第 2 章 消費者の行動 22
2.13 危険回避的,危険中立的,危険愛好的な効用関数について ∗
それぞれの保険を購入したときの各タイプの人々の期待効用を求める。
1. タイプ1:保険1から得られる期待効用は 3175× 9
10+ 2175× 1
10 = 3075 保険2から得られる期待効用は
3519× 9
10+ 1231× 1
10≈3290>3270 であるからこれらの人々は保険2を購入する。
2. タイプ2:保険1から得られる期待効用は 3350×4
5 + 2550×1
5 = 3190>3000 保険2から得られる期待効用は
3558×4
5 + 1622×1
5 ≈3171 であるからこれらの人々は保険1を購入する。
以上のような保険を販売すれば保険会社が個々人のタイプを見抜けなくても本人の行動に よってそのタイプが明らかになるように仕向けることができる。このように情報が非対称 な状況において情報を持っていない側(この例では保険会社)が保険商品などの仕組みを 工夫してその情報が間接的に表されるようにする行動をスクリーニング(screening)と呼 ぶ*34。この保険ではそれぞれのタイプの人々が事故を起こす確率を考えると保険会社の 採算に問題はない。この例ではタイプ1とタイプ2の人々が異なる効用関数を持ってい ると仮定した。つまりタイプ2の方がリスクが大きく,かつより危険回避的であると仮定 していた。しかし両タイプが同じ効用関数を持っていてもリスクが異なればスクリーニン グが可能となる場合もある。演習問題45を参照されたい。
情報の非対称性に関する重要な問題として「シグナリング」があるが,これはゲーム理 論の所で解説する。シグナリングはスクリーニングとは逆に情報を持っている側が間接的 にその情報を明らかにするような行動をとることを意味している。
2.13 危険回避的,危険中立的,危険愛好的な効用関数につい
2.13 危険回避的,危険中立的,危険愛好的な効用関数について∗ 115 を買うしかない。したがって少なくとも2つ以上の財がなければ消費の選択が問
題にはならない。一方不確実性を含む場合は財の種類が1種類であっても「くじ」
(不確実性を含む資産)の選択が意味のある問題になる。以下そのような設定で考 える。
基数的効用と序数的効用 通常の消費の場合,無差別曲線(財の種類が2つの場合)が 同じであれば効用関数の形が異なっていても消費者の行動は同じである*35。した がって効用関数全体に定数を加えたり,定数倍したりするだけではなく,2乗した り3乗したり,指数関数にしたり対数をとったり,あるいはそれ以外の操作を行っ ても,効用の大きさの順序に変化がなければ消費者の行動は変わらず同一の効用関 数と見なされる。しかし不確実性を含む問題の場合(「期待効用定理」のもとで)
くじを構成するそれぞれの場合の効用の期待値をとってくじを比較するので,効用 の値に定数を加えるのと,定数倍する以外の操作(2乗,3乗するなど)を行うと くじの選択が変わってきてしまうからそのようにして作った効用関数は異なる効用 関数と見なさなければならない。期待効用定理を満たす効用関数がフォン•ノイマ ン-モルゲンシュテルン型効用関数であり,このタイプの効用関数については定数 を加えることと定数倍する操作だけが許される。
危険回避的,危険中立的または危険愛好的な効用関数についてごく簡単な例を紹介す る。あるリスクのある資産(危険資産)への投資を行って得られる収益をxとし,それぞ れ確率 12でx= 100,x= 0であるとする。また他にリスクのない安全な資産があり,確 実にy= 50の収益が得られるものとする。すなわち平均の収益は等しい。投資家が次の 3つの効用関数を持つ場合をそれぞれ考えてみよう。
1. u=x(あるいはa >0,bを定数としてu=ax+b)
危険資産への投資から得られる期待効用はE[u(x)] = 100+02 = 50であり,安全 資産への投資から得られる期待効用もE[u(y)] = 50であるから,この投資家は どちらへの投資からも同じ期待効用を得る。このような投資家は危険中立的(risk
neutral)であると言われ,リスクを気にせず平均の収益だけで投資先を選ぶ。
2. u=x2(あるいはu=ax2+b)
危険資産への投資から得られる期待効用はE[u(x)] = 10022+02 = 5000であり,安 全資産への投資から得られる期待効用はE[u(y)] = 502 = 2500であるから,こ の投資家は危険資産への投資の方を選ぶ。このような投資家は危険愛好的(risk
loving)であると言われ,平均の収益が等しければリスクが大きい方の投資先を選
*35財の種類が3つ以上の場合は無差別曲線ではなく無差別曲面(4次元以上の場合も曲面と呼 ぶがイメージはできない)になるが基本的な論理は同じである。効用が一定となるような各 財の消費量の組を表す点の集合が無差別曲面であり,適当な条件が成り立てば予算制約式の もとで効用を最大化する消費量の組が求まる。
