• 検索結果がありません。

第 4 章 理論「技術者直観」の生成

4.2 技術伝承研究会における議論とインタビュー調査

4.2.2 インタビュー調査

以下は、それぞれのコメントである。

○K社I氏(ベテラン)

カン・コツは、あると思います。経験の積み重ねでしょうか。ただ、コンピュータには ないですよね。五感を使う上でのものだとも思います。やはり、訓練は必要だと考えます。

すぐ意思決定するといったことも、何がしかの訓練が必要でしょう。

○K社Y氏(中堅)

カン・コツみたいなものはあると思います。瞬時の判断みたいなものでしょうか。若手 が持ってきたものを確認すると、抜けているところとかがわかる瞬間とかはそういうもの かなと思います。カン・コツを感じたのは、例えば、転圧試験をするヤードの設計です。

若手は試験を正確にするための余裕がかなりない状況で、計画・設計してくる。うまく試 験にならないっていうことになったりします。やったことがないとわからないのもありま すが。転圧試験するのにヤードの面積が足りなかったりするのです。このあたりの判断の 範囲と速度はその能力だと言えるのではないでしょうか。

○K社O氏(若手)

上司・先輩のカン・コツをみせつけられた場面があります。また、自らの経験でいえば、

後輩が数値解析をしている時、ケースの立て方の方向性はあっているが、ロスがあったり 手戻りの発生するものとなっていたり。こうすればという感覚的なものがあると思います。

○N社F氏(中堅)

カン・コツのようなものはあると思います。洞察力が重要だと考えています。問題の本 質を見極める能力です。優れた建設コンサルタントは、この能力が高いと考えています。

これは、基準に従ってばかりでは身につかないものだと思っています。発注者との仕事の 中で鍛えられることがあります。無理難題を如何に解決するかという過程で身について行 く感じでしょうか。ベテランとの経験も然りです。

○N社S氏(ベテラン)

カン・コツは、あると思います。段階もあると思います。若手にはできないが、ベテラ ンとなるとできる。それをカン・コツといっています。表面的には、あまりそう言うこと はないですが。

○N社T氏(若手)

カン・コツはありかなと思います。業務経験をつまなければ、引き出しができないです し。自身でもカンを発揮した場面はあると思います。ですので、カン・コツは何となくイ メージがつきます。

○T社K氏(中堅)

カンやコツといったものはあるかもしれません。ここ危ないなといったものだったら経 験はあります。それを、直観力と表現することは可能かもしれません。

○T社I氏(若手)

カンやコツといった感覚があるのでしょうか。経験が浅いためかあまり感覚として理解 できません。もっと、経験していけばそういったものが理解できるようになるのかもしれ ません。

○T社S氏(若手)

カンやコツを発揮する能力は、多少はあるのではないかと思います。ただ、自分が感じ たことや実際に発揮したことがないので、何とも言えません。そういうものなのでしょう か。

○T社A氏(ベテラン)

カンやコツのようなものはあると思います。無駄から学ぶこともあると思いますし、失 敗をすることによって得るものもあるでしょう。そこらへんを許す限りさせてあげたいと 考えています。一番は、臨機応変にできる人間力と言えると思います。当然、ベースに基 づくもので単なるヤマ勘ではないですよ。自分で学ぶようになったら良いものです。自己 の向上心を上げることも大切になりますね。

(2)第 2 次調査

詳細調査として、15名のベテラン技術者へのインタビュー調査を行った。会社でこの人 をおいていないという、ベテランの中でも特に優れた人を紹介いただいた(表 4-3)。第 2 次調査は、最終的に結論付けた理論「技術者直観」を示した上で、その存在を確認したも のである。技術者直観(図1、図2、図3)にも賛同を得たものである。インタビューは、半 構造化形式で、1回につき約1時間半~2時間程度で、1人に対して複数回行った。インタ ビュー内容は、技術者直観についてどのように思うか、である。協力者の所属企業は、建 設業界において大企業・中堅企業に位置する。

ベテラン技術者の中でも特に優れた人15 名に意見を聴いた結果、第2次調査において も賛同を得られた。インタビューでは、ハイポイントインタビューの形式をとり、技術者 直観の推移を聴いていく中で、その能力の妥当性を得たものである。ベテランの中でも特 に優れた人もその能力を認める結果となった。

表 4-3 第 2 次調査対象者リスト

以下は、それぞれのコメントである。

○K社KI氏

20代後半からこの能力は高まったと思います。業務の主担当を任されたのがきっかけで した。30代になってからは、管理的な仕事の中で責任を持った意志決定を数多くするよう になりました。40代になるまでは、急速に伸びたと記憶しています。

○K社KO氏

3段階で上昇していったと思い起こします。第1段階は、24~28歳の時で、基礎を身に 付けた期間です。第2段階は34~37歳の時、工事課長として職で、これまでの経験がつ ながり始め、技術者直観が高まりました。第3段階は、39歳~で、所長としてより多くの 意志決定をする場面が増え、その幅が拡がっていきました。

○K社TK氏

30歳中盤まで技術者直観は一気に上昇していきました。それ以降41歳までは、あまり 高まった記憶がありません。41 歳で現場トップになって以降、また上昇していきました。

