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論点を共有するための指標づくり手順

  論点の共有に活用するものの作成に対し最初のアプローチとして、異なる専門領域か ら関わり、異なる主張を持ち、各領域の壁を打ち破る原動力となっている、日本の活動 を牽引する各活動団体(個人)の鍵となる人物に着目した。彼らが、障がいのある人の創 作活動に関し、価値判断を行っている論点を捉えることで、創作過程に関する論点を総 体的に捉えることができると考えた。なぜならば、対立する立場にある著者同士であっ ても、「◯◯が、△△だから、自分の意見が正しい」という主張をし合っている。なら ば、その主張されている「◯◯」というポイントは、各著者が障がいのある人の創作活 動に関し、価値判断を行っている重要な論点だと捉えることができる。そして、その価 値判断を行っている論点の特徴が、著者の考え方の傾向となってあらわれていると考え た。 

  一方で、その論点は、著者ごとに全く異なっているわけではなく、共通するものも多々 存在するのではないかと考えた。そして、そうした共通する論点に対する意見(「△△」) の方向性や、その論点を重要だと考える優先順位の違いが、論点自体の違いに寄るもの よりも、各著者の意見の傾向を示す大きな要素になることが推察された。 

  よって、そのような異なる立ち位置をとる著者が価値判断をしている論点を、総体的 に捉えることで、存在する共通点を見つけ、共通言語を紡ぎだすことにつながると考え た。また、共通しなかった論点も、その著者自身や専門とする領域の特徴を示している と考えるため、各著者や専門領域の傾向を生み出している論点と捉えることができると 考えた。 

  このように、障がいのある人の創作活動に関わる、異なる専門領域や立場の人たちが、

自身が持つ論点も、持っていない論点も、あわせて見ることができ、かつ、他者とも論 点を共有することができるものを、本研究では「指標」と呼ぶことにする。 

 

3.2  指標作成の参考研究 

  障がいのある人の創作活動を評価する新たな評価軸の必要性は国の懇談会において も話題となっているが、どのようなものかは明確に表現されていない。しかし、それは 既存の美術史の流れの中での評価ではなく「新しい美術の評価への軸」であり、絶対的 な評価ではなく多様性が見える評価、キュレーターだけではなく福祉や医療関係者と一 緒につくる枠組み、美術館的な発想ではなく地域で発信させるようなものと形容されて いる(厚生労働省, 2013)。では、障がいのある人の創作活動の指標とはどのようなもの が考えられるか。 

  「指標」作成の手掛かりとして「指標」の在り方に着目すると、ユニバーサルミュー ジアムの評価項目表として、外部評価(博物館協会ガイドライン)、自己評価(展示評価項 目)、第三者評価(来館者調査)をつなぎ、博物館による自立的自己評価を可能とした研究 (平井, 2016)が参考となる。これは、博物館スタッフ、ユニバーサルデザイン専門家、

ユニバーサルミュージアム専門家という、異なる専門領域や立場の人が共通項目を通じ てコミュニケーションと全体把握を容易にする指標の在り方が有効だと考えた。 

  また、「指標」の果たす機能に着目すると、熟練看護師の「技」(アート)をどう具体化 し教育に活用可能なものにするかについて論じた研究  (東,  2005)が参考となる。この 研究をもとに、熟練看護師の患者との関わり方に共通する要素をコア・コンピテンシー (核となる水準を満たした能力)として抽出し、具体化することで、優れた「技」を学習・

訓練可能な「スキル」に還元できるとしている。そして、経験の浅い看護師が自ら課題 を発見し解決する力や患者との意図的な共同関係を構築し、双方向で個別的継続的なや り取りを通じて患者自身のインフォームド・チョイスが促進される状況を生み出すとし ている(大橋, 2007)。また、障がい・美術に関わる分野でも、重度・重複障がい児の造 形活動に関する教員の「意識、意図、配慮」、「期待する効果」といった、教員が“どの ように考えるか”、という実践知を明らかにして理論化する研究  (池田, 2013)が行われ ており、このような「技」、「実践知」を具体化することで、経験値の異なる他者とも共 有できるようになる可能性が論じられており、障がい者支援施設での実践や、異なる専 門領域を持つ人の間でも共通して使用できる指標の在り方が有効だと考えた。 

  また、アートプロジェクトの指標の設定として、「評価指標」は、「プロジェクトの成 果を図るために必要な尺度、基準、手段」であり、「定量評価指標」「定性評価指標」の

「効果的な組みあわせが望ましい評価につながる」(公益財団法人企業メセナ協議会  編, 

2011)などが言われている。このように、「定量評価指標」「定性評価指標」を効果的に 組みあわせ活用できる、指標の在り方が有効だと考えた。 

 

3.3  文献調査による項目表の作成 

  各活動団体(個人)の鍵となる人物が価値判断を行っている論点を総体的に捉えるに あたり、それらの人物が著した書籍による文献調査を行うこととした。なぜならば、既 往研究においても、異なる立ち位置をとる鍵となる人物に対して、インタビュー調査を 実施し、特徴の違いを明らかにしようとした研究は存在する。しかし、その際、その人 物は自身が最重要と考える主張点を強調して回答し、研究者はその回答をもとに考察し ていくため、調査対象となった人物間で異なる論点について主張されたことのみで、特 徴が判断されることになる。それでは、著者間の違いが強調されるのみで、共通点や交 点を見るけることは難しく、議論は噛み合わないまま平行線をたどると考える。一方、

