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個人住民税の非課税限度額の水準の決定と非課税限度額制度の意義

ドキュメント内 社会保障に関わる地方財政の制度分析 (ページ 131-134)

第 6 章 個人住民税の非課税限度額に関する考察

5. 個人住民税の非課税限度額の水準の決定と非課税限度額制度の意義

最後に、非課税限度額の水準の決定や非課税限度額制度の意義について、個人住民税の非課 税限度額の創設・改正の経緯と非課税限度額の見直しと水準の推移の分析を踏まえて考察す る。

個人住民税の非課税限度額は、標準的な生活保護の基準を勘案して設定されている。非課税 限度額と生活保護の基準との関係について理論的に考えれば、非課税限度額が税制上の問題で あるのに対し、生活保護の基準は社会保障制度上のものであり、制度の趣旨等を異にする。し たがって、両者を直接関連づけて考えるべきとは必ずしもならない。しかし現実問題として、

生活保護の基準程度の収入しか得ていない低所得者に対してまで課税されることはできる限 り避けることが望ましいとの判断もありうる。

非課税限度額が生活保護の基準を勘案するのは、国民生活水準の動向との関連を考慮するか らである。それは、生活保護の基準が生活保護受給世帯と隣接した一般低所得世帯の消費実態 だけでなく、物価動向等の経済社会情勢に鑑みて設定されるからである。他に適切な基準がな いことや制度の複雑化が避けられるため、非課税限度額が生活保護の基準を勘案することには 制度として合理性があると考えらえる。

したがって、現行の非課税限度額制度のもとで、生活保護の基準が大幅に引き下げられる場 合、現行の非課税限度額が適正水準ではなく、かつ生活扶助基準の改定の根拠となる生活保護 基準部会の検証結果や物価動向の調査結果が、低所得者の生活状況を適切に捉えているのであ れば、非課税限度額は相応に引き下げられるべきである43。担税力を有する者が非課税対象と

43 池田(2013)では、厚生労働省の物価動向の調査が不十分とし、独自の検証を行った結果、生活扶助基準の 引下げではなく、引上げを検討するべきと指摘している。

なることは避けなければならない。

また、「勘案して」とは非課税限度額と生活保護の基準額との関係においてどの程度ならば よいのか。非課税限度額が引き下げられる場合、4節の分析より、非課税限度額と生活保護の 基準額の較差率 10%を超えない範囲で、生活扶助基準額、生活保護基準額の改定率よりも小 幅となることが推測できる。しかし、非課税限度額は生活保護の基準額をどの程度上回ってい ればよいのかの判断は難しい。最終的には政策的判断ということになろうが、均等割において は、法令で示した額を参酌して自治体が条例で定める金額が非課税限度額となるので、2級地、

3級地においては、現在の非課税対象者の状況等に鑑み、非課税限度額を法令で規定された額 よりも高く設定することが可能である。

それと関連して、均等割の非課税限度額は、税負担の境界線を示すだけでなく、低所得者層 の判定基準として機能している。均等割の非課税限度額は、自治体の社会保障分野における低 所得者の軽減措置の基準として参照されている。生活保護の基準の引下げに伴い、非課税限度 額が引下げとなればこれらの施策にも影響が及ぶ44。先に述べたとおり、2級地、3級地にお いては、非課税限度額を法令で規定された額よりも高く設定することで大きく影響が及ぶのを 避けられる可能性はある。

しかし、そこでの問題は、税と社会保障という異なる制度が直接関連づけられて運用される システムとなっていることにある。小林・西川(2010)は、厚生行政上の諸制度が複雑化する中 で、個人を単位とする税システムと厚生行政上のシステムと連動させることは、実務面でも効 率的であり、低所得者の選別基準としても有効であるが、施策適用の公平面では疑問が残ると し、現行システムに頼る以外に方法はないと指摘する45。現在のところ、そのような対応が次 善の策であると考えられるが、低所得者に対する新たな軽減措置を考えるのか、税と社会保障 の制度を直接関連づけるシステムを再検討する必要があるだろう。

非課税限度額制度について、低所得者層に対する税制の対処としては一定の評価ができる。

非課税限度額制度があることで、担税力のない者には課税されない一方で、担税力を有する者 に対する課税が適切に実施できるからである。

ただし、所得割の非課税限度額制度については議論がある。財政連邦主義の議論に関連する 税制による所得再分配の機能についてである。3節で示したとおり、所得割の非課税限度額制

44 吉永(2007, 2012)では、生活保護基準額の引下げによる広範囲にわたる影響を整理している。また、厚生

労働省社会・援護局保護課「生活扶助基準の見直しに伴い他制度に生じる影響について」(平成25219 日)では、影響が生じる国の制度や地方単独事業について38の制度が掲げられている。

45 小林・西川(2010、31-32頁)を参照。

度は、当時の厳しい地方財政に鑑み、課税最低限の引上げ等大幅な減収につながる措置を講ず ることが極めて困難という状況のもとで、国民生活水準などとの関連で特に低所得者層の税負 担に配慮を加える必要という趣旨に基づいて、臨時的な措置として設けられたものである。非 課税限度額制度のあり方は、課税最低限との関係において検討されてきた。非課税限度額制度 について、課税最低限と非課税限度額の二つの基準があることは、住民税制を理解しにくくし ており、簡素な税制という視点から問題があるという意見がある46

一方、課税最低限は、所得課税全体の負担水準を含めて考えるべきであり、低所得者に対す る配慮については、所得課税全体の負担水準が適正であるならば、非課税限度額の制度による ほうがより適切であるとし、非課税限度額制度を積極的に評価すべきとの考え方もある47。非 課税限度額制度を最低生活費免税点として機能させるならば、算定を行うために想定した標準 世帯に変更するなど、一般世帯の実態に合わせて改正していく必要があるだろう。また、低所 得者層への措置の一つとして、納税者に対して税額控除を与え、控除しきれない者や課税最低 限以下の者に対して現金給付を行う給付付き税額控除制度もあり、導入の是非を考慮すべきで あろう。

さらに、低所得者支援とは別の視点、財政連邦主義の議論における歳入の自主性を高める地 方税の拡充確保の視点からも、所得割の非課税限度額制度の廃止を検討する必要があると考え る。地方税原則の一つに負担分任の原則がある。負担分任の原則は、地方税をすべての地域住 民が相互に負担し合う租税であるとする背後理念があり、応益性の性格をもつ。生活保護基準 程度の所得層に対しては、税制による所得再分配機能は、国の所得税によって行い、地方自治 体が所得再分配として現物給付(対人サービス)を担い、これらのサービスで対応していくのが 望ましい。

このように、所得割の非課税限度額制度のあり方については様々な課題があり、その廃止や 継続は、その適用実態を考慮しながら、新たな制度の導入も含め、検討する必要があるだろう。

46 碓井(2001)は、所得割の非課税措置を「当分の間」の措置として存続したことは所得割をきわめて分かり にくいものにしている典型的場面であると指摘している。また、石田(2011)は、個人住民税の課税最低限のあ り方に関する議論のなかで、非課税限度額の制度が導入されたことは、課税最低限の意味を大きく変質(喪失) させたと指摘している。

47 地方財務協会編『改正地方税制詳解』昭和62年版(162頁)、平成5年版(113-14頁)を参照。

ドキュメント内 社会保障に関わる地方財政の制度分析 (ページ 131-134)