その後は、上昇と続けて現在に至っていると思います。

○K社TA氏

最初は、25歳に向けて高まっていったと思います。初任配属が、自分にとって未知の専 門で、特に勉強しました。その成果もあって、一人で仕事を任されたのはきっかけだった と思います。その後、31歳まで多くの業務経験を通して、スペシャリストとして能力を向 上させいきました。31歳の時、現場での経験を通して、卓上の計算と現実が一致するのを 目の当たりにしました。これは技術者直観の向上に大きく貢献したと思います。

No. 企業名 氏名 技術歴(年) 性別

1 K社 KI氏 28 男性

2 K社 KO氏 31 男性

3 K社 TK氏 30 男性

4 K社 TA氏 31 男性

5 K社 NA氏 35 男性

6 N社 K氏 42 男性

7 N社 S氏 43 男性

8 N社 H氏 44 男性

9 N社 M氏 43 男性

10 TB社 MK氏 33 男性

11 TB社 MY氏 36 男性

12 KK社 O氏 49 男性

13 KK社 N氏 43 男性

14 T社 F氏 45 男性

15 OT社 U氏 45 男性

○K社NA氏

技術者直観というのはいかがなものか。仮に、技術者直観という能力があったとしてそ の上昇というと難しい。最初設計で入った、36歳から現場監理にでて意志決定の機会が増 え、高まったと言えるかもしれない。とにかく失敗できないからプレッシャーは大きかっ た。そんな中の意志決定だから、会社が他の人より私に任せるのも理解できる気がする。

20代後半の海外現場を担当したのは、きっかけだったかもしれない。

○N社K氏

最初のきっかけは、30歳の時の大きな失敗でしょうか。あの失敗から、注意深くより多 くのものを調べ、より多くの人に聴きにいくようになりました。技術者直観の上昇の起点 であります。40歳の時にある専門の仕事を多く担当し始めます。ここからさらに技術者直 観は上昇して今に至っています。

○N社S氏

技術者直観という理論ね。わからなくもないが、判断力という意味ではそんな感覚と言 えるかもしれない。22~29歳には基礎習得でさまざま仕事をしたことが今でもその感覚を 支えている要因だと思う。その後は、責任ある立場を任される度に、その感覚は増してい った。50歳から現在においては、最高に高い感覚となっていると自負する。

○N社H氏

まあ、技術者直観というのはあるかもしれないね。20代でやったことが30代以降で、

意思決定・行動する支えになっている。私の場合、20代を除けば緩やかに上昇したと思う。

何かがなければ、意思決定・行動できないしね。案件が大きかったから責任もすごかった し。

○N社M氏

入社してすぐに出向して、技術者直観は高まったと思う。会社が修得したい技術を私と 他数名に任されての出向だった。今思えば良いきっかけだったのかもしれない。その後は、

管理職になったとき、意思決定と実行を繰り返し、技術者直観はより高まっていった。

○TB社MK氏

34 歳の時、国家資格(技術士)に合格してから、技術者直観は 43 歳までで一気に上昇し た。人が聴きに来るようになって、間違えられないし。その問答を繰り返していたら、嫌 でも高まった。あの10年は今考えれば大きいものだと思う。

○TB社MY氏

30 歳までは、技術者直観なんてものはなかった。ただ、30 歳の時に若くして現場代理 人次席になったときから現在まで、上昇し続けている。この能力のおかげで、所長として も多くの意志決定をしてきた。表だって言わないが、なければ成り立たないものだろう。

○KK社O氏

まあ、そういうものもあるか。私の場合、一年ごとに順次上がっていったと記憶してい る。国家的プロジェクトで大きな仕事が多かったから、意思決定スピードは上がらざるを 得なかった。70歳を過ぎるが、今でも高まり続けていると思うし、そのようにしている。

○KK社N氏

23~30歳で多くの現場経験を積んで、技術者直観はかなり高まったと思う。45歳まで

はそこで積んだものでやってきたぐらいだ。ただ、45歳後に自分の知識や経験を整理し始 めると、また技術者直観が高まっていった。

○T社F氏

現在 67 歳で振り返れば、体力的に負ける面もあったが、今では技術者直観を最高水準 に保っている。これは、若いときから色々挑戦的に取り組んだ結果、身についていったも のである。瞬発性の伴う意志決定と実行は、お客さんを納得させる上で欠かせない。

○OT社U氏

入社した時に、この能力はすでにある程度あった。学生時代にもともと同じようなこと をしていたから。その状態から積み重なっていったので、他の人より技術者直観は高かっ たと思う。上司や先輩からも重宝されたと記憶している。

以上、それぞれのコメントを記述してきた。ランダムに抽出した技術者と特に優れたベ テラン技術者がカン・コツ、技術者直観を認めている。また、バイアスをかけるようなイ ンタビューにならないよう細心の注意を払っている。具体的には、筆者自身が口を開かず、

聴くことに徹していることである。インタビュー後も調査に疑義がないか確認のため、協 力者と複数回のやりとりの上、結果をまとめたものである。

以上、技術伝承研究会での議論について述べてきた。このようにして生成したのが、理 論「技術者直観」である。技術者直観(Engineer’s Intuition)は、主に概念図によって示され た。また、言葉としての定義は、「ある環境下において、問題発見・原因究明・問題解決を 同時に瞬時にこなす能力」である。技術者直観は能力として認められるものである。ベテラ ン技術者になるにつれて、この能力は高まっていく。その過程は、集積することと使いこ なすことによって高まると考えられる。また、技術者直観のレベルは、広さと深さによっ て、発揮される内容が異なってくることも事実である。技術者直観は、パターンの組み合 わせとその反応性に特徴がある。