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12中級ミクロ経済学

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(1)

ミクロ経済学

5

(問題の略解つき)

同志社大学 経済学部

田中 靖人

(2)

i

まえがき

本書は『ミクロ経済学』および『ゲーム理論』の基礎を解説したものであり,初級・中 級のミクロ経済学用テキストとして使用することを想定している*1。もともと初級のみ の内容で作ったテキストにかなり大幅に加筆して中級の議論を含むものに変えたので,特 に数学的な議論が些か不十分かつ不徹底かもしれないが必要に応じて授業で補っていきた い。今後機会があれば追加・改訂していくつもりである。巻末に多少数学的なものも含め いくつかの演習問題をつけた。(計算問題を中心に)略解も示してある。それらの一部は 授業の中で取り扱う予定にしている。 説明は簡潔に記したので適当な参考書を併読することが望ましい(必ずしも必要ではな いが)。代表的な参考書には次のようなものがあるが,他にもいろいろあるので自分で手 にとってみて読みやすそうなものを購入することを勧める*2 1. 浅羽茂『企業の経済学』(日経文庫) 2. 荒井一博『ミクロ経済理論(有斐閣アルマ)』(有斐閣) 3. 石井安憲 他『入門ミクロ経済学』(有斐閣) 4. 入谷,篠塚『ミクロ経済学講義』(日本経済新聞出版社) 5. 浦井,吉町『ミクロ経済学』(ミネルヴァ書房) 6. 井堀利宏『入門ミクロ経済学』(新世社) 7. 奥野正寛『入門ミクロ経済学』(日経文庫) 8. 奥野正寛『ミクロ経済学』(東京大学出版会) 9. 奥野・鈴村『ミクロ経済学I,II』(岩波書店) 10. 梶井・松井『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』(日本評論社) 11. 倉澤資成『入門価格理論』(日本評論社) 12. 佐々木宏夫『(基礎コース)ミクロ経済学』(新世社) 13. 武隈慎一『ミクロ経済学 増補版』(新世社) 14. 遠山智久『弱点克服 大学生のミクロ経済学』(東京図書) 15. 永田良 他『標準ミクロ経済学』東洋経済新報社 16. 成生達彦『ミクロ経済学入門(有斐閣アルマ)』(有斐閣) 17. 西村和雄『ミクロ経済学』(岩波書店) *1同志社大学経済学部で初級ミクロ経済学を担当したことは未だないが初級と中級両方で使え るようなテキストにしたつもりである。 *2以下で示す文献の中には,何度も改訂されたり,すでに出版されていなかったり,訳者や書 名が変ったりしたものもあるかもしれないが,その際はご容赦願いたい。

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18. 西村和雄『ミクロ経済学入門』(岩波書店) 19. 林貴志『ミクロ経済学』(ミネルヴァ書房) 20. 柳川隆 他『ミクロ経済学・入門―ビジネスと政策を読みとく(有斐閣アルマ)』(有 斐閣) 21. 矢野誠『ミクロ経済学の基礎』(岩波書店) 22. 矢野誠『ミクロ経済学の応用』(岩波書店) 23. 戸瀬信之『コア・テキスト 経済数学』(新世社) 最後のものは経済数学の参考書である。ゲーム理論の参考書としては上記梶井・松井の 他に以下のものが代表的である。 1. 岡田章『ゲーム理論』(有斐閣) 2. 岡田章『ゲーム理論・入門』(有斐閣アルマ) 3. 神戸伸輔『入門 ゲーム理論と情報の経済学』(日本評論社) 4. R.ギボンズ(福岡正夫他訳)『経済学のためのゲーム理論入門』(創文社) 5. 坂井,藤中,若山『メカニズムデザイン』(ミネルヴァ書房) 6. 佐々木宏夫『入門 ゲーム理論―戦略的思考の科学』(日本評論社) 7. 中山幹夫『はじめてのゲーム理論』(有斐閣) 8. 中山,武藤,船木『協力ゲーム理論』(勁草書房) 9. 船木由喜彦『演習 ゲーム理論』(新世社) 10. 武藤滋夫『ゲーム理論入門』(日経文庫) 11. 武藤滋夫『ゲーム理論』(オーム社) 12. 渡辺隆裕『ゼミナール ゲーム理論入門』(日本経済新聞出版社) 13. 柳川範之『契約と組織の経済学』(東洋経済新報社) 最後のものは契約理論の参考書である。また進化ゲームについては以下の文献を上げて おく。 1. 青木/奥野(編著)『経済システムの比較制度分析』(東京大学出版会) 2. J. W.ヴェイブル(大和瀬達二監訳)『進化ゲームの理論』(文化書房博文社) 3. J.メイナード-スミス(寺本英他訳)『進化とゲーム理論』(産業図書) 本書では外部効果や公共財など公共経済学に関する項目はあまり詳しく扱われていない が,その代わりにゲーム理論については「ミクロ経済学」のテキストとしてはかなり詳細 に解説したつもりである。公共経済学の内容に関しては 奥野信宏『公共経済学』(岩波書店) などを参照していただきたい。 本書は以前に中央大学生協出版局から発行していた『ゼロから始める経済学(改訂版)』 をもとに各章の数学的な説明を追加するとともに多少の修正を施したものである。 をつけた章や節は中級の内容と思われる部分であるが。必ずしもその通りに講義する とは限らない。一応の目安と思っていただきたい。

(4)

iii

前著執筆の機会を与えてくださった中央大学生協出版局,中央大学教職員諸氏および授 業で使っていただいた中央大学法学部・商学部の学生諸君に厚く感謝する。誤りや説明の わかりにくい所などがあればご指摘願いたい。今後の改訂の参考にさせていただく。なお 本書は目次と索引の自動作成,作図を含めて,パソコン用組版システムLATEXおよび作 図用マクロパッケージeepic, mfpicを用いて執筆した。また原稿の印刷にはdviout for Windowsを使用し,(ホームページに載せてある)pdfファイルへの変換にはdvipdfmx を使用した。これらのプログラムをフリーソフトとして公開してくださった方々に厚く感 謝する。 2004年8月19日 (第2版に寄せて) いくつかの誤りや誤植を修正し,数学的な説明を付け加えるとともに,上記参考文献を一 部追加した。その他細々とした話題を付け加えた箇所もかなりある*3。今回は「社会的選 択理論」は大部分省き,「アローの定理」「ギバード・サタースウェイトの定理」「センの リベラルパラドックス」「多数決」の簡単な例だけをゲーム理論の章のおまけとして含め た。詳細は別の機会に譲りたい。 2005年8月9日 (第3版に寄せて) 気がついた誤植を修正し,第2章に「ポートフォリオ分離定理」の説明を追加するなどい くつかの項目を書き加えた。同じ第2章において交換経済における均衡の存在に関する分 析を,スペルナーの補題やブラウワーの不動点定理の証明を含めて紹介している。一部の 問題とその解答の修正も行った。それ以外は第2版と同じである。 2007年3月27日 (第4版に寄せて) 気のついた誤植を直しいくつかの項目を追加するとともに,ページ数を減らすためにほと んど扱わない第5章を割愛し,問題の略解を削除した。問題の一部を授業で解説するとと もに略解を含んだpdfファイルをホームページに載せる予定にしている。参考文献もいく つか追加した。 2009年3月28日 (第5版に寄せて) *3後から後から付け足したので矛盾が生じているかもしれない。そのような所があればご指摘 願いたい。

(5)

いくつかの項目(「マッチング理論」,「部分ゲーム完全均衡の補足」など)を追加すると ともに参考文献を少し付け加えた。またゲーム理論の章のおまけとして含めていた社会的 選択理論の解説は省いた。さらにページ数を減らすために数学の解説をかなり削除した。 何度か新たな項目を付け加えて来たが演習問題は最初からほとんど変わっていない。必 要な部分は授業で補う。 2013年3月31日

