第 2 章 消費者の行動 22
2.10 効用最大化の数学的分析 ∗
2.10.12 多数財の効用最大化・支出最小化
財の数が2より多い場合の効用最大化について基本的な議論を紹介する。n個(nは 正の整数)の財がありそれらを1, 2, · · ·, nと表す。また,ある消費者の各財の消費量を xi(i= 1,2,· · ·, n),各財の価格をpi(i= 1,2,· · ·, n),所得をmで表す。効用関数が
u(x1, x2,· · ·, xn) であるとすれば,予算制約式は
p1x1+p2x2+· · ·+pnxn=m であるからラグランジュ関数は次のように書かれる。
L=u(x1, x2,· · · , xn) +λ(p1x1+p2x2+· · ·+pnxn−m) これをx1, x2,· · · , xnでそれぞれ微分しゼロとおくと
∂L
∂x1
= ∂u
∂x1
+λp1= 0
∂L
∂x2 = ∂u
∂x2 +λp2= 0
2.10 効用最大化の数学的分析∗ 97
· · ·
∂L
∂x1 = ∂u
∂xn +λpn= 0 となり,これらの式から
u1
p1 =u2
p2 =· · ·=un
pn =−λ (2.44)
が得られる。この式では∂x∂u
i =ui(i= 1,2,· · · , n)と表している。これらは各財の限界効 用である。(2.44)から次の関係が導かれる。
u1 u2
=p1 p2
, u1 u3
= p1 p3
, · · · ,u1 un
= p1 pn
, (2.45)
(2.45)は各財について第1財を基準として 限界代替率=相対価格 の関係が成り立つこと
を意味する。他の財を基準にしても同様の関係が得られる。
ラグランジュ乗数法を用いない計算によって,ラグランジュ乗数法を用いた場合と同じ 結果になることを確認してみよう。予算制約式から
x1=−1 p1
(p2x2+p3x3+· · ·+pnxn) + m p1
が得られ,これを効用関数に代入すると u(−1
p1(p2x2+p3x3+· · ·+pnxn) +m
p1, x2, x3,· · · , xn) となる。この効用関数をx2で微分してゼロとおくと
−u1
p2 p1
+u2= 0
が得られる。この式の第1項はx2が少し増加したときに,予算制約式にもとづいてx2の 増加分1に対して pp2
1 の割合でx1の消費量が減少するので,それによる効用の減少を表 している。第2項はx2の増加による直接的な効用の増加を表す。同様にx3, x4,· · ·, xn
で微分してゼロとおくと
−u1
p3
p1+u3= 0
−u1
p4
p1+u4= 0
· · ·
−u1
pn
p1
+un= 0
が得られる。以上の式からラグランジュ乗数法を用いた場合と同様に(2.45)に示した結 果が導かれる。各財について(ラグランジュ乗数法を用いた計算で得られる)n個の式と 予算制約式を合わせてn+ 1個の式からλおよびx1, x2· · ·, xn の合計n+ 1個の変数
の値が求まる*31。それぞれはp1, p2,· · · , pnとmの関数である。このようにして求めた x1, x2,· · ·, xnを効用関数に代入すれば間接効用関数
v(p1, p2,· · ·, pn, m) が得られる。
支出最小化も同様に考えることができる。支出を
m=p1x1+p2x2+· · ·+pnxn
と表し,一定の効用をu¯とするとラグランジュ関数は
L=p1x1+p2x2+· · ·+pnxn+λ(u(x1, x2,· · ·, xn)−u)¯ と書けるので,これをx1, x2,· · ·, xnで微分してゼロとおくと
∂L
∂x1
=p1+λu1= 0
∂L
∂x2
=p2+λu2= 0
· · ·
∂L
∂xn =pn+λun= 0
となり(2.44),(2.45)と同様の式が導かれ,それらn個の式とu(x1, x2,· · ·, xn) = ¯uか ら補償需要関数x˜1,x˜2,· · ·,x˜nがp1, p2,· · · , pnおよびu¯の関数として求まる。それらを 上記のmの式に代入すると支出関数
m(p1, p2,· · ·, pn,u)¯ が得られる。
ラグランジュ乗数法を用いない場合は次のように考える。u(x1, x2,· · ·, xn) = ¯uより x1=g(x2, x3,· · ·, xn)と表されると仮定し,これを予算を表す式に代入して得られる
m(x2, x3,· · ·, xn) =p1g(x2, x3,· · ·, xn) +p2x2+· · ·+pnxn を最小化する。u(x1, x2,· · ·, xn) = ¯uから
g2= ∂g
∂x2 =−u2
u1, g3=−u3
u1,· · · , gn =−un
u1
*31ラグランジュ乗数法を用いない計算ではx2,x3,· · ·,xnで微分して得られるn−1個の式 と予算制約式からx1, x2,· · ·, xnの値が求まる。
2.10 効用最大化の数学的分析∗ 99 が得られる。m(x2, x3,· · · , xn)をx2, x3,· · · , xn で微分してゼロとおくと1階条件と
して
∂m
∂x2 =−p1
u2
u1 +p2= 0
∂m
∂x3 =−p1
u3
u1 +p3= 0
· · ·
∂m
∂xn
=−p1
un
u1
+pn= 0
が得られる。これらからやはり(2.44),(2.45)と同様の式が導かれる。
■例:多数財の効用最大化・支出最小化の例 X,Y,Zの3財について次のような効用 関数を仮定する。
