第 7 章 卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成
7.2 調査の方法と概要
卓越したベテラン技術者15人にインタビュー調査を実施した。協力者は、K社5名、N 社4名、TB社2名、 KK社2名、T社1名、OT社1名の卓越したベテラン技術者であ る。インタビュー者の選定は、卓越したと認められるベテラン技術者から次の方を紹介いた だくという方法を採り15名のインタビューに至った(表7-1)。
卓越したベテラン技術者同士だからこそ認識できるものがあるため、この手法1)を採用し た。最初のインタビューにお答えいただいたのは、技術伝承研究会2)のメンバーに趣旨を説 明した上で、紹介いただいた卓越したベテラン技術者である。最初に紹介いただいた技術者 は日本企業の中でも第1人者として間違いなく認められる人々である。
インタビューは、半構造化形式3)で、1回につき約1時間半~2時間程度で、1人に対し て複数回行った。インタビュー内容は、①どんな仕事をしてきたか、②目標となる上司・先 輩がいたか、③目をかけている部下・後輩に対して思うことは、④ベテランと思われる条件 は、の4つである。協力者の所属企業は、建設業界において大企業・中堅企業に位置する。
1) スノーボールサンプリング。母集団から無作為に回答者を数人選ぶ。次に、これらの回答者に次の回 答者を指名してもらう。この作業を繰り返すことで、必要な数に達するまで標本を抽出していく手法。
2) 第4章を参照。筆者が主催する建設業界の企業の技術者・人材育成担当者との研究会。2012年5月か ら1~2ヶ月に1回の頻度で開催している。2017年9月30日現在、全17回開催。
3) 事前に大まかな質問事項を決めておき,回答者の答えによってさらに詳細にたずねて行く質的調査法。
表 7-1 卓越したベテラン技術者リスト
インタビュー対象者の概略は以下のとおりである。
No. A K社Y.K.氏は、専門を研究開発とする、技術歴28年の技術者。K社研究所の一
専門分野の長である。技術士(国家資格)および博士(工学)を有する。
No. B K社M.K.氏は、専門を施工管理とする、技術歴31年の技術者。K社における工
事管理に関する部長である。技術士(国家資格)を有する。
No. C K社K.T.氏は、専門を施工管理とする、技術歴30年の技術者。K社における工
事管理に関する一部門の部長である。現場一線の所長として実績を有する。
No. D K社K.T.氏は、専門を設計とする、技術歴31年の技術者。K社における一専門
分野の部長である。技術士(国家資格)を有する。
No. E K社T.N.氏は、専門を施工管理とする、技術歴35年の技術者。K社における施
工管理のスペシャリストで、現場一線の所長として実績を有する。
No. F N社S.K.氏は、専門を調査・計画・設計とする、技術歴42年の技術者。N社に
おける技術指南役である。技術士(国家資格)および博士(工学)を有する。
No. G N社H.S氏は、専門を調査・設計・施工管理とする、技術歴43年の技術者。N
社海外事業における技術指南役である。技術士(国家資格)を有する。
No. H N社N.H.氏は、専門を調査・設計・施工管理とする、技術歴44年の技術者。N
社技術監査の長である。技術士(国家資格)を有する。
No. I N社S.M氏は、専門を設計とする、技術歴43年の技術者。N社国内事業におけ
る技術指南役である。技術士(国家資格)を有する。
No. J TB社K.M.氏は、設計・研究を専門とする技術歴33年の技術者。技術者として
だけでなく、研究開発にも多くの実績がある。技術士(国家資格)および博士(工学)を有する。
No. K TB社Y.M.氏は、施工管理を専門とする技術歴33年の技術者。TB社における施
工管理のスペシャリストで、現場一線の所長として実績を有する。
No. L KK社H.O氏は、調査を専門とする技術歴49年の技術者。日本の高度経済成長
期に先頭に立って先進技術を多く開発。技術士(国家資格)および博士(理学)を有する。
No. 企業名 氏名 専門 技術歴(年) 年齢(歳) 入社(歳)
A K社 Y.K. 研究・開発 28 52 24
B K社 M.K. 施工管理 31 55 24
