に関連する社会保障サービスや税制を取り上げ、財政連邦主義の視点を踏まえて分析した。
第 4 章では、財政連邦主義の議論では国が担うべきとする現金給付の所得再分配機能につ いて、日本では国と地方が分担している生活保護における財源保障を検証した。生活保護は、
法定受託事務であり歳出の決定権限は国にあるが、費用負担に関しては、国と地方で分担し、
地方負担分は地方交付税で措置される仕組みとなっている。これは、国による全額負担と同様 の意味をもち、検証の結果、財源保障が不十分ではない水準であることを示した。
しかし、地方からは全額国庫負担の要請もある。この問題は、財政連邦主義の議論に照らす と、垂直的財政調整における「行政任務の決定権と執行権の非対応」と「行政任務と課税権の 非対応」が構造化していると捉えることができる。法令で定められている事業にも、財政の説 明責任から、一定の財政権限は移譲されるほうが望ましい。また、生活保護は現金給付が主で あるが現物給付で対応できることもある。再分配のパラドックスを避けるためにも、生活保護 も対人社会サービスを重視していることが重要である。この点からも、地方税源の拡充と課税 自主権の強化を通じた一定の財政権限は、地方自治体に移譲される必要があることを示唆し た。
第5章では、現物給付の所得再分配に係る医療保障のうち、制度上、高齢者や低所得者が多 く加入する市町村国民健康保険の財政運営について、(1)保険料、一般会計からの繰入金、保 険料の収納、医療費の抑制、の4項目の統計分析と、(2)一般会計法定外繰入金と保険料負担 に関する分析を行い、当該自治体の努力によってはこれらに関連する問題が解決されない状況 にあるかを検証した。その結果、(1)については、再差引収支の赤字団体では、黒字団体に比 べ、低所得者や保険料軽減者の加入が多いことにより、一人当たり保険料調定額は低い団体が 多く、保険料の引上げや収納率の向上が困難であり、歳入に占める一般会計繰入金の割合が高 くなることを見出した。また、医療費の抑制は高齢化の進行により地方自治体の医療費適正化 政策によっても困難であることを見出した。(2)については、国保への低所得者の加入増加に 伴い、一般会計法定外繰入金が増加し、厳しい財政運営が強いられる状況は、所得の高い大都 市とその周辺都市で顕著に生じていることを見出した。総じて、こうした状況は、自治体の財 政運営に問題があるわけではなく、個々の自治体での解決は困難であることを示した。
このような市町村国保の財政問題として、財政連邦主義の視点から、小規模な自治体である 市町村に国保の事務を配分していることにも起因することが考えられる。つまり、現物給付の 所得再分配として医療保障をどのレベルの政府に配分するかの問題であり、小規模である市町 村に国保の事務を配分することが適切ではないといえる。市町村国保は、平成30年度から都
道府県と市町村との共同運営になるが、基本的な構造は変わらないので、保険料の引上げが低 所得者の負担増となり、安定的な収入確保は必ずしも期待できず、国保財政を安定化させる制 度設計としては限界がある。分権的所得再分配のもとでは都道府県に事務を配分することは適 切であるが、長期的な視点で医療保障サービスのあり方を考える必要があることを示唆した。
第6章では、税制の所得再分配機能について、地方税の基幹税である個人住民税における非 課税限度額について、現行の非課税限度額制度を精査し、非課税限度額制度の意義と、財政連 邦主義の議論における地方の課税権の制約の視点から、地方の基幹税である個人住民税にどの 程度の所得再分配機能を配分すべきかについて考察した。その結果、個人住民税の非課税限度 額制度は、一定の所得再分配機能を果たしていることを示した。
しかし、個人住民税に課税最低限と非課税限度額制度の二つの所得再分配機能をもたせるこ とは、機能配分として適切であるのかという問題がある。また、課税権がさらに制約されてい るという問題もある。地方自治体が医療や福祉などの地域社会の共同作業や相互扶助に代替す る対人社会サービスを提供しているので、個人住民税は、応益原則に基づいた地方税の基幹税 として位置づけられる。したがって、生活保護基準程度の所得層に対しては、税制による所得 再分配機能は、国の所得税によって行い、地方自治体は所得再分配として現物給付(対人サー ビス)で対応していくのが適切であることを示唆した。