田中靖人

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v

目次

まえがき i 1 需要と供給 1 1.1 財と市場 . . . 1 1.1.1 経済主体 . . . 1 1.1.2 財 . . . 2 1.1.3 生産 . . . 2 1.1.4 消費 . . . 3 1.1.5 市場および市場経済 . . . 3 1.1.6 合理的な行動 . . . 3 1.1.7 経済の循環. . . 4 1.2 需要と需要曲線. . . 4 1.2.1 需要 . . . 4 1.2.2 需要曲線 . . . 5 1.2.3 需要曲線が右下がりになる理由 . . . 5 1.3 需要の価格弾力性 . . . 6 1.4 代替財と補完財. . . 7 1.4.1 代替財 . . . 7 1.4.2 補完財 . . . 8 1.5 供給と供給曲線. . . 8 1.5.1 供給 . . . 8 1.5.2 供給曲線 . . . 8 1.5.3 供給曲線が右上がりになる理由 . . . 9 1.6 供給の価格弾力性 . . . 10 1.7 市場均衡 . . . 11 1.7.1 市場均衡 . . . 11 1.7.2 簡単な数式モデル . . . 12 1.8 需要•供給曲線のシフト . . . 12

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1.8.1 需要曲線のシフト . . . 12 1.8.2 供給曲線のシフト . . . 14 1.9 市場均衡の安定性 . . . 16 1.9.1 ワルラスの調整過程 . . . 16 1.9.2 マーシャルの調整過程. . . 17 1.9.3 くもの巣(蜘蛛の巣)の調整過程 . . . 20 2 消費者の行動 22 2.1 効用と無差別曲線 . . . 22 2.1.1 消費者行動理論入門-ビールと大福の世界 . . . 23 2.1.1.1 効用と限界効用 . . . 23 2.1.1.2 予算の制約と効用最大化 . . . 24 2.1.1.3 所得の変化と消費 . . . 28 2.1.2 選好順序 . . . 29 2.1.3 無差別曲線. . . 30 2.1.4 無差別曲線の凸性 . . . 32 2.1.5 限界代替率. . . 33 2.1.6 効用関数 . . . 34 2.2 効用最大化 . . . 35 2.2.1 予算制約式・予算制約線 . . . 35 2.2.2 消費者の選択・効用最大化 . . . 36 2.3 所得の変化と消費 . . . 39 2.3.1 所得変化の効果 . . . 39 2.3.2 下級財のケース . . . 39 2.3.3 需要の所得弾力性 . . . 40 2.4 価格の変化と消費 . . . 40 2.4.1 価格変化の効果-右下がりの需要曲線 . . . 40 2.4.2 代替効果と所得効果 . . . 41 2.4.3 ギッフェン財 . . . 43 2.5 顕示選好理論 . . . 44 2.6 労働サービスの供給 . . . 45 2.7 利子率と貯蓄 . . . 49 2.7.1 現在の消費と将来の消費 . . . 49 2.7.2 利子率の変化と消費・貯蓄 . . . 51 2.8 交換経済とパレート効率性. . . 53 2.8.1 交換経済 . . . 53 2.8.2 交換経済の均衡とパレート効率性 . . . 56

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vii 2.8.3 交換経済の均衡がパレート効率的であることの代数的証明 . . . . 59 2.9 均衡の存在(ブラウワーの不動点定理の証明もある) . . . 61 2.9.1 均衡の存在について(2財からなる交換経済のケース) . . . 61 2.9.2 均衡の存在について(一般的な交換経済のケース) . . . 63 2.10 効用最大化の数学的分析 . . . 72 2.10.1 2変数関数の最大・最小. . . 72 2.10.2 ラグランジュ乗数法- -制約つき最適化問題の解法 . . . 74 2.10.3 効用最大化問題の解法:間接効用関数,ロイの恒等式 . . . 76 2.10.4 ラングランジュ乗数法における最大・最小の区別の一般的議論 . . 81 2.10.5 ロイの恒等式の一般的証明 . . . 83 2.10.6 支出最小化. . . 84 2.10.7 価格の変化と消費:スルツキー方程式,マッケンジーの補題 . . . 85 2.10.8 マッケンジーの補題の一般的証明. . . 87 2.10.9 スルツキー方程式の一般的導出 . . . 88 2.10.9.1 スルツキー方程式 . . . 88 2.10.9.2 代替効果の符号について . . . 89 2.10.9.3 代替効果の対称性 . . . 90 2.10.10間接効用関数と支出関数の性質 . . . 92 2.10.11支出関数と効用関数 . . . 94 2.10.12多数財の効用最大化・支出最小化. . . 96 2.10.13多数財の場合のマッケンジーの補題 . . . 102 2.10.14多数財の場合のスルツキー方程式. . . 103 2.10.15多数財の場合のロイの恒等式 . . . 104 2.11 不確実性と期待効用 . . . 105 2.12 情報の非対称性の問題-中古車の売買,保険 . . . 111 2.13 危険回避的,危険中立的,危険愛好的な効用関数について . . . 114 2.14 ポートフォリオ分離定理 . . . 119 3 企業の行動 125 3.1 生産と企業 . . . 125 3.1.1 生産 . . . 125 3.1.2 生産要素と資本 . . . 126 3.1.3 生産技術 . . . 126 3.1.4 生産要素に対する報酬. . . 126 3.1.5 生産要素の単位 . . . 127 3.1.6 企業 . . . 127 3.1.7 企業と株主および企業の目的 . . . 127

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3.1.8 利潤と超過利潤 . . . 128 3.1.9 利潤最大化問題の考え方 . . . 128 3.2 限界生産力と収穫逓減の法則 . . . 129 3.2.1 生産関数 . . . 129 3.2.2 限界生産力. . . 129 3.2.3 収穫逓減の法則 . . . 130 3.2.4 規模に関する収穫 . . . 130 3.3 費用最小化 . . . 131 3.3.1 等産出量曲線 . . . 131 3.3.2 等費用線 . . . 132 3.3.3 費用最小化の条件 . . . 133 3.3.4 生産要素価格と費用最小化 . . . 134 3.3.5 費用関数と費用曲線 . . . 134 3.3.6 可変費用と固定費用 . . . 135 3.3.7 短期の費用と長期の費用 . . . 136 3.4 限界費用と平均費用 . . . 137 3.5 競争的企業の供給曲線 . . . 141 3.5.1 完全競争市場と競争的企業 . . . 141 3.5.2 利潤最大化. . . 142 3.5.3 供給曲線 . . . 145 3.5.4 簡単な数式モデル . . . 146 3.6 参入・退出と長期の均衡 . . . 147 3.6.1 参入障壁 . . . 147 3.6.2 参入と退出. . . 148 3.6.3 長期の均衡. . . 148 3.7 消費と生産の効率性 . . . 149 3.7.1 限界代替率と限界費用の比の関係 . . . 149 3.7.2 消費と生産の効率性の代数的分析 . . . 151 3.8 企業の生産を含む経済の均衡について . . . 154 3.9 消費者余剰と生産者余剰 . . . 155 3.10 補償変分と等価変分および消費者余剰 . . . 158 3.11 独占企業の行動. . . 162 3.11.1 限界収入 . . . 163 3.11.2 独占企業の利潤最大化. . . 163 3.11.3 独占と完全競争との比較 . . . 165 3.11.4 簡単な数式モデル . . . 165

