第 3 章 企業の行動 125
3.11 独占企業の行動
が成り立つことが必要(かつ十分)である。重積分を用いると左辺第1項は
∫ p′x px
∫ p′y py
∂x
∂py
dpydpx
と,第2項は
−
∫ p′y py
∫ p′x px
∂y
∂px
dpxdpy
と書くことができる。前章で求めたスルツキー方程式より所得をmとして
∂x
∂py
= ∂x˜
∂py − ∂x
∂m
∂m
∂py
∂y
∂px = ∂y˜
∂px − ∂y
∂m
∂m
∂px が得られる。補償需要関数の性質から ∂p∂x˜
y と∂p∂y˜
x とは等しいが,所得効果の部分は異な る可能性があるので ∂p∂x
y と∂p∂y
x が等しいとは限らない。したがって消費者余剰の計算は 価格の変化を考える経路に依存する。つまり価格が変化する順番によってその大きさが異 なる可能性がある。しかし,X,Y以外に多くの財が存在するなど所得効果を無視できる 状況であれば消費者余剰は補償変分,等価変分にほぼ等しいので経済厚生を測る指標とし て用いることができるであろう。
3.11 独占企業の行動 163 は避けられず,また企業自身がその影響を考慮に入れて行動せざるをえない。したがって
独占企業は競争的な企業とは異なった行動原理に従うものと考えられる。
3.11.1 限界収入
独占企業の供給量は市場全体の供給に等しいから需要曲線がわかれば独占企業は供給量 を決めることによって価格を決めることができる。独占企業が供給量を増やしそれを消費 者に買ってもらえるようにするには価格を引き下げなければならない。その際すべての消 費者に同じ価格で販売しなければならないので,追加的に供給する財の価格を下げるだけ ではなく供給量全体の価格を下げる必要がある。
供給量1単位の増加による収入の増加を限界収入(marginal revenue)と呼ぶ。上で 述べたことから限界収入は
限界収入=供給量の増加による収入の増加
−価格の低下による収入の減少
と表されることがわかる。需要の価格弾力性が小さい財の場合,価格の変化に対する需要 の反応が小さいので,供給の増加に見合った需要の増加を生み出すのに必要な価格の引き 下げ幅が大きくなり限界収入は小さくなる。場合によっては限界収入がマイナスになるこ ともありうる。
表3.3には表3.1と同じ費用構造をもつ独占企業について財の需要曲線が
p= 320−10x, pは価格,xは供給量 (3.11)
で表される場合の収入,限界収入,利潤の例が示されている*24。産出量10に対する限界 収入は産出量10のときの収入2200から産出量9のときの収入2070を引いて130とな る。産出量10に対する価格(すなわち消費者に10単位買ってもらえる価格)は220で あるが,それまでの9単位の価格が230から220に下がるので収入が90減少するため限 界収入は130になるわけである。競争的な企業の場合は供給量の増加に伴う価格の低下 を考慮する必要がない(あるいは意味がない)ので限界収入は価格に等しい。
3.11.2 独占企業の利潤最大化
利潤は収入から費用を引いたものであるから1単位産出量を増加させたときの独占企業 の利潤の変化は次のように表される。
*24この式は価格を需要の関数として表しているので逆需要関数と呼ばれることもある。
産出量 価格 収入 総 費 用 限界収入 限界費用 利潤
0 320 0 500 – – –500
1 310 310 650 310 150 –340
2 300 600 770 290 120 –170
3 290 870 870 270 100 0
4 280 1120 950 250 80 130
5 270 1350 1020 230 70 330
6 260 1560 1080 210 60 480
7 250 1750 1150 190 70 600
8 240 1920 1230 170 80 690
9 230 2070 1330 150 100 740
10 220 2200 1450 130 120 750
11 210 2310 1600 110 150 710
12 200 2400 1780 90 180 620
13 190 2470 1990 70 210 480
14 180 2520 2230 50 240 290
15 170 2550 2500 30 270 50
表3.3 独占企業の利潤最大化
利潤の変化=産出量の増加による収入の増加
−産出量の増加による費用の増加
=限界収入−限界費用
したがって限界収入が限界費用より大きい間は産出量の増加によって利潤が増えるが,限 界費用が限界収入より大きくなると産出量の増加によって利潤は減る。その境目のところ で利潤が最も大きくなる。
表3.3では産出量10のとき利潤が最大の750となる。この産出量10に対する限界収 入は130でそのときの限界費用120を上回っているが,1単位多い産出量11については 限界収入110,限界費用150で限界費用の方が40大きくなり利潤も40減少する。一般的 には次のことが言える。
独占企業の利潤最大化条件 独占企業にとって利潤が最大となる産出量はその産出量のと きの限界費用が限界収入より低いかまたは等しく,1単位産出量を増やすと限界費 用が限界収入を上回るようになる水準である。
これは競争的な企業の利潤最大化条件において価格のところが限界収入に置き換わった形 になっている。上で述べたように競争的な企業の場合には価格と限界収入とが等しくなっ
3.11 独占企業の行動 165 ているわけである。
産出量が分割可能な場合には限界費用が限界収入にいくらでも近くなるように産出量を 選ぶことができるので独占企業の利潤最大化の条件は以下のようになる*25。