u
x
危険中立的な効用関数
危険回避的な効用関数 危険愛好的な効用関数
x1 x2
u1
u2
¯ x A B C
図2.27 危険中立的•回避的•愛好的な効用関数のグラフ
ぶ。正常な人間であれば危険愛好的にはならない。
3. u=√
x(あるいはu=a√ x+b)
危険資産への投資から得られる期待効用はE[u(x)] = √100+02 = 5であり,安全 資産への投資から得られる期待効用はE[u(y)] =√
50 = 5√
2 ≈7.1であるから,
この投資家は安全資産への投資の方を選ぶ。このような投資家は危険回避的(risk
averse)であると言われ,平均の収益が等しければリスクが小さい方の投資先を選
ぶ。正常な人間であれば危険回避的である。
危険中立的な人もいないと考えられるが,負に相関するものも含め様々な投資先が あって充分にリスクを分散させられるならば,危険回避的な人も危険中立的な人と 同じような行動をとるかもしれない。
以上の効用関数を簡単に図解してみよう。図2.27のように,危険回避的な効用関数は 下に凹(concave)(上に凸),危険愛好的な効用関数は下に凸(convex),危険中立的な効 用関数は線形(linear)のグラフで描かれる。x¯= x1+x2 2 である。x1とx2において3つ の効用関数の値が等しいと仮定すると,その中間のx¯に対する危険中立的な人の効用の値
2.13 危険回避的,危険中立的,危険愛好的な効用関数について∗ 117 は点Bにおけるu¯= u1+u2 2 に等しいが,危険回避的な人の効用は(点A)¯uより小さく,
危険愛好的な人の効用(点C)はu¯より大きい。確率 12 ずつでx1,x2を手にするくじの 期待効用はすべての人にとってu¯に等しいので,危険回避的な人はそのようなくじよりも 確実にx¯が得られる場合を好み,逆に危険愛好的な人はくじの方を好む。また危険中立的 な人にとってはどちらも等しい効用を与える(無差別)。
■保険の例2 xを所得として3人の人の効用関数が次のようであるとする。
u1= 20x−x2, u2= 20x, u3= 20x+x2
確率的に起きる事故によって−4の損害を被る可能性に備えて保険に加入する。事故が起 きたときはx= 0,起きないときはx= 4であり,事故が起きる確率は 12であるとする。
保険によって損害は全額が保障される。すると保険料をyとすれば,保険に加入したとき には事故が起きても起きなくてもx= 4−yである。このとき効用関数u1の人は約2.25 までの保険料を払う。
20(4−y)−(4−y)2= 32 より
y2+ 12y−32 = 0 となり,y=−6 + 2√
17≈2.25を得る。
同様にして効用関数u2の人は2までの,効用関数u3の人は約1.83までの保険料を払う。
20(4−y) + (4−y)2= 48 より
y2−28y+ 48 = 0 となり,y= 14−2√
37≈1.83を得る。
効用関数u1の人は危険回避的,効用関数u2の人は危険中立的,効用関数u3の人は危 険愛好的である。
■危険回避度一定の効用関数について
1. 絶対的危険回避度一定の効用関数
X 万円の資産を持つ人がその一部Y 万円をリスクのある資産に投資する。投資は 確率pで2Y になって返って来るが確率1−pで1円も返って来ない。したがって
資産は確率p(>12)でX+Y に,確率1−pでX−Y になる。資産をxとして効 用関数を
u=−e−ρx
とする。ρ(>0)は定数で絶対的危険回避度を表す,すなわち−uu′′′ =ρである。e は自然対数の底であり,この効用関数は指数関数である。期待効用は
E=−pe−ρ(X+Y)−(1−p)e−ρ(X−Y) と表される。これをY で微分してゼロとおくと
dE
dY =pρe−ρ(X+Y)−(1−p)ρe−ρ(X−Y)= 0
となる。これを整理してpe−ρY −(1−p)eρY = 0よりe2ρY =1−pp となり,さらに 2ρY = ln p
1−p から次の式が得られる。
Y = 1 2ρln p
1−p
p > 12であるからY >0である。ρが大きいほどY は小さくなり,Y の値はXの 大きさに依存しない。
2. 相対的危険回避度一定の効用関数 まったく同じ問題を考える。効用関数を
u= 1 1−ρx1−ρ
とする。ρ(>0)は定数で相対的危険回避度を表す。すなわち−xuu′′′ =ρである。
期待効用は
E= p
1−ρ(X+Y)1−ρ+1−p
1−ρ(X−Y)1−ρ と表される。これをY で微分してゼロとおくと
dE
dY =p(X+Y)−ρ−(1−p)(X−Y)−ρ= 0 となる。これより(X+Y)ρ= 1−pp(X−Y)ρとなり
X+Y = ( p
1−p )1ρ
(X−Y) を得る。両辺をXで割ると
1 + Y X =
( p 1−p
)1ρ (1−Y
X)
2.14 ポートフォリオ分離定理∗ 119