u=x3y2z 予算制約式は
pxx+pyy+pzz=m
であるとする(x,y,zは各財の消費量である),ラグランジュ関数は L=x3y2z+λ(pxx+pyy+pzz−m) となり,これをx,y,zで微分すると
3x2y2z+pxλ= 0 (2.46)
2x3yz+pyλ= 0 (2.47)
x3y2+pzλ= 0 (2.48)
が導かれる。これらの式から
pxx:pyy:pzz= 3 : 2 : 1 が得られるから予算制約式によって
x= m 2px
, y= m 3py
, z= m 6py
が求まる。これらの式は,この消費者は所得のうち1/2をX財の購入に,1/3をY財の 購入に,そして1/6をZ財の購入に当てることを意味する。
予算制約式を満たすようなx,y,zの変化は
px∆x+py∆y+pz∆z= 0
を満たすが,これだけでは∆xを決めても∆y,∆zは決まらない。∆yと∆zの比が一定 で∆z=a∆yであると仮定しよう。そのとき
px∆x+ (py+apz)∆y= 0
が成り立つ。したがって∆y=−py+appx z∆xである。∆x >0のときpy+apz >0なら ば∆y <0,py+apz<0ならば∆y >0(そのとき∆z <0)である(上の式が成り立つ ならばpy+apz= 0とはならない)。効用最大化の条件(2.46),(2.47),(2.48)が満たさ れるときには
3x2y2z− px
py+apz(2x3yz+ax3y2) =x3y2z [3
x− px
py+apz (2
y +a z
)]
= 0 (2.49) が成り立つ。x,y,zのわずかな変化による効用の変化は次のように表される。
∆u=3x2y2z∆x+ (2x3yz+ax3y2)∆y=x3y2z [3
x− px py+apz
(2 y +a
z )]
∆x (2.49)が成り立つときにはこれは0であるが,(∆x >0ならば)それよりもxが小さい ときには 3xが大きくなる。以下,次の3つのケースに分けて考える。
1. a >0のとき:y,zともに(2.49)を満たす水準よりも大きく,2y,az は小さくなる ので∆u >0となる。
2. a <0でpy+apz >0のとき:2y は小さくなり,az(a <0であるから)は負で あって絶対値が大きくなるので∆u >0となる。
3. a <0でpy+apz <0のとき:2y は大きくなり,az(a <0であるから)は負で あって絶対値が小さくなるが,p px
y+apz <0であるから∆u >0である。
(2.49)が成り立つときよりもxが大きい場合には同様の議論によって∆u <0が示され る。したがって(2.46),(2.47),(2.48)が成り立つときに効用は最大化される。
同じ効用関数で支出最小化を考える。ラグランジュ関数は L=pxx+pyy+pzz+λ(x3y2z−u)¯ となり(u¯は一定の効用),これをx,y,zで微分すると
px+λ3x2y2z= 0 (2.50)
py+λ2x3yz= 0 (2.51)
pz+λx3y2= 0 (2.52)
が得られ,効用最大化と同様に
pxx:pyy:pzz= 3 : 2 : 1
2.10 効用最大化の数学的分析∗ 101 を得る。さらにx3y2z= ¯uより補償需要関数
˜ x= 6
√
27p2ypzu¯ 4p3x
˜ y= 6
√
16p3xpzu¯ 27p4y
˜ z= 6
√ p3xp2yu¯ 108p5z が求まる。
x3y2z= ¯uを満たすようなx,y,zの変化は
3x2y2z∆x+ 2x3yz∆y+x3y2∆z= 0
を満たすが,これだけでは∆xを決めても∆y,∆zは決まらない。∆yと∆zの比が一定 で∆z=a∆yであると仮定しよう。そうすると
3x2y2z∆x+ 2x3yz∆y+ax3y2∆y=x3y2z [3
x∆x+ (2
y +a z
)
∆y ]
= 0 (2.53) が成り立つ。そのとき 2y+az = 0ではない。したがって
∆y=− ( 3
x 2 y +az
)
∆x
が得られる。支出最小化の条件(2.50),(2.51),(2.52)が満たされるときには
px−(py+apz) ( 3
x 2 y+az
)
= 0 (2.54)
が成り立つ。そのためにはpy+apzと 2
y +az が同符号でなければならず,またy,zの わずかな変化によってy2+azの符号が変ることはない。x,y,zのわずかな変化による支 出の変化∆mは次のように表される。
∆m=px∆x+py∆y+pz∆z= [
px−(py+apz) ( 3
x 2 y +az
)]
∆x
(2.54)が成り立つときにはこれは0であるが,(∆x >0ならば)それよりもxが小さい ときには 3xが大きくなる。以下,次の3つのケースに分けて考える。
1. a >0のとき:y,zともに(2.54)を満たす水準よりも大きく,2y,az は小さくなる ので∆m <0となる。
2. a <0で 2y +az >0のとき:2y は小さくなり,az(a <0であるから)は負であっ て絶対値が大きくなるから∆m <0となる。
3. a <0で 2y +az <0のとき:2y は大きくなり,az(a <0であるから)は負であっ て絶対値が小さくなるが,2y+az <0かつpy+apz<0であるから∆m <0であ る*32。
(2.54)が成り立つときよりもxが大きい場合には同様の議論によって∆m >0が示され る。したがって(2.50),(2.51),(2.52)が成り立つときに支出は最小化される。