第 4 章 関節可動域の測定
5. 生体 B の測定
5.3 測定結果
生体 B の自動運動 ROM (AROM)の測定結果を,模式図として図 4.9(a)–(f)に示す.他動運動 ROM (PROM)の参考可動域は,文献(日本リハビリテーション医学会,1994)から引用した.
(a) 頸部の屈曲・伸展・側屈AROM(右側面と背面から見た図) PROMの参考可動域:前屈60°,後屈50°,左屈50°,右屈50°
図4.9 生体Bの測定結果(模式図)(1/6)(Susato,2013)
屈曲 (前屈)
屈曲 (左側屈)
屈曲 (右側屈)
屈曲 (後屈)
外耳道 (前/後) 頭頂 (前/後,右/左)
耳輪 (右/左) 60°
f female m male
線種 測定点(方向)
S1f S2f S3f S4f S5f
S6m S7m S8m S9m S10m
頭頂 文献(JIS Z 8500:2002)の
図1に筆者が測定点と矢 印を加筆した
後頭点
耳輪
第7頸椎 外耳道
(b) 胸腰部の屈曲・伸展AROM(右側面から見た図) S2f,S3fは屈曲・伸展のデータ無し.
PROMの参考可動域:屈曲45°,伸展30°
図4.9 生体Bの測定結果(模式図)(2/6)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(c) 肩の屈曲・伸展,肘の屈曲AROM(右側面から見た図,肘の屈曲位置はピンで示す) PROMの参考可動域:肩屈曲180°,肩伸展50°,肘屈曲145°
図4.9 生体Bの測定結果(模式図)(3/6)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(d) 股の屈曲・伸展AROM(右側面から見た図) S1f,S2f,S3fは伸展のデータ無し.
PROMの参考可動域:屈曲125°,伸展15°
4.9 B 4/6 Susato 2013
S1f S2f S3f S4f S5f
S6m S7m S8m S9m S10m
0° Flexion Extension
Thoracic and Lumbar spines
S1f S2f S3f S4f S5f
S6m S7m S8m S9m S10m
0° Flexion
Extension
Shoulder Elbow
S1f S2f S3f S4f S5f
S6m S7m S8m S9m S10m
0°
Flexion
Extension
Hip
(e) 股の外転・内転AROM(上面から見た図) PROMでの参考可動域:外転45°,内転20°
図4.9 生体Bの測定結果(模式図)(5/6)(Susato,2013)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(f) 股の外旋・内旋AROM(上面から見た図) S1f,S2f,S3fは外旋・内旋のデータ無し.
PROMでの参考可動域:外旋45°,内旋45°
図4.9 生体Bの測定結果(模式図)(6/6)
注:全ての測定において,1回の測定時間は10~20秒かかった,正規性は確認された.
検討
■図 4.9(a)は,頭部の第 7頸椎を中心にして,「頭頂」を始点/終点として,前屈・後屈・左屈・
右屈の ROM 角度を破線で結んだ.同様に,「外耳道」を始点/終点として前屈・後屈の ROM 角度と,「耳輪」を始点/終点として左屈・右屈のROM角度とを実線で結んだ.8種類のROM 角度を,被験者の後方に立って頭上から見るように,模式的に同じ座標系に作図した.これに よって,被験者のROM角度パターンが描かれ,彼らの特徴が観察できた.
(1) 前屈では,「頭頂」と「外耳道」の被験者全員の平均 AROM 角度には,有意差は無かったが (p=0.16),後屈では有意差があった(p<0.001).後屈に関しては,測定点の外耳道は移動角 度の個人差が大きかった.これは外耳道と支点の第7頸椎棘突起との距離が接近している ためだと思われる.後屈時にそれらが接近する原因は,構造上の差異によるためか,ある
S1f S2f S3f S4f S5f
S6m S7m S8m S9m S10m
0° Adduction Abduction
Hip
S1f S2f S3f S4f S5f
S6m S7m S8m S9m S10m
0° External Rotation
Hip
Internal Rotation
いは,測定時の姿勢(例えば,首を前に突き出す姿勢,のけ反る姿勢)によるためか,今回 の測定ではわからなかった.
