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情報の非対称性の問題 - 中古車の売買,保険 ∗

ドキュメント内 12中級ミクロ経済学 (ページ 124-127)

第 2 章 消費者の行動 22

2.12 情報の非対称性の問題 - 中古車の売買,保険 ∗

■アレのパラドックス ノーベル賞受賞者アレによる期待効用理論に対する反例。期待効 用理論はたいへん便利であるが実際の人間の行動と合わない面もある。次のようなくじを 考える。

1. 1回目

オプションA:確実に1000円がもらえる。

オプションB:10%の確率で2500円がもらえて,89%で1000円,そして 1%は賞金なし。

2. 2回目

オプションA:11%の確率で1000円がもらえて,89%は賞金なし。

オプションB:10%で2500円もらえて,90%は賞金なし。

それぞれのくじでどちらのオプションを選択するかをアンケートしてみるとほとんどの人 は1回目はAを,2回目はBを選ぶ。しかし,期待効用理論に基づいて1000円,2500 円の効用をu1u2とすると(0の効用は0)1回目は

u1>0.1u2+ 0.89u1 より

0.11u1>0.1u2

を意味するのに対して,2回目は

0.11u1<0.1u2

を意味するので矛盾する。1回目は10%で2500円もらえるということより1%で何も なしという方を重視するからAを選び,2回目は1000円と2500円の確率の差がわずか

(とは言え1回目のBで何も得られない確率と同じであるが)なので2500円もらえる可 能性のあるBを選ぶと考えられる。このような矛盾点もあるが期待効用理論は非常に扱 いやすいのでゲーム理論を含め経済学で広く用いられている。一方で心理面も考慮に入れ て人間の経済行動を研究する行動経済学も発展してきている。

2.12 情報の非対称性の問題 - 中古車の売買,保険

詳しくは次の章で説明するが,市場経済を分析する際に通常は財の売り手と買い手は十 分に情報を持っている,あるいは情報を手に入れるのに費用はかからないものと仮定す る。しかし現実の経済においてはそうではないかもしれない。ここでは売り手と買い手が 異なる情報を持っているときに市場がうまく機能しなくなる可能性があるという問題につ いて簡単に触れてみたい。

中古車を持っていて売りたいと思っている人(売り手)が何人か,買いたいと思ってい る人(買い手)が何人かいるとする。売り手には2種類ありそれらをA,Bとする。Aの 車は品質のよいものでこれを200万円で売りたいと思っている。一方Bの車は品質がよ くなく100万円で売りたいと思っているとする。一方すべての買い手はよい車ならば240 万円,よくない車ならば120万で買う用意があるものとする。車の品質が買い手にわかっ ているのならば何の問題もない。よい車は200万〜240万円,よくない車は100万円〜

120万円で売れるであろう。しかし,買い手はそれぞれの車の品質がわからず推測するし かないものとする。これが情報の非対称性である(お互いが持っている情報が異なる)。

もしある車が等しい確率(つまり 12 の確率)でよい車,またはよくない車であるとすれ ば,買い手は(危険中立的であれば)

1

2 ×120万円+1

2×240万円= 180万円

支払ってもよいと思うであろう。危険回避的な行動を考えれば120万円以上ではあるが 180万円より小さい値になる。売り手の方はどうであろうか? よい車を持っている人は 200万円以上でなければ売らないのでよくない車だけが売りに出ることになる。しかし買 い手もそのことがわかるであろうから,180万円ではなく120万円以下でなければ買わな い。結局よくない車は取り引きされるがよい車の取引は行われないことになるのである。

上の不確実性を扱ったところで紹介した保険の市場においても,情報の非対称性がもた らす問題がある。けがをしたときにもらえる傷害保険を考えてみる。注意深い人と不注意 な人がいて本人は自分がどちらであるかを知っているが,保険会社にはわからないものと する。保険会社が平均的なけがの確率にもとづいて保険料を決めるとすると,不注意な人 は自分がけがをしやすいと思っているので割安な保険料となるからその保険に入ろうとす る。一方注意深い人は,自分はけがをしにくいと思っているであろうから割高な保険料に なってしまうのでその保険には加入しようとしないかもしれない。結果として保険会社に とっては望ましくないけがをしやすい不注意な人が多く加入し,本来なら入って欲しい注 意深い人はあまり入ってくれないということになって,そのままの保険料では赤字になる 可能性が出てくる。このような現象は逆選択(adverse selection)と言われる。より良 いものが選択されて残るのではなく,良いものがいなくなって悪いものが残ってしまうと いう意味である。逆淘汰とも言う。逆選択がもたらす影響を小さくするためには保険会社 がより綿密に加入者を調べることが必要になると考えられるが,以下で述べるスクリーニ ングは非対称情報のもとでこれに対応する1つの方法である。

