第 4 章 生活保護に対する地方交付税の財源保障
5. 生活保護に対する財源保障の議論と残された課題
本章では、生活扶助等の保護費の基準財政需要額と実額が乖離する要因として、交付税単価 と実額単価の単価差に焦点をあて、生活扶助等の保護費に対する地方交付税の財源保障につい て、交付税単価と実額単価の較差とその単価差によって生じる生活扶助等の保護費の一般財源 過不足の状況について検証し、生活扶助等の保護費に対する地方交付税の財源保障について、
門真市を事例として考察を行った。その結果、二つの検証から、①単価差は年度や扶助費によ
12 門真市長 園部一成「平成21年度決算に基づく「財政健全化法」に係る4指標等の状況」(平成22年10月 26日)。
って異なり有利不利があり、そのことが自治体間で見た場合にも有利に働く団体や不利に働く 団体が生じさせる可能性がある、②単価差があることが必ずしも財政運営を圧迫しないが、単 価差の大きさによって、特に、保護率が高い団体ほど生活扶助等の保護費に対する財源不足額 が大きくなり、財源措置不足により財政を圧迫する可能性があることが見出せた。それと同時 に、地方交付税の財源保障の意味を踏まえ、実額単価を反映させないことで基準財政需要額の 算定が不適切であるとはいいがたい。必要な経費が発生しており、その理由に蓋然性があるに もかかわらずそのことが基準財政需要額に算入されていない場合に限って、基準財政需要額の 算定が不適切である、地方交付税による財源保障が不十分であることを示した。
本章の分析で残された課題として、基準財政需要額と実額が乖離する要因について、地方交 付税制度の問題なのか、生活保護行政の運営上の問題なのかを見極めたうえで、生活保護に対 する財源保障のあり方を考察する必要がある。特に、生活保護行政の運営上の問題で生じる財 政需要の拡大に関し、医療扶助については実態を把握し分析する必要がある。
また、財政連邦主義の観点に照らすと、国の政策である現金給付の所得再分配機能に関し、
日本では、実施基準(決定権限)は全国統一基準で国が設定、地方が実施し、財源は国と地方で 分担するので、地方自治体から全額国庫負担の要請が続くことが考えられる。これは、垂直的 財政調整における「行政任務の決定権と執行権の非対応」と「行政任務と課税権の非対応」が 構造化していると捉えることもできる。
諸外国の公的扶助制度を概観すると、たとえば、イギリスの所得補助では、実施基準は全国 統一基準で国が設定、地方が実施し、財源は全額国庫負担である。一方、ドイツの生計扶助で は、実施基準は連邦政府が全国標準を示し、州や地方自治体(郡および郡に属さない市)が独自 の基準を設定、地方自治体が実施し、財源は州や地方自治体である13。また、スウェーデンで は、大半の所得保障制度が国で実施されているのに対し、社会扶助では、市(コミューン)に多 くの権限が配分されている。実施基準は食費、医療費、日常消耗品費などは全国標準を示し、
市がその額を下回らない額を設定、住居費、電気代相当は市が独自の基準を設定、市が実施し、
財源は全額市の負担である14。これは、各国が所得再分配機能を地方に配分しているか、また、
財政権限の分権化の度合いによって異なっているといえる。
日本では、これまで国と地方の費用負担をめぐり、地方負担の増加が度々議論されてきたが、
13 例外として、旧ドイツ領東部地域生まれの在外ドイツ人への給付費用は連邦が負担する(山本他 2013、7 頁を参照)。
14 詳細は、岩名(2013、30-31頁)を参照。また、岩名(2013、32頁)は、給付額の設定をコミューンが行うこ とに対し、財政状況が脆弱なコミューンにおいては、ナショナル・ミニマムの保障も危うくなるという問題も 指摘している。
地方の要請は、地方分権よりも、負担軽減の側面が強かったようにみえる。生活保護は、現金 給付が主であるが、現物給付で対応できることあるだろう。その場合には、地方自治体に財政 権限が移譲されることが条件となるが、生活保護の制度設計についても併せて考える必要もあ るだろう。そのようにすることが、財政連邦主義の徹底という意味でも重要であることはいう までもない。