第 3 章 日本の地方財政制度と所得再分配機能の展開
5. 行財政改革に伴う社会保障制度の見直しと国と地方の財政関係
昭和50年代には、日本経済が低迷し、国は、積極的な景気対策として公共投資や、国民生 活の安定のために社会保障分野等の行政サービスの充実が求められ、予算などの増額を行った 結果、国債に依存した財政が続くこととなり、財政が悪化していく。国の財政状況が危機的状 況にあるなかで、昭和51年度以降、地方財政の財源不足は、地方交付税の法定率の引上げで はなく、交付税及び譲与税配付金特別会計(交付税特会)による借入金、臨時地方特例交付金や 地方税減収に対する減収補てんのための地方債などによって賄うようになった。昭和53年度 には、交付税特会借入金の償還金について国と地方による折半で負担することが制度化され、
25 加藤(1976、166頁)を参照。
地方も交付税の財源不足を負うことになった26。
また、昭和48年の福祉元年以降、大都市圏における特別の財政需要のために、地方自治体 による自主財源拡充の動きが高まった。東京都が昭和49 年10 月から法人事業税の超過課税 の実施27、昭和50年7月から法人住民税も超過課税が実施される。さらに、昭和50年度の税 制改正では、都市税源の充実のため、事業所税が創設された。このような自主財源拡充の動き のなか、昭和 54 年度税制改正大綱で28、一般消費税の導入と、一般消費税の付加税として地 方消費税の創設が決定されたが、大平内閣は最終的にそれらの導入を断念した。
こうした状況下で、昭和56年3月、膨張した行政を減量化し、行政の仕組みを効率的なも のに見直すため、第2次臨時行政調査会(以下「臨調」という)が設置され、歳出削減を主な内 容とする答申を行った。政府は、臨調の答申を最大限に尊重しつつ、行政の簡素化、効率化を 推進した。それと同時に、昭和57年からは一般歳出について、ゼロシーリング、マイナスシ ーリングが「増税なき財政再建」のもと、実施されていった。
社会保障分野における主な見直しは医療分野であった。まず、老人医療費の増加への対応と して老人医療費支給制度の見直しを行い、昭和57年に老人保健法を制定(翌年2月から施行) し、(1)老人医療費無料化制度を廃止し、老人にも一部負担を求めること、(2)老人医療費に要 する費用を、公費30%(国 20%、都道府県5%、市町村5%)、各医療保険者による共同拠出
金70%の割合で負担することにより、国民健康保険財政の救済策を講じた29。また、国民健康
保険において、59 年に高額な医療に関する給付の発生が国民健康保険の財政に与える影響を 緩和するため、高額医療費共同事業が創設され、国と都道府県が補助できるよう規定された。
また、国民健康保険財政の安定化のため、昭和63年度から低所得者に対する保険料の軽減分 について、市町村の一般会計からの繰入れを行う保険基盤安定制度(保険料軽減分)が実施さ
れ、国2分の1、都道府県と市町村が4分の1ずつ負担することとなった。
その後も、臨調の答申を受け、既存制度の見直しが着々と進められるのと同時に、地方の自 主性を尊重する観点から事務事業の見直しが行われた。昭和61年に制定された地方公共団体 の執行機関が国の機関として行う事務の整理及び合理化に関する法律に基づいて、保育所や特 別養護老人ホームといった社会福祉施設への入所措置事務等の福祉サービスは団体委任事務
26 地方の折半分の負担については、平成13年度から臨時財政対策債に段階的に切り替えられた。
27 その後、昭和50年に大阪府、昭和51年に兵庫県、昭和52年に愛知県、昭和53年に神奈川県、昭和54 年に静岡県、昭和56年に京都府が実施した。
28 税制調査会「昭和54年度の税制改正に関する答申」(昭和53年12月27日)に「一般消費税大綱」が含ま れている。
29 (一財)厚生労働統計協会(2016、72頁)を参照。
となった。
また、国庫補助負担金の整理合理化として、昭和59年度から国庫補助負担率の引下げが段 階的に行われ、平成元年に、生活保護、精神措置入院、児童扶養手当(新規認定者分)など国の 責任が重い行政分野については、国庫補助負担率を4分の3に恒久化した。一方、老人福祉、
児童福祉、身障者福祉等については、昭和61年度に団体委任事務化等の事務の見直しを行っ たことなどにより、国庫補助負担率を2分の1に恒久化することとなった。
この国庫補助負担率の引下げによる地方負担の増加は、地方の財源不足となった。暫定措置 が続いた昭和63年度までの経常的経費分については地方交付税の特例加算、調整債、昭和61 年度以降には地方たばこ消費税の税率の特例引上げも加わって措置され、投資的経費分は臨時 財政特例債と調整債で措置された。経常的経費の補助負担率の多くが恒久化された平成元年度 には、地方交付税原資は国税三税に加えて、たばこ税が交付税の対象税目になった。それは生 活保護費負担金など社会保障関係の補助負担率の恒久化による財源不足に対する措置であり、
法定率は25%とされた30。
このように、行政改革の下、経済社会情勢の変化に伴い、社会保障制度の拡充と見直しが進 められてきた。社会福祉分野の機関委任事務の団体委任事務化は、権限移譲により分権化が進 展し、社会福祉サービスが地方の業務として位置づけられていく。一方で、行政改革が米英の 新自由主義に基づく構造改革であり、国庫補助負担金の削減は、行政の仕組みを効率化し、財 政再建をめざしたものであった。しかし、国庫補助負担率の引下げによる地方負担の増加は、
結果として地方の財源不足を招いた。その財源措置は地方交付税を通じて行われたが、地方交 付税の法定率の引上げではなく、多様な手段で行われ、複雑化していく。財源確保は、地方交 付税原資の増額だけではなく、地方税の拡充や地方の課税権の拡大という手段もある。これら の手段が用いられなかったことは、社会保障サービスの分権化は進んでいるが、それを賄う財 源の確保は、行政改革の路線が財政移転の減少にあり、法定率の引上げという長期的な視点か ら行われたものではなかったといえる。
したがって、この時期の国と地方の財政関係を所得再分配機能の観点からみると、地方財政 が国の財政力などに大きく依存する日本型の財政連邦主義は、歳出面では、社会福祉分野の分 権化が進展したが、歳入面では、行政改革によって、国庫補助負担金の減額と地方交付税の増
30 昭和61年度に経常的経費の財源不足に対する措置として地方たばこ消費税の税率が引き上げられたが、同 時に国税たばこ消費税の税率も引き上げられ、交付税特例加算の財源とされた。これは昭和61年度限りの特 例措置であったが、補助負担率引下げの暫定措置が継続されたのに伴い、国と地方のたばこ消費税率の特例も 63年度まで継続されており、補助負担率引下げの恒久化に合わせて、平成元年度の消費税導入により名称の 変わったたばこ税が交付税対象税目になった(今井 1993、139-41頁を参照)。
額(国税以外の財源を含む)という財政移転の構造が変わったにすぎなかった31。地方財政計画 をみると、昭和 50 年度から 63 年度では、社会福祉関係分野の費用の実額は、2.7 兆円から 6.0兆円に増加したが、事業の構成比は、ほとんど変化せず、国庫補助負担事業66%、単独事 業34%であった32。