第 3 章 企業の行動 125
3.19 公共財
3.19 公共財 183
警察サービスや国防などは対価を支払わない者の消費を排除することは不可能である か,もし可能であったとしても,ある人がお金を払わないからといってその人を警察の保 護の対象からはずしたり,軍隊(自衛隊)の防衛対象からはずすというのは国家が存在す る目的にそぐわないし手続きも面倒である(費用がかかる)。このように消費の非排除性 が存在する財については、消費者はまったく費用を負担しなくてもそれを消費できるの で,その財の費用を負担しようとしなくなる。このように費用を負担しないで財・サービ スを享受することを「ただ乗り(free ride)」と言う。多くの人々がただ乗りしようとして 費用を負担しなければ,民間企業ではその財を供給することができない。したがってこの ような財は強制的に費用を徴収できる政府の手に頼らざるをえない。しかし政府が公共財 をうまく供給できるかどうかはまた別問題である。
3.19.2 公共財の最適供給
xiを各個人の私的財(1種類とする)の消費量,yを公共財の供給量,1人1人の効用 関数をui(xi, y)とする。世の中にこの2種類の財しか存在しない。各自の所得をmi(定 数とする),私的財の価格は1,公共財の価格(費用)はp,人数をnとすると
∑n
i=1
(mi−xi) =py
が成り立つ。mi−xi は各個人から徴収する税であり,この式は政府の予算制約式と見 なすことができる。政府はこの予算制約のもとで人々の効用の加重平均∑n
i=1αiui(xi, y) を最大化する(∑n
i=1αi= 1)。加重平均が最大化されていれば各自の比重αiを一定とし て,誰かの効用を上げるためには他の誰かの効用を下げなければならないのでパレート効 率的(パレート最適)な状態になっている。ラグランジュ乗数をλとするとラグランジュ 関数は
L=
∑n
i=1
αiui(xi, y) +λ(
∑n
i=1
(mi−xi)−py) となる。これをxi,yで微分すると,各iについて
αi
∂ui
∂xi −λ= 0 および
∑n
i=1
αi
∂ui
∂y −pλ= 0 が得られる。上の式から
αi= (
1/∂ui
∂xi
) λ
3.19 公共財 185 が得られ,それを下の式に代入すると
∑n
i=1
[(∂ui
∂y )
/ (∂ui
∂xi
)]
=p (3.23)
が求まる。この式は
1人1人の公共財の限界効用と私的財の限界効用の比(公共財と私的財の限界代替 率)の和が公共財の価格に等しくなるように公共財の供給量を決めることが最適で ある
ことを意味する(これはサミュエルソン(Samuelson)の条件と呼ばれる)。効用関数が同 じなら,人数が多いほど一定の供給量について公共財と私的財の限界代替率の和が大きく なるので,この式を満たす公共財の供給量は一般に人数が多いときの方が大きい。
ラグランジュ乗数法を用いない場合は,予算制約式から
y= 1 p
∑n
i=1
(mi−xi) を求めて個人の効用関数に代入し,その加重平均
∑n
i=1
αiui(xi,1 p
∑n
j=1
(mj−xj)) (3.24)
を最大化する(∑n
i=1αi= 1)。これで同じ結果が得られることの確認は演習問題とする。
3.19.3 リンダール均衡
∗1人1人がどのように公共財の費用を負担するかという問題を考えてみよう。まず政府 が各自の負担率ti(負担の額ではない)を決める。そのとき公共財の供給量をyiとする と各個人の私的財の消費量はxi=mi−ptiyiとなる。p,mi,tiを与えられたものとし て個人の効用最大化(maxui(xi, yi))を考えると,(yi=mipt−xi
i であるから)その条件は
∂ui
∂xi
= 1 pti
∂ui
∂yi
(3.25) となる。そこで各個人はこの条件を満たすような公共財供給量yiを自らの希望として政 府に申告する。すべての人の希望が一致すればそれが政府が選ぶ公共財の供給量となる。
もし一致しなければ大きい供給量を希望した人の負担率を引き上げ,小さい供給量を希 望した人の負担率を引き下げる。限界効用逓減(あるいは公共財と私的財との限界代替 率逓減)を仮定すれば負担率tiが上がると ∂u∂yi
i を(∂u∂xi
i に対して)相対的に大きくしな
ければ(3.25)が満たされないので希望する公共財供給量yiを下げてくる。逆に負担が
減った人は希望する公共財供給量を上げる。このようにして調整を続ければ各自の希望
が近づいていき均衡において等しくなる。そのような均衡をリンダール均衡(Lindahl equilibrium)と呼ぶ。均衡における公共財供給量をyとする。(3.25)より
(∂ui
∂yi
) /
(∂ui
∂xi
)
=pti が得られ,これをすべての人について足し合わせると∑n
i=1ti= 1なので
∑n
i=1
[(∂ui
∂yi
) /
(∂ui
∂xi
)]
=p
が導かれる。この式は上記の(3.23)と同じである。したがってリンダール均衡において はパレート効率性が成り立っている。
大きな公共財供給量を希望すれば負担が上がるのでなるべく小さな希望を申告しようと いうインセンティブが生じる。自分が小さな希望を出しても他の人が大きな希望を出して くれれば少ない負担でそれなりの公共財を消費できる(これが「ただ乗り」である)。しか しみんながそう考えると全体として希望が小さくなり供給される公共財の量は小さくなっ てしまう*31。したがって政府が個人の効用関数を知っているのでない限り社会的に望ま しい公共財が供給されることにはならない。
3.19.4 グローブズメカニズム (Groves mechanism)
∗グローブズメカニズムと呼ばれる別の方法を紹介しよう。2人の人,A,Bがいて,あ る公共財を作るかどうか,また費用の負担をどうするかということを考える*32。その公 共財に対する各自の評価(貨幣で測った効用)はvA,vBで表される。公共財を作るのに 必要な費用はcであるとする。次のような手順で費用負担を決める。
1. 各自が評価額ri(i=A, B以下同じ)を申告する。ただしri =vi であるとは限ら ない。
2. rA+rB ≧cならば公共財を作るが,rA+rB< cならば作らない。
3. 公共財を作る場合の各自の費用負担額はcから相手の申告額を引いたものとする。
すなわちAの負担額はc−rB,Bの負担額はc−rAである。
もちろん2人の真の評価の和vA+vBがcより大きければ(小さくなければ)公共財を 作る価値がある。しかし,この方法において各自が真の評価viを申告するインセンティ ブを持つであろうか? Bの申告をrBとしてAの申告rAと(公共財の供給とその費用 負担から得られる)Aの効用との関係について以下のケースに分けて考えてみよう。
*31この状況は次章で扱うゲーム理論で言うところの「囚人のジレンマ」の一種である。
*32以下の内容は梶井厚志・松井彰彦『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』(日本評論社)を参考 にしたものである。