第 9 章 これからの技術伝承と人材育成の方向性
10.3 個人
能力開発・キャリア形成の現状として、厚生労働省『能力開発基本調査』の結果をもと に、能力開発の主体と時間制約についてみていく。能力開発の主体は、正社員では企業が ほとんどを決定していることがわかる(図10-1)。それに比べ正社員以外では、個人主体で 決定している割合が高いのがわかる(図10-2)。この点は、主体性に差があることが確認で きるものである。正社員であることの良し悪しは別として、個人主体性には差がある。
図 10-1 能力開発の責任主体(正社員)
出所:厚生労働省「能力開発基本調査」平成28年度
図 10-2 能力開発の責任主体(正社員以外)
出所:厚生労働省「能力開発基本調査」平成28年度
自己啓発を行った労働者の延べ受講時間をみていくと、正社員では「10~20時間未満」
が20.6%と最も多くなっている。「20~30時間未満」が15.6%、「30~50時間未満」が14.9%
と、自己啓発に時間をかける人は多く、その必要性には認識があるようである(図10-3)。
図 10-3 自己啓発を行った労働者の延べ受講時間(総数) 正社員
出所:厚生労働省「能力開発基本調査」平成28年度
正社員以外をみておくと、「5時間未満」(26.5%)、「5~10時間未満」(19.2%)の割合が 正社員よりも高くなっている。正社員以外にも自己啓発に時間をかける人は多いが、かけ る時間の割合は短い傾向もうかがえる(図10-4)。
図 10-4 自己啓発を行った労働者の延べ受講時間(総数) 正社員以外
出所:厚生労働省「能力開発基本調査」平成28年度
自己啓発を行う上で何らかの問題があるとした者は、正社員では78.4%(前回78.8%)、
正社員以外では70.3%(前回71.5%)となっている。自己啓発における問題点の内訳は、
正社員では「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」が 59.3%で最も高く、以下、「費用 がかかりすぎる」(29.7%)、「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」(21.8%)、「ど のようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない」(20.4%) が続いてい る。
以上のように、個人としては能力開発・キャリア形成(自己研鑽)の必要性を認識してい ることがうかがえる。しかし、自己啓発に時間をかける人は多いが、かける時間の割合は 短い傾向もうかがえる。つまり、能力開発・キャリア形成(自己研鑽)の必要性を認識しな がらも、それにあてる時間はなく望むような集積ができていないのが現状である。
技術伝承と人材育成の円滑化の観点からいえば、能力開発(自己研鑽)は重要である。個 人、一人一人が自己の能力を高めれば、必然と企業全体の能力も底上げされる。ただし、
特定の人だけ能力が上がるのでは意味がない。本当の意味で、全体の底上げをするために は、個人の立場からも人材育成に関わる必要がある。自らの能力を高めるとともに、関わ る他者の能力も高めるのである。
個人の役割は、自らの能力開発・キャリア形成を通して個の能力を高め、その力によっ て企業および社会に提供・貢献することである。若いころは個人の視点に陥りがちである が、自分の能力が高まるにつれてそれが社会に役立つという視点に変わっていくことが必 要となる。そのためには、自己研鑚は欠かせない。本論2においても議論しているが、継 続的な自己研鑚は建設技術者にとっては必要不可欠である。ただし、一人で能力を高める のには限界があるため、ある一定数の集団を形成する必要はでてくる。個人でできる範囲 と一定数の集団によってできる範囲を理解していくことが重要である。個人は最小単位で あり、始まりである自助である。
個人としては何を目標にして自らを鍛錬するか、短期・中期・長期の視点で取り組む必 要がある。意識を保ち自己研鑽が重要となる。また、自分だけでなく人を育成することも 重要である。人を育成することは、周囲のレベルアップだけでなく、自らを成長させる機 会となる。
(2)実践的適用
本研究の「技術者直観」と「5つの活動の連携による育成」を適用するとどうだろうか。
個人にとって、技術者直観を高めることは、個人の能力開発・キャリア形成につながる。
さらに、個人の水準向上は企業への貢献度を高めるだけでなく、社会全体への貢献度を高 めるものである。また、5つの活動の連携による育成は、自らが育つ流れを認識すること は能力開発・キャリア形成において有効である。
どの段階の技術者でも適用可能であるが、できるならば若手の頃からこの循環によって、
技術者直観を高めていくことが望ましい。企業においてこの5つの活動の連携による育成 が整っていないならば、個人自らで5つの活動(①課業スキル表、②キーワード、③事例、
④擬似訓練、⑤協働)を意識して鍛錬を行っていくことが推奨される。この過程を経ること ができる環境を自らで整えていくことが、個人の役割である。さらに、自らがある程度の 水準に達してるならば、これらの過程を与える立場になることも役割となる。
以上のように、個人が5つの活動の連携による育成が果たす役割は、自らが育つ流れを 認識することである。また、5 つの活動が集積することと使いこなすことの循環の上に成 り立っていることも認識する必要がある。
10.4 人事部