よって、障がいのある人の創作活動に関し、障がい者支援施設での実践や議論の場に おいて、 「福祉や芸術の領域を超え」 「社会との関係の中で捉える」中で、関わる支援者 自身の認知転換や行動変容を生み出す仕掛けはつくれないかと考えた。障がいのある人 の創作活動を通して社会変容を起こすことを、本研究のみで行うことは難しいが、小さ くても推進力となる一歩を踏み出すことを試みたい。 

 

  さて、本研究は障がいのある人の創作活動を対象領域としているが、「障がいのある 人」も「創作活動」も変数であり、話し手や文脈によって意味する内容が変化する言葉 である。そのような変数が整理されずに、 「障がいのある人」の「創作活動」について、

異なる専門領域や立場の人が議論をする際、思い描くイメージが異なるまま発言するこ とで話がかみ合わず、すれ違いが生じることは想像に難くない。よって、議論を明確に するためにもそのような変数の意味する範囲を示し、使用する用語についても概念をま とめて提示する。 

  まず、 「障がいのある人」について、 「平成 29 年度版  障害者白書」(内閣府, 2017)に

よると、「障害」は「身体障害者」、「知的障害者」、「精神障害」の 3 区分にわけられて

おり、複数の障がいを併せ持つ人もいるため、単純な合計にはならないが、国民のおよ

そ 6.7%がなんらかの障がいを有している。また、社会学者の松井彰彦は、障がいを社

会モデルとして捉える障害学の見地から「障害が社会の中で規定される以上、いわゆる

医学的・機能的には問題のない人でも障害に直面することがある」として、「顔にあざ

のある女性たちが直面してきた社会問題」などの例をあげており、障がいを医療的・機

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能的に捉えるか、社会との関係性で捉えるかでも意味する範囲は異なるとしている(松 井, 2011)。よって、 「障がいのある人」と言った場合には、統一された個性を持った人 を意味しない。医学的・機能的な障がいの種類や程度も違えば、年齢や育ってきた環境、

性格も嗜好も異なる個別の人間である。 

  そのような多様な障がい者像の中で、本研究では「知的障がいのある人」の事例を対 象とする(知的に障がいを伴う発達障がい、身体障がいなども含む)。なぜなら、特に知 的に重たい障がいのある人は、日常のあらゆる場面で支援者の存在が不可欠であり、自 分自身のことを決めるときにも(食事や排泄の時間なども含めて)、自己決定に支援者の 介入が入る状況が多々ある。つまり、知的障がいのある人の意思決定は「支援を受けな がらの自己決定(Supported Decision Making)」が必要となる。自己決定の支援は、 「人 が生きていくうえで基本となる自発的な力を支えること(=エンパワメント)」と言える が、実現には難しさがある。それは、自己決定を「丸呑み」して、知的障がいのある人 にすべてを決めてもらうという援助が組み立てられることや、最初から無理だと決めつ けて、昔ながらの指導・訓練主義から抜けきれない場合も有る。そして、知的障がいの ある人にとっては、選択肢や情報、判断能力が不十分という理由だけではなく、判断す るための社会的体験が不十分な場合などが考えられる(「施設変革と自己決定」編集委 員会  編, 2000)。そのような、常に他者の介入を受ける状況の中で、創作を行うとはど のようなことか。それまで創作活動の体験がないため自ら表現しようという意欲が無い 場合や、創作に対する本人の認識が無い場合もあり、支援を受けながらの自己決定を尊 重した環境作りは課題となる。芸術の側の、アートの作り手の属性を論じることはおか しいという考え方からも、福祉の側の障がいに対する社会モデルとしての考え方からも、

障がいのある人を障がい種別で分けようとすることに批判的な意見はあると考える。し かし、障がいのある人の「創作過程」について、支援者の意識を通して見ていく際、支 援の内容は共通するところもあるが、障がい別で異なるものもある。よって、本研究で は「障がいのある人」の「障がい」を療育手帳に基づき、知的障がいのある人の事例に ついて対象とする。   

