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課題 2「どのような方法であれば伝わるのか」に対する提示

第 9 章 これからの技術伝承と人材育成の方向性

9.2 問題・課題に対する理論的意義の提示

9.2.2 課題 2「どのような方法であれば伝わるのか」に対する提示

課題2は「どのような方法であれば伝わるのか」について検証することであった。方法 論として提示したのは、「5つの活動の連携による育成」である。本研究における新しい発 見は、技術者が成長する要因を検討した上で、方法論を考案したことである。「5つの活動 の連携による育成」は、これまでどのような方法であれば伝わるのか諸説あったものを一 つにまとめる意義を持っている。論拠として、本論2(第6章、第7章、第8章)において 検証を行っている。

これまでの方法論(先行研究)との違いは、「5 つの活動」に整理したことと「5 つの活動 の連携」によって育成が成り立つということである。これが、本研究の方法論における意 義である。なお、本研究の方法論における意義は表9-3に示すとおりである。

表 9-3 「方法論の形成」における意義

また、これまでの方法論との違いの詳細は以下のとおりである。

佐藤・藤村・八代の「スキルマップ」との違いは、育成材料の提示対象である。佐藤・

藤村・八代が技能者を対象としていることに対して、本研究では技術者を対象としている。

技術者を対象とすることで、技術者への適用に特化し、より使いやすいものとしている。

エンジニアリング教育との違いは、用語のとらえ方である。エンジニアリング教育は、

教育という観点から、統一された専門用語の整理がなされる。本研究では、企業内におけ る共通言語の抽出の重要性を示している。つまり、専門用語でも各企業において用い方が 違う点を考慮したことは、コミュニケーションの活性化と企業の競争力の源泉を担保する ことができるようになるということである。

プロジェクトメソッド、モリソンプランとの違いは、汎用性・再現性である。プロジェ クトメソッド、モリソンプランは、かなり広範なものをあつかうため汎用性に欠ける。ま た、再現しようとしたとき同じようにできるかというとなかなか難しい面がある。本研究 の事例は、工学的見地に基づいたものをあつかう。工学は、過去の積み重ねから許容でき る範囲を示す学問である。建設技術が自然を相手にするとはいえ、この工学的見地に基づ く範囲であれば、汎用性・再現性を高くすることができる。これが本研究における事例の 特長である。

クラインの「メンタルシミュレーション」との違いは、訓練の人称である。クラインが 一人称としているのに対して、本研究では複数人称でベテランを交えることである。一人 でシミュレーションをすることは重要であるが、そこにベテランが交じって訓練を行うこ との効果にはかなり大きいものがある。ベテランとのシミュレーションを実務以外で行う ことが本研究の方法論における特長である。

小池の「OJT」との違いは、無意識・組織主体か意識的・個人主体かである。OJTが重

佐藤・藤村・八代 「スキルマップ」 技能者の育成材料の提示 ⇒ ①課業スキル表 技術者の育成材料の提示 エンジニアリング教育 専門用語の整理 ⇒ ②キーワード  企業内の共通言語の抽出 プロジェクトメソッド、モリソンプラン 汎用性・再現性が低い ⇒ ③事例  汎用性・再現性が高い クレイン「メンタルシミュレーション」 一人でのシミュレーション ⇒ ④擬似訓練   ベテランを交えた訓練

小池 「OJT」 無意識・組織主体 ⇒ ⑤協働  意識的・個人主体

これまでの人材育成方法 「知識」や「実践」などの混同 「集積」①②③と「使いこなす」④⑤の連携、責任

先行研究 本研究 「5つの活動の連携による育成」

要であることは不変のものである。ただし、ただ漫然と実務にあたるのか、何か目的をも って実務にあたるかでは大きな違いがある。本研究では、ベテランとの意識的な協働をす ることが重要であるとしている。特に、個人主体性をもって意識的に、責任ある中での集 積と使いこなすことがさらなる効果を生み出すとしている点が本研究における特長である。

これまでの人材育成方法との違いは、「知識」や「実践」などの混同を整理したことであ る。理論「技術者直観」の「集積する能力」と「使いこなす能力」の分類に基づき、「5つ の活動」を関連付け、混同していたものを整理していることが本研究における特長である。

このように、方法論「5つの活動の連携による育成」は、「技術者直観」を高めることに 特化した新しい方法論である。

「5 つの活動の連携による育成」を考案するにあたって、伝わりにくい理由が「環境」

であると仮説を立てて検証した。まず、「これまでの人材育成論」について先行研究をレビ ューしている。技術伝承と人材育成が円滑に進むための方法論を検討するため、何が必要 か、これまで提唱された人材育成論の先行研究から整理・検証したものである。①直観形 成系、②教育学系、③技術・技能系、④経営学系の 4 つの分類から見えた必要なものは、

