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第 6 章のまとめ

  2つの項目表を 19 名の支援者に、主観評価とインタビューという定量的、定性的な 調査をあわせて行った結果、項目表を使用して異なる専門領域の支援者を A 群:  アー ト関係者 6 名、SA 群:  支援員(アート)6 名、SW 群:  支援員(福祉)7 名に分けて調査を行 うことで、専門領域や関係する期間の違いにより、有意な相関や回答の傾向に特徴が見 られた項目があった。これにより、障がいのある人に対する把握の仕方や、支援に対し て持つ意識の傾向の相違を、比較検討することができた。主観評価の結果から、2 つの 項目それぞれにおいて、合計点の高い(重視する度合いが高い)項目と、合計点の低い(重 視する度合いが低い)項目があった。また、同じ項目内で、群の間で平均点の点差が大き な項目があった。また、分散分析により、各項目における群間の平均値の差の検定の結 果、幾つかの項目で有意差や有意傾向が見られた。また、支援者の専門領域だけでなく、

活動に関係する期間と各項目の回答の間の相関を解析した結果、数項目ではあったが、

有意な差が見られた。今回の調査では、統計処理をするには、被験者数が十分であった

とは言えないが、これをサンプルとして、さらに調査を進めていくことで、専門領域や、

経験年数により、重視する点やその度合いの相違が検出される可能性が指摘でき、専門 領域や立場の異なる人同士で、互いの相違を理解した上での議論や支援が可能になると 期待された。また、インタビュー結果とあわせて分析することにより、各項目に対する 考え方と、その重要度をあわせて考察することができた。第 5 章でも見られたが、主観 評価の結果が同じでも、意味する方向性が異なる場合もあり、項目の重要度と、その内 容をあわせて考察することは、より深く思考する上で重要となる。 

 

  また、項目表の検証に関するインタビュー調査より、各項目の妥当性、追加すべき項 目、指標作成の方針に関する意見、各専門領域における活用の可能性に関する意見を得 ることができた。「項目の内容に関する妥当性」では、A 群:  アート関係者からは、これ まできちんと言語化されていなかったことを言葉にして、考えたり語り合ったりするこ とで、自分のあり方への問いとなり、深い思考につながっていく可能性について指摘が あった。また、SA 群:  支援員(アート)からは、創作過程というものを作るという点から 考えると、障がい・健常の関係はないはずなのに、なぜ論点としてあげているのかとい う、障がい・健常ではなく、創作という切り口での視点が見られ、考え方の軸として、

創作をどのように行うかということをより重視していると考えた。また、SW 群:  支援 員(福祉)の意見より、自身が日々行っている支援の内容や、気付いていなかった点、大 事な点について客観的に捉えることに効果的であったと考える。 

 

  また、「項目の内容の理解」に関しては、全てではないが理解しにくいと感じる項目 があったという回答があり、また、難しそう、難しかったという、項目表自体に関する 抵抗感を感じた人もいたことから、今後、各現場で実装させる場合には、現場に適した よりわかりやすく具体的な文体やデザインが必要であると考えた。 

  「追加すべき新たな項目」に関しては、特に無いとする意見が多かったが、A 群アー ト関係者からは、障がいのある人の創作活動に関わる目的や意味について支援者の思考 を深く問う項目や、支援者が他人事としてではなく、自分のことに置き換えて考えるこ とを促す項目を求めていると考えた。支援者として、知識・感覚、日常の中の行為・行 為の中のアート、集団性・個性など一見相反するようなことを、同時に、もしくは行っ たり来たりしながら、考え・感じつづけることを意識していると考えた。障がいのある 人を中心に置いた思考を、支援員に気づかせ、意識させるため、より一層の工夫が必要 であると考えた。また、創作活動をすることありきではなく、支援者がそもそも関心を 持っているのか、学ぼうという意思があるのかということも意見として上がったので、

回答者の意識調査とあわせ理解しやすいデザインが必要であると考えた。また、SA 群: 

支援員(アート)、SW 群:  支援員(福祉)の両方から、創作行為は言葉にならない部分もあ ることや、障がいのある人と共に、支援に対する意識も非常に個別性が高いので、この ような項目で捉えようとすること自体に対する懐疑的な視点も向けられていることが わかった。 

 

  「指標作成の方針に関する意見」では、A 群:  アート関係者からは、指標作成の方針 について概ね賛同を得られた。しかし、誰にとってのものかイメージが持てないという 意見もあり、創作過程に関する詳細な内容であることから、研究者として、障がいのあ る人の創作活動全体のマクロな視点を持つ立場であることが理由であると考えた。また、