 

 

また、「創作活動」も、芸術的手法として絵画、造形、ダンス、演劇、音楽など多様

な形態がある。そして、何かしらの表現が行われ、それがかたち(有形/無形)になり、展

覧会などで紹介される、もしくは、商品として扱われ販売されたり、企業やデザイナー

とコラボレートして商品展開されたりすることも含まれる。その中で本研究では、全国

的な事例の多さや発展の広がりを考慮し絵画・造形を中心とした事例を対象とする。既

存の芸術的表現の枠にとらわれない障がいのある人のこだわりによる行為が、周囲にい

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る人の心を動かし作品として紹介されるようなこともあり、そのような事例も視野に入 れる。 

  また、一般的には障がいのある人のアート活動と呼ばれることも多いが、「アート」

も広義な言葉であり、現代アートのマーケットに出され、高値で取引される作品から、

あるコミュニティでアートプロジェクトを通して生まれる人と人の関係性の変化を言 ったりもする。このように、知的障がいのある人が、支援者との関係性の中で、どのよ うに創作を行い、何が生じているのか、 「創作過程(プロセス)」に焦点を当て見ていく。 

  また、 「作品」と「過程(プロセス)」は、本来それぞれ独立したものではないと考える。

「過程(プロセス)」から続く連続性の中で「作品」が立ち現れてくる、もしくは「過程 (プロセス)」そのものを「作品」と言う場合もあるが、本研究では、議論の明確化のた め、最終的にかたちづくられたものを「作品」、制作の過程を「過程(プロセス)」という 意味で使用する。 

  さらに、「アート」「芸術」「美術」という言葉の使い分けであるが、引用部分以外、

アート、芸術はほぼ同じ意味として使用している。美術は視覚芸術の意味を持つため内 容が示す範囲としては、 「アート、芸術 美術」である。また、障がいのある人の創作活 動は、「障がい(害)者アート」「障がい(害)者のアート活動」とも言われるが、「アート」

という言葉が、 「アート」としての価値を含む言葉であり、 「アートかアートじゃないか」

という議論につながることが多いので、障がい者支援施設で行われている創造的活動の ことを「障がいのある人の創作活動」と表記する。 

  そして、生活支援、創作支援、美術指導(教育)などを行う立場や、専門分野を生かし た立場から、「障がいのある人の創作活動」に継続的に関わっている人のことを「支援 者」とする。また、支援者の中で障がい者支援施設で働く人を「支援員」とする。 

 

2.   研究目的 

  本研究は障がいのある人の創作活動について、福祉や芸術の領域を超え、その存在意 義を社会との関係の中で捉えていくための仕組みづくりのために、異なる専門領域や立 場の人が議論や実践をする際、論点を共有できる指標の作成を目的とする。そして指標 と、現状の課題解決や、個人変容から社会変容を生み出す相互作用的展開との関係につ いて考察する。 

  そのため、研究対象の範囲として、障がい者支援施設における知的障がいのある人の 絵画・造形を中心とした創作過程に着目し、創作過程(プロセス)における障がいのある 人と支援者という主体の相互作用に注目する。 

本研究の狙いを図 1.1 に示す。 

(22)

 

図 1.1  研究の狙い(筆者作成) 

(23)

3.   研究方法 

  障がいのある人の創作過程に関する指標をつくるにあたり、研究手法として文献調査 のみでなく、文献の著者への調査、実際に現場で障がいのある人の創作活動に接する支 援者への調査をあわせて行う。また、回答者の基本情報と、障がいのある人の創作活動 に関わる理由や目的を知るための意識調査もあわせて行う。分析手法は、文献調査やイ ンタビュー調査による調査結果について KJ 法(川喜田,  1970)などを用いた質的な分析 と、主観評価で得た量的調査結果について相関分析などを用いた量的な分析とあわせて 行う。このように、異なる研究手法、分析手法を用いるトライアンギュレーションを行 うことで研究の妥当性を担保し、指標としての妥当性や将来的な活用の可能性について 立体的に捉えられるようにする。 

