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在宅療養支援診療所医師らの鍼灸師との連携経験に関する質的分析

第三章 在宅緩和ケアにおける医師と鍼灸師の関係性−医師らの視点−

第二節 在宅療養支援診療所医師らの鍼灸師との連携経験に関する質的分析

第一項 インタビュー対象者の特性

第一節の質問紙調査に回答した医師らのうち、鍼灸師との連携経験を持つ医師らを対象 に鍼灸師との連携経験に関する詳細を把握するためのインタビュー調査を行った68。インタ ビュー対象者は計5名で、診療所内部に鍼灸師を雇用して連携している医師2 名、診療所 外部の鍼灸師と連携している医師3名であった(表3-6)。医師A、Bは施設内部に所属する 鍼灸師との連携関係が主であり、調査時には外部鍼灸師との連携関係は無かった。医師C、

Dはいずれも医師側からの依頼で、医師Eはケアマネージャーからの依頼で施設外部の鍼 灸師との連携関係を築いていた。以下ではそれぞれの対象者の特性について概説する。

68 対象者選定の詳細は第二章第一節参照。

[1]医師 A

医師 A は在宅緩和ケアを専門に開業している。過去に某がんセンターにて患者ケアを実 践していた際に、術後の筋性疼痛に対して鍼灸師による鍼灸治療が著効したことを目の当 たりにし、以来がんに随伴する様々な愁訴に対して鍼灸治療を導入した。この経験から、

自身が在宅緩和ケアクリニックを開院する際に鍼灸師もチームの一員として迎え入れるこ とを考えていた。勤務看護師の縁で知り合った鍼灸師を当初は外部連携という形で、後に クリニックの専任スタッフとして迎え入れる。その後数名の入れ替わりがあり、2012 年4 月の時点で常勤鍼灸師が1名、外部連携鍼灸師が1名いる。A 医師の診療所所属の鍼灸師 は、カンファレンスを始めチーム間のコミュニケーションに様々な形で参加している。

医師 A は鍼灸師をチームのメンバーであると強く認識しており、症状コントロールに関 わることができる役割を持つ職種であると認識している。医師Aは「経絡治療」69のような 全身的なアプローチ、東洋医学独自の考え方に基づく鍼灸治療にこそ意味があると言及す る。ただし、鍼灸独自の経絡の概念などについては「自分自身は理解ができない。その効 果についてはブラックボックスである」という認識を抱いている。また西洋医学は「合理 性に基づくもの」であり、一方の東洋医学は「半分非合理的である」という解釈を有して おり、医師が双方を同時に行うことは難しいと考えているため、鍼灸を緩和ケアの実践に 導入するには鍼灸師とチームを組むしかない(「医師が中途半端にやるものではない」)、と も考えている。鍼灸の効果として、しゃっくりや浮腫などの症状に対しての有効性を強く 認識しており、科学的検証を重ねることで社会的認知も向上するであろうと強く感じてい る。

医師 A の診療所において患者の鍼灸治療導入について提案するのは医師や看護師が多い。

医師に限らず看護師も鍼灸を導入することに関して積極的であるのは、鍼灸には症状緩和 の効果があるという認識を持っているからである。また、終末期になるにつれて症状緩和 が難しくなる中で、「どのような手段でも患者さんに楽になってもらいたいという思いがあ る」ということもその背景にはあるようである。一方で医師Aは鍼灸の導入に関しては「有 効でない場合はすぐに止める」と語っており、「使えなければ使わない」という。鍼灸師側 も結果を出さなければならない状況に置かれ、なおかつチームで「監視して」いるため、「非 常にシビアである」と語る。

[2]医師 B

69 日本の鍼灸治療の流派の一つである。第五章第二節にて詳述している。

医師 B は有床診療所での緩和ケアを実践し、地域での在宅診療も実践している。今回の 調査では同施設常勤鍼灸師Sもインタビューに同席した。医師Bは地域中核病院で血液内 科の医師として勤務後上記場所に開院した。当初は外来のみの施設であったが、開院数年 後に緩和ケアを目的とした病棟を作った。病棟での緩和ケア実践の過程で患者のリハビリ が必要と考え、理学療法士やマッサージ師を探していた時に、患者の「リハビリを行う目 的で」専任として鍼灸師を雇うこととなった。

医師 B は在宅緩和ケアでのチーム医療として外部鍼灸師と連携をすることについては難 色を示しており、専任の鍼灸師 S とは同じ施設であるから連携するのは当然であるが、個 人情報の漏洩を含め、安易に外部鍼灸師と連携することはないとしている。また地域にお ける鍼灸師の臨床実践の不透明性にも言及しており、現状では仮に情報共有することを要 求されたとしても「答えられる状況に無い」としている。つまり、「どういう人たちで、何 をどのような目的でやっているのかがわからない」相手とは連携できないということであ った。また地域特性か、「鍼灸師側もさほど連携を求めているようには思えない」と医師B は感じており、地域の鍼灸師とは距離があると語っていた。仮に連携を持つ場合、情報提 供や連携を求める側が自分たち自身の自己紹介含め情報を開陳し、互いが何をしているか ということを明確に共有し合えなければ連携を始めることは難しいのではないかと考えて いる。

