第 4 章 生活保護に対する地方交付税の財源保障
2. 生活保護費の基準財政需要額の算定の考え方
生活保護は国庫負担金事業である。生活保護費の経費負担については国と地方で分担され、
国庫負担4分の3、地方負担4分の1となっている。国庫負担金事業の地方負担の財源保障に
ついて、地方財政法第11条2で、「第10条から第 10条の3までに規定する(国庫負担金事 業)経費のうち、地方公共団体が負担すべき部分は、地方交付税法の定めるところにより地方 公共団体に交付すべき地方交付税の額の算定に用いる財政需要額に算入するものとする」と規 定されている。これは、国庫負担を伴う経費については、地方公共団体の負担部分を地方交付 税の額の算定に用いる財政需要額に算入することによって、これらの経費の地方負担分に対す る一般財源の裏づけを保障しようとするものである。
普通交付税の額の算定に用いる基準財政需要額は、地方交付税法の規定に基づき、各地方団 体の財政需要を合理的に測定するために客観的かつ画一的な方法により算定されており、具体 的には、各行政項目別にそれぞれ設けられた「測定単位」の数値に必要な「補正」を加え、こ れに測定単位ごとに定められた「単位費用」を乗じた額を合算することによって行われる(単 位費用 × 測定単位 × 補正係数)。生活保護は、市と都道府県(町村分)が所管であり、市と都 道府県では生活保護費の基準財政需要額の算定のしかたは若干異なる。以下では、平成21年 度の市部の生活保護費の基準財政需要額の算定を概観する8。
生活保護費の測定単位は人口(国勢調査人口)である。単位費用は、標準団体における標準的 な財政需要の見積もりについて測定単位一単位当たりの費用であるので、生活保護費の単位費 用の場合は人口一人当たりの生活保護費である。また、生活保護費の単位費用は、生活保護法 に基づく生活保護費(大部分が生活扶助等の保護費)と社会福祉事務所費(大部分が社会福祉主 事等の人件費)からなる。
生活保護費の基準財政需要額の算定において、単位費用はすべての市に同一のものが適用さ れる。しかし、実際の団体の人口一人当たりの生活保護費は、各団体の人口規模、被生活保護 者数、保護費の基準、社会福祉主事の配置、人件費、市間の権能差等によって大きく異なる。
このような差については、その差の生じる理由ごとに測定単位の数値を割り増すまたは割り落 とす方法をとって測定単位の補正を行う。これが補正係数である。生活保護費の補正係数は、
段階補正、密度補正、普通態容補正、寒冷補正Ⅰ、寒冷補正Ⅱからなる。これらの補正係数を
8 ここでは、生活保護費の基準財政需要額の算定について、議論に必要な部分のみを扱っている。基準財政需 要額の算定については、地方交付税制度研究会編『地方交付税制度解説』単位費用篇、補正係数・基準財政収 入額篇(地方財務協会)に算定方法が解説されている。生活保護の基準財政需要額の算定については、小西 (2009、第3章)に詳しく算定方法が解説されているので、同書を参照せよ。
集計するときの算式は次のとおりである。
段階 補正係数
普通態容 補正係数
寒冷補正
Ⅰ係数
寒冷補正
Ⅱ係数 1 密度 補正係数 1
以下では、補正係数のうち、本章の内容に直接関わる密度補正である生活扶助等の保護費に かかる密度補正を中心に述べる。生活扶助等の保護費は、人口とは必ずしも比例せず、より正 確には被生活保護者数と関係がある。この被生活保護者数の違いを反映する補正が密度補正で ある。密度補正係数は、社会福祉主事費は生活扶助者等の数、生活扶助等の保護費は被生活保 護者数等の数に基づいて設定される。最終的にこの二つの密度補正は合算される。
密度補正係数 1
社会福祉 主事費に 係る密度補正
生活扶助等の 保護費に 係る密度補正
社会福祉主事費にかかる密度補正の算定式は次のとおりである。
当該団体の 生活扶助者等の数
標準団体の 生活扶助者等の数
(当該団体人口に置換)
標準団体の 生活扶助者 一人当たり 社会福祉主事費 単位費用 当該団体の人口