 

4.   本論文の構成 

  本論文の構成を図 1.2 に示す。 

 

(24)

    図 1.2  本論のフロー 

 

  第 1 章では研究の背景として、障がいのある人の創作活動に関し近年の日本の動向

の概略を示し、福祉や芸術の領域を超え、社会との関係の中で捉えられるような仕組み

づくりの必要性について論じる。そして、本研究の目的、研究方法、研究の対象領域を

明らかにし、本論のフローを示す。 

(25)

  第 2 章では文献調査から、障がいのある人の創作活動における議論で前提となりが ちな、福祉の論理と芸術の論理の概念に疑問を呈し、福祉と芸術の領域を超え、社会と の関係の中で捉えるた「社会との関係の中で捉える」めに必要な視点を障がい者福祉と アートの変遷から捉える。そして、今日の状況につながる日本における障がいのある人 の創作活動に関する歴史的変遷について概略を示す。また、その視点を参照して先行研 究を概観することで、障がいのある人の創作活動を社会との関係の中で捉えるための糸 口となる考え方を得る。 

  また、障がいのある人の創作活動に用いられる「アール・ブリュット」などの呼称と、

各呼称を用いて活動を推進する団体(個人)と、各活動領域において壁を打ち破るための 推進力となっている鍵となる人物との関係について情報をまとめる。 

  さらに、障がいのある人の創作活動を社会との関係の中で捉えようとした際、公での 議論と、実践を積み重ねた障がい者支援施設における意義との間に生じる誤差や、それ が障がい者支援施設が新規に創作活動に取り組む際に与えうる影響について整理する。   

  最後に、障がいのある人の創作活動を社会との関係の中で捉え、議論や実践を重ねる 際の問題点をまとめたうえで課題を設定し、さらに課題解決へ向けた方針を示す。 

 

  第 3 章では、障がいのある人の創作活動を「社会との関係の中で捉える」際に妨げの 原因となることを説明する。そして、第 4 章から第 6 章に渡って行う項目表の作成に ついて流れを示す。また、あわせて調査対象者の基本情報や、障がいのある人の創作活 動に関わる理由や目的、活動に用いられる呼称についての意識を問う調査の説明も行う。 

 

  第 4 章では、項目表を作成するため、日本の活動を牽引する各活動団体(個人)の鍵と なる人物 5 名が著した書籍による文献調査を行う。まず、著者と書籍の情報整理を行 い、 文献の中で、各著者が知的障がいのある人の創作過程において価値判断をしている 内容を抽出し分類したうえで、その論点を項目として表に整理した項目表を案出する。 

 

  第 5 章では、文献調査により作成した項目表を検証するため、文献の 5 名の著者に 対し直接調査を行う。各項目に対し主観評価(6 件法)とインタビュー調査をあわせて行 い、分析も質的、量的分析をあわせて行う。また、指標に対する調査に加え、回答者の 基本情報や、障がいのある人の創作活動について持つ意識をたずねる調査をあわせて行 い、各著者の考えをより深く考察することにつなげる。さらに、調査に対するフィード バックを各著者から受け、項目表の妥当性の検証や研磨するための新たな知見を得る。 

 

(26)

  第 6 章では、第 5 章でのフィードバックを受け項目表の内容を改定した後、さらに 検証をすすめる。そのため、日々創作支援の現場に向き合う支援員や、創作活動に関わ るアート関係者など、支援者に対し著者に対するものと同様の調査・分析を行う。また、

支援者の専門領域や立場によって傾向が見られるか確認し、将来的に被験者数や範囲を 広げた調査を行った場合に可能となる分析や項目表の活用法に関しても可能性を探る。 

 

