第 2 章 消費者の行動 22
2.10 効用最大化の数学的分析 ∗
2.10.3 効用最大化問題の解法:間接効用関数,ロイの恒等式
消費者は予算制約式という制約条件のもとで効用を最大化するので,上で述べたラグラ ンジュ乗数法を用いて分析することができる。
*22g(x, y) = 0のような形に表される関数を陰関数と呼ぶ。ただし1つのxに対してg(x, y) = 0を満たすyがただ1つ存在するものとする。
2.10 効用最大化の数学的分析∗ 77
■効用最大化 2財X,Yを消費する消費者の効用関数は u=u(x, y) 予算制約式は
pxx+pyy=m (2.17)
と表される。x,yはX財,Y財の消費量を,px,pyはそれぞれの価格を表し,mはこの 消費者の所得である。ラグランジュ関数は
L=u(x, y) +λ(pxx+pyy−m) (2.18) となる。(2.18)をx,yで(偏)微分すると
ux+pxλ= 0 (2.19)
uy+pyλ= 0 (2.20)
が得られる。ux,uy はuのx,y についての偏微分であり,限界効用を表す。(2.19), (2.20)より
ux px
=uy py
=−λ (2.21)
が導かれる。これを変形すると
ux uy
= px py
(2.22) が得られる。この式の左辺は消費者の限界代替率(MRS,marginal rate of substitution), すなわち効用を一定に保つようなXとYの消費量の変化の比を表していて,cを定数と してu(x, y) =cをx,yで微分することによって
uxdx+uydy= 0 より
MRS =−dy dx =ux
uy
(2.23) のように求められる。(2.22)と(2.23)より消費者の効用最大化の条件として
限界代替率=相対価格 (2.24) の関係が導かれる。(2.21)の意味を考えてみよう。ux
px はX財の限界効用を価格で割った 値なので1円当たりのX財の限界効用を表すものと見ることができる。同様に upy
y は1 円当たりのY財の限界効用を表す。このように消費者の効用最大化問題におけるラグラ ンジュ乗数(の符号を変えたもの)は各財の1円当たりの限界効用に相当する*23。
*23これは貨幣(あるいは所得)の限界効用と呼ばれることもある。1円の貨幣あるいは所得の 増加によって得られる効用の増加を表しているという意味である。しかし序数的効用の立場 に立てば用いる効用関数によって貨幣の限界効用の大きさは異なる。
■例:効用最大化の具体例 具体的に次のような効用関数を仮定する。
u=x2y (2.25)
(2.25)で表される効用を上の(2.17)の予算制約式のもとで最大化する問題を考える。ラ
グランジュ関数は
L=x2y+λ(pxx+pyy−m) となり,これをx,yで微分すると
2xy+pxλ= 0 (2.26)
x2+pyλ= 0 (2.27)
が導かれる。この両式からλを消去すると,pxx= 2pyyが得られ,これを(2.17)に代入 すると
x= 2m 3px
y= m 3py
が求まる。これらの式は,この消費者は所得のうち2/3をX財の購入に,1/3をY財の 購入に当てることを意味する。このタイプの効用関数は「コブ・ダグラス型効用関数」と 呼ばれる*24。これらを効用関数に代入すると
v= (2m
3px
)2( m 3py
)
= 4m3 27p2xpy
が得られる。このvは間接効用関数(indirect utility function)と呼ばれる。与えら れた価格と所得のもとで効用最大化を実現した結果,間接的に得られる効用関数という意 味である。これをpx,py,mでそれぞれ微分すると
∂v
∂px
=− 8m3 27p3xpy
∂v
∂py
=− 4m3 27p2xp2y
∂v
∂m = 4m2 9p2xpy となり
− (∂v
∂px
) /
(∂v
∂m )
= 2m 3px
=x
*24次の章でコブ・ダグラス型生産関数というのを紹介する。元来「コブ・ダグラス型」という のは生産関数を指す言葉であった。
2.10 効用最大化の数学的分析∗ 79
− (∂v
∂py )
/ (∂v
∂m )
= m
3py =y を得る。これらをロイの恒等式と呼ぶ。
ここでpxx+pyy=mを満たすわずかなxとyの変化をそれぞれ∆x,∆yとすると
∆y
∆x=−ppxy が得られる。その変化に対するuの変化は(∂u∂x = 2xy,∂u∂y =x2より)
∆u= (2xy−px
pyx2)∆x=x(2y−px
pyx)∆x と表される。x <(>)3p2m
x のときy >(<)3pm
y であり,したがって2y >(<)ppx
yxであるか ら,x <(>)3p2m
x のとき∆u∆x >(<)0である。これはxが小さいときはその増加に伴って uが増加し,大きいときはxの増加によってuが減少することを意味するから,x= 3p2m
x
のときuは最大値をとる。
■一般的なコブ・ダグラス型効用関数 効用関数をu=xαyβとして予算制約pxx+pyy= mのもとで効用最大化を考えてみよう。ラグランジュ乗数法を用いると効用最大化の条 件は
αxα−1yβ+λpx= 0, βxαyβ−1+λpy = 0 となり,これと予算制約式から
x= αm
(α+β)px, y= βm (α+β)py となる。
■「ラグランジュ乗数法の直観的? 説明」 (ちょっと説明がしつこいかもしれない)あ る山がある。基準となる地点から東西方向に測った距離をx,南北方向に測った距離を yとして各地点の高さがf(x, y)という関数で表されるとする。直角の壁やそれ以上の斜 面,洞窟,尖った所などがなければf は連続でなめらか(微分可能)である*25。f(x, y) の偏微分の意味を考えてみよう。f をxで微分する際yの値は一定であるとする。した がってfxは基準地点から南北方向に一定の距離で引いた直線(東西方向に伸びる直線)