書籍は、出版されるまで推敲を重ね、それぞれの人物が言いたいことを、比重の差はあ るにせよ総体的に記述していると考えた。よって文献調査は、各活動団体(個人)の鍵と なる人物が持つ価値判断の論点を、総体的に捉えることに適している。 

  また、各活動団体(個人)の鍵となる人物としては、美術を専門とする立場・福祉を専 門とする立場、作品の価値を判断する立場・創作過程の場をつくる立場、異なる呼称を 使用する立場をとり、日本における障がいのある人の創作活動に深く関わり、各領域の 壁を打ち破る原動力となっている人物を 5 名選定した。 

  文献調査の方法としては、まずは書籍を繰り返し読み、知的障がいのある人の創作過 程について記述された箇所を抽出する。そして、抽出した文章を、意味による文節で区 切り意味する内容を質的に分析する。分析によって簡潔な文章にしたものを、抽出した 他の箇所や、各書籍から抽出して分析した文章と照らしあわせてさらに分析し、意味に よる分類を行う。分類には KJ 法を活用し、カードに書いた文章を何度も分類し直しな がらコーディング(見出しつけ)を行う。理論的飽和になるまでこの論点の抽出と分析を 繰り返し行う。そして、分類した各人物の価値判断の論点を表す簡潔な文章を「項目」

として作成し、その上位概念を「大項目」としてキーワード化して整理する。このよう にして論点を項目と大項目として整理した表の作成を行う。さらに、芸術社会学やデザ イン学、美学など各分野の研究者やアーティスト、障がい福祉施設で創作活動を支援す る支援員などに見せ、フィードバックを受けながら改定を繰り返す。このようにして、

各活動団体(個人)の鍵となる人物が書籍において、知的障がいのある人の創作過程につ いて価値判断をしている論点を総体的に捉え整理分類した「項目表」を案出する。 

 

3.4  文献の著者による項目表の検証 

  5 名の各活動団体(個人)の鍵となる人物の書籍を対象とした文献調査により、各人物 が価値判断をしている論点を抽出して整理した項目表を案出した。しかし、性質や文字 量が異なる書籍を対象としたため、各人物の論点が総体的に捉えられたか、また項目表 が、異なる専門領域や立場の人が論点を共有するためのものとして活用できるかについ ては検証する必要がある。ゆえに、文献調査により案出した項目表を、5 名の書籍の著 者に対し直接調査を行うことで妥当性を検証すると同時に、研磨するための新たな知見 を得る。また、項目表を活用した調査を通して、障がいのある人の創作過程について各 著者が持つ意見を質的、量的に分析することで総体的に把握し相違を比較する。 

  調査方法として、項目表を用いたアンケート用紙を作成し、主観評価とインタビュー 調査を実施する。主観評価は、項目表の各項目に 6 件法(0 点:意識したことがない、1 点:全く重視しない、2 点:あまり重視しない、3 点:どちらとも言えない、4 点:や や重視する、5 点:非常に重視する)による評価表を付けて行った。これにより、各項目 について、各著者が重視する度合いが数値的に確認できるようにする。0 点と1点の違 いは、1 点:全く重視しないは、「論点として持っているけど重視はしていない」ことを 意味し、0 点:意識したことがないは、「項目を見るまで論点として意識したことがな かった」ことを意味する。また、主観評価でチェックした重要度の理由を問うかたちで インタビュー調査を行い、各項目に対する意見を得る。それにより、各項目に対する重 要度と共に、どのような視座や意識を持つのかを明らかにする。さらに、各著者から調 査に対するフィードバックを得る。フィードバックとして項目の内容に関する妥当性や、

新たに追加すべき項目、異なる専門領域や立場の人が論点を共有するためのものとして 活用することに対する意見などをたずね、回答を得る。 

  調査結果の分析として、主観評価結果による量的分析とインタビュー調査結果による 質的分析をあわせて行う。主観評価結果から、各項目における評価の合計点の高低や、

格差の大きな点に着目し、各項目に対して著者が重視する度合いを比較検討する。また、

著者ごとの項目に対する評価を、ピアソンの積率相関分析により解析し、著者間の評価 に正・負の有意な相関が見られるかを確認する。このように、指標から得られた主観評 価結果を、量的に分析することで、これまで、部分的かつ質的に捉えられてきた、異な る立ち位置をとる著者が創作過程に対して持つ意見の相違を、総体的かつ客観的な数値 として把握し、比較検討できるようになると考える。また、量的分析により、特徴的な 結果が出た項目に対し、インタビュー調査の内容をあわせて分析することにより、意見 の相違の要因をより深く分析できることにもつながると考える。さらに、各著者から得 られるフィードバックにより、項目表の改善に向けた指針を得る。