  第 7 章では、本研究の 3 つの点において総合的な考察をする。まず、調査手法につい て振り返り考察する。また、項目表の検証を通して得られたインタビュー結果から、著 者が項目に回答する際、判断の基準としている軸となる考え方を抽出し、「指標」との 関係を考察する。そして、最後に第 2 章で設定する課題について、本研究を通し得られ た解答について考察する。 

  これらの考察を通し、項目表作成の道筋を省みるとともに、本研究の目的に対する結 果をまとめ、障がいのある人の創作活動を福祉や芸術の領域を超え、社会との関係の中 で捉えるために「指標」が仕掛けとして果たす役割について考察する。 

 

  第 8 章では、本論の総括的まとめを行い、各章で示されたことや本研究の意義、今後

の展望や課題を述べる。   

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第 2 章  背景と課題 

 

                                   

(28)

第2章 背景と課題 

 

1.   第 2 章の目的と研究方針 

  第 1 章で、本研究の概要を示し、近年日本において障がいのある人の創作活動に関す る、社会的な認知や関心が高まっている中、福祉や美術の領域を超え、その存在意義を 社会との関係の中で捉えていくための仕組みについて必要性を論じた。そして、その仕 組みとして、異なる専門領域や立場の人が議論や実践をする際、論点を共有できる指標 の作成を研究目的として示した。 

 

  第 2 章では、障がいのある人の創作活動の背景として、これまで議論で前提とされる ことが多かった、平等や人権意識を重視する福祉の論理、芸術的価値の高い作品を重視 する芸術の論理とは異なる視点で、福祉と芸術それぞれの領域の変遷を辿り、「社会と の関係の中で捉える」ことで現れる共通点を捉える。また、この共通点から日本におけ る障がいのある人の創作活動について、今日の状況につながる論理の流れについて概略 を示し、障がいのある人の創作活動について「社会との関係の中で捉える」ための糸口 を探る。そして、先行研究から創作過程(プロセス)における相互関係のあり方について 考える際、支援者が障がいのある人の状態について把握することや支援者の持つ意識の 重要性を捉える。 

  そして、障がいのある人の創作活動について用いられる呼称と、呼称を用いて活動を 推進する団体(個人)において、各活動領域で壁を打ち破るための推進力となっている鍵 となる人物との関係について情報をまとめる。 

  そのうえで、活動を社会との関係の中で捉える際に浮かび上がる、公での議論におい ての課題や、障がい者支援施設により発信されている活動意義や目的との誤差、また、

実践や議論の際に生じている障壁について情報を整理する。 

  また、これまでの情報整理から、障がいのある人の創作活動を「豊かな社会の創造」

との関係で捉え、議論や実践を重ねる際にそれを妨げる要因となっている問題をまとめ る。そして最終的に、まとめた問題からその解決に向けた課題を設定し、課題解決への 方針を示すことを目的とする。そのため、先行研究や出版されている書籍、インターネ ットを使用したウェブサイトなどから文献調査を行う。 

  また第 1 章で示した通り、本研究では、日常生活から支援者の介入が必要となる知的 障がいのある人の創作活動に焦点を当て、障がい者支援施設における絵画・造形活動を 中心とした、創作過程を対象領域としている。 

 

(29)