もう1つ保険に伴う問題がある。自転車の盗難保険を考えてみよう。保険に入ると盗ま れても買い換えるお金がもらえるとなると保険に入っていない,あるいは保険がない場合 と比べて人々は盗難に対してより不注意になってしまうかもしれない。保険に入った人々 がどの程度の注意を払っているかを保険会社が調べることは難しいのでこれも情報が非対 称となる問題の例である。保険を提供する結果としてより盗難が起きやすくなれば保険会 社はそのことも考慮して保険料などを決めなければならず,場合によっては採算がとれな

2.12 情報の非対称性の問題-中古車の売買,保険 113 くなって保険が提供されなくなる可能性もある。これに対処する方法としては,盗難に

あった自転車を買い換える費用の全額を保険でカバーせずに半額や3分の2程度の額に してある程度本人に負担させる方法や,自動車の任意保険にあるように一度盗難にあった

(自動車の場合は事故を起こした)人が次に保険に入るときの保険料を高くすることなど が考えられるであろう。このように保険に加入することが人々の行動に悪い方に影響する というような問題はモラル・ハザード(moral hazard)と呼ばれる。

■逆選択に対する対応-スクリーニング 前節の保険の例を使って逆選択に対応する方法 を考えてみよう。タイプ1,タイプ2の人々がいて,ある事故を起こす可能性がある。事 故が起きないときの経済的利益は30,事故が起きたときの利益は0である(事故による 損害は30)とし,各タイプが事故を起こす確率と効用関数が次のようであるとする。

1. タイプ1:事故を起こす確率は 101,効用関数はu1(x) = 300 + 140x−x2 2. タイプ2:事故を起こす確率は 15,効用関数はu2(x) = 600 + 160x2x2

(保険なしに)事故が起きたときはx= 0,起きないときはx= 30である。この事故に関 する保険を販売する保険会社は上記の2つのタイプの人々がいることとそれぞれが事故を 起こす確率,さらに効用関数は知っているが誰がどのタイプかはわからないので区別して 保険加入を認めたり断ったりはできない。タイプ1の人々が保険に入らないときの期待効 用は上の例で計算したように3270であり,一方タイプ2の人々の期待効用は

3600×4

5+ 600×1

5 = 3000

である。損害がすべて保障されるような保険があるとして効用が3000になる保険料をy とすると

600 + 160(30−y)−2(30−y)2= 360040y2y2= 3000

よりy = 10となるからタイプ2の人々は10までの保険料を支払うことが可能である。

保険会社が1種類の商品だけを用意し,損害を全額保障するとするとタイプ1の人々は上 で見たように3.9までの保険料しか払わない。その保険料で保険を販売するとタイプ2の 人々も購入する。タイプ1とタイプ2の人々が同数いるとすると 203 の確率で事故が起こ るから損害額の期待値は4.5となり3.9の保険料では採算がとれない。採算がとれるよう な保険料にするとタイプ1の人が買ってくれない。これが逆選択であった。全額保障しな いとしても1種類の保険しか販売しないならば同じことが言える。そこで保険会社が次に 示す2つの商品を用意すると考えてみよう。

1. 保険1:損害保障額は20で保険料は5。したがって事故が起きたときの損害は(保 険料を含めて)15,起きなかったときは5。

2. 保険2:損害保障額は8で保険料は1。事故が起きたときの損害は(保険料を含め て)23,起きなかったときは1。

それぞれの保険を購入したときの各タイプの人々の期待効用を求める。

1. タイプ1:保険1から得られる期待効用は 3175× 9

10+ 2175× 1

10 = 3075 保険2から得られる期待効用は

3519× 9

10+ 1231× 1

103290>3270 であるからこれらの人々は保険2を購入する。

2. タイプ2:保険1から得られる期待効用は 3350×4

5 + 2550×1

5 = 3190>3000 保険2から得られる期待効用は

3558×4

5 + 1622×1

5 3171 であるからこれらの人々は保険1を購入する。

以上のような保険を販売すれば保険会社が個々人のタイプを見抜けなくても本人の行動に よってそのタイプが明らかになるように仕向けることができる。このように情報が非対称 な状況において情報を持っていない側(この例では保険会社)が保険商品などの仕組みを 工夫してその情報が間接的に表されるようにする行動をスクリーニング(screening)と呼 ぶ*34。この保険ではそれぞれのタイプの人々が事故を起こす確率を考えると保険会社の 採算に問題はない。この例ではタイプ1とタイプ2の人々が異なる効用関数を持ってい ると仮定した。つまりタイプ2の方がリスクが大きく,かつより危険回避的であると仮定 していた。しかし両タイプが同じ効用関数を持っていてもリスクが異なればスクリーニン グが可能となる場合もある。演習問題45を参照されたい。

情報の非対称性に関する重要な問題として「シグナリング」があるが,これはゲーム理 論の所で解説する。シグナリングはスクリーニングとは逆に情報を持っている側が間接的 にその情報を明らかにするような行動をとることを意味している。

2.13 危険回避的,危険中立的,危険愛好的な効用関数につい

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