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シャウプ勧告・神戸勧告に基づく国と地方の財政関係と所得再分配機能

ドキュメント内 社会保障に関わる地方財政の制度分析 (ページ 38-41)

第 3 章 日本の地方財政制度と所得再分配機能の展開

2. シャウプ勧告・神戸勧告に基づく国と地方の財政関係と所得再分配機能

昭和22年に施行された日本国憲法において、新たに地方自治の章が設けられ、地方自治が 憲法において認められた。この地方自治の理念を実現するため、昭和24年に来日したシャウ プ使節団は、従来の国と都道府県、市町村間の事務配分について根本的欠陥を指摘し、事務の 再配分と地方財源の充実、地方財政の自主性確保のための具体的措置を勧告した。いわゆるシ ャウプ勧告である。

政府間の事務の再配分について、シャウプ勧告では、(1)行政責任明確化の原則(国、都道府 県、市町村間における事務の再配分を行い、責任を明確化すること)、(2)能率の原則(事務の 規模、能率、財源によって準備の整っているいずれかの段階の行政機関に割り当てること)、

(3)地方団体優先及び市町村優先の原則(事務は市町村に第一の優先権、第二に都道府県、国は 地方の指揮下では有効に処理できない事務だけを引き受けること)という三つの原則が示され

た。これを受けて設置された地方行政調査委員会議(神戸委員会)は、昭和25 年12 月に、個 別具体的な事務に関する配分を提示した「行政事務再配分に関する勧告」(第一次勧告)を行っ た4。このなかで、地方の事務は原則として市町村に配分されるべきであるが、市町村の区域 を越えて処理しなければならない事務、市町村で処理することが著しく非能率または著しく不 適当である事務は府県に配分されるべきであるとした5

社会福祉に関連する事項「民生行政」において、生活保護は、「市町村の事務とする」とし、

府県には専門職員を配置し、町村の行う保護の実施に対する技術的指導に当たることとした。

また、児童福祉に関して、妊産婦の保健指導、助産施設、母子寮及び保育所への入所措置とそ れらの福祉施設の設置と監督は市町村の事務、精神薄弱児、盲ろうあ児などの特殊児童の保護、

その他市町村の事務以外の福祉措置とそれらの福祉施設の設置と監督は府県と児童相談所を 設置する市の事務とした。そして、生活保護と児童福祉ともに「国は、地方公共団体自治体に 対し報告の徴収、技術上の援助及び必要な勧告を行うことができるものとする」とし、地方自 治体に対する国の行政的関与は限定的なものとした6。なお、地方行政調査委員会議による勧 告は、ほとんどが実現されなかった。

一方、地方税財政制度について、シャウプ勧告において中心となるものは、税源配分におけ る市町村優先主義、独立税主義であった。その勧告によって、国税と地方税の基本的枠組につ いては、従来、重複していた国税、都道府県税、市町村税の税源の分離、都道府県税に関する 附加税が多かった市町村税を中心に独立税主義による地方の自主財源の拡充が図られ、不足財 源の補てんのための平衡交付金が創設された。

税源分離の原則に基づく税源配分をみると、所得課税については、国と市町村で重複してい

る(表3.1)。勧告によると、住民税は、複合的な人頭税であって、所得その他の担税力を課税

標準とする租税であるとする。住民税は、地方歳入の増加を図るのに適した方法であると一般 的に考えられており、市町村の財源を強化するため、住民税を市町村の財源とし、均等割とは 別に、課税標準を所得のみとした所得割の創設を勧告した7。これを受け、市町村住民税は均 等割と所得割とされた。なお、公平性の原則として、均等割は応能原則に反するが、これは、

4 地方行政調査委員会議「行政事務再配分に関する勧告」(昭和251225日)。この勧告において、教育、

民生、衛生、労働、農業、林野、水産、商工、運輸、土木、その他の個々の分野について60の事務を限定的 に列挙している。また、第一次勧告後、「行政事務再配分に関する第二次勧告」が昭和26922日に行わ れ、二つの勧告を総称して「神戸勧告」と呼ぶ。