2.   「福祉と芸術の領域を超える」「社会との関係の中で捉える」 

  障がいのある人の創作活動に関し、「福祉や芸術の領域を超える」とはどのような意 味を持つのか。これまで、障がい者支援施設などで生まれる障がいのある人の創作品に 対し美術的価値を見出した関係者は、作品そのものの美術作品としての価値を正当に評 するため、できるだけ福祉の領域とは切り離し、美術の領域の中で価値を捉えようとし た。しかし逆に、美術作品としての価値を主軸にすると作品の質のみが問われ、作者で ある障がいのある人は置き去りにされかねず、作者の幸福とつながらない評価のあり方 に対し、障がいのある人の創作活動を実践する支援者たちからは違和感が語られた。 「福 祉や芸術の領域を超える」とは、このように対立関係として捉えられがちであった福祉 の論理と芸術の論理が調和や融合した状態を指すのか。これまで議論で前提とされるこ とが多かった、平等や人権意識を重視する福祉の論理、芸術的価値の高い作品を重視す る芸術の論理とは異なる視点で、福祉と芸術それぞれの領域の変遷を辿り、「社会との 関係の中で捉える」ことで、現れる共通点を捉える。また、この共通点から障がいのあ る人の創作活動について「社会との関係の中で捉える」ための糸口を探る。 

 

2.1  社会との関係で捉える「障がい者福祉」 

  障がい者福祉の変遷をみてみると、障がいのある人を取り巻く環境の捉え方は、国際 的に転換期を迎えている。障がいを個人の属性ではなく、社会の障壁として捉える「障 害の社会モデル」は、1982 年にアメリカで創始された「障害学」により提唱され、そ の後イギリスでも大きく発展した(杉野, 2007)。しかし、日本における「社会モデル」

の社会的な認知と実行は国際的な潮流を受けるかたちでの法整備を必要とした。 

  日本において戦後施行された「優生保護法」の撤廃は 1996 年までかかり、障がい者 は子どもを産むことや生まれる権利も、近年まで法的に奪われる危険を抱えていた。 「健 常者」には当然の様々な権利を奪われていた状態に対し生きる主体として人生を取り戻 そうと、1970 年代に展開された「青い芝の会」(1959 年発足)の運動や「共 同 作 業 所 全 国 連 絡 会 ( 現 き ょ う さ れ ん ) 」 ( 1 9 7 7 年 発 足 ) の 運動等、障がい当事者やその 近親者による社会への働きかけはあった。しかし、「健常者」が「障害者」を取り込む 権力構造は容易に発生するものであり、時に「障害者」自身もそれに気づかず「健常者」

の理論に賛同してしまう(横田, 2015)。また障がい者の支援施設でも、障がいは個人の 属性とする「医学モデル」として捉えられ、治療や指導、訓練などにより問題を改善す るという「変わるべきは障がい者」という実践が長年なされてきた。 

  障がいのある人を市民的権利の主体として位置付け、我が国の障がい者施策の展開を

促したのは、1981 年の「完全参加と平等」をテーマとする国際障害者年と、それを踏

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まえた 1983-92 年の「国連・障害者の 10 年」だった。1980 年に世界保健機構(WHO) に 採 択 さ れ た International  Classification  of  Impairments,  Disabilities  and  Handicaps(ICIDH)は、 「障害」を分類する分類法であった。しかし、障がいがあること が社会的不利を生み出す原因として捉えられかねないことが問題点として指摘された。

そ こ で 考 え 出 さ れ た が 、 2001 年 に WHO に よ っ て 採 択 さ れ た International  Classification of Functioning, Disability and Health(ICF)である。ICF は、障がいの

「医学モデル」と「社会モデル」が統合したものであり、障がいを個人と周囲の環境の 双方から捉え、人間の状況を全体的に理解することを目指している。 

  その流れを受け、障がい者福祉のあり方に大きな影響を与えているのが、2006 年に 国連総会で採択された「障害者権利条約」(以下、条約と表記)であり、我が国も法整備 をすすめ 2014 年に批准し、141 番目の締結国・機関となった(内閣府, 2014)。条約は、

「インクルージョン(共生)」、 「医学モデルから社会関係モデルへ」が理念となっており、

障がいのある人の「他の者との平等性(他の市民との平等性)を基礎として」、障がいの有 無に関わらず対等にふるまうため、過度な負担にならない程度の個別的な支援として

「合理的配慮」などが社会の側に求められている。このように、世界に示された条約の 原則と手段は、障がいのある人は社会を構成する人格ある市民(権利の主体)であるとし ている。そして、共生(インクルージョン)社会の実現にあたり社会の側が何をすること ができるか(物事、制度、慣行、観念等をどう変更できるか)という社会のあり方に対す る、私たちのパラダイムシフトを問うている。 

