第三章 在宅緩和ケアにおける医師と鍼灸師の関係性−医師らの視点−
第一節 在宅療養支援診療所医師と鍼灸師との連携の実態調査
調査前月の在宅の往診患者数は110.4±110.9人、そのうち担がん患者数が16.2±23.0人 であった。また、最近半年で看取ったがん患者数は21.0±32.6人であった。
チームでの在宅緩和ケア61を実践しているかについて、「はい」と答えた施設が90(91.8%)、
「いいえ」と答えた施設が7(7.1%)であった(以下、施設数は数字のみを記す)。「はい」
と答えた90施設に対し、チームに関わる職種について複数回答で尋ねたところ、看護師90
(100%)、医師78(86.7%)、ケアマネージャー77(85.6%)、理学療法士50(55.6%)、 訪問介護士 49(54.4%)、医療ソーシャルワーカー(以下 MSW)38(42.2%)、作業療法
士24(26.7%)、あん摩マッサージ指圧師21(23.3%)、鍼灸師14(15.6%)、ボランティ
ア5(5.6%)、柔道整復師3(3.3%)、宗教家3(3.3%)であった62。
第二項 鍼灸師との連携の実態
[1]連携の実態
鍼灸師と連携して末期がん患者のケアを実践しているかについて、「はい」と回答した施 設が14(14.3%)、「現在はないが過去に連携したことがある」と回答した施設が9(9.2%)、
「いいえ」と回答した施設が75(76.5%)であった。
では以下から、現在鍼灸師と連携していると回答した14施設から得られた結果を示す(表 3-2)。鍼灸師と連携を持った理由として、「患者からの要望」が 8(57.1%)、「患者家族の
要望」が6(42.9%)、「他医療職種(鍼灸師以外)からの要望」が2(14.3%)、「鍼灸師か
らの要望」は 1(7.1%)であった。「その他」としての自由記述においては、「鍼灸師とと もに医療(統合)を実践してきたから」、「自分(医師自身)が鍼灸を行うので鍼灸の効果 をよく知っている」、「疼痛コントロール目的」など、医師側の意向で連携が行なわれ始め たという内容が5記述見られた。鍼灸師との連携の形態は、「常時チームケアメンバーとし
て」が 6(42.9%)、「連携の必要がある時のみ」が 8(57.1%)であった。「鍼灸師側から
の要望」はほとんど無く、ほぼ一方向的に患者か医師側から連携が始まる様子が伺える。
鍼灸師と連携してケアした患者の症状については、疼痛(がん性疼痛、関節痛、筋肉痛 含む)7(50%)、吃逆・浮腫・腹水がそれぞれ3(21.4%)、便秘2(14.3%)、肩こり・食 思不振・リハビリがそれぞれ 1(7.1%)であった。鍼灸師と連携することによるメリット については、「症状の緩和」、「患者の満足度の向上」、「患者のモチベーションの向上」など の記述が見られ、鍼灸治療が少なからず在宅緩和ケアにおける症状緩和の一手段と認識さ れていることがわかる63。また、鍼灸師と連携するメリットとして言及されている「患者の 満足度の向上」や「患者のモチベーションの向上」などの記述からは、鍼灸師が症状緩和
61 在宅緩和ケアチームにおいては、在宅医、訪問看護師、ケアマネージャーの三者の協働・連携が重要とされている[鈴 木 2008]。本調査結果においてもその割合を見る限り同様の結果となっている。
62 他職種の割合と比較する限りにおいては鍼灸師の割合は少ない。この結果については、末期がん患者の治療に鍼灸師 が関与していながらも、他職種とのチームには参画していないことの結果なのか、あるいは前提として末期がん患者の ケアに関与している鍼灸師の絶対数が少ないのか、その背景についてはさらなる精査が必要である。ただし、篠原[2003]
らの調査結果において、がん患者の治療経験を持つ鍼灸師の50%以上に末期がん患者の治療経験があったという調査結 果を考慮すると、他職種との連携を行なわず、単独で末期がん患者のケアに関与した経験を持つ鍼灸師が相当数いるこ とが予測される。