(10)

ix 3.11.5 需要独占 . . . 167 3.12 製品差別化と独占的競争 . . . 168 3.12.1 製品差別化. . . 168 3.12.2 独占的競争. . . 169 3.13 クールノーの寡占モデル . . . 170 3.13.1 クールノーモデル-同質財の場合. . . 170 3.13.2 クールノーモデル-企業数が3以上の場合 . . . 171 3.13.3 クールノーモデル-差別化された財を生産する場合 . . . 173 3.13.4 独占的競争の簡単なモデル . . . 174 3.14 シュタッケルベルク均衡 . . . 175 3.15 ベルトランモデル. . . 176 3.15.1 ベルトラン均衡-同質財を生産する場合 . . . 176 3.15.2 ベルトラン均衡-差別化された財を生産する場合 . . . 176 3.16 寡占と独占,完全競争との比較 . . . 178 3.17 屈折需要曲線 . . . 178 3.18 外部性,外部経済・外部不経済 . . . 180 3.19 公共財 . . . 183 3.19.1 公共財とは. . . 183 3.19.2 公共財の最適供給 . . . 184 3.19.3 リンダール均衡 . . . 185 3.19.4 グローブズメカニズム(Groves mechanism) . . . 186 3.20 コースの定理 . . . 188 3.21 費用最小化と利潤最大化の数学的分析 . . . 190 3.21.1 費用最小化:シェパードの補題 . . . 190 3.21.2 土地を含むシェパードの補題 . . . 193 3.21.3 完全競争企業の利潤最大化 . . . 194 3.21.4 独占企業の利潤最大化. . . 195 3.21.5 利潤最大化の一般的記述:ホテリングの補題 . . . 196 3.21.6 2つ以上の財を生産する企業の利潤最大化 . . . 200 3.21.7 規模に関して収穫一定の生産関数. . . 201 3.21.8 CES生産関数 . . . 202 3.22 企業金融の問題-モディリアーニ・ミラーの定理 . . . 204 3.23 情報の非対称性と金融-信用割当 . . . 208 3.23.1 信用割当1 - 2種類の企業. . . 208 3.23.2 信用割当2 - 2種類のプロジェクト . . . 212 3.24 プリンシパル-エージェント理論の簡単な例 . . . 215

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3.25 不完備契約とホールドアップ問題 . . . 217 3.25.1 ファーストベスト(最善)の解 . . . 218 3.25.2 共同保有の場合 . . . 219 3.25.3 メーカーが保有する場合 . . . 219 3.25.4 部品会社が保有する場合 . . . 220 4 ゲーム理論入門 221 4.1 ゲームおよびゲーム理論 . . . 221 4.2 静学的なゲームとナッシュ均衡 . . . 222 4.2.1 静学的なゲーム•標準型ゲームと最適反応 . . . 222 4.2.2 ナッシュ均衡 . . . 224 4.2.3 混合戦略 . . . 227 4.2.4 支配される戦略の逐次消去 . . . 232 4.3 動学的なゲームと部分ゲーム完全均衡 . . . 234 4.3.1 動学的なゲームとゲームの樹•展開型ゲーム . . . 234 4.3.2 部分ゲーム完全均衡 . . . 236 4.3.3 部分ゲーム完全均衡の見つけ方 . . . 239 4.3.4 繰り返しゲーム . . . 239 4.4 経済学以外の例–アメリカ,ロシアの核戦略 . . . 249 4.5 不完備情報ゲームと完全ベイジアン均衡 . . . 254 4.5.1 不完備情報ゲーム . . . 254 4.5.2 完全ベイジアン均衡 . . . 256 4.5.3 合理的な(reasonable)完全ベイジアン均衡. . . 260 4.5.4 オークションの理論:ベイジアン•ナッシュ均衡 . . . 262 4.6 シグナリングゲーム . . . 270 4.6.1 労働市場のシグナリングゲーム . . . 271 4.6.2 完全ベイジアン均衡–Separating均衡とPooling均衡 . . . 272 4.6.3 合理的な均衡–シグナルとしての教育 . . . 274 4.7 進化ゲーム . . . 275 4.7.1 タカ•ハトゲーム–進化的に安定な戦略 . . . 275 4.7.2 進化的に安定な戦略の存在–戦略が2つのゲーム . . . 279 4.7.3 マルコフ連鎖とその極限 . . . 284 4.7.4 寡占の確率的に安定な状態:複占の場合 . . . 287 4.7.5 寡占の確率的に安定な状態:より一般的な場合. . . 288 4.7.6 ナッシュ均衡が2つある協調ゲームの進化ゲーム的分析 . . . 290 4.8 協力ゲームの理論. . . 294 4.8.1 コア . . . 294

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4.8.2 仁(nucleous) . . . 297 4.8.3 シャープレイ値 . . . 300 4.9 交渉ゲーム . . . 305 4.9.1 ナッシュ交渉解 . . . 305 4.9.2 交渉ゲームの部分ゲーム完全均衡. . . 310 4.9.3 企業立地の問題:ホテリングのモデル . . . 312 4.10 HEXゲーム . . . 314 4.11 マッチング理論 . . . 319 4.12 補足. . . 324 4.12.1 動学的なゲームの応用:銀行の取り付けゲーム . . . 324 4.12.2 コア,仁,シャープレイ値の問題の追加 . . . 325 演習問題 328 略解(計算問題の解を中心に) 350 索引 404  

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(14)

1

1

需要と供給

■この章のキーワード 財,市場,経済主体,生産,消費,合理的な行動,需要曲線,需 要の価格弾力性,代替財,補完財,供給曲線,供給の価格弾力性,市場均衡,需要曲線の シフト,供給曲線のシフト,市場均衡の安定性,ワルラスの調整過程,マーシャルの調整 過程,くもの巣の調整過程

1.1

財と市場

経済学がその研究の対象とするのは財の生産と消費をめぐるメカニズムである。すなわ ちどのような財がどれだけ生産され,それがいかなる形の取り引きを経て誰によってどれ だけ消費されるか,あるいは誰にどのように分配されるかという問題である。そのメカニ ズムは経済の体制によって異なるが,わが国の経済は他の多くの国々と同様に市場経済シ ステムのもとで営まれているので,市場メカニズムの働きを考えることが経済学の主要な テーマとなる。しかし市場経済とは言っても各国の経済システムは必ずしも純粋な市場経 済ではなく,政府がさまざまな形で経済に関与している。そのような経済体制は混合経 済と呼ばれている。 経済学では,市場経済のもとにおいて生産や消費を行う各経済主体はそれぞれの目標を 最も効率よく達成できる行動を選ぼうとするという意味で合理的な行動を選択するものと 考える。 合理的な行動の内容を検討する前にまずいくつかの言葉の説明から始めよう。

1.1.1

経済主体

経済の中で何らかの役割をはたす個人や団体,組織を経済主体と呼び,その役割によっ て区別する。生産を行う経済主体を生産者(producer)または(たとえそれが個人で あっても)企業(firm)と呼び,消費を行う経済主体は消費者(consumer)または家計

(15)

(household)と呼ばれる。本書では『企業』と『消費者』という言葉を使う。消費者と は必ずしも個人ではなく消費生活の単位という意味なので家計とも呼ばれる。 第三の経済主体として毎年の予算や景気対策,産業構造政策,社会保障,貿易政策など の経済政策によって経済に影響を与える政府がある。政府には地方自治体も含まれる。政 府の経済的な役割についての詳しい内容は『財政学』で研究されている。

