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市町村国保の財政運営のあり方

ドキュメント内 社会保障に関わる地方財政の制度分析 (ページ 106-110)

第 5 章 市町村国保の運営の限界に関する実証的分析

5. 市町村国保の財政運営のあり方

について、これらの相互の相関関係や一般会計法定外繰入金との相関関係の検証を試みたが、

相関がみられなかった。これは、各保険者が一人当たり保険料調定額の多寡に関係なく、未納 保険料の確保を促進するなど未納対策に取り組み、保険料の徴収努力を行っていることが考え られる。

4節の検証結果は次のように要約できる。①所得の高い団体で国保財政の状況が深刻であり、

一般会計法定外繰入金が多い。②所得が高い団体では、被保険者一人当たりの平均保険料調定 額が最も低いが、所得差を修正した所得に占める保険料調定額を推計すると、保険料の負担割

合が 20%以上である団体が多くなる一方で、低所得者の保険料負担の軽減措置の結果として

その割合が 10%未満の団体も存在し、大都市とその周辺都市では他の団体に比べ低所得者の 負担が非常に大きい。③滞納世帯率は、所得に占める保険料調定額が低く所得が高い団体で高 いことから、所得が高い団体で保険料の負担が非常に大きい。④一般会計繰入金と保険料負担 の相関分析では、所得の高い団体で負の相関がみられ、保険料の負担が低いと一般会計繰入金 が高いことから、低所得者の被保険者の保険料の負担緩和等に一般会計から多額の法定外繰入 金を行っていることが推測できる。⑤保険料負担と保険料軽減との相関分析では、所得の高い 団体で正の相関がみられ、保険料の負担が大きいと保険料軽減額が大きいことから、低所得者 の被保険者の負担緩和等が行われている。

予測され、それに伴い保険料の引上げとなりうる。高齢化の進行による医療費の自然増は避け られないため、医療費適正化政策における自治体の努力で医療費を抑制するには限界があり、

医療費抑制による保険料の引下げは難しいといえる。

また、一般会計法定外繰入金と保険料負担に関する分析を行った結果、国保の加入者の低所 得者の増加に伴う厳しい財政運営の状況は、所得の高い大都市とその周辺都市で顕著に生じて いることが分かった。加入者の低所得者の増加は、景気の低迷や雇用情勢の悪化の影響による ものであっても、国保財政の安定的な運営のために、保険者内の被保険者の保険料負担の軽減 に対し、一般会計法定外繰入金を行う必然性がある。これは、黒字団体であっても同様であり、

現在、低所得者の被保険者の支援措置として、一般会計法定外繰入金を行っている団体もある。

仮に、財政基盤の強化として保険料の引上げを行ったために、保険料の負担が大きくなり、被 保険者の滞納が増加して保険料収入が減少した場合、決算補てんのために一般会計から繰入れ を行うことが考えられ、いずれの場合にも法定外の繰入れが行われる。2 節で述べたとおり、

国保財政は法令による規定が多く、また、近年の自治体の財政状況では、多額の財源を国保事 業に投入することは考えにくい。こうした事情に鑑みると、低所得者の保険料負担緩和や決算 の補てんによる一般会計の法定外繰入金の増加は、保険者の責めに帰するできない特別の事情 が大きく、やむをえない状況であるといえる。

この都市における貧困問題に起因する国保財政の赤字は、自治体の財政運営に影響を及ぼ す。たとえば、国保会計の赤字は「財政健全化法」にかかる4指標の一つである「連結実質赤 字比率」を押し上げることになり、一般会計からの法定外繰入金の増加に伴い、自治体財政を 圧迫する可能性がある。また、国保加入者の失業や所得減少により、国保から離脱して生活保 護の医療扶助を受ける場合、生活保護費の扶助の4 分の1 は自治体の負担であり、生活保護 の扶助のなかで最も高額である医療扶助の増加により、財政を圧迫する可能性がある。今後、

国保制度の維持と自治体の財政運営をどのように調和させていくかが課題の一つとなるだろ う。

最後に、国保事業は、平成 30 年度から都道府県と市町村の共同運営となる10。国保財政に 関しては、都道府県に国保特別会計が設置され、市町村の国保特別会計は残されて、引き続き 責任を負う。都道府県が市町村ごとの標準保険料を設定、各市町村がそれを参考にしながら保 険料を設定、徴収し、都道府県に納付金として納付する。保険料の収納不足に起因して赤字が 発生する場合は、都道府県に設置される財政安定化基金が市町村に貸付されることになってい

10 平成30年度からの国保事業については、新田(2015)を参考にしている。

る。貸付の返済は、一般会計法定外繰入金が認められなければ、被保険者の保険料の引上げに より賄うことになる。また、保険給付費の想定外の増加に起因して赤字が発生した場合は、都 道府県が基金を取り崩し、都道府県特別会計に繰り入れ、都道府県が償還するものとしている。

都道府県はこの分を上乗せして各市町村に納付金を課すことが想定されているので、この場合 も被保険者の保険料の引上げになる。結局、市町村は、保険料の収納不足により発生した財政 赤字と保険給付費の増加により発生した赤字の一定部分を補てんする責任を引き続き担うこ とになる。このような共同運営では、市町村への都道府県の関与が強化されるだけで、現状の 国保運営とほとんど変わらない状況であり、国保財政を安定化させる制度設計としては限界が あると考えられる。国保の被保険者の年齢構成が変わることがないので、保険料の引上げとな れば、低所得者の負担増となり、安定的な収入確保は必ずしも期待できないだろう。

Boadway and Shah(2009)による財政連邦主義の議論からは、医療は準私的財であり、現物

給付による所得再分配が重要である場合には、地方政府がその機能を果たすのが望ましいとす る。医療サービスという現物給付による所得再分配は、都道府県がその機能を果たすのが望ま しい。国保の事業の共同運営という制度設計ではなく、現在、都道府県が担っている医療提供 に関する計画や実施(サービスの提供範囲)と財政運営を一致させること、すなわち国保の財政 を都道府県が担うことは妥当であるといえる。医療保障の安定化に向け、長期的には、職域や 地域別を変更して医療保険制度を一元化して都道府県での運営やその財源のあり方(税で賄う のか、保険料で賄うのか)についても視野に入れ、新たな医療保障の構築を考えていかなけれ ばならないだろう11

11 たとえば、松本・高端(2006)では、長期的には、都道府県を主体とした税方式による医療保障システムの 構築を提案している。

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