5 地方行政調査委員会議編(1952、6頁)を参照。

6 前掲書(13-14頁)を参照。

7 神戸都市問題研究所・地方行財政制度資料刊行会編(1983、129-31頁)を参照。

地方税原則の一つである負担分任の原則、地方税をすべての地域住民が相互に負担し合う租税 として、応益性の性格を有すると解釈することができる。

そのほか、消費課税は国税と道府県税の双方にあるが、財貨(物品)を課税対象とする消費課 税は生産地と消費地が一致しないので国税に、サービス課税はサービスの提供と消費が同じ地 域でなされることが多いので道府県税に、それぞれ分類された。また、資産税のうち固定資産 税はその課税標準(土地、家屋、償却資産)が地域に定着しているので市町村の基幹税として適 しているが、自動車税は自動車の道路利用という面に着目して道府県税とすることが望ましい と考えられた8

表 3.1 シャウプ勧告による国税・地方税の基本的枠組み

国税 道府県税 市町村税

所得 所得税 法⼈税

市町村⺠税

消費

酒税 たばこ税 物品税

付加価値税

⼊場税 遊興飲料税

電気ガス税

資産 ⾃動⾞税 固定資産税

(注)シャウプ勧告での付加価値税は所得型付加価値税で消費課税ではないが、ここでは税源の分離を 明示するため消費課税として分類している。

(出所)橋本徹.1988年.『現代の地方財政』東洋経済新報社、72頁。

そして、国庫補助負担金について、シャウプ勧告では、行政責任明確化の原則から、事務の 執行による利害の帰属を基準にして国費と地方費の負担区分を定めることを批判し、国庫補助 負担金を、全額補助金、一部補助金、公共事業補助金に分けて大幅整理し、平衡交付金への振 替えを行うこととした。これを受け、昭和25年に地方財政平衡交付金制度が創設され、奨励 的補助金と公共事業費補助負担金を除く普通補助負担金については存廃を検討し、平衡交付金 への組入れを行うこととなった。これにより、地方政府の財源は、まず地方税で確保し、なお 不足する部分はすべて平衡交付金に算入された交付が保障されることとなった。したがって、

従来の負担区分の原則であった利害の厚薄の度合等によって、行政事務について国と地方との 間の経費負担区分を峻別する意義に乏しくなったため、昭和27年に改正された地方財政法に おいて、第9条に「地方公共団体がその全額を負担する経費」として、地方公共団体が担う事 務に要する経費については当該地方公共団体が全額負担するとことが原則とされた9。事務の

8 前田(200959頁)を参照。

9 石原・二橋(2000、115-16頁)を参照。

実施の責任と経費の負担とを地方公共団体に統一的に帰属させて、責任の明確化を図り、住民 の地方行政に対する関心を高め、もって地方行政の自主的な運営を確保するという考え方に基 づくものとされており、国と地方の負担区分は、国や地方自治体の受ける利害の強弱の度合い には関係がなく、実際にサービスを提供する機関がその経費を負担するとされた10

なお、先に述べた地方財政平衡交付金制度は、地域間の税収の偏在を調整し、いずれの地方 自治体においても一定の行政水準が確保できるよう、中央政府による地方政府に対する財源保 障機能と地方政府間の財政力格差是正を同時に達成しようとするものであり、シャウプ勧告の 内容に沿うものであった。

このように、戦後、占領下でのシャウプ勧告やそれを受けた神戸勧告に基づき構想され、一 部実現された日本の国と地方の財政関係は、行政責任明確化の原則により、社会福祉に関連す る事項「民生行政」は、市町村優先主義に基づき地方自治体に対する国の行政的な関与は限定 なものとした。財源に関しては、基本的には税源分離の原則に基づくが、市町村優先主義によ り市町村の財源確保の観点から、所得課税が国と重複している。

この時期の国と地方の財政関係について財政連邦主義の類型でみると、行政責任明確化の原 則や税源分離の原則に基づいたマスグレイブ型の財政連邦主義と所得再分配機能において市 町村優先主義とする北欧型の財政連邦主義の混合型であるといえる。

ドキュメント内 社会保障に関わる地方財政の制度分析 (ページ 38-41)