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第 2 章 測定原理と測定器の種類

4. 関連する技術と測定器

4.2 人体測定の要求精度と問題点

4.2.1 要求精度

■図2.25は,わずか3分野の計測部位サイズと要求精度を図解したものだが,この図が意図する ことは,『人体測定値の精度は,それが使われる分野の個々の項目(使用目的・内容・対象)で 決められるべきものである』と解釈できる.

本研究では,15 cm~175 cmまでの部位を測定したが,これはアパレル分野の部位サイズに ほぼ該当する.図より部位サイズ15 cmは要求精度が0.4 mm~1.5 cm(=0.27%~10%)になり,

部位サイズ175 cmは要求精度が6 mm~3 cm(=0.35%~1.8%)になることがわかる.

■河内らは,人体測定における偶然誤差の報告で,「人体は剛体ではないため,測定点を0.1 mm 単位の精度で位置決めを行うことは不可能である.これがなぜ人体計測で使われる器具がミリ メートルで目盛られているかの理由である.」と述べた(Kouchi et al.,1996).

《 関節可動域測定の場合 》

関節可動域測定で要求される角度に関する精度は,1°単位が大多数である.測定器の中には,

目盛板の目量が2°や5°の関節角度計もある.

注:人骨計測法では0.1 mm単位が必要である.測定項目の中には,測定値によって区分 される項目もある.例えば,頭蓋のナジオンnasion (鼻根点)とプロスティオンprosthion (上顎最前方点)とを結ぶ直線が耳眼面と作る「全側面角」は,5 つに区分されている.そ こでは,「正顎」が 85.0°から 92.9°まで,「過正顎」が 93.0°以上と規定されている(『人体 計測法 Ⅱ人骨計測法』,p. 233,1991).

ROM 測定が本格的に実施される主要分野は,リハビリテーションである.測定者は最終域感 を調べながら,測定値は正常可動範囲内か,あるいは正常可動範囲外かの2つに区分される.と ころが,その正常可動範囲内の平均値は,被験者の人種・性別・年齢,測定期間等によって,文 献間に大きな差異がある.そのため一つの測定項目に対して,複数の出典によるデータ群を載せ ている文献もある.例えば,股関節の平均外転角度は,40°から 55.5°までの複数のデータとそれ らの出典が示されている(Norkin et al.,pp. 229–231,p. 427,2009).日本整形外科学会と日本リ ハビリテーション医学会が制定した測定法では,あえて「正常値」という名称は用いず,「参考可 動域」と称している.それに拠ると,外転角度は 45°という値になっている(日本リハビリテーシ ョン医学会,1995).

注:このような「標準値の曖昧性や寛容性」は,測定器の精度問題とは別次元の話である が,関節可動域測定の本質的困難性(人が同じ動作を完全に再現することは不可能に近い こと)を如実に示している.形態測定は,被験者を動かない状態にしてから,部位点間の 距離を測定するが,関節可動性測定は部位を動かしながら,あるいは動かし終えた状態 で,部位長軸の移動角度を測定する.本研究は,部位の動きによる正常可動範囲の不均 一性や身体運動の非再現性そのものについては議論しない.ただし,部位軸の動きに関 しては,測定器と測定法から検討を少し加えている(第4章6.2.2節,6.4節参照).

既存の関節角度計の分度器自体は小さく,例えば分度器の直径が80 mmであれば,1°の外周の

目幅は約0.7 mmとなる.その間に目盛線を数本入れることは加工上,可能であっても,使用上,

現実的ではない.1°で十分である.もし分度器が直径80 mmより小さければ,その目盛線引き加 工と読値時の視差の点から,1°を超える目量と1 mmを超える目幅が必要である.それが2°や5°

の目量をもつ関節角度計が存在する理由である.

ROM 研究では測定器への関心は,「精度」よりも「使用に基づく妥当性」にあると思われる.

Norkin らは,「角度計の角度単位が円の角度を正確に表しているかどうかについて疑問をもつ測

定者がいるかもしれないが,一般的には角度計の構造は適切であるため,測定の妥当性について の問題は,角度計が関節位置とそのROMを正確に測っているかどうかである.」と述べた(Norkin

et al.,p. 39,2009).Norkinらが挙げている角度計とは,伝統的な「万能角度計」や「傾斜角度計」

をさしている.そして,その比較で最良の黄金基準(Gold standard)となるのが,X 線写真法

(Radiography)であると述べた.Fishらは,肘の角度測定の妥当性と関節位置の視覚評価を検定す

るために,一眼レンズカメラを使い,写真測定法(Photography)の正確さを報告した(Fish et al., 1985).既存の測定器とは異なる新しい原理や構造の角度計に対しても,測定の妥当性について は,上記の見解が適用され得ると考える.

《 開発器の要求精度 》

■以上の先行研究の分析から,手操作の人体測定器では,距離は1 mm,角度は1°の精度をもつ だけで十分であると判断した.そして,この精度は開発器の設計に反映させた.

ドキュメント内 非接触式可搬型人体測定器の開発と応用 (ページ 79-82)