本論文の分析の結果、所得再分配機能を果たすべく日本の地方財政制度の構築への視点は、
(1)機能配分や事務配分を適切な政府レベルに行うこと、(2)地方の公共サービスの決定権の 配分を拡大すること、(3)地方の税源や課税権の配分を拡大すること、(4)機能する財政調整制 度を国の責任で負うこと、である。
地域社会の多様化するニーズに対応する社会保障サービスを提供するには、地方自治体に決 定権が適切に配分される必要がある。またニーズに即応したサービスを提供するためには、地 方自治体がみずから財源を調達できるよう、課税権の配分や地方への税源配分を拡大する必要 がある。そして、一定レベルの財源保障する地方交付税制度を通じた財政調整を国が有効的に 機能させることが重要となる。現行の制度の理解と課題を正しく認識し、日本型の地方財政制 度を構築することが喫緊の課題であるといえる。
もっとも、現在の日本の地方財政制度を維持するならば、地方財政が所得再分配機能を果た すためには、国税による増税が必要である。地方自治の観点からは、課税権の移譲が重要であ るが、この場合には地方税も増税しなければ、地方財政の所得再分配機能は果たせなくなる。
いずれにせよ、財源不足は明らかなので、国と地方で増税も視野に入れなければ、所得再分配
機能は徐々に弱まっていくことが考えられる。
最後に、本論文では、地方自治体が社会保障サービスを自主的・自立的に提供することがで きる地方財政制度の構築に向けた視点を見出しただけで、具体的な制度設計が議論できなかっ た。この点を含め、本論文で検討できなかった事項について示し、今後の研究課題としたい1。
一つ目は、社会保障分野において、地方自治体、とりわけ市町村が多く担っている社会福祉 サービスにおける歳出面での実態の把握である。地方分権により、法令による義務付け・枠付 けの緩和が実施されているが、歳出の決定権限がどの程度拡大し、地方自治体の効率的な財政 運営につながっているのか、地域の実情にあったサービスの提供状況など、データでは把握で きないので、聞き取り調査などを行い、実態と課題を見出し、検討する必要がある。
二つ目は、社会保障サービスにおける市町村と都道府県の関係である。市町村が実施する自 主財源と都道府県交付金からなる事業は、地方財政統計上、単独事業として分類される。現在 も都道府県と市町村との事業で、乳幼児医療費の無料化などを実施している団体もある。今後、
人口減少に伴い、小規模自治体が増加し、市町村優先主義による社会保障サービスの提供が困 難になることが推測される。現在、複数市町村が連携し共同で行政サービスを行っている一部 事務組合や広域連合などがあるが、隣接する地方自治体は、類似する財政構造や人口構造をも つことが多く、特に、人口減少や高齢化が進行している地方では、都道府県が果たすべき役割 が大きくなることが考えられる。都道府県がどのような機能を担うのが適切か、行財政体制に ついて検討する必要がある。
三つ目は、課税権の拡大や地方税源の拡充と、それに伴う財政調整制度のあり方についてで ある。課税権の拡大や地方税源の拡充には、偏在性が低く、安定的な財源確保に適切な地方税 の基幹税の検討が必要である。また、課税権の拡大や地方税源の拡充が進むと、税源の偏在性 の問題が伴うので、財政調整制度がこれまで以上に重要となる。現在の地方交付税制度におい て、各地方自治体の交付税配分額は、基準財政需要額から基準財政収入額を控除して求める。
地方税の分権化が進んだ状態として地方税法の標準税率の考え方が徹底され、地方自治体ごと に税率が大幅に異なるようになると、どこを基準にして標準的な税収とするのか、また、何を 基準にして標準的な一人当たり税負担とするのか、を検討する必要がある。また、交付税の原 資の税目についても課題となる。こうした場合、現在の地方交付税制度の見直しでよいのか、
新たに財政調整制度を創設すべきなのか、も含めて検討する必要があるだろう。
1 本論文では、社会保険制度による所得分配機能には言及しなかった。今後、国と地方による所得分配機能に ついて総合的に論じるには、社会保険を含め議論する必要がある。
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