第 3 章 企業の行動 125
3.10 補償変分と等価変分および消費者余剰 ∗
り三角形IGEの面積だけ小さくなる。同様に価格がp∗より低いp1になると供給が減っ てやはり消費がOKまで減る。この場合は生産者余剰が三角形LBGに,消費者余剰が台 形ALGIになり,総余剰は三角形IGEの面積の分だけ小さくなる。したがって総余剰は 均衡価格において最大となることがわかる。これは競争経済における消費と生産の効率性 を示すものである。
3.10 補償変分と等価変分および消費者余剰∗ 159
EV =
∫ p′x px
˜
x(px, py,u¯′)dpx=e(p′x, py,u¯′)−e(px, py,u¯′)
一方消費者余剰とはある財のある需要量について消費者が支払ってもよいと思う金額と 実際に支払う金額の差を表すものと表現され,需要曲線(所得一定のもとでの通常の需要 関数から導かれる)と価格を示す水平線の間の面積として定義される。所得がmの場合,
X財の価格がpxからp′xに上昇したときの消費者余剰の変化(の絶対値)∆CSを考えて みると,通常の需要関数x(px, py, m)を用いて
∆CS=
∫ p′x px
x(px, py, m)dpx
と表される。これは需要曲線とpx,p′xを表す2本の水平線で囲まれた部分の面積である
(図3.12参照)。
所得が一定のmで,X財の価格がpxから上昇して行くと効用はu¯からu¯′へ向けて 低下して行くのでpx < p′′x < p′xを満たすp′′x についてx(p˜ ′′x, py,u¯′) < x(p′′x, py, m) <
˜
x(p′′x, py,u)¯ である*22。したがって
EV <∆CS < CV が得られる。
以上はX財が上級財の場合であるが,下級財の場合はどうであろうか。これは演習問 題としたい。
ここでpx < p′′x < p′xにおけるx(p˜ ′′x, py,u)¯ とx(p˜ ′′x, py,u¯′)との違いを考えてみよう。
X財の価格がpxからp′xに上昇したとき,価格の変化そのものによるX財の需要の変化,
すなわち代替効果とともに,それが間接的に引き起こす実質所得の変化(名目の所得は一 定)によっても需要が変化する。その実質所得の変化がもたらす効用の変化がu¯′に表さ れている。したがって上記の2つの補償需要の差は所得効果を表している。もしX財以 外に多くの財があり,X財が消費者の予算に占める割合が小さければ所得効果は無視する ことができる程度に小さい。その場合近似的に
EV = ∆CS=CV が成り立つ。
■消費者余剰の経路依存性 ここまではX財の価格の変化だけを考えたがX財,Y財両 方の価格が変化した場合の消費者余剰の変化について考えてみよう。両財の価格の組が (px, py)から(p′x, p′y)に変化したものとし,この変化の経路について次の2通りの場合を 考える。
*22X財が上級財ならば価格一定のもとで効用が増大するように所得が増えていくと消費量が増 えていく。所得mでX財の価格がp′′x(px< p′′x< p′x)のときの効用はu¯とu¯′の間の値にな る。
需要 価
格
D p′x
px
図3.12 消費者余剰の変化
1. (px, py)−→(p′x, py)−→(p′x, p′y)という変化。つまりX財の価格が先に変化した 場合である。
2. (px, py)−→(px, p′y)−→(p′x, p′y)という変化。Y財の価格が先に変化した場合。
補償変分と等価変分はそれぞれ支出関数によって
CV =e(p′x, p′y,u)¯ −e(px, py,u)¯ EV =e(p′x, p′y,u¯′)−e(px, py,u¯′)
と表せる。ただしu¯′=v(p′x, p′y, m)である(mは一定の所得)。これらの表現から補償変 分と等価変分は価格変化の経路に依存しないことがわかる。補償変分の積分表示を考える と各経路について次のように表される。
1. CV1=
∫ p′x px
˜
x(px, py,u)dp¯ x+
∫ p′y py
˜
y(p′x, py,u)dp¯ y
2. CV2=
∫ p′x px
˜
x(px, p′y,u)dp¯ x+
∫ p′y py
˜
y(px, py,u)dp¯ y これらが等しくなるためには
∫ p′x px
[˜x(px, p′y,u)¯ −x(p˜ x, py,u)]dp¯ x
+
∫ p′y py
[˜y(px, py,u)¯ −y(p˜ ′x, py,u)]dp¯ y= 0 (3.10)
3.10 補償変分と等価変分および消費者余剰∗ 161 が成り立つことが必要(かつ十分)である。重積分を用いると左辺第1項は
∫ p′x px
∫ p′y py
∂x˜
∂pydpydpx
と,第2項は
−
∫ p′y py
∫ p′x px
∂y˜
∂pxdpxdpy と書くことができる。
ここで
˜
x(px, p′y,u)¯ −x(p˜ x, py,u) =¯
∫ p′y py
∂x˜
∂py
dpy(pxを一定として)
˜
y(px, py,u)¯ −y(p˜ ′x, py,u) =¯ −
∫ p′x px
∂y˜
∂px
dpx(pyを一定として)
である。
前章で見た(2.43)から
∂˜x
∂py
(px, py,u) =¯ ∂y˜
∂px
(px, py,u)¯
なので(3.10)が成り立つことが言える*23。すなわち補償変分は経路に依存しないことが
積分表示からも確認される。等価変分についても同様にu¯をu¯′に置き換えることによっ て経路に依存しないことが確認できる。
一方,それぞれの経路について消費者余剰の変化は次のように表される。
1. ∆CS=
∫ p′x px
x(px, py, m)dpx+
∫ p′y py
y(p′x, py, m)dpy
2. ∆CS=
∫ p′x px
x(px, p′y, m)dpx+
∫ p′y py
y(px, py, m)dpy
y(px, py, m)はY財の通常の需要関数である。これらが等しくなるためには
∫ p′x px
[x(px, p′y, m)−x(px, py, m)]dpx+
∫ p′y py
[y(px, py, m)−y(p′x, py, m)]dpy= 0
*23重積分の順番を変えてもその値は変わらない。直感的に言えば,立体図形の体積を求めるの に横に切った断面の面積(積分で求める)を縦方向に足し合わせても(もう一度積分しても), 縦に切った断面の面積(積分で求める)を横方向に足し合わせても(もう一度積分しても)同 じ結果になるようなものである。
が成り立つことが必要(かつ十分)である。重積分を用いると左辺第1項は
∫ p′x px
∫ p′y py
∂x
∂py
dpydpx
と,第2項は
−
∫ p′y py
∫ p′x px
∂y
∂px
dpxdpy
と書くことができる。前章で求めたスルツキー方程式より所得をmとして
∂x
∂py
= ∂x˜
∂py − ∂x
∂m
∂m
∂py
∂y
∂px = ∂y˜
∂px − ∂y
∂m
∂m
∂px が得られる。補償需要関数の性質から ∂p∂x˜
y と∂p∂y˜
x とは等しいが,所得効果の部分は異な る可能性があるので ∂p∂x
y と∂p∂y
x が等しいとは限らない。したがって消費者余剰の計算は 価格の変化を考える経路に依存する。つまり価格が変化する順番によってその大きさが異 なる可能性がある。しかし,X,Y以外に多くの財が存在するなど所得効果を無視できる 状況であれば消費者余剰は補償変分,等価変分にほぼ等しいので経済厚生を測る指標とし て用いることができるであろう。