1.1.2

経済において生産され,購入され,消費されるものを財(good)と呼ぶ。財には牛肉, 大根,冷蔵庫,自動車などの形あるもの,あるいは物質的なもの(有形財または財貨とも 呼ばれる)と,金融,不動産仲介,教育,音楽演奏や理髪店(床屋),美容院,着付け,弁護 士,探偵などが提供する仕事のように形のないものがある。形のない財(無形財)をサー ビス(service)(用役)と呼ぶ。サービスとは誰かが誰かに何かをしてあげて報酬を受け 取る仕事そのものを指している。たとえば不動産の仲介は,家を買ったり借りたりする人 が自分で家を探して持ち主や大家さんと契約をする代わりに,不動産業者が家を紹介し契 約手続の仲立ちをすることによって契約者本人や大家さんの手間を省くサービスであり, 不動産業者はそれに対する報酬として手数料を受け取る。 有形財はそれを生産した人の手を離れており,また蓄えが可能であるが,サービスはそ れを提供する人と一体となっていて通常は蓄えができない。テレビを何日分かあるいは 何ヵ月分かまとめて生産し在庫しておくことはできるが,理髪店で3回分まとめて髪を 刈ってもらうわけにはいかないであろう。 教育は学校で提供される場合蓄えのできない財であるが,授業をビデオテープに録画し て売れば蓄えができることになる。音楽もコンサートに出かけて生で聞くものは蓄えがで きないが,CDに録音されたものなら蓄えができる。授業のビデオや音楽CDは物質的な 財であるその媒体(テープやCD)にサービスである授業や音楽が収められているもので 物質的な財とサービスの間にある財であるが,基本的には付加価値のついた物質的な財と 見なすことができる。(CD-ROMやフロッピーディスクに収められた)パソコンソフト, (小説や経済学の解説などが収められた)書籍なども同様である。 本書の以下の議論では有形財とサービスの違いは特に問題にしない。

1.1.3

生産

生産とは企業が機械•土地•労働や原材料などの 生産要素を用いて,ある財(テレビや ビールなど)を作り出す(製造する)ことであるが,経済学で生産と言う場合,製造した 財の運送•保管•販売などの流通過程における仕事も含まれる。北海道の毛ガニを飛行機 で東京に運ぶのも,倉庫の洗濯機を電機店のフロアに並べるのも生産活動の一部である。 また,上で述べた金融•教育などのサービスを提供することもそれらのサービスを生産

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1.1 財と市場 3 していると解釈される。 生産要素もそれ自体が財またはサービスであるから(労働も含めて),生産とは財また はサービスを用いて別の財またはサービスを作り出すことである,と言える。

1.1.4

消費

消費とは消費者がある財(サービスを含む)を購入して欲望を満たそうとして何らかの 行動,行為をすることである。具体的には,顔を洗い歯を磨く(水,歯ブラシ,歯磨き粉 などを消費する),パンを食べる,ビールを飲む,本を読む,音楽を聴く,学校で学ぶ(教 育サービスを受ける)ことなどわれわれの日常生活のすべてが経済的に見れば消費活動で ある。

1.1.5

市場および市場経済

市場といっても青果市場や証券市場などの具体的な場所を指すのではなく,抽象的に財 やサービスが取り引きされる場を意味する。酒屋の店先でお酒を買うのも,通信販売で本 やパソコンを買うのも市場における取り引きである。市場経済とは企業によって生産され た財が政府による割り当てや配給ではなく,売り手と買い手の自由な意志による取り引き によって消費者の手に渡るような経済の仕組みを言う。 市場経済における財の取り引きとはすなわち交換である。つまり自分が持っているもの と他の人が持っていて自分が欲しいと思うものとを一定の比率で取り替えることである。 交換には財と財とを直接交換する物々交換と,貨幣を媒介とした間接的な交換とがあり得 る*1。交換以外に自分の欲しいものを手に入れる手段としては,『もらう(贈与あるいは 配給)』と『奪う,盗む(略奪)』が考えられる。しかし贈与はそれによって生活に必要な 財を十分に手に入れられるほどあてにできるものではないであろうし,政府が財を配給す るシステムでは個々の消費者が欲しいと思うものを得ることは期待できないであろうか ら,贈与や配給をベースに快適な経済社会を作り上げることは困難である。また略奪を ベースにした社会では平和な生活は望めない。したがって市場における交換は各自が求め るものを手に入れるための理に適った仕組みであると考えられる。

1.1.6

合理的な行動

経済学では各経済主体はそれぞれ合理的な行動をするものと考える。これは,各経済主 体が各々何らかの目標を持ち,自らに与えられた制約条件の下でその目標を最もよく達成 できると考える行動を選択するという意味である。具体的には後の章で説明するように, *1交換の媒介以外の貨幣の役割についてはマクロ経済学で学んでいただきたい。本書では物々 交換と貨幣を媒介とした間接的な交換とは実質的に同じものであると考える。

(17)

企業は自らの生産技術を用いて生産した財の販売によって得られる利潤をできるだけ大き くしようとし,消費者は予算の範囲内で可能な財の消費から得られる効用(満足度)をな るべく大きくしようとすると考える。

1.1.7

経済の循環

企業は財を消費者に供給し消費者はそれを需要するが,一方企業による生産に用いられ る労働サービス*2は消費者が労働者として企業に供給するものである。財と労働サービ スとでは需要と供給の関係が逆になっている*3。消費者は労働サービスを企業に供給し て所得を得(資本家として資本サービスを供給する消費者や地主として土地サービスを供 給する消費者もいる),その所得で財を購入する。企業は財を消費者に売って得た収入か ら賃金や地代などの報酬を支払っている。 経済の循環に政府を含めると,政府は企業や消費者(労働者)から法人税,所得税,消 費税などの税を徴収する一方,(その見返りとして)行政サービス(治安,防衛,公的な医 療,教育,公共施設の建設など)を供給している。

1.2

需要と需要曲線

市場経済のメカニズムとは財を生産•販売する企業とそれを購入•消費する消費者の意 図の調整が図られる機構である。

1.2.1

需要

消費者がある財をある価格のもとで,それに必要な予算を用意して購入したいと思って いることを需要(demand)と呼ぶ。単に欲しいと思っているだけでは需要ではなく供給 されればその価格で買える用意ができていなければならない。その財をどのくらい需要す るかを需要量と言うが,通常需要という言葉で需要量をも意味する。需要には一人の消費 者の需要と消費者全体の需要とがある。後者を市場の需要と呼ぶ。市場の需要は各価格水 準における一人一人の消費者の需要を合計したものである。また,各財の(市場の)需要 は一定期間(1日,1ヶ月,1年など)および一定の地域について測られる量である。あ る財に対する需要はさまざまな要因によって決まるが,主なものは『その財の価格』,『他 の財の価格』,『消費者の所得』,そして『消費者の好み(『嗜好』あるいは『選好』とも言 う)』である。中でも重要なのはその財自身の価格である。 *2労働サービスとは労働者が企業に提供する生産要素であるが,形のある財ではないのでサー ビスである。生産要素とその報酬については第3章で説明する。 *3需要,供給について詳しくは以下で説明する。

(18)

1.2 需要と需要曲線 5 D 需要量 p0 x0 価 格 図1.1 需要曲線

1.2.2

需要曲線

図1.1参照。ある一つの財の需要について考えるとき,とりあえずその他の財の価格, 消費者の所得,好みは変わらないものとする。すると需要はその財の価格によって決まる ことになる。その関係を図のように表したものを需要曲線(demand curve)と呼ぶ。需 要曲線は縦軸に価格,横軸に需要量をとって表す。通常,財の需要は価格が高くなると減 少し低くなると増加するから需要曲線は一般に右下がり(傾きがマイナス)である。 この関係を D = D(p); pは価格, Dは需要 のような式の形で表したものを需要関数と呼ぶ*4 需要曲線が表しているのは,たとえば図1.1において価格がp0のときの需要量はx0 あるということである。それは消費者にとってx0だけの財を買うには価格がp0(あるい はそれ以下)でなければならないということを意味する。好みや所得が異なる消費者につ いては需要曲線の形も異り,財が違えば同じ消費者の需要曲線の形も異なる。

