第 8 章 技術者直観が伝わる人材育成方法の検証
8.2 方法論 「5 つの活動の連携による育成」
建設技術者に適した新たな方法論を検討するにあたって、第6章で先行研究をレビュー している。共通して見いだしたのは、習得するための段階を5段階に設定している方法論 が多いことである。また職場環境において、OJT 、Off-JT、みてわかりやすい管理ツール が必要なものとして見いだされた。これらの人材育成方法をもとに考え出したのが、5 つ の活動である。各企業へのインタビュー調査結果によると、5 つの活動に類似するいずれ かを実施していることがわかっている。例えば、A社は、④に準ずる定期的な集合研修(年 に2~3回、2泊3日など宿泊を伴う)を行っている。それによって、普段の実務では、経 験することのない技術者の視点を吸収する場となっている。B社においては、③と④に準 ずる失敗事例集作成及び集合研修を行っている。C社においては、①を徹底的に作り上げ ており、③との併用で普段の研鑽を進めている。また、④に準ずる定期的な集合研修も行 っている。今回の報告では対象でないが、いずれの会社も⑤については、上下の距離感を 保ちながらも可能な限り時間を使い、伝わっていくようコミュニケーションの工夫がされ ている。
このように5つの活動を全て行なうことによる効果は検証されていない。すべて行うこ とがされていないのには様々な要因もあるが、5 つ全てが成される環境を作り出していく ことが、5 つの活動の連携による育成の根幹である。ベテラン技術者が持つ技術者直観を 若手・中堅技術者に効率的に伝える5つの活動による循環を示す(図8-2)。5つの活動の連 携による育成とは、①課業スキル表、②キーワード、③事例、④擬似訓練、⑤協働による 循環を経て、技術者直観を身に付けていく過程のことである。
図 8-2 5 つの活動の連携による育成
出所:筆者作成
「①課業スキル表」は、職場で日々行われている業務を分析し、課業の一覧表を作り、
それに職場構成員をクロスさせて、誰がどの課業をどこまでできるかを明示したものであ る。現段階では、可視化により上下間のコミュニケーションの促進を図っている。
図8-3に示すのは課業スキル表の原型である(佐藤・藤村・八代、 2011)。もともと、日 本の製造現場で人材育成のツールとして古くから使用されてきたものである。
図 8-3 課業スキル表の原型(スキルマップ)
出所: 佐藤・藤村・八代( 2015)
技術伝承研究会では、課業スキル表を建設技術者に適用するにあたって、2 つの独自性 をもたせた。(ア)技術を理解しやすいように言語化すること、(イ)スキルレベルをチャート やグラフを使って可視化することの2点である。言語化は全体像の把握に役立ち、可視化 はベテラン技術者と若手技術者の意思疎通に貢献する。課業スキル表(技術版)は、技術者 が業務を遂行していく上で基本となるスキルについて言語化して、点数をつけていくもの である。(ア)自己評価、(イ)先輩による評価、(ウ)上長(課長)による評価の3 つによって構 成される。課業の重要度と達成度は数値化にあたって、それぞれ4段階の指標で設定して いる。具体的には、レベル1:時間をかければ、マニュアルを見ながら1人でできる。サポ ートは必要。レベル2:マニュアルを見ながら時間内でできる。サポートが必要。レベル3:
マニュアルを見ずに時間内にできる。同時に改善点も考えることができる。レベル4:人に 教えることができる。また、被評価者の業務遂行スキルを継続的に見ていくことが可能で ある。技術習得の推移を見守りながら、上司と部下の間での人材育成・コミュニケーショ ンツールとしての役割を果たすこととなる。図8-4は、道路設計におけるものである。課 業に従って評価が計算され、グラフによって表現される。
図 8-4 新しい課業スキル表(建設技術者向け)
出所: 山﨑(2012)
スキル分析(技術版)は、技術者の専門性に対してその習熟度を可視化するものである(図 8-5)。課業スキル表(技術版)の点数がグラフにより表現される。このグラフを見ながら、各 技術者は技術到達目標を立てる。また、課長、先輩、本人の評価結果の差がなぜ生まれた のかをベテラン技術者と若手技術者が議論することによって、技術伝承・人材育成ツール としての役割を果たす。
