9. 第 5 章のまとめ
1.1 第 6 章の目的
第 5 章において、第 4 章で文献調査を行うことで案出した 2 つの項目表に対し、直 接文献の著者に主観評価とインタビューにより調査を行うことで項目表の検証を行っ た。その結果、創作過程に関する論点が総体的に捉えられた上で、各著者の考え方や意 識を量的、質的両方の分析により比較検討することができた。また、項目表に対する調 査に加え、回答者の基本情報や障がいのある人の創作活動について持つ意識をたずねる 調査をあわせて行ったことで、各著者の考えをより深く考察することにつながった。さ らに、調査に対して得られた各著者によるフィードバックから、項目表の妥当性に関し て概ね賛同を得られたうえ、さらに研磨するための有益な知見も得られた。
本章では検証をさらに進める。先の調査で対象とした5名の著者はいずれも、日本に おける障がいのある人の創作活動を思想的にも実践的にも牽引し、各領域の壁を打ち 破る原動力となっている人物であった。そのような人物から得られた創作過程につい ての論点は、日々創作支援の現場に向き合う支援者や創作活動に関わるアート関係者 にとっても有意な論点であるのかをみていく。そのため、第5章で著者から得られたフ ィードバックを反映し調査用紙を改定したうえで、障がい者支援施設で創作支援にあ たる支援員と障がいのある人の創作活動に関わるアート関係者を対象に著者に対する ものと同様の調査を行い項目表の検証を行う。
検証結果から、創作過程に関して総体的に捉えた論点に対し現場の支援者が持つ考え 方や意識を量的、質的両方の分析により比較検討することで、現場に関わる意識の相違 を明らかにする。また、フィードバックの分析から妥当性や支援者の各現場における活 用の可能性について新たな知見を得ることを目的とする。また、将来的に被験者数や範 囲を広げた調査を行った場合に、可能となる分析や活用法に関しても可能性を探る。
1.2 研究方法
第5章で得られたフィードバックを反映するため、調査用紙「創作過程に関するアン ケート」の改定を行う。また、調査対象者として19名を、A群: アート関係者 6名、SA 群: 支援員(アート) 6名、SW群: 支援員(福祉)7名の3群に分類し調査を行う。
支援者の所属機関を訪問し、「創作過程に関するアンケート」、「回答者の基本情報 と意識についてのアンケート」の順で調査を行う。最後に、異なる専門領域や立場の人 が論点を共有し議論や実践で活用できるものを作成するという方針についての意見、項
目表の内容に関する意見、調査対象者の専門領域での活用法とその可能性などについて フィードバックを得る。
得られた回答について量的分析、質的分析を行う。まず、「創作過程に関するアンケ ート」の主観評価の回答について評価点の大小や分散、各群間の相関についてピアソン の積率相関分析などを用い量的分析を行う。次に、量的分析の結果、特徴の見られた項 目についてインタビュー結果をあわせて分析し考察する。そして、得られたフィードバ ックの内容を分析したうえで考察し、異なる専門領域や立場の人が論点を共有し議論や 実践で活用できるものを作成するという方針の妥当性について確認する。また、項目表 の項目内容の妥当性の検証と問題点の整理、調査対象者の専門領域での活用法とその可 能性について情報の整理を各群別に行う。さらに、「回答者の基本情報と意識について のアンケート」の結果についても、主観評価の回答については、上記の方法と同様に量 的分析を行う。呼称に関するインタビュー回答は、質的分析を行い、回答内容の類似・
相違点を分析し分類したうえで3群の間で回答を比較し考察する。
これらの結果から、今後の課題や検証を進めるための新たな知見をまとめる。
2. 方法
本章で研究を進めるにあたり、調査用紙の改定、調査対象者の情報整理、調査手順、
分析方法について、基本事項の整理を行う。
2.1 「創作過程に関するアンケート」調査用紙の改定
文献の著者に対し行った調査により得られたフィードバックから、調査用紙の改善に 対して提案が得られた。
まず、2 つの項目表に対し、新たに追加すべき項目として提案された内容を既存の項 目と照らしあわせて考察した。そして、「障がいのある人についての項目表」に1項目 を追加し、「支援者の持つ意識についての項目表」には 5 項目の追加と、1 項目に追記 を行った。項目表の番号(No.)は、著者に対する調査で使用した調査用紙の番号とのず れを避けるため、a1-a15、b1-b22 はそのまま変えず、便宜的に、「障がいのある人につ いての項目表」の追加項目には「na1」、「支援者の持つ意識についての項目表」の 5 つ の追加項目には「nb1」から「nb5」の番号をふった。
新たに追加・追記した項目は、下記の通りである。
障がいのある人についての項目表: 追加項目 追加項目: na1
大項目: 創作場面、頻度
項目: 創作行為をする場面や頻度を主体的に決めているか 場面: 一人のとき/家族といるとき/アトリエで など 頻度: 決められた時間のみ/時々/夜中も など
支援者の持つ意識についての項目表: 追加項目、追記項目 追加項目: nb1-nb5
nb1
大項目: 環境(人的)
項目: 支援者自身が創作の経験を持つこと nb2-nb4
大項目: 本人の価値
nb2 項目: 創作行為に対し障がいのある人が何を重視しているか考えること nb3 項目: 創作行為に対し障がいのある人が自身の価値観を追求できているのか考 えること
nb4 項目: 生きる価値として障がいのある人自身が何を望んでいるのか考えること nb5
大項目: 結果の活用
項目: 支援者が創作品をどうしたいか考えること
追記項目: ( )内の文言を追記 b18
大項目: 環境(人的)
項目: 支援者が未知な能力の存在を信じて開花を促すこと (興味や才能の見つけ方を考えること)
結果、「障がいのある人についての項目表」は 13 の大項目と 16 の項目となり(表 6.1)、
「支援者が持つ意識についての項目表」は 17 の大項目と 27 の項目となった(表 6.2)。
また、著者から得られたフィードバックにおいて、「誰の」「何について」問うている 項目なのかが分かりにくいという指摘があった。よって、「誰の」「何について」問うて いるかを確認しながら回答できるような文言を目立つように付け加え、回答の際のガイ ドとなるようにした。(付録 6.1、6.2 参照)
障がいのある人についての項目表: 追加した文言
「障がいのある人に(が)、◯◯◯について、重視するか」
支援者が持つ意識についての項目表: 追加した文言
「支援者が持つ意識として、◯◯◯について、重視するか」