1.2.3

需要曲線が右下がりになる理由

個人あるいは市場の需要曲線が右下がりになる理由としては以下のことが考えられる。 *4この式は需要Dは価格pによって決まるということ,そしてそのことだけを意味している。

(19)

1. ある財の価格が高くなると少なくとも一部の消費者はその財の購入量を減らして, あるいは購入をやめて同様の目的に使える別の財(代替財:以下の説明を参照)を 購入する。 2. ある財の価格が高くなるとその財の購入を続ける限り所得の実質的な価値が低下す るので,すべての消費者は全般的に消費を控える。 詳しくは第2章で検討する。

1.3

需要の価格弾力性

需要曲線の特徴を表す指標の一つとして需要の価格弾力性 (price elasticity of demand)がある。これはある財についてその価格が変化したときに需要がどの程度変化 するかを示すものである。具体的には以下のように表される。 需要の価格弾力性=(市場の)需要の変化率 価格の変化率 ここで『変化率』は小数で表しても,パーセントで表してもかまわない(もちろん分母と 分子は同じ次元で表す必要がある)。価格が上昇すると需要が減るというように通常需要 の変化率と価格の変化率とはプラス• マイナスが逆になっているため,先頭にマイナス (–)をつけて弾力性の値がプラスになるようにしてある。価格が10%高くなって需要が 20%減れば需要の価格弾力性は2であり,価格が5%低くなって需要が15%増えれば需 要の価格弾力性は3である。 厳密には需要の価格弾力性はごくわずかな価格の変化(とそれに対応したごくわずかな 需要の変化)について定義されるべきものである。したがって数学的には微分で表現され る。大きな価格の変化を考えると,ある財の価格が100円から150円に値上がりしたとき の弾力性と,逆に150円から100円に値下がりしたときの弾力性とは異なる値をとる可能 性がある(具体的な例で考えてみていただきたい)が,ごくわずかな価格の変化を考えた 場合にはそうはならない。需要の価格弾力性をεとして式で書けば次のように表される。 ε =−px x dx dpx = ( dx x ) / ( dpx px ) この式はX財の価格pxとその需要xの関係を表すものである。dpdxx は需要関数の微分で あるが,わずかな価格の変化とそれに対する需要の変化の比を表すものと見ることができ る。右端の項は価格の変化率と需要の変化率の比を表している*5 需要の価格弾力性は財によって異なる。需要の価格弾力性の小さな財は,価格が少々高 くなっても消費量をあまり減らせない,逆に少し安くなってもあまり消費量が増えない *5微分とは関数関係にある変数同士のわずかな変化の比を表す分数であると考えることができ る。

(20)

1.4 代替財と補完財 7 財,食料品や燃料など生活に欠かせないもの(生活必需品)に多いと考えられる。また, 次に説明する代替財が多い財ほど弾力性が大きく,代替財があまりない財は弾力性が小さ いと考えられる。一般に傾きの小さい(水平に近い)需要曲線をもつ財は傾きの大きい (垂直に近い)需要曲線をもつ財よりも,価格の変化に対する需要の変化の割合が大きい ので需要の価格弾力性が大きい。

1.4

代替財と補完財

ある財に対する需要は他の財の価格の変化によっても影響を受ける可能性がある。

1.4.1

代替財

二つの財AとBがあり,財Aの価格が上昇すると財Bに対する需要が増え,逆に財A の価格が下落すると財Bに対する需要が減る場合,この二つの財は代替財(substitutes) であると言う。代替財とは,異なる財ではあるが同様の目的(まったく同じではないとし ても)に用いられるものを指す。例としては,コーヒーと紅茶,米とパン,ウィスキーと 焼酎,ビールと発泡酒,パソコン用インクジェットプリンタとレーザープリンタなどがあ る。紅茶の価格は変わらずにコーヒーの価格が高くなれば,特にコーヒーが好きで紅茶な ど飲まないという人は別として,高くなったコーヒーに代えて紅茶を飲もうという人が増 えると考えれるからこれらは代替財である。 pApBをA,Bの価格,xAxBをA,Bの需要として代替財の性質を式で表せば次 のようになる。 εAB = pB xA dxA dpB = ( dxA xA ) / ( dpB pB ) > 0 または εBA= pA xB dxB dpA = ( dxB xB ) / ( dpA pA ) > 0 それぞれBの価格の変化率とAの需要の変化率の比,およびAの価格の変化率とBの 需要の変化率の比を表し,交差弾力性(cross elasticity)と呼ばれる。実は一般的にこ の両者の符号が一致するとは限らないが,次の章で見る「補償需要」を考えるとこの両者 の符号は一致する。交差弾力性が正の財同士が代替財である*6 *6厳密に言えば後で説明する所得効果を含まずにある財の価格の低下が別の財の需要を減らす ときに代替財,増やすときに補完財と言い,所得効果を含めてそのようになる場合はそれぞ れ「粗代替財」「粗補完財」と言う。

(21)

1.4.2

補完財

二つの財 AとBがあり,財 Aの価格が上昇すると財 Bに対する需要が減り,逆 に財 Aの価格が下落すると財Bに対する需要が増える場合,この二つの財は補完財 (complements)であると言う。補完財とは一つの目的を共同で達成する財,一緒に用い られる財を指す。例としては,コーヒーと砂糖,パンとジャム,パソコン用プリンターと インクやトナーなどがある。砂糖の価格は変わらずにコーヒーの価格が高くなれば,コー ヒーに砂糖は入れないという人は別として,高くなったコーヒーを飲む量を減らしその結 果砂糖の消費量も減ると考えられるからこれらは補完財である。式では εAB = pB xA dxA dpB = ( dxA xA ) / ( dpB pB ) < 0 または εBA= pA xB dxB dpA = ( dxB xB ) / ( dpA pA ) < 0 と表せる。交差弾力性が負の財同士が補完財である。

1.5

供給と供給曲線

1.5.1

供給

企業がある財をある価格で生産し消費者に購入してもらおうという意志を持っているこ とを供給(supply)と呼ぶ。単に売りたいと思っているだけでは供給ではなく,財を用意 し需要があればその価格で売れる状態でなければならない。その財をどのくらい供給する かを供給量と言うが,通常供給という言葉で供給量をも意味する。供給には一つの企業の 供給とその企業が属する産業全体の供給とがある。後者を市場の供給と呼ぶ。市場の供給 は各価格水準において一つの産業(ある一つの種類の財を生産する企業の全体)の中のす べての企業の供給量を合計したものである。需要と同様に市場の供給は一定期間,一定の 地域について測られる。ある財の供給量はさまざまな要因によって決まるが,主なものは 『その財の価格』,『(その財の生産に用いられる)原材料•部品等の価格』,『労働賃金』, 『生産技術』である。中でも重要なのはその財自身の価格である。

1.5.2

供給曲線

図1.2参照。ある一つの財の供給について考えるとき,とりあえず原材料•部品の価 格,労働賃金,生産技術などは変わらないものとする。すると供給はその財の価格によっ て決まることになる。その関係を図1.2のように表したものを供給曲線(supply curve) と呼ぶ。供給曲線は縦軸に価格,横軸に供給量をとって表す。通常,供給は価格が高くな

(22)

1.5 供給と供給曲線 9 S 供給量 p1 x1 価 格 図1.2 供給曲線 ると増加し低くなると減少すると考えられるから供給曲線は一般に右上がり(傾きがプラ ス)である。 この関係を S = S(p); pは価格, Sは供給 のように式で表したものを供給関数と呼ぶ*7 供給曲線が表しているのは,たとえば価格がp1のときの供給量はx1であるということ である。逆に見れば,企業にとってx1だけの財を生産•販売するには価格が p1(あるい はそれ以上)でなければならないということである。すなわち企業にとっては1単位*8 当りp1の価格で売れなければ採算がとれない,それだけのコスト(費用)がかかってい るということを意味している。

