第二章 研究方法
第一節 調査方法と対象
本章では本論文に集約されている3つの調査(調査1;第二部第三章、調査2;第二部第 四章、調査3;第三部)について概説する。
第一項 調査 1 の方法と対象
調査1(第二部第三章)は、2012年3月から4月に行った在宅療養支援診療所医師を対
象とした質問紙およびインタビュー調査である。本調査では、医師と鍼灸師の連携関係に ついてその数量的な実態を明らかにするべく質問紙調査を行い、質問紙調査の回答者の中 から鍼灸師との連携経験をもつ医師を対象に、鍼灸師との連携経験および緩和ケアにおけ る鍼灸に対する考えについてインタビュー調査を行った。質問紙調査の対象は、末期がん 患者の在宅ケアの実施調査に基づき作成された「末期がんの方の在宅ケアデータベース」46 に2012年1月の時点で登録されている、在宅でのがん緩和ケア実績のある在宅療養支援診 療所 297 施設であった。郵送法による自記式質問紙調査を行い、回答は診療所所属の医師 に依頼した。質問紙については2012年2月上旬に発送し、2月末日を期限として返送を依 頼した。また、調査票の返送をもって調査協力の同意が得られたものとした。期限後半に 返送が得られなかった施設に対して、一度郵送にて返送依頼をした。質問紙の内容は、鍼 灸師と連携をして在宅緩和ケアを実践している施設数、連携の現状、および情報共有の実 態と方法を把握するものとした。また併せて在宅緩和ケア領域における鍼灸師との連携に 関する見解を得るための項目を作成した(付録1)。
インタビュー調査では、質問紙調査において「現在鍼灸師と連携している」と回答した 14 施設を対象に、郵送にて対面でのインタビュー調査を依頼し、最終的に 5 名の医師にインタビ ューを行った47。いずれの対象者へのインタビューも直接所属している施設に訪問し、予めおお まかに定めた質問内容に基づき半構造化面接を行った(付録 2)。質問内容は、連携経験のプロ セスを詳細に把握するために、「連携に至る経緯」、「連携の実態」、「連携することをどのように 捉えているか」の 3 点を主とし、特に質問紙調査の自由記述から抽出された「情報共有を密に 行う方法」「チームとしてのコミュニケーションの取り方」「多職種連携における鍼灸の位置づ け」の内容を交えながらインタビューを行った。インタビュー時間は26分から63分であった。
インタビュー実施回数は各対象者とも 1 回ずつであった。インタビュー内容に関して、テープ 起こししたデータを対象者に送付し、内容確認を行った。
第二項 調査 2 の方法と対象
調査2(第二部第四章)は、調査1と平行して実施した調査であり、2012年3月から2014 年12月にかけて行った緩和ケア病棟および緩和ケアが実践されている病院を対象とした調 査である。調査 1 が「在宅」の「場」における調査であったのに対し、本調査は「病院」
という「場」における他職種と鍼灸師の関係性の実態を明らかにすることを目的とした。
46 末期がんの方の在宅ケアデータベース[http://www.homehospice.jp/db/db.php]。
47 対象者の詳細は第三章第二節にて述べる。
本調査も調査 1 と同様に、質問紙調査により緩和ケア病棟における鍼灸師の実践実態を数 量的に明らかにし、さらにインタビュー調査を行い病院における鍼灸師と他職種の連携の 実態を明らかにすることを試みた。質問紙調査の対象は、2012年1月の時点で緩和ケア病 棟入院料加算を受けている医療機関 244 施設とした。郵送法による自記式質問紙調査を行 い、回答は緩和ケア病棟の病棟長ないし看護師長に依頼した。2012 年 3 月初旬に発送し、
3月15日を期限として返送を依頼した。調査1と同様、調査票の返送をもって調査協力の 同意が得られたものとした。期限後半に返送が得られなかった施設に対して、一度郵送に て返送依頼をした。質問紙の内容は、現在の鍼灸師による鍼灸治療実施の有無、鍼灸治療実 施の概況、鍼灸師による鍼灸治療が行われるようになった理由、緩和ケアチームに鍼灸師 が属しているか、チームケアに鍼灸師が携わることについての考え、緩和ケアにおいて鍼 灸治療が行われることについての考えに関してであった(付録3)。
質問紙調査後、回答施設のうち鍼灸師による鍼灸治療が実施されている施設にインタビ ュー調査を依頼したものの、どの施設からも調査協力を得ることができなかった。その為、
緩和ケアチームで患者ケアを実践しており、ケアの一環として鍼灸師による鍼灸治療が行 われている病院に所属している鍼灸師や他職種を便宜的にサンプリングし、インタビュー 調査を行った。最終的に11名のインタビュー調査協力を得られた。職種の内訳は、医師3 名、鍼灸師6名、看護師1名、臨床心理士1名であった48。この内、A病院に所属していた 医師1名、鍼灸師1名、看護師1名、臨床心理士1名の4名と、B病院に所属していた鍼 灸師2名についてはそれぞれグループインタビューを行った49。その他の5名は筆者と一対 一の対面でのインタビューを行った。インタビューの実施場所は、病院の診察室、待合室、
鍼灸治療室、また病院付近の喫茶店であった。インタビューは予め作成したインタビュー ガイドに基づき、特に病院内での連携の実態、各職種が感じる鍼灸師の緩和ケアにおける 役割についての内容を中心に半構造化面接を行った(付録 4)。インタビューの時間は 25 分から77分であった。
