第 8 章 技術者直観が伝わる人材育成方法の検証
8.4 方法論の検証
方法論の検証には、インタビュー調査およびアンケート調査を行った。実験は、2回行 った。第1回の実験は、第8回技術伝承研究会として、2013年5月7日(火)16:00~18:00 に技術者・人材育成担当者を対象に実施した。第2回の実験は、第17回技術伝承研究会 として、2014年11月15日(土)13:00~17:00に就職先が決まっている学生を対象に実施 した。すでに現場の一線で活躍する人とこれから社会に出る人のデータを収集することで、
方法論として必要なものを探すことを目的とした。結果は次のとおりである。
8.4.1 技術者・人材育成担当者への実験
第8回技術伝承研究会として、2013年5月7日(火)16:00~18:00に実験を実施した。
技術者・人材育成担当者を選定したのは、すでに現場の第一線で活躍する人たちであり、
方法論に必要なものを理解していると考えたためである。場所は、法政大学新一口坂校舎 で、参加者は7名(技術者3名、育成担当1名、研究者2名、民間研究所1名)の社会人で ある。上述の理論「技術者直観」と5つの活動の連携による育成について説明後、参加者を 対象に実験を行った。実験後、対象者にインタビューし、短期的な効果について検証を行 った。若手志望者・若手技術者に対する次の段階で注意する材料を得ることが出来た。以 下は、参加者からの感想である。
(ア)技術者①
今回の実験は理解できる。都市における施工管理を主体にしている。所長として起こり うる問題を想定しつつ、普段からその対応に追われている。埋設物の確認は、都市建設で も重要である。文化財が発掘された時などは、その対処に時間を要する。何があるか知っ ておくことも大事だし、想定できるようにしておくことが重要ではないか。
(イ)技術者②
実験の内容は理解できるものである。調査・測量・設計などにおいて抜けてはならない ポイントがある。そこができるかできないかが最初の頃のレベルの違いではないだろうか。
他の専門での展開も考える必要がある。
(ウ)技術者③
当社では、失敗例を基にこういった研修を定期的に行っている。実際に行っているので その効果については認識している。ただ今回のように自身の専門でないことだとその感覚 はずれる。他の業務であるとどうでしょうか。
(エ)育成担当
工事を始める前に、施工前検討会というのを開きます。工事に起こるであろうことを皆 で想定し、確認する会です。それに似ているなと感じました。事務方として関与していま したが、納得できるものでした。時間が迫られる中で、どれだけそういったことを組み込 んでいけるかが大事だと思います。事前訓練としての効果はあると思います。
(オ)研究者
「気づくことに気づく」とはどう捉えるべきか。いわゆる気づきを与えるとの違いはなん であろうか。また、気づくことに気づく人と気づかない人の差は何であろう。さらに、方 法の効果を測定するという意味では、対象者の条件を設定して比較する必要があるだろう。
これは誰にでも適用可能か。建設技術者の候補者は、専門以外でも気づくのか。
(カ)民間研究所
建設技術については、全く知識・経験がないが、人事・労務の専門家として。これだけ 広範囲な情報の中で、必要なことを選び出すのは、高専・大学・大学院などの学びで出来 るのか。それとも、社会に出てから得るものによって可能になるのか。もし、5 つの活動 の連携による育成が機能するなら、どの期間(学校、企業)で適用させるべきか。
現場の一線で活躍する技術者・人材育成担当者からの意見は前向きであった。若手志望 者・若手技術者に対する次の段階で注意する材料を示せるものだという認識で一致した。
この方法論を道路設計技術者だけでなく他の専門技術分野に適用させて使っていくかが今 後の期待としても寄せられた。方法論の賛同を得られただけでなく、その実践性について も賛同を得られる結果となった。
8.4.2 就職先が決まっている学生への実験
第17回技術伝承研究会として2014年11月15日(土)13:00~17:00に実験を実施した。
就職先が決まっている学生を選定したのは、これから社会に出る人たちであり、現場のこ とを知らない視点から方法論に必要なものを見出せると考えたためである。この検証では、
法政大学デザイン工学部都市デザイン工学科の溝渕利明 教授、藤山知加子 教授のゼミナ ールの学生に協力を得て実施した。参加人数は11名である。2つの集団に分けて実験を行 った。検証は、5つの活動を実施した上で、アンケート調査と追跡調査によって行なった。
調査結果として、気づくことに気づく体験が出来た人は、全体の半数となった。また、活 動①~③に該当する事前資料は、7名が役に立つと回答した。さらに、実験の内容自体に は今後漠然ではあるが役に立ちそうだと感じてくれている。