  また、そのような障がいによって生じる問題に対し「変わるべきは社会」とする点に おいて、障がいのある当事者の意思を尊重した支援をいかに行えるかという点が、条約 第 12 条の法的平等性で問題となる「自己決定支援」につながる。これには、エンパワ メント(=人が生きていくうえで基本となる自発的な力を支える)支援の原則の下、支援 者は、自身の立ち位置や影響力に自覚的であることが求められる(北野, 2014)。この点 について、学生時代に知的障がいのある人の当事者運動を知り、介助や地域生活のため のコーディネートをしている寺本晃久は、「およそ支援の営みはそもそもズレている」

とし、自己決定支援において「どのように意思を尊重し、しかしそれだけによらないも のをどう作っていけるのだろう」(寺本, 2015)と疑問を投げかける。支援の実践は常に 互いの思い込みとズレと権力の中行われることを自覚し現在進行形で営まれていくも のという意識が必要であろう。 

  福祉社会学などを専門とする竹端寛は、障がいのある人の権利擁護の構造や方法論を

ひも解く中で、抑圧された人々に寄り添い構造転換を支援するため、「構造転換」に関

するふたつの方法論を提示している。ひとつは、 「内在的論理の変更」:  アサーティブネ

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ス(自己主張・自己表現)や権利の自覚であり、 「心理的な抑圧」を主題化している。もう ひとつは「社会や環境側の転換」:  ノーマライゼーションの原理が目指したもので、 「社 会構造的抑圧」を主題化している。そして、障がいのある人が奪われてきた「当たり前 の権利(私たちの権利)」を意識した上で、本人の内在的論理に寄り添い、障がいのある 人を主体にした支援をどう豊かに提供できるかが支援現場で問われている課題だと説 いている(竹端, 2013)。 

  そしてそのような支援現場において、障がいのある人と支援者の関係は、支援する側・

される側という二項対立的図式を前提としては成り立たない。竹端は、マイノリティ(少 数者)に関わる報道のあり方について語ったジャーナリストの佐々木俊尚の言葉を引用 し、本来われわれは二項対立的図式の極ではなく、「その間の曖昧でグレーな領域に生 息して」おり、「そのグレーな領域で互いの立ち位置を手探りで確かめている状態、そ の状態こそが当事者である」と述べている。この曖昧でグレーな領域こそ、支援現場の 構造そのものだとして(竹端, 2013)、 「グレーな領域こそが、インサイダーの本質」であ り、 「このグレーを引き受けることこそが、社会をわれわれ自身で構築すること」(佐々 木, 2012)であるとしている。 

  このように、障がい者福祉の変遷から分かることは、「障害の社会モデル」において は障がいのある人を生きる主体として捉え、他の市民と平等に生きるために、社会の側 に変容を求める図式となっていることである。そして支援現場において支援者には、障 がいのある人の内在的論理に寄り添い、障がいのある人を主体として権利を擁護するエ ンパワメント支援を基本とした「自己決定」支援が求められる。それには支援者の「医 学モデル」から「社会モデル」への意識の本質的な変容が必要となる。そしてその際、

障がいのある人と支援者の関係者は、二項対立的図式ではなく、活動を行う主体として 常に互いに作用し合う関係にある。そのような関わりこそが、個人の「認知転換と行動 変容」、そして、「個人変容から社会の変容への相互的展開」(竹端, 2013)となり、私た ち自身で社会を構築することにつながる。これは、障害学の研究者である星加良司が言 う「社会的価値が再編される場」(星加, 2007)とも一致するだろう。 

 