63 在宅緩和ケアにおける鍼灸治療の介入に関する臨床報告では、Takahashi[2009]は、便秘、呼吸困難、倦怠感に対 して、Romeoら[2015]は痛み、倦怠感、吐気、抑うつ、不安、呼吸苦、幸福感の増大に鍼治療が効果的であったとし ている。また、細田[2013]は、介入した経験がある症状として、多いものから、筋性疼痛、浮腫・腹水、痺れ、吃逆、
関節拘縮、全身倦怠感、全身調整、褥瘡を挙げている。
の一手段以上の役割をもつ職種と認識されている様子が伺える64。
[2]鍼灸師との情報共有について
鍼灸師と現在連携している14施設に対して、鍼灸師との情報共有の実態について尋ねた
(表3-3)。鍼灸師との情報共有の有無ついて、「必ず共有する」が7(50%)、「状況に応じ て共有する」が7(50%)、「情報共有しない」は無かった。情報共有の方法は、「カンファ レンス」が8(57.1%)、「電話」が7(50%)、「文書」が6(42.9%)、「カルテ」が5(35.7%)
であった。連携している 14 施設のうち、全ての施設が鍼灸師との情報共有を行っていた。
また8施設(57.1%)が「カンファレンス」による情報共有を行っていた65。
鍼灸師との情報共有の円滑さの認識については、「非常に円滑である」が4(28.9%)、「円 滑である」が 8(57.1%)、「あまり円滑ではない」が 2(14.3%)であった。「非常に円滑 である」または「円滑である」と答えた理由について、「院内にいますので」や、「以前か らカンファレンスを開き、かつカルテ、電話でのやりとりもしているため」という内容が 見られた。なお、「あまり円滑ではない」と答えた理由については、「カンファレンスがで きていない」という内容が見られた。
64 Kaufmanら[2008]は、鍼灸師への聞き取り調査から、鍼灸治療の主目的は症状コントロールにあるが、それと共
に心理的、社会的、霊的なケアにも関与している可能性について言及している。症状緩和以外の鍼灸の緩和ケアにおけ る積極的な「意味」については、第三部のエスノグラフィーにて詳述する。
65 ただし本調査では連携している鍼灸師が施設内部所属か外部施設所属かを調査しておらず、また具体的にどのような 状況で情報共有しているのかについてまでは把握できなかった。施設内連携と施設外連携のそれぞれの実態、および情 報共有の詳細については次章の在宅緩和ケア医らへのインタビュー調査にて触れる。
[3]鍼灸師との連携に対する考え
回答したすべての施設に対し、今後の在宅緩和ケアにおける鍼灸師との連携についての 考えを尋ね、鍼灸師との連携の状況で分類した(表 3-4)。全体のうち「積極的に連携した
い」が9(9.2%)、「状況によっては連携を考える」が65(66.3%)であった。現在連携し
ている施設、過去に連携したことがある施設は、1施設の無回答を除き「積極的に連携し たい」または「状況によっては連携を考える」に回答していた。また、連携していない施
設中49(65.3%)が「状況によっては連携を考える」に回答していた。「積極的に連携した
い」あるいは「状況によっては連携を考える」を選んだ理由の自由記述では、「症状コント ロールで非常に有用であるため」や「患者さん、ご家族の希望による」などが見られた。
鍼灸師との連携の経験を持つ医師は、概ね鍼灸師との連携に前向きな姿勢を示しており、
また連携の経験が無い医師についても、思いの外連携に対して肯定的な見解が多く、少な くとも否定的な見解は抱いていない医師が多いことがわかった66。
一方、全体のうち「連携するつもりはない」が 4(4.1%)、「連携を考えたことがない」
が18(18.4%)であり、いずれの回答も連携をしていない施設のみの回答であった。「連携
