第 4 章 関節可動域の測定
2. 精度試験
2.1 アームの精度試験
2.1.3 試験結果
結果を図4.4(b)に示す.実線が実測値 (x, y),破線が設定値 (x', y')を表す.この図から次のこと がわかった.
①第1象限から第2象限までは徐々に,実測値が設定値から離れていった.角度が180°に近づ くにつれて,ズレも大きくなっていった.
この結果を2つの視点(曲線全体のズレと個々のズレ)から検討する.次頁に記す.
x y
100
Quadrant I
Quadrant II
検討
《 曲線全体のズレ 》
曲線のズレはアームの回転とともに,主にレーザマーカの照射口の偏心が大きくなったことが 原因と考える.
実測値の照射軌跡は,図4.5に示すシミュレーションによって推測できる.
(1)中心照射用レーザマーカの理想的な照射口位置を C1,測定用レーザマーカのそれを C2 とする.射出口に偏心が無く,完全にレーザマーカの中心にある場合,理想的な 照射スポット光の軌跡は曲線Pになる.
(2)測定用レーザマーカがaの位置にあるとき,仮に中心照射用レーザマーカの照射口位 置が7,測定用レーザマーカの照射口が3の位置に偏っていると仮定する.その場合 の位置関係をa:7-3と表す.
注:実際はこのように大きく偏心していないが,図解を容易にするために誇張し てある.
(3)その状態で,アームを徐々に回転させていくと,中心用レーザマーカはその場所で自 転し,測定用レーザマーカはアームと一緒に回転していく.そのときの両レーザマー カの位置関係は,a:7-3,b:6-3,c:5-3,d:4-3,e:3-3,f:2-3と変化し ていく.中心スポット光と測定スポット光の距離Lは,各位置において同じになり,
そのときの照射軌跡は曲線Qになる.
(4)実測時,方眼紙上での原点は,最初の中心照射用レーザマーカの位置7にある.その 位置を原点にして,距離Lの円を描くと,曲線Rになる.
注:曲線Pと曲線Qの軌跡は,方眼紙の原点をC1に設定したが,実測時は7が 原点になるように,レーザマーカを搭載した三脚を移動する.その時の軌跡が曲 線Rである.つまり,曲線Pは偏心が無い場合の設定値,曲線Qは偏心が有る場 合の設定値,曲線Rは偏心が有る場合の実測値である.
また,測定者は 7 の位置が,真のレーザマーカの中心射出口であると信じ,偏心 しているとは,まったく疑わずに,この 7 の位置を真の原点と認識するかもしれ ない.
(5)この曲線Rは,C1を原点とした座標系では,第1象限から徐々にズレて行き,第2 象限の180°近くで最大のズレを生む.
■以上のシミュレーションより,照射口の偏心が曲線全体のズレに対して,大きく影響を与えて いると考えられる.
図4.5 レーザマーカの偏心シミュレーション
中心照射用レーザマーカの理想的な照射口位置を C1,測定用レーザマーカのそ れをC2とすると,曲線Pは偏心の無い理想的な照射軌跡を表す.偏心が有って,
C1は7の位置,C2は3の位置にあると仮定する.そうすると,曲線Qは両レー ザマーカに同量の偏心があった場合の照射軌跡を表すことになる.曲線Rは曲線 Qのデータを方眼紙の原点(7の位置)を基準として描いた場合の照射軌跡を表す ことになる(半径は「7-3」の長さ,中心は「7」の位置).錯視的に見えるが,曲線 Rは「7」を中心とした円である.
■アームとレーザマーカの偏心の主たる原因は,次の3種類に大別できる.
①アームを貫通するシャフトの穴加工不良 ②レーザマーカとホルダの取付け不良 ③レーザマーカの寸法不良
それらの対策は,①と②は製作時に注意を払うことによって避けられる.③はレーザマーカの 射出口の偏心を検査する必要がある.例えば,
(1) レーザマーカをVブロックの溝に入れ,その位置で回転させたときの照射スポットのズ
1 2 3 4 5
6 7 8
1 23 4 5
6 7 8 1
2 3 4 5 6
7 8 1
2 3
4
5 6 7
8
12345 6 7 8
2 1 3 4 5
6
7 8
1 3 2 4 5 6 7
8
1 3 2 5 4 6 7
8
1 2 3 5 4 7 6 8
1 2
3 4 6 5 7 8
1 2 3456
78
1 2 3
4 5 6 8 7
1 2 3 4 5
6 7 8 Laser Marker
(Center)
C1 C2
Laser Marker (Measuring)
a b c
d e
f
P Q
R
Quadrant I Quadrant II
レから照射口の偏りを調べる.