  一方、アートにも、このような認知転換と行動変容、そして、個人変容から社会変容 への相互的展開を重視した捉え方が存在する。そこで、アートの領域の変遷を追い、障 がいのある人の創作活動について「社会との関係の中で捉える」ための糸口となる障が い者福祉との共通点を捉える。 

 

(32)

2.2  社会との関係で捉える「アート」 

  アートについての変遷をみてみると、もともとアートの語源は生きるための技術、才 能などを意味しており、人々の生活と結びついた概念だった。しかし 18 世紀には、芸 術作品は芸術家の自己表現として、独創と才として外的な社会的なコンテクストから切 り離された自立した存在であると認識された(西村,  1995)。1917 年ニューヨークのア ンデパンダン展に、フランス生まれの美術家 M.  デュシャン(1887-1968)が「泉」と題 し既製品(レディ・メイド)の男性用便器を出品し作品化した。その試み以降の芸術活動 は、オブジェを美術品に変換する操作に過ぎなくなったと述べ、フランスの哲学者・思 想家である J.  ボードリヤール(1929-2007)は伝統的な美学への死亡宣告をした。 

  文化政策を専門とする野田邦弘は、美術館という「制度化」が極度に進んだ文化装置 がアートを社会から遊離したという考えから、「脱美術館」を手掛かりにアートの系譜 を考え、社会と呼応するアートのヴィヴィッドな姿を捉えようとする。美術作品は、視 覚的な次元における価値観を前提に制作されてきたが、絵画、彫刻を基本とした制作様 式はゆらぎ、アートは表現形態を多様に変容させる。それには 1950、60 年代から見ら れたアーティストの身体が作品となるパフォーマンスアート、テクノロジーの発達に敏 感に反応したビデオアート、メディアアートなどがある。アートは脱美術館から脱制度、

脱芸術へつづき、1970 年代からは鋭い社会意識を持つアーティストにより、社会の問 題や行われる場所と密接に結びついたアートプロジェクトが行われるようになる。そし てポストモダン時代における現代アートは、私たちの日常を取り巻いているのにその存 在に気づけていない「あたりまえの価値観や世界観、近代的なものの見方を相対化し、

根底から覆すパラダイムチェンジを惹起すること」を目論みとしている  (野田, 2014)。 

  日本においては社会とのつながりが意識されたアートとして、1990 年代以降アート プロジェクトが各地で展開されている。その概念は「同時代の社会に入り込み、既存の 回路とは異なる接続/接触のきっかけとなることで、新たな芸術的/社会的文脈を創出す る活動」と示されている(熊倉, 2014)。また、1960 年代の米国に起源を持つ、ソーシャ リー・エンゲージド・アート(社会関与型アート)は、2015 年に翻訳本の出版により日本 に紹介された。概念構築の途中ではあるが、「社会との相互作用なしに成立しない」ア ートであり、「芸術作品を制作することとの明確な関連性を初めて断ち切った用語」で もあるとされる(パブロ・エルゲラ,  訳 2015)。 

  日本でアートプロジェクトを行う代表的なアーティストである川俣正(1953-)は、地 域でのアートプロジェクトが作為的になりすぎることを危険視し、作品の完成ではなく、

多くの人たちと一緒に行うプロジェクトのプロセスの中で起こる自己生成的なインタ

ーラクションの方を重視している。後述の熊倉敬聡らとの編著「セルフ・エデュケーシ

表 2.2  創作活動を行う障がい者支援施設のウェブサイト調査:  創作活動の目的・メッ セージ  (掲載内容の要素を筆者が抜粋し、意味が変わらないよう注意しながら編集し た) 

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社会的役割 10.友達の家を訪ねることがありますか 11.家族や友だちの相談にのることがありますか

後期試験も終ったというのに辺oはま

4 3 2 1 異文化理解能力 意見の違いや立場 の違いを理解する 力

 本研究では,一般児と障がい児では食生活状況が異