1.5.3

供給曲線が右上がりになる理由

供給曲線が右上がりになっているということは産出量を増やすためには1単位当たりで より大きなコストをかけなければならない,あるいは大きなコストをかけることができれ ば供給を増やすことが可能であるということを意味している(この説明は少し正確さを欠 *7この式はある財の供給量Sはその価格pによって決まるということ,そしてそのことだけを 意味する。 *8財の産出量の単位をこのように呼ぶ。財の数量を数えるとき,財によっては1個,2個と数 えるものもあれば,1kg,2kgと数えるものもある。すべての財に通じる数え方の基準として 『1単位』という言葉を用いる。

(23)

いているが詳しくは第3章で解説する)。これは必ずしも自明のことではないが次のよう な理由が考えられる。 1. 価格が上昇すると効率の悪い企業も採算が合うようになり生産を始める。 2. 生産を増やすためには労働者に残業をさせるなどの対応が必要になるが,それには 通常よりも大きなコストがかかる。 需要曲線が右下がりなのは常識にもかなっており,原則としてすべての財についてそう であると考えられる。しかし供給曲線が右上がりであることは必ずしも常識的ではなく, またいつもそうであるとは限らない。実際,大量生産によってコストが下がるような財に ついては供給曲線が右上がりにならないと考えられる場合もある。

1.6

供給の価格弾力性

需要の価格弾力性と同様に供給の価格弾力性を定義することができる。これはある財の 価格の変化に対してその供給がどの程度変化するかを示す指標である。具体的には以下の ように表される。 供給の価格弾力性=供給の変化率 価格の変化率 通常は価格が上昇すると供給が増えるというように供給の変化率と価格の変化率とは符号 が同じなので,先頭にマイナス(–)をつけなくても弾力性の値はプラスになる。価格が10 %高くなって供給が20%増えれば供給の価格弾力性は2であり,価格が5%低くなって 供給が15%減れば供給の価格弾力性は3である。 需要の価格弾力性と同様に厳密には供給の価格弾力性はごくわずかな価格の変化(した がってごくわずかな供給の変化)について定義されるべきものである。大きな価格の変化 を考えると,ある財の価格が100円から200円に値上がりしたときの弾力性と,逆に200 円から100円に値下がりしたときの弾力性とは異なる値をとる可能性があるが,ごくわず かな価格の変化を考えた場合にはそうはならない。供給の価格弾力性をηとして式で書け ば次のように表される。 η =px x dx dpx = ( dx x ) / ( dpx px ) この式はX財の価格pxとその供給x(ここではxは供給)の関係を表すものである。 供給の価格弾力性は価格の変化に対する供給の変化を考える時間の長さによっても異な るであろう。1日や2日で自動車の生産を大幅に増やすことはできないが,1ヵ月,2ヵ 月の時間をとればかなり供給量を調整できると考えられる。このように長い時間より短い 時間で考えるならば供給の価格弾力性の値は小さくなる。また財によっても産出量の調整 にかかる時間の長さには違いがある。たとえば住宅に比べればアイスクリームの方がより 短時間で産出量の調整ができると考えられるので,同じ時間の長さで考えるとアイスク

(24)

1.7 市場均衡 11 D S p x E 需要量•供給量 価 格 図1.3 市場均衡 リームの方が住宅に比べて供給の価格弾力性が大きい。

1.7

市場均衡

1.7.1

市場均衡

図1.3参照。市場メカニズムにおいては価格を通して需要と供給の調整が図られる。そ して価格は需要と供給が一致する水準に決まるものと考えることができる。ある価格のも とで需要と供給が一致している状態を均衡あるいは市場均衡と呼ぶ。図で需要曲線と供給 曲線が交わっている点を均衡点,そのときの価格を均衡価格と呼ぶ。図1.3の点Eが均 衡点であり,そのときの価格pが均衡価格である。均衡点において一致した需要と供給 の値x∗がその財の均衡における取引量となる。均衡点において需要曲線と供給曲線が交 わっているということは,市場均衡においては以下の条件が満たされているということで ある。 1. すべての消費者はその価格のもとで需要したいと望む量を購入できる。つまり, (その価格のもとで)ちょうど欲しいだけの量を買うことができる。 2. すべての企業はその価格のもとで供給したいと考える量を生産•販売できる。つま り,(その価格のもとで)ちょうど作りたいだけの量を作り,売ることができる。 3. その価格のもとで市場の需要と供給が一致している。

(25)

すなわち,均衡とはすべての消費者,企業がそれぞれのおかれた条件のもとで納得した 行動をしており,状況に変化がない限り自分が選んだ行動を変えようとする意志(あるい は動機,インセンティブ(誘因))を持たない状態である。 市場均衡はある価格水準を前提にしているということに注意すべきである。『オリン ピックを見るのに大型液晶テレビが欲しいが高すぎて手が出ない,もっと安ければ買うの だがなあ…。』というのは需要ではないので,均衡においてもこのような消費者はたくさ ん存在する。 均衡価格以外の価格においては需要と供給が一致しないので,企業,消費者のいずれ か,あるいは両方が自分の望む取り引きを実現できない。

1.7.2

簡単な数式モデル

簡単な数式を用いて市場均衡を求めてみよう。ある財の需要量および供給量をxで,そ の価格をpで表し,需要曲線が p = 100− 4x 供給曲線が p = 2x + 16 のように表されるものとする。この財の均衡価格と均衡取引量は二つの式を連立方程式と して解くことによって以下のように求まる*9 x = 14, p = 44

1.8

需要•供給曲線のシフト

ここまでは,財の需要曲線•供給曲線についてその財自身の価格との関係のみを考えて きたが,財の需要•供給は他の財の価格など外部の要因にも影響される。外部の要因が 変化がすれば需要曲線•供給曲線はもとの位置にとどまることができず,移動(シフト) する。

1.8.1

需要曲線のシフト

図1.4参照。たとえばパンの需要に影響するパンの価格以外の要因として次のようなも のが考えられる。 1. 米,うどんなど代替財の価格の変化 *9ここの例では需要曲線,供給曲線が直線(一次関数)であると仮定しているが,もちろん一 般的にはそうとは限らない。

(26)

1.8 需要•供給曲線のシフト 13 S D1 D2 p p E E 需要量•供給量 価 格 図1.4 需要曲線のシフト 2. ジャム,バター,マーガリンなど補完財の価格の変化 3. 消費者の所得の変化 4. 消費者の好みの変化 代替財の価格が上昇するとパンの価格は変わらなくてもパンに対する需要は増加する。パ ンの需要曲線は他の要因が変化しないと仮定してパンの価格とパンに対する需要との関係 を描いたものであるから,パンの価格が変わらなくても需要が増加するということはパン の需要曲線そのものが変わってしまうということである。 代替財の価格が上昇した場合にはパンの価格のそれぞれの値において需要が増えるの で,需要曲線は全体的に右にシフトする*10。そのとき均衡価格はどうなるであろうか。 図1.4に示されているように需要曲線が右にシフトすると,変化しない供給曲線との交点 は,供給曲線が右上がりであれば右上に移動する。均衡価格は高くなってパンの取り引き 量は増加する。どの程度価格が上昇し,取り引き量が増えるかは供給曲線の傾きによる。 供給曲線の傾きが小さければ(水平に近い)価格の上昇幅は小さく,取り引き量の増加量 は大きい。逆に供給曲線の傾きが大きければ(垂直に近い)価格の上昇幅は大きく,取り 引き量の増加量は小さい。 補完財の価格が下落したり,消費者の所得が増加した場合や,消費者の好みが変わって パンを好む人が増えた場合にも同じ価格のもとでのパンの需要は増えるので需要曲線は右 *10以前と同じ需要をもたらす価格は高くなるので需要曲線が上にシフトするとも言える。横軸 あるいは縦軸から見て平行に移動するとは限らない。