第三項 調査 3 の方法と対象
調査3(第三部)は、実際に緩和ケアの一環として鍼灸治療が行われる「場」の参与観察、
また、患者や鍼灸師、およびケアに関わる他職種に対するインタビュー調査である。調査 1,2は緩和ケアにおける鍼灸師と他職種との関係性を検討するための調査であった。調査3 は患者目線、および実際に緩和ケアの一環として鍼灸治療が行われている「場」で起こっ ている現象そのものに目を向け、末期がん患者にとっての鍼灸の「意味」について検討す ることを目的とした。
対象としたのは、在宅緩和ケアの一環として鍼灸師が施設に常勤雇用されているひろせ クリニックである。ひろせクリニックは調査 1 への調査協力が得られた施設でもある。そ の際には 1 名の医師の話を聞くのみで、ひろせクリニックでの鍼灸治療の実態や他職種と の関係性の実際について、その概要を把握するにとどまっていた。「鍼灸師がチームの一員
48 対象者の詳細は第四章にて述べる。
49 A病院でのグループインタビューは対象者の都合により、1回目が医師、臨床心理士、鍼灸師の3名で、2回目が看 護師、鍼灸師の2名でそれぞれグループインタビューを行った。なお、医師には別途一対一でのインタビューも行った。
またB病院でのグループインタビューでは、対象となった2名の鍼灸師以外に、オブザーバーとしてもう1名鍼灸師が 参加し、計3名でグループインタビューを行った。
となっている」同施設50において、実際にどのように鍼灸師がチームケアに参画しているの か、鍼灸師がチームケアに参画することは患者にとってどのような「意味」があるものな のか、またそもそも患者にとって鍼灸がどのような「意味」を持つものなのか。これらの 問いに対する答えを探索するためには実際に現場に入って筆者自身の目で確かめ、直接ケ アを受ける患者や、鍼灸師とともにケアを実践する他職種に生の声を聞く必要があった。
鍼灸師が常勤で医療機関に雇用されること自体珍しく51、特に緩和ケアチームの一員として がん緩和ケアに従事している施設というのは極めて珍しい。その意味でひろせクリニック は今後の緩和ケア領域での鍼灸師の関わりを模索する上で恰好の調査フィールドであった。
そのため筆者は調査3を遂行すべく、2013年の10月から複数回にわたってひろせクリニ ックを訪問し、鍼灸師の平岡健治氏52の訪問治療に見学という形で帯同した。その際に平岡 氏に対して同調査の主旨と概要を説明し、調査への協力を依頼した。平岡氏から調査同意 を得た後に、クリニック内の倫理委員会において調査実施の許可を得て調査を行う運びと なった。
2014年1月から2月にかけて平岡氏とメールおよび電話にてやり取りし、具体的な患者 宅への訪問治療の帯同日程をはじめ、調査時の詳細について逐次打ち合わせを行った。ひ ろせクリニックでの調査は、2014年の3月と8月のそれぞれ1ヶ月間、二期にわたり現地 に滞在して行った。調査期間中は平岡氏の往診車に同乗して患者宅への訪問調査を行った。
訪問調査を行わない時間帯には、ひろせクリニックの本院53を訪問し、患者カルテの閲覧を 行うか、他職種へのインタビューを行った。患者への調査協力の依頼は、事前に平岡氏が 患者に説明を行い、同意の得られた患者宅へ平岡氏に帯同して訪問した。筆者が訪問した 際に改めて研究内容と主旨について説明し、同意が得られた上で参与観察およびインタビ ュー調査を行った。同意が得られた患者については、調査期間中複数回訪問調査を行った。
また、他職種へのインタビューについては、患者調査と同様日時の調整や事前調査同意は 平岡氏に依頼し、調査同意の得られたスタッフにインタビュー調査を行った。他職種への インタビューは、筆者が訪問調査を行った患者のケアに関わるスタッフを中心に行った。
なお、対象者の詳細は第三部の各章において改めて詳述する。
参与観察54はベッドサイドから1m程度離れた場所で治療内容を観察するというスタイル で行った。治療行為には一切かかわらず、また極力通常の鍼灸治療のやり取りを観察する ため、鍼灸治療を行っている間は基本的に会話には参加せず、平岡氏と患者および家族と のやり取りに耳を傾けることに徹した。訪問時には患者の許可を得てICレコーダーにて治 療時の会話内容を録音し、また治療時に見聞したことをノートにメモし、筆者自身が見聞 し体験したままをフィールドノーツとしてその都度整理した。また、調査期間中筆者が都 合により訪問調査に帯同できない時には、平岡氏にICレコーダーを渡し、患者との会話内 容を録音してもらった。患者へのインタビューについては、身体的・精神的負担を考慮し、
50 調査2においてインタビュー調査を行った医師が、明確に「鍼灸師もチームの一員だから」と語っていた。詳細は第 三章第二節参照。
51 矢野ら[2012]参照。
52 平岡氏については第五章第二節において詳述する。調査3を遂行するにあたり最も重要なインフォーマントであった。
53 ひろせクリニックは訪問診療の拠点が本院、下田事業所、横田事業所の3箇所ある。各拠点の詳細は第五章第一節に 譲る。
54 キーファーによれば、参与観察法は「日常的な社会的場面に参加し、実際にその場面がどのように成り立っているの かを知ろうとするものである」[2010:42]。