• 検索結果がありません。

技術者直観水準図と分析結果の関係性

第 7 章 卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成

7.3 分析の結果

7.3.6 技術者直観水準図と分析結果の関係性

技術者直観水準推移図を分析した結果、技術者直観の水準が上昇する型には、次のような ものがあった。①比例型、 ②青年期突出型、 ③壮年期水平型、である。インタビュー実施 15人の内、①比例型が10人、②青年期突出型が2人、③壮年期水平型が3人であった。

先述しているが、選定した者は、卓越したベテラン技術者であるため、現時点の技術者直観

水準が90~100に位置すると設定している。図7-6にそれぞれの型の代表例を示す。15人

すべての図については巻末資料2をご参照いただきたい。

①比例型は、年齢とともに着実に技術者直観を高めていっている。20 代で、基礎を固め 基盤を構築し、30代では基礎を発揮する仕事をこなしている。概ね40歳到達までに大きな 責任ある仕事を任されている。早い人は、30代前半に任される例も見受けられた。40代以 降も同様で、各年代で積んだ経験が次々に活かされているのが読み取れる。

②青年期突出型は、20 代に技術者直観を発揮し、その後も継続的に能力を高めていって いる。入社3年目に責任の大きな業務の主担当を任されたり、 入社1年目に自社技術向上 のために出向を命じられたりと、入社後間もない頃の抜擢が大きな影響を与えているのが 見受けられる。

③壮年期水平型は、30歳までに技術者直観を一定以上まで形成している。しかし、30代

~40 代半ばまでその能力は、横ばいの成長となっている。横ばいの時期は、若くして高い 能力を発揮したこともあって、多くの仕事をこなすのに専念し、技術者直観の上昇には至っ ていない。ところが、45 歳を過ぎるころから再び上昇し始めており、責任のかかり方に変 化が見受けられる。この場合、自社の技術を統括する立場といった責任であった。

図 7-6 技術者直観水準図

①比例型 10 人 (例:N 社 S.K.)

図 7-6(続) 技術者直観水準図

②青年期突出型 2 人 (例:K 社 Y.K.)

③壮年期水平型 3 人 (例:OT 社 S.U.)

いずれの型の人も積み上げるものを積み上げてきた結果、現在の水準に至っている。中 でも、 ①比例型の人が最も多くなった。一歩一歩着実に積み上げていく人の方が、卓越 したベテラン技術者になる可能性が高いことを示していると考える。

図7-6のN社 S.K.氏を例にすると、30 歳の時に大きな失敗をしたことが、技術者直観 が高くなった最初のきっかけである。30 歳の時に海外の現場を受け持つことになり、その 現場で大きな失敗をする。土地開発にともなう道路設計で、山を掘削する際の斜面の安定を 検討する立場であった(図 7-7)。大きな失敗とは、斜面の安定を保つ検討に誤りがあり、地 すべりを招いてしまったことである。地滑りの設計ミスは、その現場の安全を保てなくなる だけでなく、その後の工事の遅れ、さらには企業の責任問題になるものである。20 歳代の 頃には、大きな失敗をしてきたことがなく、この当時自分の技術(能力)に関して過信してい たとS.K.氏は言う。

図 7-7 斜面安定解析

その後は、この大きな失敗から得た教訓を忘れずに研鑽に励んだことで技術者直観が向 上する。30 歳代は、大きな失敗の後、道路設計をはなれダムの建設に携わることになる。

この期間の技術者直観の成長も、変わりなく少しずつ積み重なり高くなっている。ダムの建 設において斜面の安定を検討することは非常に重要なことである。なぜならダムは、その後 背地に多くの山があるからである。ダム竣工後、水を排出するときに山の斜面の安定をみる ことは重要である。この間の集積から 40 歳の時に H 海岸の岩盤崩壊の検討をする業務を きっかけに専門分野(斜面安定)が見いだされ、そのことに集中してより多くの業務をこなす ようになり、さらに技術者直観が向上することとなった。

このように、きっかけとなる30歳の時の「失敗」や40歳の時の「責任」、その間の「訓 練」や「継続」などは技術者直観が高まっていった要因である。この要因は、KJ法の分析 と合致する要因である。S.K.氏の場合、失敗の度合いが後々に効いていったことは付け加え ておく。

図7-6のK社Y.K.氏を例にすると、積み重ねが認められ、都度「責任」ある仕事を任さ れており、その際目標となる上司・先輩との「人との関わり」が特徴的である。20代の時、

