第2章 事案の概要等
第4節 争点に関する当事者の主張
2 被告片山化学の主張
ア 製造物の欠陥の存在については,製造物責任を追及する側が,法2条2
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項所定の諸事情を考慮して製造物の引渡し当時に通常有すべき安全性を欠 いていたことを主張立証する責任を負う。製造物を通常予期される使用方 法で使用したにもかかわらず通常生じ得べきでない損害が生じたというこ とから欠陥の存在が事実上推定されるという画一的な判断をすることはで きない。
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イ 完成品である製造物自体に欠陥が認められない場合には,当該完成品の 原材料について欠陥の有無が問題となることはない。
また,完成品について欠陥が認められたとしても,その原材料について 欠陥が認められるためには,当該完成品において,その製造業者によって 当該原材料が安全な用途及び用法で使用されたこと,すなわち,発生した
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被害の原因が当該原材料そのものにあり,その用途及び用法を工夫しても 被害を防止できなかったことを,欠陥の存在を主張する者が主張立証する 必要がある。完成品の製造業者による原材料の用法が適正であるといえる ためには,完成品の製法,警告表示,販売方法,販売後の安全管理体制等 において,完成品製造の専門業者として被害防止のためになすべき工夫が
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講じられていることを要する。
本件石けんに欠陥がないこと
完成品である本件石けんには欠陥がないから,その原材料であるグルパ ール19Sにも欠陥は存在しない。本件石けんに欠陥がないことについて は,被告悠香及び被告フェニックスの各主張を援用する。
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本件石けんに欠陥が認められた場合について
仮に本件石けんに欠陥が認められたとしても,以下の各事情に照らすと,
原材料であるグルパール19Sに欠陥はない。
ア グルパール19Sの引渡し当時における科学・技術的知見
製造物の欠陥の有無の判断に当たっては,その引渡時における当該 製造物の安全性に対する社会の常識,通念が考慮要素となるところ,
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その背景であるその当時の科学・技術的な水準,科学・技術の利用可 能性も,考慮すべき重要な事情である。
グルパール19Sの引渡し当時(被告フェニックスに対する最初の 出荷日である平成10年11月30日から最終出荷日である平成22 年8月4日までの期間),体外からの物質の侵入を防ぐバリア機能が
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崩壊していない皮膚及び粘膜については,皮膚の場合は分子量が50 0以上の物質,粘膜の場合は分子量が1200以上の物質を透過させ ないとの考え方(以下「500ダルトンルール」という。)が医学的 知見として確立していたこと,石けんに含有されるたん白質は直ちに 洗い流されることが想定されていること,それまで小麦たん白加水分
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解物は安全性が認められるものとして化粧品及び食品用途に広く用い られてきたこと,本件アレルギーは従来型小麦アレルギーとは主要な 抗原決定基(エピトープ)が異なることに照らすと,①化粧品又は医 薬部外品に配合されたグルパール19Sのようなたん白加水分解物に よって経皮的,経粘膜的に感作され,②その後,経口摂取した小麦製
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品との交叉反応により本件アレルギーのようなアレルギー症状を発症 することは,行政機関,業界団体及びアレルギーの専門家の間で全く 想定されておらず,その後の専門の研究者による研究にもかかわらず,
現在でも,本件アレルギー発病のメカニズムに関して解明されていな い事項が多い。したがって,グルパール19Sの引渡し当時の科学・
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技術的知見によれば,グルパール19Sが通常有すべき安全性を欠い
ていたとは評価できない。
原告らの前記 の主張は,グルパール19Sの引渡時期より後 に判明した危険性と,引渡時期における有用性を比較するものであり,
引渡し当時の科学・技術の水準や利用可能性を無視するものであって 失当である。法の立法過程の議論等に照らすと,「消費者の期待」を
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欠陥の有無の判断における中心的な考慮要素とすることはできない。
イ 本件アレルギー症状の発症頻度及び重篤さ等
どのような物質であっても,人によって,アレルギー反応を引き起 こす原因となり得るから,あらゆる製造物は,本来的にアレルギー反 応を引き起こす危険性を内在しており,また,その症状はアナフィラ
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キシー・ショックを含む重篤なものとなり得る。このような危険性を 内在する製造物によりその使用者の一部にアレルギーが発生した場合 に,当該製造物の欠陥が認定されることになると,有用性のある製造 物の流通まで阻害されるのであって,法の立法過程における議論も踏 まえると,ある製造物を使用した消費者の中にアレルギー症状を発症