(27)

D S2 S1 p p E E 需要量•供給量 価 格 図1.5 供給曲線のシフト にシフトする。 逆に代替財の価格が低下したり,補完財の価格が上昇したり,消費者の所得が減少した り,消費者があまりパンを好まなくなった場合などは同じ価格のもとでパンに対する需要 は減少し,需要曲線は左にシフトする*11。その結果均衡価格は下がり,取り引き量も減 少する。やはりどの程度価格が下落し,取り引き量が減るかは供給曲線の傾きによる。

1.8.2

供給曲線のシフト

図1.5参照。パンの供給に影響するパンの価格以外の要因としては次のようなものが考 えられる。 1. 小麦などの原材料の価格や労働賃金などの変化 2. 生産技術の変化(進歩) パンの原材料である小麦などの価格や労働賃金が上昇すると,同じ量のパンを作るのに以 前よりも余計に費用がかかるようになる。すると企業としては以前と同じ価格で売ってい たのでは利益が上がらない,あるいは損をすることになり,同じ量のパンを生産するのに は費用の上昇分を反映したより高い価格で売らなければならなくなる。したがって供給曲 線は上にシフトする*12。新しい供給曲線と変化しない需要曲線との交点は図1.5に示さ *11以前と同じ需要をもたらす価格は低くなるので需要曲線が下にシフトするとも言える。 *12以前と同じ価格であれば供給量は少なくなるので供給曲線が左にシフトするとも言える。

(28)

1.8 需要•供給曲線のシフト 15 れているように左上に移動し,均衡価格は上昇して取り引き量は減少する。どの程度価格 が上昇し,取り引き量が減るかは需要曲線の傾きによる。需要曲線の傾きが小さければ (水平に近い)価格の上昇幅は小さく,取り引き量の減少量は大きい。逆に需要曲線の傾 きが大きければ(垂直に近い)価格の上昇幅は大きく,取り引き量の減少量は小さい。原 材料価格や労働賃金が低下すると生産にかかる費用が低下し,供給曲線は下にシフトする *13。その結果均衡価格は低下し取り引き量は増加する。やはりどの程度価格が下落し, 取り引き量が増えるかは需要曲線の傾きによる。またパンの生産技術が進歩して同じ量と 質のパンをそれまでよりも安い費用で生産できるようになれば,原材料価格や労働賃金が 下がったのと同じ効果をもつことになるので供給曲線は下にシフトし均衡価格が下がって 取り引き量は増える。 財にかかる税金が高くなることも供給曲線が上にシフトする要因となる。例えばタバコ にかかる税金が引き上げられるとタバコ企業は高くなった税金分だけ値上げしないと同じ 収入が得られないので供給曲線は上にシフトする。そのとき均衡は左上に変化しタバコの 販売量が減って価格は上がるが,どの程度の影響があるかは需要曲線の形による。需要の 価格弾力性が大きい(需要曲線の傾きが小さい)場合は価格があまり上がらず販売量は大 きく落ち込むから企業側が大きな影響を受ける。一方,需要の価格弾力性が小さい(需要 曲線の傾きが大きい)場合には販売量はあまり減らず価格が上昇するから消費者が大きな 影響を受ける。タバコは習慣性の強い財であり,また代替財が少ないと考えられるので需 要の価格弾力性は小さいであろう。したがってあまり販売量に影響を与えずに税金を引き 上げることができるから,税金をかけやすい財である。 ■需要•供給の価格弾力性と物品税の負担 ある財に1単位当たりtの物品税がかけられ 価格がpからp′ に上昇し,販売量(つまり需要と供給)がxからx′に変化したとする。 p′− t < p < p′と仮定する。x > x′である。tの税の内消費者が負担するのは価格上昇分 のp′− pであり,企業が負担するのはその残りのt− p′+ pである。その比 p′−p t−p′+p と需 要•供給の価格弾力性との関係を考えよう。需要の価格弾力性を ε,供給の価格弾力性を ηとすると ε =− x′−x x p′−p p , η = x′−x x p′−t−p p となる。ηεの比を求めると η ε = p′−p p p′−t−p p = p − p t− p′+ p が得られる。これは消費者の負担と企業の負担の比に他ならない。したがって需要の価格 弾力性が小さければ消費者の負担が増え,供給の価格弾力性が小さければ企業の負担が増 える。 *13以前と同じ価格であれば供給量は多くなるので供給曲線が右にシフトするとも言える。

(29)

D S p p1 p2 E 需要量•供給量 価 格 図1.6 ワルラスの調整過程‒安定的なケース

1.9

市場均衡の安定性

需要曲線と供給曲線との交点で均衡価格および取引量が決まるが,価格や需要•供給量 が初めから均衡値になっているというわけではないであろう。もし実際の価格が均衡価格 と異なっていたら,あるいは産出量が均衡における取引量と異なっていたらどのようなこ とが起こるであろうか。均衡とは消費者も企業もその状態に納得していて変化しない状態 であるから,逆に価格が均衡価格とは異なっていれば何らかの変化が起きることになる。 その変化は価格が均衡価格に近づくような変化なのか,それとも均衡価格から遠ざかるよ うな変化なのであろうか。実はこれは価格や産出量の調整の仕方と需要曲線•供給曲線の 位置関係によるのである。

1.9.1

ワルラスの調整過程

価格が均衡価格でないときに以下のような仕組みで調整されるプロセスをワルラスの調 整過程と呼ぶ。 ワルラスの調整過程 均衡価格ではない価格において需要が供給を上回っていれば価格が 上昇し,逆に供給が需要を上回っていれば価格が低下する。

(30)

1.9 市場均衡の安定性 17 需要が供給を上回っているときには超過需要(excess demand)が,逆に供給が需要を 上回っているときは超過供給(excess supply)があると言う*14。需要と供給が一致し ない価格においては,実際の取り引き量は需要と供給のうちの小さい方となる*15。需要 が供給より多い場合は満たされない需要が価格を引き上げ,供給が需要より多い場合は売 れ残りの存在が価格を押し下げると考えるのである。図1.6のpが均衡価格であるが, もし何らかの理由で価格がpより高いp1だったとすると,その価格では供給が需要を 上回っているため図の矢印に示したように価格を押し下げる力が働く。一方価格がpよ り低いp2であれば,需要が供給を上回っているため図の矢印に示したように価格を引き 上げる力が働く。以上のようなプロセスで図1.6の場合には価格は均衡価格に近づいてい く。このように均衡を巡る調整過程によって均衡ではない状態から均衡に近づくような動 きが生じる場合,その均衡(あるいは調整過程)は安定(的)であるという。しかし均衡 とその調整過程は安定なものばかりではない。図1.7の場合を考えてみよう。この場合は 均衡より高い価格p1では需要が供給を上回っており,均衡より低い価格p2では供給が需 要を上回っている。するとp1では価格は一層高くなり,p2ではさらに低くなるような調 整が行われ均衡からますます遠ざかる。このような場合均衡は不安定であると言う。 一般にワルラスの調整過程のもとで均衡が安定になるのは需要曲線と供給曲線が以下の 条件を満たしている場合である。 ワルラスの調整過程の安定条件 均衡点より上では供給曲線の方が需要曲線より右側にあ る。逆に均衡点より下では需要曲線の方が供給曲線より右側にある。 均衡点より上とは均衡よりも価格が高いということであるが,そのとき供給曲線の方が需 要曲線より右側にあれば供給超過で価格が下がるので均衡に向って変化する。均衡点より 下で需要曲線の方が供給曲線より右側にあれば需要超過で価格が上がるからやはり均衡に 向って変化する。

