第四章 病院での緩和ケアにおける他職種と鍼灸師の関係性
第二節 緩和ケアが行なわれる病院における鍼灸師と他職種の情報共有の実態
一方で、【病院で行う難しさ】では、<費用の問題>を指摘するものや、<病棟で行う難 しさ>そのものを指摘するものが見られた。【必要性のなさ】では症状緩和の手段としての
<必要性のなさ>や、<有効性の報告の少なさ>が指摘されており、鍼灸治療の<侵襲性 の問題>も指摘されていた。【よく知らない鍼灸】では、緩和ケアの中で鍼灸に何ができる かわからないという指摘が見られた81。
まず施設ごとにその特徴と対象者の特性について述べる。
[1]A 病院
A病院のインタビュー対象者は4名(医師AD、看護師AN、臨床心理士AP、鍼灸師AA)
であった。A 病院は中部地方にあるX県N市の地域がん診療連携拠点病院83である。緩和 ケア病棟は有していないが、緩和ケアチーム(医師、看護師、臨床心理士、理学療法士の4 職種からなる)による緩和ケア外来、および一般病棟の末期がん患者の緩和ケアが行われ ている。また、患者によってはチームケアの一環として鍼灸師による鍼治療84も行われてい る。本調査の対象となった鍼灸師AAは、通常はA病院に附属している人間ドックなどの 自費診療や検査を行う健康センターに所属しており、同センターのベッド 2 床の治療室に 常駐している85。普段は同治療室において、主に人間ドックを受けに来た患者の肩こりや腰 痛を中心とした症状に対する治療を行っている。
A 病院の緩和ケアチームが鍼灸師 AA と連携をするようになったのは筆者の調査時の半
83 病床数が400床以上あり、診療科が30科以上ある、X県の地域医療支援病院である。
84 病棟では基本的に防災や臭いの問題から灸治療を行うことができない。今回調査を行った6施設のうち灸治療を行っ ていたのはE病院のみであり、それも電気温灸器という煙の出ない機械を用いたお灸であった。
85 鍼灸師AAには、緩和ケアチームからの依頼以外にも産婦人科や整形外科などからも鍼灸治療の依頼が入ることがあ る。
年ほど前からである。化学療法科の医師が治療による副作用に苦しむ患者に対し、「何か手 立てがないか」ということで鍼灸師AAへ直接鍼治療を依頼したことから始まった。幸い鍼 治療が功を奏し患者の症状軽減が得られたことから、以前より鍼治療に関心があった医師 AD86が、その出来事を契機にオブザーバーとして鍼灸師AA をカンファレンスに参加する よう声をかけたのである。以来、鍼灸師AAはタイミングが合う際にはカンファレンスに積 極的に「顔を出す」ようになった。筆者の調査時までに、緩和ケアチームと鍼灸師AAが連 携する形で3 名のがん緩和ケア対象患者をフォローした。鍼灸師AA が病棟に治療に赴く 際には看護師AN が頻繁に帯同していたという。看護師ANは、鍼灸師AAと患者のもと へ帯同する際には鍼治療の前後に必ず細かな情報共有を行い、また鍼灸治療の理解を促す べく病棟看護師への鍼治療の説明も逐一丁寧に行っていたようである。また看護師 AN 以 外に、臨床心理士APも鍼灸師AAの治療に帯同したことが複数回あり、臨床心理士APも 治療前後の情報共有の重要性を指摘していた。一方で、医師 AD によれば、緩和ケア自体 が病院全体に浸透しているとは程遠い現状であり、他科との連携システムも未だ不十分な ところが多いという。そうした中で鍼灸師が緩和ケアの一手段として位置づくことにはな お難しい部分があると懸念している。
[2]B 病院
B病院のインタビュー対象者は鍼灸師2名(鍼灸師BA1、鍼灸師BA2)であった。B病 院は中部地方にあるY県B市の地域がん診療連携拠点病院である87。B病院では、緩和ケ アチーム加算を受ける緩和ケアチームによって、緩和ケア外来、および緩和ケア病床88入院 患者に対する緩和ケアが行われている。B 病院の緩和ケアチームのメンバーは、医師、看 護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、栄養士、臨床心理士、鍼灸師であり、チームメ ンバーには鍼灸師も含まれている89。鍼灸師は東洋医学科に所属しており、筆者の調査時に は鍼灸師が 3 名常駐していた。通常鍼灸師は東洋医学科内にある鍼灸治療室にて治療を行 っており、整形外科疾患や疼痛性疾患の患者や産科の患者を主に治療している。緩和ケア としての鍼灸治療は、緩和ケア科からのオーダーが入る際に必要に応じて随時行われると いう状況であった。
