本章では指標作成の第一段階として、日本で活動を牽引する代表的な人物の書籍によ る文献調査から、知的障がいのある人の創作過程について価値判断を行っている論点を 抽出し、項目として整理した項目表を案出した。項目の生成にあたり、論点を総体的に とらえるため、文献から各著者の論点を洗い出し列挙した。著者は2つの異なる視点か ら論じており、「障がいのある人についての項目表」(表4.5)と「支援者が持つ意識につ いての項目表」(表4.6)に大別できた。
結果、「障がいのある人についての項目表」は12の大項目と15の項目、「支援者が持 つ意識についての項目表」は15の大項目と22の項目にまとめられた。項目表を活用す ることで、専門領域や、立場の異なる人同士が、創作過程に関する論点を総体的に共有 し、各項目に対する意見の相違を互いに理解した上で、建設的に議論を行うことが可能 になると期待できた。
本章の目的は項目表の案出であったが、文献から抽出した論点にいくつか傾向を見る ことができた。「障がいのある人についての項目表」では全ての文献で「独自の創作行 為」が論じられており、専門領域を超えて注視されている論点だと考えた。また「支援 者が持つ意識についての項目表」では、同じ美術の専門家の文献において2つしか共通 する項目がなく、論点の違いが大きいことが特徴的であった。また、「障がいのある人 についての項目表」、「支援者が持つ意識についての項目表」共に、論点として抽出で きた数は文献により大きな差があった。これは、調査対象とした文献の性質の違いや文 献からの抽出方法に原因があるとも考えられる。
よって、今後の課題として、文献調査により各著者の論点を総体的に捉え項目化でき たか、また、項目表が異なる専門領域や立場の人が論点を共有し議論や実践で活用でき るものとして妥当な働きをするかに関しては検証の余地がある。
次章では、本章で案出した2つの項目表について、文献の著者5名に対し直接検証を行
う。
第 5 章 文献の著者による項目表の検証
第5章 文献の著者による項目表の検証
1. はじめに 1.1 第 5 章の目的
第4章では、異なる専門領域や立場の人が論点を共有し議論や実践で活用できる項目 表を作成するため、日本の活動を牽引する各活動団体(個人)の鍵となる人物が著した書 籍による文献調査を行った。文献の中で、各著者が知的障がいのある人の創作過程にお いて価値判断をしている内容を抽出し分類したうえで、その論点を項目として整理した 項目表を案出した。結果、項目表は著者の視点の違いから、「障がいのある人について の項目表」と「支援者が持つ意識についての項目表」の2つに大別された。また案出の 際は、専門領域の違いにより論点にも特徴があると考えたので、各著者の論点を総体的 に捉えることに留意して行った。
本章では、第 4 章で得られた項目表について、文献の著者に直接調査を行うことで妥 当性の検証を行う。2 つの項目表を用いた調査用紙を作成し、主観評価とインタビュー により調査を行うことで、各著者の考え方や意識を量的、質的両面から捉え分析するこ とで比較検討する。また、項目表に対する調査に加え、回答者の基本情報や障がいのあ る人の創作活動について持つ意識をたずねる調査をあわせて行い、各著者の考えをより 深く考察する。さらに、本調査について、各著者から項目表の妥当性や活用法、今後に 向け研磨するためのフィードバックを受ける。
検証結果から、創作過程に関して総体的に捉えた論点に対し、文献の著者が持つ考え 方や意識を量的、質的両方の分析により比較検討することに加え、回答者の基本情報や 創作活動に関わる意識のあり方を捉え考察することで各著者の相違を示すこと、また、
フィードバックの分析から、項目表の妥当性や活用の可能性などについて新たな知見を 得ることを目的とする。
1.2 研究方法
第4章で案出した2つの項目表を活用し、著者調査を行うための調査用紙「創作過程 に関するアンケート」の作成を行う(6件法による主観評価、インタビュー調査が可能な 様式の作成)。また、回答者の基本情報や、障がいのある人の創作活動に関わる理由や目 的、障がいのある人の創作活動に用いられる呼称に関する見解を得るための調査用紙
「回答者の基本情報と意識についてのアンケート」(基本情報に関する質問以外は、基 本的には6件法による主観評価を行う様式で作成。呼称に関する質問については、主観 評価に加えインタビュー調査を行う様式とした)を作成する。
5名の著者の所属機関を訪問し、「創作過程に関するアンケート」、「回答者の基本 情報と意識についてのアンケート」の順で調査を行う。最後に、異なる専門領域や立場 の人が論点を共有し議論や実践で活用できるものを作成するという方針についての意 見、項目表の内容に関する意見、その他調査を受けた感想などについてフィードバック を得る。
得られた回答について、量的分析、質的分析を行う。まず、「創作過程に関するアン ケート」の主観評価の回答について、評価点の大小や分散、著者間の相関について、ピ アソンの積率相関分析などを用い量的分析を行う。次に、量的分析の結果、特徴の見ら れた項目についてインタビュー結果をあわせて分析し考察する。そして、得られたフィ ードバックの内容を分析したうえで考察し、異なる専門領域や立場の人が論点を共有し 議論や実践で活用できるものを作成するという方針の妥当性について確認する。また、
項目表の項目内容の妥当性の検証と問題点の整理を行う。さらに、「回答者の基本情報 と意識についてのアンケート」の結果についても、主観評価の回答については、上記の 方法と同様に量的分析を行う。呼称に関するインタビュー回答は、質的分析を行い、回 答内容の類似・相違点を分析し分類したうえで、各著者の回答を比較し考察する。
これらの結果により、今後の課題や、検証を進めるための新たな知見をまとめる。