1.9.2

マーシャルの調整過程

満たされない需要や売れ残りがあってもすぐには価格が変化せず,しばらくそのままの 状態が続いた後,産出量が変化するという調整の仕方も考えられる。図1.8で産出量が均 衡値より少ないx1であるとしよう。この産出量については消費者はp Dの価格で買って もよいと思うのに対し,企業はpSで売れれば十分であると考える。前者を需要価格,後 者を供給価格と呼ぶ。このとき実際にどのような価格で売れるかはその財の市場の性質や *14それぞれ需要超過,供給超過の状態であるとも言う。 *15需要が供給より多い場合,消費者がいくら欲しいと思っても供給がなければ購入することは できないから取り引き量は供給量に等しくなる。逆に供給が需要より多い場合,企業がいく ら売りたいと思っても買ってくれる消費者がいなければ売ることができないので取り引き量 は需要量に等しい。

(31)

D S p1 p2 p E 需要量•供給量 価 格 図1.7 ワルラスの調整過程‒不安定なケースの例 D S pD pS x x1 x2 E 需要量•供給量 価 格 図1.8 マーシャルの調整過程‒安定的なケース 企業の行動の仕方による。電化製品などで定価販売(あるいは一定率での割引販売)が行 われている場合には実際の価格はpSに近くなるであろうが,生鮮食料品のような市場で は価格はpDに近くなるであろう。 ここで次のようなマーシャルの調整過程を考える。

(32)

1.9 市場均衡の安定性 19 S D E 需要量•供給量 価 格 x x1 x2 図1.9 マーシャルの調整過程‒不安定なケースの例 マーシャルの調整過程 需要価格が供給価格を上回っていれば企業は産出量を増やし,供 給価格が需要価格を上回っている場合には産出量を減らす。 図1.8のx1では需要価格が供給価格を上回っている。需要価格が供給価格より高いとき には,企業にとっては生産した財が思ったよりも早く売り切れてしまうので,産出量を増 やしても採算がとれると思って増産すると考えられる。一方産出量が均衡より多いx2に おいては,供給曲線が需要曲線より上にあるので供給価格が需要価格を上回っている。こ のような場合企業は,自分が望む価格では売れ残ってしまうので産出量を減らす。そうす ると図1.8の場合には矢印で示したようにどちらのケースも産出量が均衡値に近づいてい くので安定である。図1.9の場合はどうであろうか。この図のようなケースでは,均衡よ り少ない産出量では供給曲線が需要曲線より上にあって供給価格が需要価格を上回ってい る,一方均衡より多い産出量では需要曲線が供給曲線より上にあって需要価格が供給価格 を上回っている。したがって,いずれも産出量は均衡値からさらに遠ざかっていくような 動きをすることになり不安定である。 一般に,マーシャルの調整過程のもとで均衡が安定になるのは需要曲線と供給曲線が以 下の条件を満たしている場合である。 マーシャルの調整過程の安定条件 均衡点より右では供給曲線の方が需要曲線より上にあ る。逆に均衡点より左では需要曲線の方が供給曲線より上にある。 均衡点より右においては産出量が均衡より多くなっている。その状態において供給曲線の 方が需要曲線より上にあれば,供給価格が需要価格を上回っているので企業は産出量を減

(33)

D S p1 p2 p3 E 需要量•供給量 価 格 図1.10 くもの巣の調整過程 らすことになるから均衡に近づいていく。均衡点より左では産出量が均衡より少なくなっ ている。その状態において需要曲線の方が供給曲線より上にあれば,需要価格が供給価格 を上回っているので企業は産出量を増やすことになるからやはり均衡に近づいていく。

1.9.3

くもの巣(蜘蛛の巣)の調整過程

農産物などの財は生産者による産出量の意思決定から実際に財が市場に供給されるまで の間にかなりの時間がかかる。そのような財の場合,ある期(財の生産にかかる時間を基 準として考えたある時点)に価格が高ければ生産者が次の期も高い価格がつくだろうと 思って生産を増やすが,実際に財が市場に供給される時には供給が多くなりすぎて価格が 下がってしまう。そこで生産を減らすと次の期には供給が不足して価格が高くなる。そこ でまた生産を増やすと供給が多くなって安くなってしまう,というようなことを繰り返す 可能性がある。問題はこのようなプロセスを経て価格は均衡価格に接近していくのか,そ れとも遠ざかっていくのかということである。図1.10に示されているのがそのプロセス の一例である。これは価格が均衡価格に接近していくケース,すなわち安定的なケースを 示している。このような調整の仕方は調整経路の図の形にちなんでくもの巣の調整過程と 呼ばれている。くもの巣の調整過程が安定的であるためには図1.10のように,供給曲線 の傾きが需要曲線の傾きに比べて相対的に大きい,ことが必要である。 くもの巣の調整過程について簡単な数式モデルを考えてみる。需要曲線が p = 36− x

(34)

1.9 市場均衡の安定性 21 供給曲線が p = 2x であるとする。pは財の価格,xは需要または供給を表す。最初の価格をp0とすると次 の期の産出量はx1= 12p0,その期の価格はp1= 36− x1= 3612p0となる。以下同様 にp2= 3612p1,p3= 3612p2と推移し,一般的にpn= 3612pn−1と表されるが, この式から pn− 24 = − 1 2(pn−1− 24) が得られる。したがってpn− 24が公比12 の等比数列となる。| − 12| < 1であるから pn− 24は0に収束し,pnの極限は24であり,そのときx = 12である。

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2

消費者の行動

■この章のキーワード 効用,無差別曲線,限界効用,無差別曲線の凸性,限界代替率, 効用関数,予算制約式,予算制約線,効用最大化,下級財,代替効果,所得効果,ギッフェ ン財,労働サービスの供給,利子率と貯蓄,交換経済,パレート効率性,均衡の存在,ブ ラウワーの不動点定理,契約曲線,ラグランジュ乗数法,間接効用関数,支出関数,ロイ の恒等式,マッケンジーの補題,スルツキー方程式,多数財の効用最大化・支出最小化, 不確実性,期待効用定理,情報の非対称性 この章では需要曲線を構成するもとになる消費者の合理的な行動について詳細に検討す る。消費者の合理的な行動とは予算の制約のもとで,最も効用が高くなるような消費の仕 方を選ぶ,というように表現することができる。

2.1

効用と無差別曲線

消費者は何らかの目的をもって,あるいは何らかの欲望を満たすために消費をする。食 事をするのは栄養をとる,満腹になる,食物を味わうなどの目的のためであろうし,音楽 を聴くのはその音楽を楽しむ,気分をリラックスさせる,その曲を憶えてカラオケで歌 う,などの欲望を満たすためであろう。消費者が財の消費によって得る満足度あるいは欲 望の充足度,すなわちどの程度消費の目的が達成されたかを効用(utility)と呼ぶ。これ は主観的,抽象的な概念であるが経済学の分析に載せるためには何らかの形で数量化しな ければならない。そのためにいくつかの仮定をおく。 まず初めに,消費者にとっては財の消費量は多ければ多いほどよいと仮定する。つまり 消費量が多くなればなるほど効用が大きく(あるいは高く)なるということである。この 仮定は選好の単調性と呼ばれる。選好とは,複数の財の消費の仕方(いくつかの財の消費 量の組み合わせ)について,ある消費の仕方と別の消費の仕方とを比較してどちらがよい か,すなわち効用が大きいか,それとも両方の効用が等しいかについての消費者の考え方 を表すものである。上の仮定はきわめて常識的なものであると思われるが,この仮定には

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