第 5 章 市町村国保の運営の限界に関する実証的分析
2. 市町村国保財政の概要
加入者の高齢化や所得水準が大きく変わるわけではないので、医療保障の制度設計の見直しも 必要であると考える。
本章では、国保財政の運営の問題について、制度に着目して、(1)保険料、(2)一般会計から の繰入金、(3)保険料の収納、(4)医療費の抑制、を取り上げて市町村を対象に統計分析を行う。
続いて、一般会計の法定外繰入金と被保険者の保険料負担の関係について、保険者の所得に着 目して、市町村を対象に統計分析を行い、低所得者の保険料負担緩和や決算の補てんによる一 般会計の法定外繰入金の増加は、当該自治体の努力によってこれらに関連する問題が解決され る状況にあるか、保険者の責めに帰することのできない特別の事情が大きく、やむをえない状 況であることを検証し、今後、国保が都道府県と市町村の共同運営になるにあたり、解決すべ き国保の財政運営の課題を考察する。
要する費用を徴収するという目的では同じものであることから、保険税の賦課等に関する規定 と基本的には変わらない。
図 5.3 市町村国保財政の概略図
(資料)筆者作成。
保険料は、医療費の一部に充当するための「基礎分(医療分)」、後期高齢者支援金として拠 出するための「後期高齢者支援金分」、介護納付金として拠出するための「介護納付金分」の 合計額とされている。市町村は保険料の標準賦課総額を定める。標準賦課総額は、応能割(所 得割・資産割)50%、応益割(被保険者均等割・世帯別平等割)50%で構成されている。賦課方 法としては、次の三つの方式が定められており、市町村はいずれか一つの方式をその市町村の 実情に応じて選択することになっている(図5.4)。
図 5.4 保険料賦課割合
(注)4方式:所得割額、資産割額、被保険者均等割額、世帯別平等割額の合算額によって課税。
3方式:所得割額、被保険者均等割額、世帯別平等割額の合算額によって課税。
2方式:所得割額、被保険者均等割額の合算額によって課税。
(資料)筆者作成。
応能割のうち、所得割額は「旧ただし書方式」によって算定する。「旧ただし書方式」とは、
所得割総額を市町村民税所得割の総所得金額等から基礎控除額のみを控除した後の総所得金 額等により算定するものである。「旧ただし書方式」を採用している理由として、所得控除(基
礎控除分を除く)の影響を受けないようにすること、中間所得者階層の税負担が高くなること への配慮がある。また、資産割額は、応能原則における所得割額を補完する役割を持たせるた めに設けられたもので、特に農村漁村等町村部においてその必要性が認められるが、大都市部 においては実情に即しないため、資産割額を採用していない都市が多い。資産割額の算定は、
資産割総額を①固定資産税額による算定、②固定資産税額のうち土地及び家屋の部分に係る税 額による算定のいずれかの方法によって按分して算定するものとし、いずれの方法によるか は、市町村の実情に応じて条例で定めることになっている。
応益割のうち、被保険者均等割額は、応益原則を端的に表しているものであり、被保険者数 を基礎として、その多寡により算定するものである。また、世帯別平等割額は、応益原則にお ける被保険者均等割額を補完する役割を持っており、一世帯当たりの被保険者数の多い小都市 か町村部に採用されている。
被保険者等均等割と世帯別平等割額は、被保険者(世帯)の所得の状況に関わらず、全被保険 者(全世帯)に同じ金額が賦課されることになるので、低所得者層に対する保険料の負担の軽減 を図るため、一般被保険者にかかる減額分は保険基盤安定制度で公費による措置がなされてい る(図5.5)3。
図 5.5 保険安定基盤制度の概要
(出所)「保険基盤安定制度の概要」(厚生労働省保険局「市町村国保の現状等について」(第1回国民健康保険制度の基盤 強化に関する国と地方の協議(平成23年10月24日開催)資料2)、15頁)に加筆。
