5名の著者の所属機関を訪問し、「創作過程に関するアンケート」、「回答者の基本 情報と意識についてのアンケート」の順で調査を行う。最後に、異なる専門領域や立場 の人が論点を共有し議論や実践で活用できるものを作成するという方針についての意 見、項目表の内容に関する意見、その他調査を受けた感想などについてフィードバック を得る。
得られた回答について、量的分析、質的分析を行う。まず、「創作過程に関するアン ケート」の主観評価の回答について、評価点の大小や分散、著者間の相関について、ピ アソンの積率相関分析などを用い量的分析を行う。次に、量的分析の結果、特徴の見ら れた項目についてインタビュー結果をあわせて分析し考察する。そして、得られたフィ ードバックの内容を分析したうえで考察し、異なる専門領域や立場の人が論点を共有し 議論や実践で活用できるものを作成するという方針の妥当性について確認する。また、
項目表の項目内容の妥当性の検証と問題点の整理を行う。さらに、「回答者の基本情報 と意識についてのアンケート」の結果についても、主観評価の回答については、上記の 方法と同様に量的分析を行う。呼称に関するインタビュー回答は、質的分析を行い、回 答内容の類似・相違点を分析し分類したうえで、各著者の回答を比較し考察する。
これらの結果により、今後の課題や、検証を進めるための新たな知見をまとめる。
2.2 「回答者の基本情報と意識についてのアンケート」調査用紙の作成
回答者の基本情報や、障がいのある人の創作活動への意識を調査するためのアンケー ト用紙を作成した。「氏名」、「所属(現職)」、「障がいのある人の創作活動に関わり始めた 時期」、「専門領域・関わり方」(選択式)など、回答者の基本情報についてたずねる項目 のあと、「障がいのある人の創作活動に関わる理由・目的」(表 5.3)、「障がいのある人 の創作活動に関わる意識」(表 5.4)、「障がいのある人の創作活動に用いられる呼称に関 する意識」(表 5.5)についてたずねる項目を作成した。
また、著者の各項目への重視する度合いを明らかにするため、主観評価表を作成した (付録 5.5 参照)。主観評価は 6 件法を用い、表 5.3、表 5.5 に用いた尺度値は、0‒5 点 満点で、0: 意識したことがない、1: 全く合致しない、2: あまり合致しない、3: どち らとも言えない、4: やや合致する、5: 非常に合致するとした。また、表 5.4 に用いた 尺度値は、0‒5 点満点で、0: 意識したことがない、1: 全く強くない、2: あまり強くな い、3: どちらとも言えない、4: やや強い、5: 非常に強いとした。
また、「障がいのある人の創作活動に用いられる呼称に関する意識」(表 5.5)に関して は、主観評価の他に、各呼称に対する意識をたずねるため各呼称につき記入欄を設けた。
2.3 調査手順
5 名の著者にメールもしくは手紙で調査趣意書を送り、調査の許諾を得た後、著者の 所属機関に赴き調査を行った。調査は次のステップで行った。
-ステップ 1:
説明用の資料をもとに本研究の趣旨や調査の流れの説明。
-ステップ 2:
「創作過程に関するアンケート」調査用紙を渡し主観評価の記入。
-ステップ 3:
各項目について主観評価の回答をもとにしたインタビュー。
-ステップ 4:
「回答者の基本情報と意識に関するアンケート」調査用紙を渡し主観評価の記入 呼称に関するインタビュー。
-ステップ 5:
項目表や本研究に関するフィードバックについて半構造化インタビュー。
また、インタビュー内容は録音の承諾を得、終了後に文字起こしを行った。
調査日程は下記の通りで、所要時間は 1 人に付き、1 時間半から 3 時間程度だった。
2016 年 12 月 8 日 (服部) 2016 年 12 月 15 日 (今中) 2016 年 12 月 21 日 (福森) 2017 年 1 月 14 日 (播磨) 2017 年 1 月 21 日 (保坂)
2.4 分析方法
主観評価の合計値を記載する欄を表の右側に設けた。合計値の大小の比較や、著者間 で回答に大きな差(4 点以上)のあった項目に着目し、障がいのある人の創作活動に対す る各著者の認識の差を考察した。
各著者間の回答に相関関係が見られるかピアソンの積率相関分析を行った。(回答の あった 4 名の被験者を対象に 6 通りの分析を行ったので、Ryan 法を用いて検定の多重 性による影響を回避した。)
主観評価で特徴的な結果が出た項目に関して、インタビュー調査の回答は文字起こし を行った内容の質的分析をあわせて行った。
調査のフィードバックとして得た回答は、内容を意味により分類して整理した。
意識調査に関しては、主観評価の結果は、項目表の結果と同様相関分析を行った。ま た、呼称に関して得られたインタビューの回答に関しては、文字起こしを行った回答内 容を整理して表にまとめた。さらに、内容を分析し分類した上で、コーディング(見出し 付け)を行い、各著者間の回答に関し、比較検討を行った。
3. 2 つの項目表に対するインタビュー結果概要
調査の結果得られた、「障がいのある人についての項目表」と「支援者が持つ意識に ついての項目表」に対する各著者のインタビュー回答の概要を示す。
3.1 著者 A:
保坂は、美術の専門家でありアール・ブリュットを研究対象とする立場と、自身が創 作活動を行っている障がい者支援施設を訪問した経験から得られた感覚を交え回答し ていた。項目表に回答する際、自身で矛盾を感じながらも恐れずに関わることに意味が あるとし、その時に考え感じたことに真摯に向きあおうとしている姿勢が印象的だった。
「障がいのある人についての項目表」の回答として、障がいのある人の状態について 捉える視座と、作品評価との関連から作品の作者である障がいのある人を捉える視座、
両方の視座から回答していた。障がいのある人の状態については、創作をするにあたっ て、多様なあり方があることを、事例としていくつも回答していた。作品評価との関連 については、各項目における障がいのある人の状態がどうであろうと、基本的には作品 評価の良し悪しとは関係しないという見解だった。また、創作品に対して障がいのある 人がどのような取り扱いをしているかまで含めて創作行為と捉えて評価すべきとして いる。また、美術の専門家として作品を評価することについて、障がいのある人はどの ような認識をしているのか、障がいのある人の周囲の人は求めているが本人はどうなの か、身近な人の反応の方が障がいのある人には大切なのではないかという、専門家によ る評価の意味を慎重に見極めようとしている姿勢が見て取れた。
「支援者が持つ意識についての項目表」の回答として、支援者の支援のあり方につい て捉える視座と、作品評価との関連から支援を捉える視座、両方の視座から回答してい た。各項目についての支援のあり方において、障がいのある人の与える影響について、
支援者が意識的である必要について繰り返し述べていた。そして、障がいのある人の状 態を見極めたうえでの最適な支援、または評価のあり方について、複数の支援者間で話 し合い判断していくことで、新たな気づきをえることの大切さを述べていた。また、保 坂はアール・ブリュットの研究者であるが、支援の現場においては、アール・ブリュッ トの定義に基づく支援だと、支援・サポートをしてはいけないと捉えられることがある が、アール・ブリュットの定義だけが正しいわけではなく、定義も変わる可能性がある ので、障がいのある人の状態を重視して支援を行って欲しいと述べていた。また、「a22 美術的な評価」についても、美術的な評価ではない評価の方法をむしろ作って欲しいと いう見解も見せ、美術の専門家であるために見えにくいことを捉えるための方法を求め、
この活動がもつ意味や価値を、さらに新たな視座で捉えていきたいという意思がみえた。
3.2 著者 B:
服部は、調査にあたり 2 つの項目表をながめ、これは各項目において論文が書ける内 容ではないかという見解を示した。美術の専門家として作品を評価する立場と、創作活 動を行っている障がい者支援施設を訪問した経験から得られた感覚を交え回答してい た。その際、自身は基本的には作品を見ることからの関わりが多いので、創作過程に対 する今回の項目表のスコープと自身のスコープの違いを感じていた。
また、障がいのある人の創作活動に関わる理由として、「真理の探究」をあげていた。
「なぜ(障がいのある)彼らは描くのか」、「なぜ(障がいのある)彼らの作品は魅力がある のか」、アール・ブリュットとは何か、アウトサイダー・アートとは何か、芸術とは、
美とは何かということに非常な関心を持ち、考え続けているということだった。自身が 芸術に関わるのは感動するからであり、「それはそこに美があるから」であり、自身に とっては「役に立つから」という理由ではないという。美に対する真摯な探究の中で、
障がいのある人の創作活動に関わる姿勢が印象的であった。
「障がいのある人についての項目表」の回答として、障がいのある人の状態について 捉える視座と、作品評価との関連から作品の作者である障がいのある人を捉える視座、
両方の視座から回答していた。障がいのある人の状態については、創作に対する独自性 と主体性を特に重視していた。作品評価との関連からは、作品評価をするうえで障がい のある人の状態が気になるため、知っておきたいという意識は持っているが、それが作 品の良し悪しに関わることはないという一貫した態度を示していた。また、「a15 美術 的評価」についても、障がいのある人がどういうスタンスでものを作っているのかを知 るきっかけになるので、多少は意識するかもという程度であった。
「支援者が持つ意識についての項目表」の回答として、支援者の支援のあり方につい て捉える視座と、作品評価との関連から支援を捉える視座、両方の視座から回答してい た。また、保坂と同様、各項目についての支援のあり方において、障がいのある人の与 える影響について、支援者が意識的である必要について繰り返し述べていた。また、
「b20 結果への関心」に対して、創作行為かわからない行為、多様な形態の行為に対す る関心の重要性について述べており、支援者により、それらがアートかもしれないとい う気づきや意識が大切になることを主張している。それがなければ、専門家や外部の人 の目に触れる機会は得られないし、アートに対してしっかりと活動を行っている施設に は、もしかしたらこれはアートかもしれないという目線があると回答していた。また、
「b22 美術的評価」に関しても、支援者が評価の場へ出すことの重要性を指摘しなが ら、支援者が自身の美術的評価の基準にあわせて作為的に作品を良く見せるための工夫