第 2 章 消費者の行動 22
2.4 価格の変化と消費
2.4.1 価格変化の効果 - 右下がりの需要曲線
図2.9参照。次に所得は変化しないと仮定して,2財のうちの一つの財の価格の変化が 消費に与える効果を考えてみよう。所得とY財の価格を一定としてX財の価格が変化し たときに消費量はどのような影響を受けるだろうか。Xの価格が低下すると予算制約線の Y軸の切片は変化せずに傾きは小さくなり,図のM1N1からM1N2へ,さらにM1N3へ というようにM1を支点として回転するように変化する。それにつれて消費者が選択する 消費量の組み合わせはA →B→ Cというように変化する。点A,B,Cを通る曲線は 価格消費曲線と呼ばれる。図で三つの無差別曲線U1,U2,U3の関係を見ると,U1より もU2が,U2よりもU3が上に位置している。これはXの価格の低下によって消費者の 効用が大きくなっていくことを意味している。図でAからBへの変化ではYの消費量は
*6と言うより需要の所得弾力性がプラスの財が上級財でマイナスの財が下級財である。
2.4 価格の変化と消費 41
U1
U2
U3
M1
N1 N2 N3
A
B C
Xの消費量 Y
の 消 費 量
図2.9 価格の変化と消費
減少しているのに対して,BからCへの変化ではYの消費量は増加している。いずれの 場合もXの消費量は増加している。このようにある財の価格の低下によって一般にその 財の消費量は増加する(後で説明するギッフェン財のケースを除いて),逆にC→B→ Aへの変化をみれば,Xの価格の上昇によってその消費量が減少することがわかる。この ことが第1章で見た右下がりの需要曲線の根拠になる。もう一方の財(今の場合はY)の 消費量が増えるか減るかは一概には言えない。
2.4.2 代替効果と所得効果
上で述べたように,所得が一定のとき一つの財の価格が低下すれば消費者の効用が大き くなることがわかった。しかしこれは2財の相対価格の変化によってもたらされたもので はなく,一方の財の価格の低下が消費者の実質所得(所得の実質的な価値)を高めたため に起きたことであると考えられる。そこで価格の低下が財の消費量におよぼす効果を,相 対価格の変化によるものと実質所得の変化によるものに分けて考えてみよう。図2.10に 描かれているようにX財の価格が低下して予算制約線がM1N1からM1N2に移ると,消 費者にとって最適な(最大の効用を達成する)消費量の組み合わせはAからBへ移る。
もしX財とY財の相対価格と消費者の所得が,消費者の効用が変わらないように変化し たとすると,予算制約線は図のM′1N′1のようになる。すなわち,新しい予算制約線M1N2
と平行で,もとの無差別曲線U1に接するような直線である。図のA′はその予算制約線 のもとでの最適な消費の組み合わせを示している。この図によってXの価格の低下がX,
U1
U2
M′1 M1
N1 N′1 N2
A
B A′
Xの消費量 Y
の 消 費 量
図2.10 代替効果と所得効果
Yの消費に及ぼす効果を以下のように2段階に分けて考えることができる。
1. AからA′への変化
これは効用一定のもとでの相対価格の変化による消費量の変化であり,代替効果と 呼ばれる。無差別曲線が右下がりであるから,代替効果においては必ず相対的に安 くなった財(今の例ではX)の消費が増え,高くなった財(今の例ではY)の消費 が減る。
2. A′からBへの変化
この関係は先に説明した価格一定のもとでの所得の増加による消費の変化と同じ形 になっている。つまり,Xの価格の低下に伴う実質所得の増加の効果を表すもので ある。この効果を所得効果と呼ぶ。上級財の場合は所得効果によって消費が増え,
下級財の場合は減る。図2.10に示されているのは上級財の場合である。
代替効果と所得効果を整理すると表2.8のようになる。?で示したところは代替効果と所 得効果の合計がどのようになるか一概には言えないケースである。Xが下級財の場合,そ れ自身の価格の低下によって消費量が増えるかもしれないし減るかもしれない。減る場 合,その財は以下で説明するギッフェン財と呼ばれる。Yが上級財の場合,Xの価格の低 下によってYの消費量は増える場合もあるし減る場合もある。これは図2.9に表されて いるとおりである。
2.4 価格の変化と消費 43 代替効果 所得効果 合計
Xの消費に対する効果
{上級財の場合 下級財の場合
増加 増加
増加 減少
増加
? Yの消費に対する効果
{上級財の場合 下級財の場合
減少 減少
増加 減少
? 減少 表2.8 Xの価格低下の効果
U1 U2
M1
N1 N2
A B
Xの消費量 Y
の 消 費 量
図2.11 ギッフェン財
2.4.3 ギッフェン財
価格の変化が財の消費に及ぼす効果を分析することによって右下がりの需要曲線が導か れたが,場合によっては需要曲線が右下がりにならないこともあるかもしれない。需要曲 線が右下がりにならないとは価格の低下によってかえってその消費が減少する(価格の上 昇によって消費が増加する)財があるということである。表2.8よりそのようなケースは 下級財でありかつ『マイナスの所得効果の大きさがプラスの代替効果を上回る』場合に 起こりうることがわかる。例が図2.11に示されている。図でXの価格が低下したとき予 算制約線はM1N1からM1N2に移り最適な消費の組み合わせはAからBに移っている。
そして,BがAより左側にあるのでBにおけるXの消費量はAにおけるよりも少なく なっており,Xはその価格の低下によってかえって消費量が減っている。このような財は
その存在(の可能性)を初めて指摘した人物の名にちなんでギッフェン財と呼ばれる。