第2章 事案の概要等
第3節 争点2(本件石けんの欠陥の有無)について
2 本件アレルギー症状の内容及び程度
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本件アレルギーは,その臨床的特徴として,従来型小麦アレルギーと比べ てアナフィラキシー・ショックを起こす頻度は低いとされているものの(前
,特別委員会による疫学調査においては,899名の 患者のうち25%の者がアナフィラキシー・ショックを発症したものとされ ており,この他にも,77%の者が眼瞼の腫れを,60%の者が蕁麻疹を,
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43%の者が呼吸困難を,それぞれ発症し,1割以上の者に下痢,吐き気,
鼻汁,嘔吐等の症状が生じている(同 ウ)。これらの症状は,いずれも,
単に審美性の障害にとどまるものではなく,健康上の被害というべきもので あり,とりわけ,アナフィラキシー・ショックは,時に生命にも関わる重篤 な症状といえるし,呼吸困難や下痢も,相対的に重度のアナフィラキシー症
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状に位置付けられている(同 )。そして,これらの症状が生じる上記の各 頻度に鑑みると,本件アレルギー患者のうち相当の割合の者が,小麦製品の 摂取により,重度のアレルギー症状を呈したものということができる。A委 員長が,平成25年3月の時点で,小麦製品の摂取により全身性のアレルギ ー症状を発症した患者の約半数は,生命を脅かされた重症例であったとして
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いること(同 カ)からも,このことがうかがわれる。
また,本件アレルギー症状の特徴とされ,上記のとおり本件アレルギー患 者のうち多くの者が発症している眼瞼や顔面の腫れといった症状が発現した 場合,健康上の被害として身体的な苦痛が伴うのみならず,他人から自己の 容貌を見られたくないと感じて,人前に出ることがためらわれるということ
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は十分に理解できることであるから,本件アレルギー被害の内容として,審
美性の障害に起因する社会生活上の支障も軽視することはできない。
さらに,小麦は,日常的に摂取する多くの食品に含有されており,完全に 排除することは容易ではない上,本件アレルギーは,運動誘発型の小麦アレ ルギーであるが,従来の小麦依存性運動誘発アナフィラキシーと比較して運 動依存性が低く,軽度の運動をしたにとどまる場合や,明らかな運動負荷が
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),日常生活 における動作によって症状が誘発されやすいものといえる。そうすると,上 記のような健康被害及び審美性の障害に起因する社会生活上の支障が発生す る頻度は相対的に高いものと考えられ,他方で,本件アレルギー症状の発症 による上記被害等の発生を回避するためにも,食事における小麦製品の制限
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や治療又は薬の購入に伴う経済的な負担の増加,小麦製品及び運動の制限並 びに本件アレルギー症状を発症した場合の支障を回避する必要性に起因する 家庭生活,社会生活又は職業上の支障等,極めて大きな不利益を伴うものと 考えられる。
以上のとおり,本件アレルギーは,その内容及び程度等に照らして重大な
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健康被害を伴うものである上,本件アレルギー症状に係る審美性の障害に伴 う社会生活上の支障及び本件アレルギー症状の発症を回避するために生じる 不利益といった健康被害以外の被害の内容及び程度をも考慮すると,本件ア レルギー被害の程度は,洗顔石けんの使用によって生じるアレルギー被害と して社会通念上想定される被害の程度(せいぜい,使用部位の皮膚に一過性
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の症状を生じる程度であろう。)を大きく上回るものであるというべきであ る。
これに対し,被告悠香及び被告フェニックスは,本件アレルギー患者に おいては,症状が治癒した者がおり,また,全体として,症状が改善し,
小麦製品を摂取することができるようになる傾向があることから,本件ア
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レルギー被害の程度は軽微である旨主張する。そして,前記第1節第4の
5 シまでの各研究等によれば,①本件アレルギーは,抗体(特に 小麦及びグルテン)に対する特異的IgE抗体値が,従来型小麦アレルギ ーと比較して早期に低下する傾向にあり,これらの抗原に対するプリック テスト,好塩基球ヒスタミン遊離試験及び好塩基球活性化試験の結果にお いても,軽快傾向がみられること,②実際の臨床症状についても,全体と
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して,軽快する傾向にあり,アナフィラキシー・ショックを発症した症例 も含め,発症当初から継続的に小麦製品を摂取している者も一定数いるほ か,時間の経過とともに,本件アレルギー症状を発現することなく小麦製 品を摂取することができている者が増えており,現時点では,本件アレル ギー患者のうち相当程度の割合の者が,小麦製品を摂取することができる