配属:本社 氏名:Aさん
※業務の流れに従う(若干の前後あり)
業務 課業 課業内容 重み付け係数 Aさん 先輩 課長 Aさん 先輩 課長
提案書の作成 業務受注のための作業 但し、このレベルでは対象としない 受注業務対応準備 業務スキル版に従う
内勤
外勤
既往資料の検討 2
設計箇所について、地形や関連施設などの現地状況を把握するために現況調査を行なう
①構造物位置、交差または付替道路、用排水系統等の確認
②地形、地質、地物、植生、土地利用状況及び文化財の確認
③地質については地質調査結果より把握するが調査が必要必要と判断される場合は、
その理由と位置について提案する
④近隣住民への周知徹底(特に主となる、市町村役場、町内会長、考慮すべき関係団体)
⑤現地調査における段取りの確認(計測・収集する物、効率性を考慮に入れる)
⑥必要機器・調査票等をチェックリストにより確認(チェックリストは業務により異なる) 現地踏査
業務仕様を満たすための資料作成
①予備設計、既往資料の整理
②現地調査の結果を整理、把握
③上記資料の問題点、質問事項をまとめる
0.2
1 0.2 設計図書に基づき作業方針を検討し、計画する
①業務の目的・主旨を把握したうえで業務内容を確認する
②業務概要・実施方針・業務工程・業務組織計画・打ち合わせ計画の確認
③成果品の品質を確保するための計画
④使用する図書および基準の確認
⑤貸与資料の確認
設計計画 1 1 1
指標:課業の達成度 レベル1~4(4が高い) 2011年11月6日 指標:課業の達成度
レベル1~4(4が高い) 2010年11月4日
1
1
1 1 1
2 2 指標:重要度
0.1~0.4 (0.4が高い)
1
2 2 2
0.4
2 2
※業務の流れに従う(若干の前後あり)
業務 課業 課業内容 重み
提案書の作成 業務受注のための作業 但し、このレベルでは対象としない 受注業務対応準備 業務スキル版に従う
内勤
既往資料の検討
業務仕様を満たすための資料作成
①予備設計、既往資料の整理
②現地調査の結果を整理、把握
③上記資料の問題点、質問事項をまとめる 設計図書に基づき作業方針を検討し、計画する
①業務の目的・主旨を把握したうえで業務内容を確認する
②業務概要・実施方針・業務工程・業務組織計画・打ち合わせ計画の確認
③成果品の品質を確保するための計画
④使用する図書および基準の確認
⑤貸与資料の確認 設計計画
指標 0 (0
配属:本社 氏名:Aさん
重み付け係数 Aさん 先輩 課長 Aさん 先輩 課長
2 0.2
1 1 1
指標:課業の達成度 レベル1~4(4が高い) 2011年11月6日 指標:課業の達成度
レベル1~4(4が高い) 2010年11月4日
1
1 1 1
2 2 指標:重要度
0.1~0.4 (0.4が高い)
1 0.4
2
図 8-5 スキル分析(技術版)の参考例
測定開始 1年後
出所: 山﨑(2012)
「②キーワード」は、ベテラン技術者と若手中堅技術者の間に共通の認識を持たせるた めのステップである。共通の言語により意思疎通の円滑化を図ることが目的である。企業 に入るまでに受けた教育だけでなく、日々の業務において使用しているキーワードを拾い 集めて整理する必要がある。
「③事例」は、課業スキル表やキーワードだけでは気づくのが難しい行間を理解するた めに使用する。課業スキル表によって業務の流れを理解し、キーワードを認識した上に使 用するものである。①課業スキル表、②キーワードとあわせて知識や知恵などを整理・蓄 積をするための道具である。事例については、後に詳述する「8.3 実験の内容」において 具体的に示すものとする。
「④擬似訓練」は、課業スキル表、キーワード、事例による普段の自己研鑽における訓 練を経た後に、事例で訓練したことをベテラン技術者と共に擬似体験するものである。本 当の現場で行うものでなく、室内を基本とする。ベテラン技術者は、若手中堅技術者が技 術者直観に気付き、それを高めていくことを支援する役割を担う。
「⑤協働」は、擬似訓練までの段階を経た後、ベテラン技術者と共に実際の業務を遂行 していく中で、技術者直観を引き継いでいくものである。協働による集積をした後に、振 り返ることがとても重要になる。擬似訓練との違いは、現実の厳しい環境下で行っていく ため、集積の密度は非常に高いものとなる点である。