に沿った高さの変化を表す(それ自身x,yの関数)。一定とするyの値によってfxは異 なる(高さを測る場所が異なる)。fx= 0とおくとxとyの関係が得られるが,これは南 北方向に一定の距離の所で山を東西方向に切った断面の中で最も高い地点を表す。yの値 によって最高点のxの値は異なるかもしれない。同様にfyは基準地点から東西方向に一 定の距離で引いた直線(南北方向に伸びる直線)に沿った高さの変化を表す(やはりそれ 自身x,yの関数)。一定とするxの値によってfyは異なる。fy = 0とおいて得られる
*25直角の壁,それ以上の斜面,洞窟などがあると関数にはならない。1地点の高さが1つでは なくなる。最も高い所の高さだけをとれば連続にはならない。尖った所があれば連続であっ てもいくつも接線が引けるのでなめらか(微分可能)ではない。
xとyの関係は東西方向に一定の距離の所で山を南北方向に切った断面の中で最も高い地 点を表す。xの値によって最高点のxの値は異なるかもしれない。fx= 0とfy= 0の両 方を満たす地点が山全体の最高点(頂上)である。
ここで,山の中腹を通る(頂上を通ってもよいが)道があるとし,その道に沿って山 を登って行くことを考えてみよう。道はxとyの方程式で表される。それをg(x, y) = 0 とする。例えば2x+y = 6の場合g(x, y) = 2x+y−6である。この道に沿ってわずか に東西方向に移動した場合g(x, y) = 0を満たすように南北方向にも移動しなければなら ない。東西方向の移動距離を∆x,南北方向の移動距離を∆yとする。東西方向に∆xだ け移動したときの高さの変化はfx∆xに等しい(fxはxがわずかに変化したときの高さ (f)の変化を表す,∆xが小さければ変化の過程でfxは一定であると見なしてよい)。さ らに南北方向に∆yだけ移動したときの高さの変化はfy∆yに等しいから,全体で高さは fx∆x+fy∆yだけ変化する。xとyは自由に変化するわけではなくg(x, y) = 0を満た すような変化でなければならない。f の変化と同じように考えるとx,yの変化によるg の変化はgx∆x+gy∆yと表されるがg(x, y) = 0(一定)を満たすためにはgの変化は0 でなければならない。すなわちgx∆x+gy∆y= 0。この式から
∆y=−gx
gy
∆x が得られる。これをfx∆x+fy∆yに代入すると
( fx−gx
gy
fy )
∆x
を得る。これがg(x, y) = 0によって表される道に沿った変化によるf の変化である。道 に沿って最も高い所ではこの変化がゼロになっていなければならないので*26
fx
fy =gx
gy
が得られる。ラグランジュ乗数法によっても同じ結果が得られることを確認してみよう。
ラグランジュ乗数をλとしてラグランジュ関数
L=f(x, y)−λg(x, y)(−をつけないこともある,その場合λの意味は符号を逆にして考える)
を作る。これをx,yで微分すると
fx−λgx= 0, fy−λgy= 0 となる。左の式からλ= fgx
x が得られ,それを右の式に代入して少し変形するとffx
y = ggx
y
が導かれる。このように考えるとわざわざラグランジュ乗数法を使わなくてもよいかもし れない。
*26正ならば右(東)に移動するほど高さが高くなり,負ならば左(西)に移動すると高くなる。
2.10 効用最大化の数学的分析∗ 81 ラグランジュ乗数λ(またはそれに負号をつけた−λ)は最大化(または最小化)され
た解におけるg(x, y)の値の変化とf(x, y)の値の変化との関係を表す。消費者の効用最 大化問題であればg(x, y) = 0は(日本円なら1円を単位とした)予算制約,f(x, y)は 効用関数なのでλは1円当たりの限界効用を表す。また支出最小化問題ならばg(x, y)は 効用関数,f(x, y)は支出なのでλは効用1単位を得るのに必要な支出を表すから,その 逆数λ1 が1円当たりの限界効用である。企業の費用最小化問題の場合はg(x, y)は生産関 数,f(x, y)は費用を表すのでλは産出量1単位当たりの限界費用である。
多変数の場合
多変数の場合も同様であるが多少工夫が要る。x,y,z,wの4変数をとりg(x, y, z, w) = 0 のもとでf(x, y, z, w)を最大化(あるいは最小化)する問題を考える。まずz とw を一定としてg(x, y, z, w) = 0 を満たすようにxとy を動かす。すると上と同様に gx∆x+gy∆y = 0から∆y =−ggxy∆xが得られる。そのときのf(x, y, z, w)の変化は fx∆x+fy∆yであるが,最大値においてはこの値がゼロに等しい*27。したがって上と同 じく
fx
fy
=gx
gy
あるいは fx
gx
=fy
gy
を得る。yとwを一定としてxとzを動かすことを考えると同様の手順で fx
fz
=gx
gz
あるいは fx
gx
=fz
gz
を得る。同じく
fx
fw = gx
gw あるいは fx
gx = fw
gw が得られる。これらを合わせると
fx gx
= fy gy
= fz gz
= fw gw
=λ
となる。ラグランジュ乗数法によっても同じ結果が導かれる。やはりラグランジュ乗数法 を使わなくてもよいかもしれない。上のλがラグランジュ乗数の値に等しい。