この項目表が持つ、今後変化し、発展していく叩き台としての役割の大切さについて改 めて認識することができた。SA 群:  支援者(アート)からは、概ね賛同を得られた。支援 員間での、創作に対する関心の有無や考え方の相違を感じる中で、項目表があることで 論点や情報を整理でき、共通認識を持ったり、施設内外の人に説明をしたりすることが しやすくなると考えていることがわかった。SW 群:  支援者(福祉)からは、現場で使い 易いよりわかり易い表現が必要であると考えた。また、3 群に共通して出てきたが、障 がいのある人本人を中心に考えていけるものをどう作れるかが大切であると考えた。ま た、「活用方法・可能性」に関しては、A 群:  アート関係者からは 7 つ、SA 群:  支援員 (アート)からは、わからないという回答を含め、4 つ、SW 群:  支援員(福祉)からは、7 つの意見が得られた。A 群:  アート関係者は、各人の専門領域において、多様な活用の 可能性を上げていた。また、単に便宜的な活用だけでなく、項目表の問いが、自分自身 のあり方への問いとして作用する面を持つことを指摘していた。SA 群:  支援員(アート) の回答には、自身の考えを他の支援員と共有することに課題を感じていたことに特徴が あった。しかし、他の支援員の意識や考えていること、すれ違っているポイントや自身 の考え方を伝える際の説明の仕方に困難さを感じており、その解消に、何らかのかたち で項目表が活用できることを可能性としてあげていた。SW 群:  支援員(福祉)の回答に は、SA 群:  支援員(アート)と同じようにスタッフミーティングへの活用が挙げられてい るが、その目的は、障がいのある人についてのより深い理解や、支援者間において一人 ひとりの障がいのある人に対する認識の共有や、意見交換に役立てたいという内容であ ることに特徴があった。創作活動をする上で、障がいのある本人にとって、よりよい支 援を行えるようになるための工夫や、そのために必要な支援員のスキルアップ、施設全 体で目指すべき目標の設定が意識されていた。また、活用は必要ないと回答した支援員 も、障がいのある人にとってよりよい環境を考え、そのために多様な感覚を持った支援

員が存在することの必要性を述べており、基本的な考え方は他の SW 群:  支援員(福祉) と共通していると考える。さらに、施設ごとの特徴が、項目表の回答により数値化や言 語化される可能性についての指摘もあった。このように、今後の研究の発展へ向けた興 味深い意見が多数得られた。 

 

  項目表と意識調査の主観評価の結果から、各群による特徴が現れた項目がいくつもあ った。これは、支援者の専門領域により考え方の特徴があることが、原因だと考える。

今回は、調査対象者が 19 名と、相関分析を行うには少ない数であったが、今後調査を 継続して行うことで、専門領域と、主観評価の回答の結果にさらに相関関係が見られる ことが推察される。それにより、専門領域間の大まかな傾向を互いに知った上で、議論 を進めることにも役立つと考える。 

  また、使用する呼称に関するインタビュー調査の結果から、SW 群:  支援員(福祉)は 特に呼称に対する認識が得に薄いことがわかった。SA 群:  支援員(アート)の意識も特に 高いわけでなく、A 群:  アート関係者が呼称について議論したり、「障がい者がつくっ たものはすべてアートではない」と言っても、支援員にとっては理解が難しく、話のズ レが生まれやすい状態にあることが明らかになった。   

                       

第 7 章  考察   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7章 考察   

1.   はじめに  1.1  第 7 章の目的 

  本研究ではこれまで、障がいのある人の創作活動に関し、福祉や芸術の領域を超え、

社会との関係の中で捉えられるような仕組みづくりについて論じてきた。仕組みづくり のアプローチとして、障がいのある人の創作活動に関する議論や実践において生じてい る 2 つのズレを解消することが必要であると考えた。2 つのズレとは、ひとつは「障が いのある人」や「アート」など変数の概念が定義されないまま、語り手が各々異なるイ メージを持って議論していることにより生じているズレ、もうひとつは、多様な専門領 域や立場の人が、異なる思惑や視座によって関わるために生じるズレである。ひとつめ のズレを小さくするため研究対象とする範囲を、障がい者支援施設で行われている、「知 的障がいのある人」の「絵画・造形を中心」とした活動に絞り、他の用語に関しても本 研究における概念を定義した上で使用することとした。また、もうひとつのズレを解消 するため、障がいのある人の創作活動に関わる、異なる専門領域や立場の人たちが、自 身が持つ論点も、持っていない論点も、あわせて見ることができ、かつ、他者とも論点 を共有できる「指標」の作成を試みた。 

  指標の作成にあたっては、日本における障がいのある人の創作活動を思想的にも実践 的にも牽引し、各領域の壁を打ち破る原動力となっている人物 5 名に着目した。この 5 名が著した書籍を対象とした文献調査により、各人が創作過程について価値判断を行っ ている論点を項目として整理した 2 つの項目表を案出した。 

  次に、項目表を検証するため、この 5 名の著者に対し直接調査を行った。その結果、

創作過程に関する論点が総体的に捉えられた上で、各著者の考え方や意識を量的、質的 両方の分析により比較検討することができた。また、項目表に対する調査に加え、回答 者の基本情報や、障がいのある人の創作活動について持つ意識をたずねる調査をあわせ て行ったことで、各著者の考えをより深く考察することにつながった。さらに、調査に 対して得られた各著者によるフィードバックから妥当性に関して概ね賛同を得られた うえ、さらに研磨するための有益な知見も得られた。 

  さらに、日々創作支援の現場に向き合う支援者や、創作活動に関わるアート関係者な ど、支援者 19 名に対し調査を行った。その結果、創作過程に関して総体的に捉えた論 点に対し現場の支援者が持つ考え方や意識を量的、質的両方の分析により比較検討する ことで、現場に関わる意識の相違を明らかにすることができた。また、支援者から受け たフィードバックの分析から妥当性や、支援者の各現場における活用の可能性について