第 3 章 企業の行動 125
3.5 競争的企業の供給曲線
3.5.2 利潤最大化
競争的企業は産出量を選択することによって利潤の最大化を図るのであるが,得られる 利潤は産出物の価格によって異なる。企業の利潤は次のように表される。
利潤=収入−総費用= (価格−平均費用)×産出量
= (価格−平均可変費用)×産出量−固定費用
表3.1の例に表されている費用のもとで価格が140のときと200のときの企業の収入 と利潤を表3.2に示す。
価格が200のときの利潤は産出量が12のとき最大の620となる。したがってそのとき の最適な産出量は12である。産出量12に対する限界費用は180で価格が限界費用を上 回っているが,産出量13に対する限界費用は210となり逆に限界費用の方が価格より大 きくなる。1単位多く生産すると収入は1単位の価格分増加し,費用の方は限界費用分増 加する。したがって『価格が限界費用より大きい間は産出量の増加によって利潤が増える が,限界費用の方が価格より大きくなると産出量の増加によって利潤が減る』ことにな る。そのため価格200に対しては産出量12が利潤を最大にする産出量となる。同様にし て価格が250になると(表には書いていないが)産出量が14のとき最大の利潤1270が 得られるので最適な産出量は14となる。
一方,価格が140のときの利潤は産出量が10のとき最大の−50となる。利潤がマイナ スになるのは価格が140であるのに対して,産出量が10のときの平均費用が145で価格 を上回っているためである。利潤はマイナスで損失が発生しているが,もし生産をやめる と固定費用だけの損失−500が発生することになるので生産を続けた方が損失は少ない。
しかし,もし価格が90になると最大利潤は産出量が8のときの−510となり固定費用分 の損失を上回ってしまうため生産をやめた方がよい。それは価格90,産出量8のとき平 均可変費用すなわち1単位当たりの可変費用が91で価格を上回っているので,販売収入 によって固定費用どころか可変費用分も回収できないからである。
以上のことから一般的に次の結論が得られる。
完全競争企業の利潤最大化条件 利潤を最大化しようとする完全競争企業の行動の規準は
3.5 競争的企業の供給曲線 143
産出量 収入
(価格=140)
利潤
(価格=140)
収入
(価格=200)
利潤
(価格=200)
0 0 −500 0 −500
1 140 −510 200 −450
2 280 −490 400 −370
3 420 −450 600 −270
4 560 −390 800 −150
5 700 −320 1000 −20
6 840 −240 1200 120
7 980 −170 1400 250
8 1120 −110 1600 370
9 1260 −70 1800 470
10 1400 −50 2000 550
11 1540 −60 2200 600
12 1680 −100 2400 620
13 1820 −170 2600 610
14 1960 −270 2800 570
15 2100 −400 3000 500
表3.2 産出量と収入・利潤(例)
以下のようである。
1. 利潤が最大となる産出量は,その産出量のときの限界費用が価格より低いかま たは等しく,1単位産出量を増やすと限界費用が価格を上回るようになる水準 である。
2. 価格が平均費用を下回ると損失が発生するが,平均可変費用を上回っていれば 損失は固定費用分より小さいので生産を続けるべきである。
3. 価格が平均可変費用の最低水準を下回った場合は,損失の大きさが固定費用を 上回るので生産をやめた方がよい。
財の価格と平均費用が等しくなるような産出量を損益分岐点と呼ぶ。財の価格と平均可変 費用が等しくなるような産出量を生産中止点と呼ぶ。
表3.1にもとづいて限界費用と価格との関係を図に表すと図3.8のようになる。この図 では価格を200と仮定している。図の長方形の棒で表されているのが各産出量について の限界費用である。この長方形の幅を1とすると,たとえば産出量12に対する可変費用
産出量 限界費用
価 格
200
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 図3.8 利潤最大化
は左から12個の長方形の面積の和として求められる*12。また収入は価格200を表す点 線と横軸,それに産出量12の縦の線で囲まれた部分の面積である。したがって,(固定費 用を除く前の)利潤は価格を表す線と長方形の棒の上の線(辺)の間の面積の,産出量1 から12までの図で網掛けをした部分の面積に等しい。この図からも,産出量が12のとき 利潤が最も大きくなることがわかる。産出量が13になると価格200の線より上に出てい る限界費用の部分が損失になるため利潤が減ってしまう。
もし産出量がいくらでも細かく分割できるならば,限界費用は図3.8の長方形の上の辺 を結ぶような形で図3.9のMCようになめらかな曲線で表すことができる*13。同様にし て平均可変費用は図のAVCのように描かれる。これらを限界費用曲線,平均可変費用曲 線と呼ぶ*14。固定費用を加えた平均費用曲線も同様に描くことができる。平均費用には
*12これは数学の積分と同じ考え方である。
*13産出量がいくらでも分割できる場合には限界費用は1単位産出量を増やしたときの費用の増 加ではなく,ごくわずかに産出量を増やしたときの費用の増加と産出量の増加との比(産出 量増加1単位当りの費用の増加)である。
*14表3.1の平均可変費用を図3.8の限界費用と同じように長方形の棒として描き,その上の辺 を結んでなめらかにすれば平均可変費用曲線が得られる。平均可変費用曲線が最低になると ころで限界費用曲線と平均可変費用曲線が交わっているのは,先に見たように平均可変費用 が最低になる産出量で限界費用と平均可変費用が等しくなるからである。平均費用も同様で ある。
3.5 競争的企業の供給曲線 145
産出量 限界費用
平均可変費用 価 格 p∗
x∗
AVC MC
B
図3.9 利潤最大化-産出量が分割可能な場合
固定費用も含まれているので,平均費用曲線は1単位当たりの固定費用分だけ平均可変費 用曲線より上にくる。産出量がいくらでも細かく分割できるならば産出量を調整すること によって限界費用をいくらでも価格に近づけることができるので次のような結論を得る。
完全競争企業の利潤最大化条件(産出量が分割可能な場合) 完全競争産業における企業 の利潤最大化の条件は,価格と限界費用が等しくなるような産出量を選ぶことで ある。
図3.9には価格がp∗のとき産出量x∗が選ばれる様子が描かれている。