環境(訓練・経験・意識・時代適応・段階・循環)である(図9-6)。

各分類においては、次のようであった。直観形成系から見えたのは、直観という能力形 成のためには、知識習得・訓練・経験とその段階が必要であるというとであった。教育学 系は、与えること、自ら習得すること、時代に応じた方法を見つける必要がある。与える ことと自ら習得することは教育の歴史の中で繰り返されてきた議論である。現実には、目 の前にある目的に応えていく能力を育成することが必要であり、時代に応じた方法に仕立 てていくことが重要である。技術・技能系から見えたのは、育成段階設定・指導の循環・

意識向上である。一人ひとりが責任を持って的確に行い、かつ継続的に成長できる育成方 法が見いだされた。経営学系から見えたのは、環境によって育成がなされることである。

図 9-6 先行研究から得た人材育成論に「必要な要素」

方法論「人材育成論」に関わる先行研究では、「環境」が大きな要因であり、その要素と して「訓練」、「意識」、「経験」、「時代適応」、「段階」、「循環」があることを示した。次に、

卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成の実際を分析することで、若手・中堅 技術者を育成するのに何が必要か考察した。ベテラン技術者たちが技術者直観をどのよう に身につけ、それが各人のキャリア形成にどう影響してきたかを検討することで、若手・

中堅技術者の育成に応用できると考えたからである。

卓越したベテラン技術者の能力開発・キャリア形成には、「責任がある中での集積と使い こなしが必要」ということであった。つまり、若手・中堅技術者を育成するには、責任あ る中での集積と使いこなしが必要ということである。卓越したベテラン技術者はキャリア として、責任ある仕事に就くために、自己意識高く、日々研鑽し、人との関わりを多く持 とうとしてきたのがわかる。また、「日頃の努力」、「失敗と責任」、「人と関わる」、「自己研 鑽」、「技術者直観水準が高い」の要因を満たしていることもわかった。これらの分析結果 に関連すれば、「訓練」、「意識」という要素は重要であることも証明された。つまり、若手・

中堅技術者を育成するには、責任ある中での集積と使いこなしが必要ということである。

この環境を個人主体性に着目して創り出すことが技術者直観の形成に必要不可欠なのであ る(図9-7)。

図 9-7 方法論に組み込むべきもの

そして、「環境」を創り出す方法論として「5 つの活動の連携による育成」を構築した。

「5 つの活動の連携による育成」とは、①課業スキル表、②キーワード、③事例、④擬似 訓練、⑤協働による循環を経て、技術者直観を身に付けていく過程のことである(図9-8)。

「①課業スキル表」は、職場で日々行われている業務を分析し、課業の一覧表を作り、

それに職場構成員をクロスさせて、誰がどの課業をどこまでできるかを明示したものであ る。現段階では、可視化により上下間のコミュニケーションの促進を図っている。

「②キーワード」は、ベテラン技術者と若手中堅技術者の間に共通の認識を持たせるた めのステップである。共通の言語により意思疎通の円滑化を図ることが目的である。企業 に入るまでに受けた教育だけでなく、日々の業務において使用しているキーワードを拾い 集めて整理する必要がある。

「③事例」は、課業スキル表やキーワードだけでは気づくのが難しい行間を理解するた めに使用する。課業スキル表によって業務の流れを理解し、キーワードを認識した上に使

用するものである。①課業スキル表、②キーワードとあわせて知識や知恵などを整理・集 積するための道具である。

「④擬似訓練」は、課業スキル表、キーワード、事例による普段の自己研鑽における訓 練を経た後に、事例で訓練したことをベテラン技術者と共に擬似体験するものである。本 当の現場で行うものでなく、室内を基本とする。ベテラン技術者は、若手・中堅技術者が 技術者直観に気付き、それを高めていくことを支援する役割を担う。

「⑤協働」は、擬似訓練までの段階を経た後、ベテラン技術者と共に実際の業務を遂行 していく中で、技術者直観を引き継いでいくものである。協働による集積をした後に、振 り返ることがとても重要になる。擬似訓練との違いは、現実の厳しい環境下で行っていく ため、集積の密度は非常に高いものとなる点である。

図 9-8 5 つの活動の連携による育成

ここで、前述の図 9-4 において示した技術者直観レベル(階層別)が関連する。方法論に おいては、L1~L4に重点を置いている。個人としては一定以上のレベルまで能力を向上 させることが技術者人生として望ましいものになると思案した上での方法論である。また、

企業としても抱える技術者を一定以上のレベルまで上げることを期待するためである。

以上のように課題2「どのような方法であれば伝わるのか」について検証を行っている。

これまでの方法論(先行研究)との違いは、「5 つの活動」に整理したことと「5 つの活動の 連携」によって育成が成り立つということである。これが、本研究の方法論における意義 である。研究の過程を経て、課題 2「どのような方法であれば伝わるのか」に対して答え うる新しい方法論の構築とその意義を見つけることができたと考える。「5つの活動の連携 による育成」は、ベテラン技術者たちが培ってきた「技術者直観」を円滑に伝えるのに有 効な方法論である。これこそ技術者にとって現在必要不可欠な方法論である。