[3]医師 C

医師 C は在宅緩和ケアを専門として開業している。これまでに、地域中核病院で麻酔科 の専門医としてキャリアを積み、その後在宅緩和ケア診療所で在宅緩和ケアを実践してい たキャリアを持つ。この医師C の現在の開業形態は、前勤務地の在宅緩和ケア専門の診療 所での臨床経験に基づいている。前勤務地では在宅緩和ケアのチームに鍼灸師が参画して いた。そこではしゃっくりや浮腫のコントロールなど、実際に抱えている臨床症状に鍼灸 を応用していた。研修医時代には麻酔科の研修の一環で鍼灸に触れており、実際肩こりや 腰痛など、薬物でのコントロールが難しい愁訴に対して鍼灸、特に鍼治療を用いていたと いう経験を持つ。緩和ケア領域では、あるしゃっくりが止まらない患者を前にして手段が 無く困っていたところ、鍼灸師が鍼灸治療を実施し一発で症状が消失したのを目の当たり にし、「びっくりする」経験をしている。それが鍼灸を現在の臨床にも応用しようとしてい る直接的な経験になっている。現在1名の鍼灸師、また一つのマッサージ治療院との連携 を持っている。

1名の鍼灸師との出会いは、前勤務地の鍼灸師の紹介によるものであった。誰でもいい わけではなく、「信頼できる、腕のある鍼灸師」を求めていたために紹介依頼をしたという のがその始まりにある。鍼灸治療は鍼灸師の「力量の個人差が大きい」という認識が強く、

「なまじ誰でもいいから鍼灸をお願いするというわけではない」。紹介を受けた鍼灸師には、

適宜必要と見分けた患者を紹介する。「大きい目標」、「小さい目標」を医師側から情報提供 し、それに応じて鍼灸師は対応するという流れである。

医師Cは鍼灸治療について基本的なスキルを持っているものの、「東洋医学を本気でやろ うとすると西洋医学を捨てなければならない」と語り、自分自身が鍼灸治療を実践する立 場ではないとしている。また、鍼灸師を「東洋医学のスペシャリスト」と位置づけており、

共通の目標を共有した後には、基本的に治療内容には口を出さず完全に任せている。

鍼灸師側から時々FAX や直接施設に顔を出した際に情報提供がなされることがある。そ の情報は大概施設側も把握している情報であることが多いが、それを「直接的に鍼灸師に 対して患者が語る」という事実に対して医師 C は一定の鍼灸師の役割認識を抱いている。

特に「背中からボソボソ言う感じ」が鍼灸師のある種特有の臨床形態であると認識してお り、その時に「患者が語る」こと自体に鍼灸師が関わる意味があるのではないかという認 識を持っている。チームの構成員も鍼灸師が在宅緩和ケアに関わりを持つことに関しては

「理解を示して」おり、「患者さんにいいことなのであれば関わることはいいことなのでは ないか」という認識を共有しているとのことである。鍼灸師を「チームメンバーの一人」

と明確に表現している。

[4]医師 D

医師Dは家庭医であり、外来診療とともに在宅診療も行っており、在宅診療の中で緩和 ケアに関わることがある。学生時代より漢方薬を勉強しており、東洋医学の考え方につい ては医師になる前から非常に関心を持っていた。医師になって以降、漢方の学びを深める と共に鍼灸領域にも関心を持つようになる。各種勉強会に参加するようになり鍼灸の技術 も深め、臨床応用するようになる。慢性疼痛をはじめとして、自身の臨床経験も含めた鍼 灸の適応に対する考え方があり、在宅での終末期医療に西洋医学的な限界を感じる中で鍼 灸の必要性を感じ、鍼灸師との連携を図るようになる。

鍼灸師との連携の始まりは本当に偶然であった。診療所の患者会の会長が開業鍼灸師だ ったことである。またその開業鍼灸師は在宅鍼灸を行っており、医師Dの目的ともたまた ま合致していた。最初は遠慮しがちでアクセスしつつも、徐々に紹介する患者の数を増や して行き、いまではカンファレンスを実施することを画策するほどに緊密な連携関係を築 いている。連携モデルは「医師が鍼灸師に紹介する」という形態で成立している。逆に鍼 灸師側からのアクセスはあまり無く、医師Dは鍼灸師側の「遠慮」あるいは「聞きづらさ」

を感じている。それを医師D は一つの「壁」と表現しており、両者の間にある「壁」を無 くしていく必要性を強く感じている。医師Dとしては自分自身東洋医学への理解があるた め、できれば東洋医学的な情報共有もしたいと考えている。

一方鍼灸師を含めた形での多職種連携については、若干の難色を示している。それは鍼 灸への理解が看護職始め他の職種に必ずしも得られていないという理由からである。また 東洋医学的な捉え方について理解できる他職種が少ないため、その点での情報共有の難し さも感じている。効果を実感している訪問看護師も鍼灸に対して関心を抱いてはいるもの の、積極的な医療手段の一つとして理解しているかどうかについてはかなり個人差がある という。終末期のチームケアに鍼灸師が関わることにおいて、チームケアの主軸となる医 師が鍼灸を理解していることが一つの鍵であることを痛感する一方、本当の意味でのチー ムケアに鍼灸師が加わっていくには、他職種側の鍼灸師に対する職業理解を始め、多くの 難しさを感じている。

[5]医師 E

医師Eは在宅緩和ケアを専門に行っている開業医である。循環器外科を専門としており、