保険料の軽減は、応益割合(被保険者均等割総額と世帯別平等割の合算額の保険料の課税総 額に対する割合)に応じて、政令に定める基準に従い、その市町村の条例で定める額を減額す ることができる。保険料軽減分の軽減割合は表5.1に示すとおりである。保険基盤安定制度の
3 退職者被保険者等にかかる減額分は療養給付費交付金により措置される。
保険者にかかる支援分として、中間所得者層を中心に保険料負担を軽減するため、保険料軽減 の対象となった一般被保険者数に応じて、平均保険料の一定割合が公費で補てんされる。
表 5.1 保険基盤安定制度の保険料軽減分の軽減割合
保険者の前年度または当該年度における応益割合 35%未満 35~45%未満 45~55%未満 55%以上
5割減額 6割減額 7割減額 6割減額
3割減額 4割減額 5割減額 4割減額 2割減額
(資料)筆者作成。
保険料の減免は、市町村独自の基準によって市町村の条例の定めるところにより行われる。
保険基盤安定制度での軽減分は国や都道府県により補てんされ、市町村分に対しては地方交付 税による財源措置が行われる。一方、保険料の減免は、市町村の財源による負担となり、一般 会計からの法定外繰入金によって賄われる。減免の内容の例として、災害減免、生活困窮減免、
所得減少減免などがある。
また、先に述べたとおり、保険料は、応益負担原則を相当程度加味しているため、課税(賦 課)限度額を設けている。課税限度額は表 5.2に示すとおりである。中間所得層の負担軽減を 図るため、平成21年度から27年度までに、16万円(基礎分5万円、後期高齢者支援金分5万 円、介護給付分6万円)引き上げられた。
表 5.2 保険料の課税限度額 年 度 基礎分 後期高齢者
支援金分 介護給付金分 合 計 平成21年度 47万円 12万円 10万円 69万円 平成22年度 50万円 13万円 10万円 73万円 平成23-25年度 51万円 14万円 12万円 77万円 平成26年度 51万円 16万円 14万円 81万円 平成27年度 52万円 17万円 16万円 85万円
(資料)筆者作成。
さらに、今後とも厳しい状況が続くものと見込まれる国保の財政運営に対し、国保財政基盤 強化策として、財政基盤強化策を実施している(図5.3の保険者支援制度等の部分)。内容は表 5.3に示すとおりである。なお、高額医療費共同事業と保険財政共同安定化事業の地方負担分、
国保財政安定化支援事業の全額については、その所要額を地方交付税によって財源措置される (図5.3の一般会計繰入金(法定分))。
表 5.3 国保財政基盤強化策(平成27年4月1日現在)
⾼額医療費共同事業 ・ ⼀件 80 万円を超える医療費についての都道府県単位での再保険事業 (負担区分)市町村国保 1/2、都道府県 1/4、国 1/4
保険財政共同安定化事業 ・ 都道府県内の国保の医療費における各国保からの拠出⾦を財源とする都 道府県単位での再保険事業
国保財政安定化⽀援事業 ・ 市町村の⼀般会計から国保特会への繰⼊れを地⽅財政措置で⽀援 (1,000 億円程度)
(注)保険財政共同安定化事業は、平成14年10月に導入され、当初は1件当たり30万円を超える医療費を対象とし ていたが、平成27年度からは全医療費を対象とすることとなった。
(資料)筆者作成。
一般会計からの法定繰入は、これらに加え、先に述べた保険基盤安定制度、基準費用超過額 に関する繰入金4、職員給与費に関する繰入金、出産育児一時金等に関する繰入金であり、こ れらの地方負担分は地方交付税によって財源措置される。一般会計繰入金(法定外分)は、法定 繰入以外の繰入金のことであり、決算補てん、自治体独自の保険料の負担緩和、保険事業や事 務費への充当等を目的としており、地方交付税による財源措置は行われず、市町村の財源で賄 われる。