独占企業の利潤最大化条件(産出量が分割可能な場合) 産出量が分割可能な場合には独 占企業は限界費用と限界収入が等しくなるように産出量を選ぶことによって利潤を 最大化する。
これは図3.13のように表される。図のMRは限界収入を表す曲線(限界収入曲線)であ る。点Eが独占企業の利潤を最大化する点を表し,そのときの産出量はxmで示されて いる。表3.3からわかるように各産出量に対して限界収入はそのときの価格より低いので MRは需要曲線より下に位置している。点Eで限界収入曲線と限界費用曲線が交わって いる。点Aはこの産出量に対応する需要曲線上の点でありそのときの価格pmが独占企 業がつける価格(『独占価格』と呼ぶ)である。
3.11.3 独占と完全競争との比較
表3.3で完全競争的な企業の行動を考えると価格が限界費用に等しい産出量,あるいは 価格が限界費用を上回る最も大きな産出量を選ぶことになるので選ばれる産出量は12で ある。これは独占企業が選ぶ産出量10より大きくそのときの価格は低い。したがって独 占企業の行動は競争的な企業と比べて消費者の効用を低くすることがわかる。図3.13の 点Bに対応した産出量が企業が完全競争的な場合に選ばれる産出量であり,そのときの 価格はp∗である。
3.11.4 簡単な数式モデル
独占企業の利潤最大化問題について簡単な数式モデルを考えてみよう。ある独占企業の 費用が次のように表されるとする。
C(x) = 4x2+ 300 (3.12)
xは産出量である。300は固定費用である。財の需要は,価格をpとして以下のような線 形(一次関数)の需要関数で表されるものとする。
p= 180−2x (3.13)
*25産出量がいくらでも分割できる場合には限界収入は1単位供給を増やしたときの収入の増加 ではなく,ごくわずかに供給を増やしたときの収入の増加と供給の増加との比(供給増加1 単位当りの収入の増加)である。
産出量 限界費用
平均可変費用
価 格 MC
MR D pm
p∗
E A
B
xm
図3.13 独占企業の利潤最大化-産出量が分割可能な場合
xは需要を表す。財の価格は独占企業の産出量と需要が等しくなるように決まるので産出 量,需要ともにxで表すことができる。すると利潤は
π= (180−2x)x−4x2−300 =−6x2+ 180x−300 となる。これはxの二次関数であるから
π=−6(x−15)2+ 1050 のように変形され,x= 15のとき最大利潤が1050となる。
この企業の産出量がa(aは1以下の正の定数)の単位で変化させられるとして,x= 15 における限界費用を求めると,x= 15−aからx= 15までの変化を考えて,
M C(15) =4(15)2+ 300−[4(15−a)2+ 300]
a = 120a−4a2
a
=120−4a
となる。一方産出量が15よりaだけ大きいx= 15 +aのときの限界費用はx= 15と
x= 15 +aとの間の変化として求められるから
3.11 独占企業の行動 167 M C(15 +a) = 4(15 +a)2+ 300−[4(15)2+ 300]
a = 120a+ 4a2
a
= 120 + 4a
が得られる。同様にして限界収入を求めてみよう。企業の収入をRで表すと R=価格×産出量= (180−2x)x
である。x= 15における限界収入は,x= 15−aからx= 15までの変化を考えて
M R(15) = 15(180−30)−(15−a)(180−30 + 2a)
a = 120a+ 2a2
a
= 120 + 2a
となる。一方産出量が15よりaだけ大きいx= 15 +aのときの限界収入は,x= 15と x= 15 +aとの間の変化で求められるから
M R(15 +a) =(15 +a)(180−30−2a)−15(180−30)
a = 120a−2a2
a
= 120−2a
a >0であるから,x= 15のときには限界費用は限界収入より小さく,aだけ産出量を
増やしたx= 15 +aでは限界費用が限界収入より大きくなっているので,x= 15が先
に求めた利潤最大化の条件を満たしていることがわかる。これは以下のようにして確認で きる。
M C(15) = 120−4a <120 + 2a=M R(15) M C(15 +a) = 120 + 4a >120−2a=M R(15 +a)
aが非常に小さい値であれば,M C(15) =M R(15) = 120が得られx= 15において限界 費用と限界収入とが等しくなる。
3.11.5 需要独占
通常,独占とは供給する側が独占的であることを言うが,需要側が独占であるという可 能性もある。たとえばある機械の部品を生産する企業がたくさんあって競争的に活動し,
その部品を購入して製品を作るメーカーが独占的であるような場合である。簡単な数値例 で考えてみよう。部品の価格をp,メーカーの産出量をx,また産出量と部品使用の割合 を1:1,製品の価格をとりあえず120とし,部品生産の供給関数(このメーカーに部品を 供給する企業の合計で)が
p= 20 + 2x(メーカーの産出量と部品の使用量は等しい)
であるとすると,メーカーの利潤は
π= 120x−(20 + 2x)x= 100x−2x2
となる。したがってこのメーカーの利潤を最大化する産出量(=)部品の需要は25であ る。このときメーカーの限界費用は
20 + 4x= 120
で製品の価格に等しい(製品市場では独占であるとは仮定されずメーカーにとって製品価 格を一定としているので)。しかしこのときの部品の価格は70であり限界費用とは等し くない。もし部品市場も競争的であればメーカーにとって部品の価格は一定となる(120 とする)ので産出量(=)部品の需要は50となるはずである。