するつもりがない」を選んだ理由として、「これまで鍼灸師による『いいかげん』な発言や、
勝手に診断し病名を告げる行為があり、出来れば連携はしたくない」という記述が見られ た。また、「連携を考えたことがない」では、「医師との考えに隔たりのある鍼灸師が多く、
治療方針が対立する可能性があると考えられるため」などが見られた67。
66 これについては、Osakaら[2009]が明らかにしたように、緩和ケアに従事する医療者はCAMに対して比較的寛容 なスタンスを抱いているという結果とも一致している。
67 治療時間が長い鍼灸師は、患者が抱える様々な悩みを開示される場合がある[伊藤 2008]が、鍼灸師の不用意な発 言によっては患者や家族に誤解を与え、混乱が生じかねないので十分に注意する必要がある[細田 2013]とされてい る。Filshieら[2006]は、がん患者に対する鍼治療の禁忌や注意点を挙げながら、疾病の状況と通常治療の現在的状
第三項 「在宅緩和ケアに鍼灸が関わること」についての考え
同質問項目については、広く「在宅緩和ケアに鍼灸が関わること」に関する医師らの考 えの質的なバリエーションを把握することを目的にするとともに、次章で論じるインタビ ュー調査内容作成のためのローデータとする意図も含めて行った。
得られた68の記述内容を、KJ法を用いてカテゴリー分類したところ、【関わる上で求め るもの】、【関わりへの前向きな見解】、【関わりを持つ困難さ】、【関わることの意義】、【知 られていない鍼灸】、【リスクが生じる可能性】の6つのカテゴリーに分類された(表3-5)。
このうち、現在連携している施設、または過去に連携したことがある施設の記述は12記 述あり、それぞれ【関わる上で求めるもの】に6記述、【関わりへの前向きな見解】に5記 述、【関わることの意義】に1記述含まれていた。【関わる上で求めるもの】では、<適切 な情報共有>で「情報交換を密にすることにより緩和ができると考える」という記述や、
<チームとしてのコミュニケーションスキル>で「手技以外の部分でどういう人かをお互 いに知ることができる、顔の見える関係を持つことが重要だと思います」などの記述が見 られた。【関わりへの前向きな見解】では、<関わりへの前向きな認識>として「良いこと だと思う」や、<積極的な関わりの提案>として「もっと一般に認知されるべきだと思う」
などの記述が見られた。また、これまでに連携したことがない施設の46記述のうち、【関 わる上で求めるもの】では18記述、【関わることの意義】では10記述、【関わりへの前向 きな見解】では9記述、と在宅緩和ケアと鍼灸の関わりに関する多数の肯定的な記述が見 られた。
一方でこれまでに連携したことがない施設の記述には、【関わりを持つ困難さ】が 11 記 述、【知られていない鍼灸】が 5記述、【リスクが生じる可能性】が3記述と、肯定的では ない記述も見られた。【関わりを持つ困難さ】において、「疼痛管理においても種々鎮痛法 が進歩しているから必要性を感じない」など<必要性のなさ>が指摘され、「担がん患者は 経済的に厳しい場合も多く自費は勧めにくい」など<費用に関する課題>についての記述 が見られた。また、<伝統医療を受け入れる困難の存在>では「伝統的医療であるため西 洋医学の医師は受け入れが困難な様子」など医学モデルの違いについても言及されていた。
【知られていない鍼灸】では、「鍼灸師が具体的にどのようなことができるのか、緩和ケア としてどのように有意義なのか、よくわからない」など<関わる意義の不明さ>が指摘さ れていた。【リスクが生じる可能性】では、<施術上のリスク>として「出血傾向、易感染
況を適切に把握した上で鍼治療をおこなわなければならないと指摘している。また、間違った望みや、疾病の原因に対 する罪悪感を患者に与えるべきではないと指摘している。