念のため抜き出し調査として1名の学生に対して追跡インタビュー調査を行なった。追 跡インタビュー調査から再度確認したのは、学生の社会人基礎力である。非常に訓練され た優秀な学生であり、その能力の高さを確認した。実験時に観察していた通りで、どの学 生も水準以上である。
2014年11月15日(土)13:00~17:00
(1)検証概要
・目的 「学生が気づくことに気づく体験をし、技術者直観を高めるきっかけとなるか」
・就職が決まり、これから社会に出ていこうとする学生を対象に実施します。
・2つの班(A、B班)に分けて、気づく度合いを比較します。
(2)スケジュール
開催時間13:00~17:00
13:00~14:00 A班への講義(実質30分程度) B班は、14:00~
14:00~14:10 開催挨拶 14:10~16:40 グループ討議
グループ討議は、グループでの討議・発表・まとめで構成されます。
14:10~15:00 グループでの討議 問1 15:00~15:50 グループでの討議 問2
15:50~16:00 休憩 16:00~16:30 発表(学生) 16:30~16:40 まとめ 16:40~17:00 アンケート
状況写真 1 講師による A 班への事前講義 状況写真 2 グループ討議状況(A 班)
状況写真 3 グループ討議状況(B 班) 状況写真 4 発表状況
アンケート調査は、(a)本検証の目的に対する結果、(b)卓越した技術者になるための適正、
(c)被験者属性の3つから整理している。アンケートの結果は、次のとおりである。目的は、
「学生が気づくことに気づく体験をし、技術者直観を高めるきっかけとなるか」であった。
設定した全32問の質問項目のうち該当質問項目の5つを示す。
(1) Q.13 事前配布資料は役に立ちましたか。
結果 1 事前配布資料について n=11
結果1に示すように、事前資料は、1. とても役に立つ、2. まあまあ役に立つ、を 合計すると7名と半数以上が役に立ったと認識しているようである。
(2) Q.14 なぜそう思いましたか。(記述式)
事前資料が役に立ったと思った理由は、次の通りである。
・あらかじめ知識を準備できた。
・図面があることでより細部まで理解できた。
・事前資料を参考にグループ討議の時、意見を出した。
・話し合いの時に、スムーズに進んだと思うから。
(3) Q.15 今日のポイントに気づきましたか。
Q.18 最初の講義はポイントに気づくのに役に立ちましたか。(受けた人のみ)
結果 2 ポイントに気づいたか(全体) n=11
結果 3 ポイントに気づいたか(A 班) n=6 結果 4 ポイントに気づいたか(B 班) n=5
結果 5 事前講義の効果(A 班のみ) n=6
結果2に示すように、全体ではポイントに気づいた人と気づかなかった人の割合は2 つに分かれた。グループごとに集計を示したのが結果3、結果4である。A班の気づい た人と気づかなかった人の割合は2つに分かれている。B班は、気づかなかった人の割 合が高い。この結果から、「与えなかった人は気づかない割合が高い」が推察される。結 果5では、事前に講義を受けたA班にのみ答えたもらった結果である。今回講義自体の 効果は、確認されなかった。初回であり事前講義の中身は検討の余地がある。また、今 回だけではサンプル数が少なく検証としては、可能性としての推論でしかない。
(4) Q.16 今後、社会に出て役に立ちそうですか。
結果 6 社会で役に立ちそうか n=11
結果6に示すように役に立ちそうと答えた人が7名となったが、どちらともいえない と答えた人も4名となった。結果から推察できるのは、「漠然と役に立ちそうだと感じ てくれている」ことである。ただし、いいえの回答がないことに注意しておく必要がある。
(5) Q.19 自分を高める取り組みに変化はありどうですか。
結果 7 自分を高める変化となるか n=11
結果7に示すように、高める変化となるが6名と半数以上となり、自分を高める取り 組みの変化点となりそうである。ただし、いいえの回答がないことには注意しておく必 要がある。
以上のように、就職先が決まっていてこれから社会に出る学生からも方法論に対する賛 同を得られた。特に目的である、「学生が気づくことに気づく体験をし、技術者直観を高め るきっかけとなるか」については、基本的に理解が得られるものだったと回答を得た。
社会に出る前で現場のことを知らない学生が、この方法論を通して気づきを得られた点 は、実用に値するものである。また、これ以外の専門技術に関する事例があると良いとい う前向きな意見をいただいたのも特筆すべきところである。