「なんでこんなことで悩んでいたのか」と思させてくれる上司・部下との関りがあった。そ れは、「心構え」やふるまいから仕事の基礎におよぶものまでを様々なもの得る大事な出会 いであった。28 歳の時に主担当となる業務を任される。この責任ある仕事を任されたこと は技術者直観が高まる大きなきっかけになった。特に主担当として任されたことが大きな モチベーションを生み出したと Y.K.氏は言う。30 歳には国家資格である技術士(建設)を取 得する。このことが30歳代におけるモチベーションをさらに向上させる。

K 社研究所は、一定期間現場に出て仕事をすることが義務付けられている。Y.K.氏32~

37 歳の期間にダムの現場へ出ている。研究所では得られないものをこの期間で得て、技術 者直観はさらに高まっている。つまり、Y.K.氏の場合、28~38 歳の間で技術者直観が大き く高まったといえる。

38 歳で研究所に戻った時には、管理職として業務に携わるようになる。組織としての立 場で動く方法を教えられ、それに従いきつい状況と達成感を感じながら多くの業務に関わ る。当然、意思決定をすることの方が多くなるが、そのことが技術者直観をさらに高めるき っかけとなっている。47 歳には本社への配置転換となり、さらなる広がりを持った業務を 受け持つようになる。例えば、あらゆる専門技術が複合する技術開発の案件などに関わった ことは深さだけでなく広がりをもった蓄積である。

また、20 代の頃からの「訓練」と「継続」の積み重ねも大きな要因である。Y.K.氏の話 から伝わってきたのは、日々の積み重ねである。特に、若い時の訓練と継続を絶やしていな いことが技術者直観の高まりを支えているものだと考えられる。

図 7-8 K 社 Y.K.氏の環境

このように都度「責任」ある仕事を任され、その際目標となる上司・先輩との「人との関 わり」は技術者直観の高まりを支えてる。20 代の頃からの「訓練」と「継続」の積み重ね も大きな要因である。これらはKJ法の分析と合致する要因でもある。個人の素質を考慮に 入れなくても20代の頃からの積み重ねが責任ある仕事につながっていることは明白である (図7-8)。

図7-6のOT社 S.U.氏を例にすると、30歳の技術士取得に向かって技術者直観を高め ていっているのが分かる。20歳代は基礎の積み重ねで、その結果が技術士(応用理学)取得 という結果を生み出している。しかし、技術士取得後は多くの形式化されたこなす仕事を 任され、技術者直観を高めることができなかった。技術士の資格は、業務を受注するのに 会社としても形式化された仕事に従事してもらうしかないという選択をしたためである。

ただまったく積み重ねがなかったわけでなく、技術者直観の高まりがないにせよ、35歳の 時に、技術士(建設)を取得している。

30歳代は技術者直観の大きな高まりはないまま、39歳の時に大きな転機を迎える。四 国地方の支店の支店長として大きな責任を任される。四国地方の支店の支店長であるが、

実質は四国地方の統括という立場である。四国地方の統括をする管理職として、部下を持 ったことで、技術的意思決定を伴う多くの仕事をこなすようになる。S.U.氏はこの期間の 集積を「目からウロコが落ちる」感覚だったと語っている。また、45歳の時には、博士学 位の取得を勧められ、それを目指す中で、技術者直観がさらに急激に上がったと言う。55 歳で博士(工学)を取得したときは、技術者直観は最高点に達する。この時、S.U.氏が感じ たのは、「クビをかけられるほど自分に自信がある」というものであった。

このように若いころに技術者直観が高まった後、一度は成長の鈍化を感じるが、ある時

「責任」ある仕事を任されることによって再び技術者直観が高まるという型もある。しか し、20代の頃の「訓練」と「継続」の積み重ねは大きな要因である。これらはKJ法の分 析と合致する要因でもある。S.U.氏の場合、探求心が支えていることは注記しておく。

以上、インタビュー調査の結果から卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成に ついて分析してきた。卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成には、「責任があ る中での経験が必要」である。つまり、若手・中堅技術者を育成するには、責任ある中での 集積と使いこなすことが必要ということである。卓越したベテラン技術者はキャリアとし て、責任ある仕事に就くために、自己意識高く、日々研鑽し、人との関わりを多く持とうと してきたのがわかる。また、「日頃の努力」、「失敗と責任」、「人と関わる」、「自己研鑽」、「技 術者直観水準が高い」の要因を満たしていることもわかった。分析した結果をまとめると、

次の通りである。

(ア)飽きることなく探求をし続けるからこそ達する。また、卓越したベテラン技術者は、

飽くなき探求者であるための要因を大半満たしている (イ)自らが努力をしていく中で、機会を与えられ成長していく (ウ)優れた人との出会い、進んで人と関わろうとしていた (エ)自己意識が高く、目的・目標達成のために日々研鑽している

(オ)飽きることなく取り組み、自分の能力を向上させ続け、人にも提供する