(2) ダイヤルゲージの測定子をレーザマーカの外周に当てて,回転させたときのダイヤルゲ ージの変位量から形状の歪みを調べる.
■ここで分析した偏心の種類を表4.1に示す.
表4.1 アーム・レーザマーカ・ホルダが及ぼす偏心の種類 不良箇所が無い場合(正常)と有る場合(不良)を一覧する.
不良箇所
(内容) 正常
穴の偏心 貫通道の偏り
左横への偏り 右上への偏り
左横への偏り 右上への偏り
縦長 横長と照射口の偏り
右への偏り 下への偏り
アームのシャフト穴
(偏心)
レーザマーカ
(光線の偏り)
レーザマーカ
(形状の歪み)
レーザマーカとホルダ
(取付の偏り)
レーザマーカ
(照射口の偏り)
不良
検討
《 個々の2点のズレ 》
実測値と原点の距離La,同角度θa,設定値と原点の距離Ls,同角度θsとする.そして,個々 の実測値と設定値のズレを,距離の比La/Lsと角度の比θa/θsで表す.
補正の方法と結果を述べる.
■補正はズレが特に大きい第2象限にあるデータに対してのみ行った.補正式は,曲線全体のズ レが0°から180°にかけて徐々に増加しているため,余弦関数(cosine)を利用した.具体的には,
第2象限のデータのx座標値に-8cosθ,y座標値に+3cosθを付加した.その-8と+3の係数 は曲線のズレを図形的に分析し,試行錯誤的に決めた.
■距離の比La/Lsと角度の比θa/θsは,第1,2象限の全てのデータに対して求め,その結果 を表4.2に示す.
表4.2 アームの精度試験の測定値のズレと補正
アームの精度試験で得た実測値と設定値のズレと補正を,距離の比La/Lsと角 度の比θa/θsで表す.
この表から次のことがわかった.
①距離の実測値と設定値の比 La/Ls は,生データと補正データを比べると補正の効果があり,
それはアーム位置距離rが小さいほど補正の効果が大きかった.
解釈
この理由は,r が小さいほどアームの円弧の長さが短くなり,方眼紙上のスポット光の移動 範囲が小さくなって,方眼紙のマス目での読値が難しくなったためと考える.逆に,r が大 きいほど1°あたりの円弧の長さが長くなり,その分マス目面積も広がり,表示器の読値が容 易になった.一例として,r=500 mmでは1°あたりの円弧長は,500×π/180=8.7 mmになっ た.これは500 mmの位置を把持している状態で,アームを8 mmほど動かしても表示角度 は同じであることを意味する.つまり,そのような使用下では,θ は表示器の表示変動が少 ないということになる.レーザ角度計のアームの回転はかなり滑らかなので,把持している 手の振動が直接アームに伝わってしまったが,このような事情に因り,表示変動は少なかっ
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
100 1.03 0.04 1.00 0.02 0.99 0.02 0.99 0.02
200 1.02 0.02 1.00 0.01 1.00 0.01 1.00 0.01
300 1.01 0.02 1.00 0.01 1.00 0.01 1.00 0.01
400 1.01 0.01 1.00 0.00 1.00 0.01 1.00 0.01
500 1.01 0.01 1.00 0.00 1.00 0.00 1.00 0.00
レーザマーカ の位置距離
r (mm)
角度の実測/設定の比(θa/θs)
生データ 補正データ 生データ 補正データ
距離の実測/設定の比(La/Ls)
た.ゆえに表示角度θの読値による操作誤差は少なかったと言える.
②角度の比θa/θsは,補正の効果が無かった.
解釈
この理由は,上記の理由に関連しているが,オプティカルエンコーダの分解能は1°であるた めに,アームの円弧長に余裕があり,そのため補正効果が方眼紙のマス目読値と比べて反映 の度合いが低かったことだと考える.