C K社 K.T. 施工管理 30 54 24
D K社 K.T. 設計 31 53 22
E K社 T.N. 施工管理 35 57 22
F N社 S.K. 調査・計画・設計 42 65 23
G N社 H.S. 調査・設計・施工管理 43 65 22
H N社 N.H. 調査・設計・施工管理 44 68 24
I N社 S.M. 設計 43 65 22
J TB社 K.M 設計・研究 33 55 22
K TB社 Y.M. 施工管理 36 58 22
L KK社 H.O. 調査 49 71 22
M KK社 A.N. 調査・設計 43 66 23
N T社 N.F. 施工管理 45 67 22
O OT社 S.U. 調査・設計 45 67 22
No. M KK社A.N.氏は、調査・設計を専門とする技術歴43年の技術者。KK社の技術 開発センターの長である。技術士(国家資格)および博士(学術)を有する。
No. N T社N.F.氏は、施工管理を専門とする技術歴45年の技術者。T社における施工
管理のスペシャリストで、現場一線の所長として実績を有する。
No. O OT社S.U.氏は、調査・設計を専門とする技術歴45年の技術者。OT社における
技術指南役である。技術士(国家資格)および博士(工学)を有する。
以上、15名の技術者が卓越したベテラン技術者であることを説明した。この15名の技術 者をインタビュー対象者とすることは、一定の成果を得るに足るものである4)。
7.2.2 分析方法
卓越したベテラン技術者のインタビューにより、技術者の育成及びキャリア形成の資料 を得る手法を採った。本研究の考察対象は卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形 成である。卓越したベテラン技術者がどのような視点で見ているかについて分析する。本研 究では、小池 (2000)をインタビュー調査の基本とし、川喜多 (1967、1970)のKJ法による 分析方法を採用した。KJ 法は、創造的問題解決に効果があるとされる。KJ 法を用いれば 特定の特性に焦点を当て現象を詳細に記述できる。
KJ法と類似した質的研究方法としてグラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach、以下GTAと称する。Glaser & Strauss、1967)もある。GTAとKJ法 は言語データを細分化し、グループ分けをして、図解化を行うという点は共通している。一 方、KJ法は研究プロセスに難解な専門用語を使用しないため初学者にも理解しやすい。ま たGTA は量的研究のアンチテーゼとして生まれたのに対して、KJ 法は量的研究と質的研 究の融合を目指した研究法という違いもある(舟島、2007)。
卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成には、何が必要かを分析した。分析は、
インタビュー質問項目である、①どんな仕事をしてきたか、②目標となる上司・先輩がい たか、③目をかけている部下・後輩に対して思うことは、④ベテランと思われる条件は、
の4つに沿って行っている。質問項目の設定は、時系列で整理すること、上司(ベテラン)・
部下(若手・中堅)の関係性をみること、ベテランの条件をみることで、技術者の能力開発・
キャリア形成に必要なものを探ろうとしたものである。
KJ法に従い、各質問項目において、ラベルづくり、グループ編成、A型図解化、B型叙 述化と進めた。さらに、 全てのインタビュー調査分析結果を統合した。
本研究の中心的質問である ①どんな仕事をしてきたかの質問を聴くにあたっては、時間 軸に沿って技術者直観水準図を図示しながら、キャリアがどのように形成されたかを振り 返った。技術者直観水準図とは、縦軸に技術者直観水準(値:0~100)、 横軸に年齢(歳)をと ったグラフである。現時点と比較して値をとり、図示するものである。選定した者は、卓越 したベテラン技術者であるため、現時点の技術者直観水準が 90~100 に位置すると設定し ている。KJ法における分析結果との関係性についても考察していく。
4) 卓越していないベテラン技術者については対象としていない。次の調査段階での展開が望まれる。