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ようになっていること,③現時点で症状の回復が遷延化している症例につ いても,いずれは治癒する可能性が示唆され,特に,ゾレアを用いた治療 により,症状が早期に改善又は治癒することが期待されており,実際に,
臨床治験において,検査数値及び臨床症状の改善がみられていることが認 められる。従来型小麦アレルギーを含む食物アレルギーについては,一般
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に,学童期から成人期で新規に発症した場合の耐性獲得の可能性は相対的 に低く,原因食物の除去を解除した後であっても,当該食物の摂取により 症状が発現する場合があり,さらに,抗原特異的IgE抗体試験の結果が 陰性であっても,原因食物を摂取した際に本件アレルギー症状が発現する ことがあり得る
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因抗原,感作機序及び臨床像のいずれにおいても従来の食物アレルギーと 上記の研究等においても,本件アレ ルギーについて,予後の点でも,従来型小麦アレルギーと異なる特徴を有 することが指摘されているものといえるから,上記のような食物アレルギ ー一般の特徴が本件アレルギーにもそのまま当てはまるということはでき
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ない。そうすると,なお一定数の本件アレルギー患者が,小麦製品の摂取
により本件アレルギー症状を発症することから,小麦製品を排除し,又は 時間や量を工夫し,若しくは運動や抗炎症薬との併用を避けるなどの対応
をした上で小麦製品を摂取していること を考慮
しても,本件アレルギーは,従来型小麦アレルギーと比較して,早期にそ の症状が改善し,又は治癒・寛解に至る傾向があると認めることができる。
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しかし,本件アレルギー患者は,いずれも,少なくとも一定期間は,前 記 のような本件アレルギー症状を発症し,それに伴う健康上,審美上又 は生活上の被害が生じており,これらの被害が社会通念上想定される程度 を大きく超える被害といえることは既に説示したとおりであるところ,そ の程度に鑑みると,仮にこれらの被害の発生が短期的又は単発的なもので
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あったとしても,そのことから前記 の評価が直ちに左右されるものでは ない上,本件石けんの使用中止後1年以上治癒に至らなかった者も相当数 存在するというのである。このことに照らすと,本件アレルギーの予後に ついて上記のような傾向が認められることから直ちに本件アレルギー被害 の程度が重大でないということはできないというべきである。
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イ また,被告悠香及び被告フェニックスは,本件アレルギー被害の程度が,
従来型小麦アレルギーを含む他の食物アレルギーによる被害の程度と比較 して重篤とはいえないから,本件アレルギー被害の程度は軽微であると主 張する。
しかしながら,前記1で説示したとおり,本件石けんの欠陥の有無につ
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いては,洗顔石けんとしての通常有すべき安全性を問題とすべきであって,
食物アレルギーの原因となる製造物一般(例えば小麦製品)との比較で通 常有すべき安全性を論ずるべきではない。したがって,仮に,食物等の場 合に,従来型小麦アレルギーを含む他の食物アレルギーの発生が社会的に 許容され得るものであり,それと比べて,本件アレルギー被害の程度が相
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対的に軽度であるとしても,そのことは,本件アレルギー被害の程度を検
討する上での参考にはなるものの,食物等と洗顔石けんとで社会的に許容 されるアレルギー被害の程度が一致するものではないから,直ちに,本件 アレルギー被害の程度が,社会的に許容されるものということはできない。
ウ 被告悠香及び被告フェニックスは,本件アレルギー症状が重症化する者 は,特に素因の関与のある一部の者のみであることからしても,本件アレ
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ルギー被害の程度は重篤とはいえないと主張するところ,本件アレルギー に関する研究においても,症状が重篤化し,又は治癒しにくい症例につい
しかし,上記の指摘は,いずれも可能性を指摘するものにとどまり,症 状の重症化に対する素因の寄与を具体的に示すものとはいえない上,そも
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そも,洗顔石けんという本件石けんの特性上,通常のアレルギー疾患の既 往を有する者が使うことも当然に想定されるものであるから,仮に,本件 アレルギー症状の重症化又は遷延化に患者側の何らかの素因が寄与してい たとしても,そのことによって,本件アレルギー被害の重大さが左右され ることにはならない。したがって,被告悠香及び被告フェニックスの上記
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主張は採用できない。