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する者がいたとしても,他の食物アレルギーと比較して,症状がより 重篤であり,かつ,発症率や重症化率がより高いといえない限り,そ のことのみをもって,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いている ということはできない。
本件石けんを使用した者のうち,本件アレルギーを発症した者の割
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合は,0.03%程度にとどまっており,また,渋の泡石けんについ ては,アレルギーの発症は報告されていないほか,他のグルパール1 9Sが配合された化粧品又は医薬部外品についても,2例の報告があ るにすぎないことからすると,グルパール19Sが,従来型小麦アレ ルギー(日本における有病率は0.21%,そのうちショックに至る
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率は18.9%)と比較して,多数の割合の使用者に対して本件アレ
ルギーを発症させ,又は重症化させる危険性を有しているとはいえず,
ショックを起こす頻度も従来型小麦アレルギーより低い。
本件アレルギーは,従来型小麦アレルギーと比較して,早期に改善,
治癒する傾向にある上,治癒遷延化症例についても,オマリズマブ(ゾ レア)の投与により症状が緩和されるとの報告がされており,その臨
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床研究が進められているから,予後の点において,従来型小麦アレル ギーよりも重篤であるとはいえない。また,治療や生活指導の点にお いても,従来型小麦アレルギーと異なるところはなく,より重篤であ るとはいえない。
グルパール19Sは,乳化力及び保湿性に優れ,食品用途のほか,
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社会的に有用性の認められている化粧品及び医薬部外品の原材料とし て広く利用されていることからすると,その効用は大きい。
ウ 被告フェニックスに対する表示・警告
警告上の欠陥が認められるためには,警告義務の存在が前提となると ころ,①グルパール19Sの引渡時においては,グルパール19Sのよ
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うなたん白加水分解物が配合された石けんの使用によって本件アレルギ ーのような小麦アレルギーが発生することは予見不可能であったこと及 び②原材料であるグルパール19Sについて,被告片山化学が警告義務 を負う相手は被告フェニックスであり,警告の内容は,被告フェニック スが化粧品及び医薬部外品の製造・販売に関して被告片山化学よりも高
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度の専門性を有することを前提とするもので足りることからすると,被 告片山化学には,グルパール19Sを化粧品又は医薬部外品に配合した 場合における本件アレルギー症状のような小麦アレルギーの発症につい て警告をすべき義務はなかった。
化粧品及び医薬部外品の安全性については,薬事法上も,実務上も,
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原材料メーカーではなく,当該化粧品又は医薬部外品の製造販売業者が
責任を持つものとされており,原材料メーカーは,当該原材料の成分,
製法,構造等の基本情報を提供すれば足りる。
被告片山化学は,被告フェニックスに対し,本件データシート(乙ハ A4)に「感作性データ なし」と記載して交付した上,技術資料等に より,グルパール19Sの成分,製法,構造等についての情報を提供し
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ていたほか,それらの技術資料等や口頭で,被告片山化学においてグル パール19Sを化粧品又は医薬部外品に配合した場合の有用性や安全性 に関する試験を実施することはできず,これらに係る情報は提供できな い旨説明し,感作性試験を実施していないことを明確にしていた。
エ 原材料としての汎用性及び行政上の安全規制への適合性
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グルパール19Sは,薬事法上,化粧品及び医薬部外品に汎用的に用 いることのできる成分として位置付けられ,行政上の安全規制に適合し ていた上,実際に,長年にわたり多数の製品に使用されてきたにもかか わらず,本件アレルギー被害のようなアレルギー症状の発症の報告はほ とんどないことから,グルパール19Sに欠陥がないことが事実上推定
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される。
オ 被告フェニックス又は被告悠香による危険回避措置の不実施
グルパール19Sは,本件石けん用に開発されたものではなく,化 粧品及び医薬部外品に汎用的に使用できる成分であるほか,食品用途 にも用いられているものであるところ,グルパール19Sの本件石け
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んへの使用が,形式的には被告片山化学が想定し得る用途の範囲内の ものであったとしても,石けん製造の専門業者である被告フェニック ス又は被告悠香が,本件石けんの製法,警告表示,販売方法,販売後 の管理体制などにおいて,石けんに関する専門知識,経験及びノウハ ウを用いて,薬事法や業界団体の自主規制等に従った安全性試験を実
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施するなど,本件アレルギーの発生を予防し,又はその被害を最小限