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文献 E: ABLE ART  新しい価値を提案する

2.  調査対象者と著(監修)書籍の情報整理

2.5  文献 E: ABLE ART  新しい価値を提案する

  5人目の著者は、財団法人たんぽぽの家、エイブル・アート・ジャパンなど、エイブ ル・アート・ムーブメントを推進する法人の共通した理事長である播磨靖夫である。播 磨は、ジャーナリストから転身し、障がいのある人の芸術文化活動を通した、「芸術の 社会化・社会の芸術家」を目指した。市民芸術運動である、エイブル・アート・ムーブ メント(可能性の芸術運動)を牽引しつづけている。その活動は、芸術分野にとどまらず、

常に社会的な視点で、必要な事業を発展的、継続的に行っており、その長年にわたる功 績が認められ、2009年には文化庁により「平成21年度  芸術選奨  文部科学大臣賞」を 受賞した。 

  播磨が、芸術文化選奨を受賞した際、受賞記念として2010年に出版されたのが「ABLE  ART  新しい価値を提案する」(非売)である。「障害のある人の芸術活動」が持つ可能性 とエイブル・アート・ムーブメントの意義について、播磨が1996年、2000年、2009年 に寄稿した文章を中心にまとめられている。本書は、B5サイズで30頁程度という小冊 子であり、エイブル・アート・ムーブメントの持つ可能性や、社会のあり方について大 局から見た進むべき方向や考えるべきことについて記述されている。そのため、具体的 な活動場面である障がいのある人の創作過程についての記述箇所は少ないことは推察 されたが、美術でも福祉でもない(でもある)、市民芸術運動という視点から芸術の概念 を再定義している点が、他の活動団体(個人)とは異なる大きな特徴を有するので選出し た。以下に、本研究に関係する書籍の内容について概要をまとめる。 

 

  本書では、商業主義に支配され、ハイアート志向の強い日本のアートシーンを批判的 にとらえており、そのような一部の特権階級のものとしてのアートではなく、人々の生 活や幸福と結びついたアートのあり方が現在の日本には必要だと主張している。例とし て、アーツ・アンド・クラフツ運動を行ったウィリアム・モリス(1834-1896)、「農民芸 術概論」を著した宮沢賢治(1896-1933)、今日の芸術はうつくしくあってはならないと 説いた岡本太郎(1911-1996)などの例が挙げられている。人間を幸福にする芸術を復活 させるためには、生活実感と芸術をつなぐことが重要であると考え、「エイブル・アー ト・ムーブメント」は芸術に生活を取り戻すことを試みている。そこで、芸術のあり方 そのものを問い直す視点から、「芸術とは、個人または集団の、その取り巻く日常的状 況をより深く美しいものに変革する行為である」と芸術を再定義し、市民芸術運動とし て展開している。そのような中で、「障害をもつ人たちの心の不思議な働き(魂の表現)に 着目しており、そこから生まれてくるアートには、現代アートが見失ってしまったもの がある、という発見もできる」と語る。 

  また、芸術と人間の生命活動との関係についても語り、他者との結び合いのなかで相 互提供的な形で成立つ生命活動として芸術を捉える。その点から、日本の「障害者アー ト」は「自己表現の呪縛」から抜け出せないとしている。これは、芸術の営みである自 己の内から発して世界と交流し再び自己へと回帰する、内と外の循環活動が、「自己表 現」を中心目的にすることで内から外へ向かう活動のみになり、類型的な表現の再生産 により個性の喪失が生じるためである。 

  「人間が生来その本質として備わっている価値を十分に実現して、人間が十分な意味 で人間となっていく全資質的な展開」として「自己実現」が定義され、これはすべての 個人ができうる自己を開く創造性としている。そして、すべての個人が「自己実現」を はかりながら幸福を追求する権利の保障こそ、これからの社会目標であると提案する。

そこでは個人を超えた悲しみを共有することが今日の芸術に求められる。 

これまでの福祉のあり方に対しては、所得や効用を重視し、潜在能力を広げることをあ まり考慮してこなかった点を批判する。そして、障がいのある人たちの「潜在能力」の ひとつであるアートをとおして生活の質を高める、自己実現をはかりながら幸福になっ ていく道を探す活動として「エイブル・アート・ムーブメント」の意義を唱える。 

そして社会は、一人ひとりの「個」を尊重すると同時に、「公的なるもの」を育てる必 要があり、「障害者アート」に関しては、障がいのある人は「新しい文化を創造すると いうミッション(使命)」に寄与するという社会的役割があるとしている。 

  たとえば、これまでの絵画鑑賞は、絵を観る人間の一方方向的な関係で成り立ってい たが、作者と観者の新しい関係性を提案しており、不特定の人々による身体的な「参加」

をうながすもの、視覚に訴えるよりは触覚に訴える、物質と無意識の世界の間に動く不 可思議な力を新たな方向としている。 

 

  本書において播磨は、芸術を人間の生命活動との関係で捉え、「自己表現」から「自 己実現」へのプロセスでの他者とのコミュニケーション(相互提供、内と外の循環活動) の大切さなど、広い視野を持ち、一つひとつを深く考察し言葉の定義を行っている。障 がいのある人のもつかなしみを共感できる社会を育てること、また、「潜在能力」のひ とつであるアートにより、障がいのある人が新しい文化を創造することで社会を育てる という、社会的役割をもつ存在として捉える。このように、播磨は前提となっている芸 術のあり方や福祉の考え方、社会のあり方に対し、前提という壁を打破し、すべての個 人が幸福な生活を送るための活動を推進する原動力となっている人物といえる。 

   

表4.1  調査対象書籍画像まとめ 

   

 

  各著者は異なる領域を専門に持ち、「アール・ブリュット」「アウトサイダー・アー ト」「現代アート」「アート」「エイブル・アート・ムーブメント」という異なる定義 の呼称を用い、思想を持って障がいのある人の創作活動を精力的に展開している。障が いのある人の創作活動を日本で牽引する著者5名であり、この5名は異なる専門領域を 持ち、異なる呼称を用いて活動を推進し、異なる意見を主張する立場にあり、各領域の 壁を打ち破る原動力となっている人物である。よって、本研究ではこの5名を調査対象 とすることで、十分な論点を得られると考えた。 

                                 

表4.2  調査対象書籍の著者情報まとめ 

 

   

       

表4.3  調査対象書籍情報まとめ