B病院の緩和ケアチームと鍼灸師との連携は筆者の調査時からおよそ15年前に遡る。当 時の緩和ケアチームの医師と東洋医学科の医師の繋がりから、鍼灸師BA2ががん緩和ケア 患者へのケアに関与するようになった。連携が始まった当初は医師や看護師の理解も有り、
「やりやすい」環境であったが、15 年間で緩和ケアチームの医師が入れ替わるごとに緩和 ケアチームの他職種と鍼灸師の連携の濃淡は変化していた。鍼灸を含めた東洋医学的なケ アへの関心が高くない医師に変わると紹介患者が激減し、一時はほとんど緩和ケア患者を 治療する機会がなくなったという。しかしここ数年の間に東洋医学科の医師の尽力も有り、
少しずつ緩和ケア患者の紹介が入るようになった。ただし、連携の形態はあくまで緩和ケ
86 鍼灸師AAは院内の広報誌において東洋医学のコラムを書くなど、精力的に院内での東洋医学・鍼灸の普及活動を行 っていた。医師ADはそうした鍼灸師AAの成果物をしばしば目にしていたのである。今回の緩和ケアチームとの連携 は、そうした地道な鍼灸師AAの活動が実ったものであるとも言える。
87 B病院は病床数500床以上、診療科が30科以上の大規模病院である。
88 一般病床の中に緩和ケア病床が8床ある。
89 B病院のホームページには、鍼灸師が緩和ケアチームの職種の一つとして明記されている。
ア科と東洋医学科の「医師同士の」連携であり、実質的には鍼灸師が緩和ケアチームの連 携の枠組みに入っているとは言い切れない現状にあるという。現在、1年前から新卒で勤務 している鍼灸師BA1が主に緩和ケア患者の治療に当たっているが、緩和ケアチームの枠組 みに入り切れない現状について苦悩している様子が語られていた。
[3]C 病院
C病院では2名(医師CD、鍼灸師CA)にインタビューを行った。C病院は首都圏にあ
る一般病院90であり、麻酔科出身の緩和ケア医である医師CDは副院長を勤めている。C病 院は在宅医療の拠点も有しており、病院での緩和ケアおよび在宅緩和ケアも行っている施 設である。C 病院は緩和ケアチーム加算を受けていないが、医師、看護師、理学療法士、
鍼灸師からなる実質的なチームで緩和ケアを行っている。鍼灸師CAは調査時には非常勤で あったが、10年以上前からC病院にて常勤として緩和ケアに従事していた。常勤時はがん 緩和ケアの患者のみならず、それ以外の外来・入院患者の鍼灸治療も行っていた。筆者調 査時はすでに独立開業して別の地域に鍼灸院を構えており、非常勤として週に1回C病院 の入院患者の治療を行っていた。
C病院での鍼灸師との連携のきっかけは、C病院の先代院長の影響が大きい。医師CDは 先代の病院を引き継いで現在C病院の副院長を勤めているが、もともとC病院では柔道整 復師や鍼灸師を雇用していた。そのため医師 CD にとっては小さい頃から日常的に見かけ る職種であり、またスポーツで怪我をした際に柔道整復師や鍼灸師の治療を受けた経験が あったため、極めて身近な存在であったという。麻酔科医の研修時代に鍼灸に触れること があり91、自身がC病院に戻ってくる際に鍼灸師が常駐しているのはむしろ当然の事であっ た。C病院には鍼灸師CA以外にも複数の鍼灸師が勤務していたことがあり、また在宅医療 の展開や自身が開発した疼痛治療機器の開発と普及の関係で外部の鍼灸師との繋がりも多 く、医師 CD にとって鍼灸師は他職種と同様に、チームケアを実践する上では連携対象と なる1つの重要な職種であった。医師CDと鍼灸師CAは互いに「阿吽の呼吸」という程 強い信頼関係を築いているが、それはそもそも連携関係が長いということそのものが最大 の理由であることは然ることながら、互いに対面での情報共有やこまめな声掛けを常に心 がけ、それを継続してきたことがその理由として挙げられるという。鍼灸師CAは常勤時代 ほど患者の状況やスタッフの状況がわからないため、非常勤になってからは情報共有の部 分で「やりづらいこともある」というが、積極的な他職種に対する声掛けもあってかスタ ッフ間の関係は良好で医師CDからの信頼も非常に厚い。
[4]D 病院
D病院では1名の医師(医師DD)にインタビューを行った。D病院は首都圏にある地域 がん連携拠点病院92である。緩和ケア病棟を有していないものの、麻酔科医で緩和ケアの専 門医でもある医師 DD を中心とした緩和ケアチームがあり、病棟入院患者のチームケアを
90 C病院は病床数100床以上、診療科が10科の一般病院である。
91 第三章の医師C、また本節で後述のD病院の医師DDも同じ麻酔科であるが、いずれも麻酔科のレジデント時代に鍼 治療を経験しており、筋性疼痛を始めとした疼痛症状に対して鍼灸が効果的であることを認識していた。
92 D病院は病床が1000床以上、診療科が30科以上ある特定機能病院である。