上式の分子の部分について、前年度の当該団体の生活扶助者等の数に厚生労働省が予算の調 製で用いる前年度から今年度の生活扶助者数の推定の伸び率を乗じて算出する当該団体の生 活扶助者等の数と、標準団体の人口10万人当たりの生活扶助者数を当該団体人口に置き換え た生活扶助者数との差に、標準団体における生活扶助者一人当たりの費用を乗じて算出する。
生活扶助等の保護費にかかる密度補正の算定式は次のとおりである。
当該団体の 被生活保護者等の数
標準団体の 被生活保護者等の数
(当該団体人口に置換)
標準団体の 被生活保護者
一人当たり 算入単価 単位費用 当該団体の人口
算定式は社会福祉主事費にかかる密度補正と同様の構造である。ただし、上式の「当該団体 の被生活保護者等の数」は、次のとおりに算定する。
今年度の 当該団体の 被生活保護者等の数
前年度の当該 団体の算定と 実数の要精算 被生活保護者数
地域ごとの 生活扶助等の
保護費の 単価差率
今年度の 当該団体の 被生活保護 者等の数
前年度の 当該団体の 被生活保護 者数の実数
前年度に 算定した 当該団体の 被生活保護者数
前年度 補正予算を 勘案した率
前年度と今年度の 被生活保護者 一人当たりの 算入単価差率
地域ごとの 生活扶助等の
保護費の 単価差率
「当該団体の被生活保護者等の数」は、今年度の当該団体の被生活保護者等の数に前年度の 当該団体の算定と実数を精算する必要のある被生活保護者数を合計したものに、生活扶助等の 保護費の地域による違いを反映させるため、生活扶助等の保護費の地域ごとの単価差を乗じて 算出する9。当該団体の被生活保護者等の数は、次のように算定する。まず、標準団体の被生 活保護者について、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助(入院分)、医療扶助(入院外分)、
介護扶助、その他の扶助(出産扶助、生業扶助、葬祭扶助)の七つの扶助区分のそれぞれに被生 活保護者等の数が想定されているが、単価の違いを反映させるために、一人当たり生活扶助の 月額単価を基準に被生活保護者等の数を算出する。「今年度の当該団体の被生活保護者等の数」
は、七つの扶助区分ごとに前年度の当該団体の扶助者数の実数に対して、厚生労働省が予算の 調製で用いる前年度から今年度の推定の伸び率を乗じて算出し、それらを合計した数とする。
次に、「前年度の当該団体の算定と実数を精算する必要のある被生活保護者数」は、年度間 の生活扶助等の保護費の算入単価差を反映させる。前年度の当該団体の実際の被生活保護者数 と、前年度に算定された当該団体の被生活保護者数(前年度補正予算分を反映)との差に、前年 度と今年度の被生活保護者一人当たりの算入単価差率を乗じて算定される。
このように、生活扶助等の保護費は被生活保護者数の実績に基づいて補正が行われており、
保護費の単価差以外のところでは、追加の財政需要が発生しない仕組みになっている。生活扶 助等の保護費における基準財政需要額と実額との乖離は、被保護者数と単価差のいずれかであ るので、算定額と実態との乖離が生じる要因は、制度的には単価差にあるといえる。3節では、
交付税単価と実額単価の単価差を検証し、実額単価が基準財政需要額の算定に反映していない ことによる財政運営への影響について、大阪府門真市を事例に分析する。
9 前年度の当該団体の算定と実数を精算する必要のある被生活保護者数は、平成16年度から普通交付税に導 入されるようになった。その経緯は、原(2004)、佐藤(2005)によると、市部の生活保護費について、普通交 付税において人口を測定単位とし、被生活保護者数の密度によって補正するが、被生活保護者数を前年度実績 に厚生労働省の伸び率を乗じて算出しているため、個別団体では過少が生じることがあり、当該過少分に対し て特別交付税で措置してきたが、特別交付税総額が減少を続ける状況となってきたこと等を踏まえ、平成15 年度の特別交付税の交付を廃止し、16年度から普通交付税において算定されることになった。