(2) 左右屈では,「頭頂」と「耳輪」には,有意差があった(p<0.001).右側屈の方が左側屈よりも 有意に大きかった(頭頂の場合はp=0.028,耳輪の場合はp=0.015).
■図4.9(d)は,右上前腸骨棘を中心にして,股の屈曲角度を右横から見たように模式的に表す.
■図4.9(e)は,右上前腸骨棘を中心にして,外転と内転角度を真上から見たように模式的に表す.
(1) 被験者全員の平均AROM角度は,外転の方が内転よりも,有意に大きかった(p=0.029).
(2) 被験者 S1fは外転角度が正常範囲(40–50°)と比べてかなり大きくなり,最大角(129°)では
「膝蓋骨」が隠れたため,「膝窩」で代用した.被験者S1f はクラシック・バレエの経験があ るため,外転が大きく,最大角では「膝蓋骨」が隠れたため,「膝窩」で代用した.このよう に可動範囲が大きい場合は,支点の「上前腸骨棘」が移動してしまうことが多い.対策とし て,このような自動運動では,骨盤を固定したり,臍のように変動が少ない箇所を支点に したりすることが考えられる.
外転・内転の回転中心は,「両側の上前腸骨棘を結ぶ線と上前腸骨棘より膝蓋骨中心を結 ぶ線が交わる点」と規定されているが(日本リハビリテーション医学会,1994),これを目測 することは極めて難しく,恣意的になると感じた.本研究では,視覚測定点として上前腸 骨棘を中心点,膝蓋骨を始点/終点として測定した(表 4.8 参照).このような代替法や補 完法においては,視覚測定点は有効であると考える.
■通常の関節可動範囲の規定は,健常者の可動量を障害者のリハビリテーション評価の指標とし て決められている.それゆえ,健常者の身体能力測定という見地による関節可動域規定も必要 だと思われる.村田は,「ポテンショメータ」で測角する角度計を考案し,健常者と障害者の日 常生活動作(机上の小物品を移動する動作,コーヒーを飲む動作)における肘関節の AROM を 調べ,肘関節の使用角度範囲を報告した(村田,1977).不破らは,多様な動作の AROM に対 応させる目的で,「歪ゲージ」を用いた市販の角度計に改良を加え,新しい測定法を提案した(不 破他,2005).
■仰臥位では,雲台を 45°傾斜させた状態で高さを調整したが,現場が狭い場所では,高さを低 くして角度調整を行った方が好ましい.この測定では仰臥位の被験者を右方から測定したが,
下方(足方)からでも可能である.本研究から離れるが,カメラをベースに設置して撮影し,そ の画像上の関節可動域角度β を測り,(4.1)式または(4.2)式で角度変換すれば,実際の回転角度 βxが求まる(写真測量の応用).たとえベースがなくても,カメラを固定したときの観視角αが わかればβxを求めることができる.
■対馬らは,任意角度に設定した角度計を2 m離れた位置にデジタルビデオカメラから写し,そ の画像から角度を測り,測定者間と測定者内誤差を検討した(対馬他,2003).その実験では角
を当てて,それをカメラで写すときは,角度計もカメラもそれぞれが異なる高さになる場合が 多いと思われる.そうすると,俯角あるいは仰角は零0にはならない.したがって,そこには 観視角αが発生するため,ROM角度は(4.1)式または(4.2)式で変換されなければならない.
■齋藤らは,新たに電子式角度計を開発し,頭部の4方向のROMを測り,利き腕・年齢・男女 差について調べた(齋藤他,2006).図4.9(a)は,彼らの手法を参考にしたものである.また,彼 らは,「日本では頭頸部の関節可動域の研究は非常に少ない.」と指摘した.
■ROMの性差についての議論は多い.Leaらは,性差の有無についてそれぞれ異なる見解を示し た研究を紹介した(Lea et al.,1995).武政らは,一般老人に27項目のPROMを測った結果,ROM 角度に左右差は無く,性差は測定項目によっては有ると示唆した(武政他,1997).
《 要点 》
■以上までの議論により,開発器は生体のROM測定に適用できると判断した.
測定風景を図4.10に示す.
(a) 外転角度 (b) 基本姿勢 図4.10 生体Bの関節可動域測定の風景