第 3 章 開発した日本語コースとその実施結果
3.2 実施結果
3.2.2 第Ⅱ期(2015 年度後期)の実践の概要
第Ⅱ期の受講生は、3年生(3名:1年次入学1名・3年次編入学2名)の学部留学 生で、非漢字圏出身2名と漢字圏出身1名、計3名が受講した。
(2) シラバスの設計及び調整
第Ⅱ期は、総合的な活動によって多様なストラテジーを利用する機会を提供した。
「課題設定(問題発見)→課題解決→まとめ」というプロセスをたどって課題解決学 習を行い、その中に留学生の要望が高かった日本人学生との交流活動を組み入れた。
読解ストラテジーを意識的に利用する活動はその準備として行った。表 3-9 のよう に、代表的な読解ストラテジーを利用する活動をした後、4 技能全てを用いる必要の ある課題解決学習を2回コースに組み入れ、4~5週を費やして一つの課題に取り組む プロセスを繰り返した。「課題設定(問題発見)」への意欲を喚起するために、主題を 異なる視点から捉えた文章やグラフ資料を日本語教材以外からも選んで提供した。1回 目は、「夫婦別姓制度」の読解からの発展活動を課題解決型活動のモデルとして経験 させ、「子どもの育て方(ほめるか・叱るか)」を主題とする2回目で本格的に課題 解決学習のプロセスで進めた。課題解決学習の過程に、資料読解、インタビュー活動、
レポート執筆活動を含め、読解以外のストラテジーの意識的利用活動を取り入れた。
表3-9 第Ⅱ期(2015年度後期)の学習活動
週 主な活動内容
1 オリエンテーション
・授業の進め方の概要及び学習ストラテジーとリフレクショ ン・ノートについての説明を聞き、学習ストラテジーに関す るアンケートに答える。
2 ジャンルの特徴の 理解
・日本語のいろいろな文章をジャンルで類別して文章の書か れ方の違いに着目しジャンルごとの特徴について話し合う。
3 題名の役割の理解(1) ・「題名から予測する」ストラテジーを使っていろいろな文章 の題名を読み、題名の働きについて話し合う。
67
4 題名の役割の理解(2) ・課題文の内容を確認し合い、「キーワードを見つける」スト ラテジーを使って、課題文につける題名について話し合う。
5 文章構造の把握
・「論点表示文/問題提起文を見つける」「結論表示文を見つけ る」ストラテジーを使って課題文を読み、内容について話し 合う。
6 筆者の立場の把握 ・「譲歩・逆接の表現に注目する」ストラテジーを使って課題 文を読み、内容について話し合う。(資料19)
7
課 題 解 決 学 習
Ⅰ
記 事 文 の 特 徴 の 理解・内容把握・
課題の意識化
(課題設定)
・「夫婦別姓制度」に関する新聞記事を読み、記事文に必要な ストラテジーについて話し合う。
・興味を持ったことや日本人と話してさらに知りたいことを 出し合い、インタビューの計画を立てる。(資料20)
・インタビューに必要な表現について確認する。
8
課題の答えの 追 究・文書表現の理 解(課題解決)
・インタビューの結果を報告し合い、テーマに関する様々な意 見を聞き、自分の考えを整理する。
・書き言葉、和語と漢語の使い分けの練習をする。
9
課 題 の 答 え の 追 究・文書表現の理 解(課題解決)
・インタビューの結果を報告し合い、テーマに関する様々な意 見を聞き、自分の考えを整理する。
・和語と漢語の使い分け、名詞化の練習をする。
10 自 己 の 考 え の 提 示(まとめ)
・テキストの序論の分析を行い、レポートの構成や表現の仕方 について確認する。
・「構成を考える」ストラテジーを使用し、テーマに対する自 分の考えを述べ方を検討して、構成を決める。
11
課 題 解 決 学 習
Ⅱ
一 次 資 料 の 内 容 把握・課題の意識 化(課題設定)
・「子どもの育て方(ほめるか・叱るか)」をテーマとする課 題解決学習の活動予定を確認する。
・グラフや課題文を読み、テーマについての自分の考えや経験 を出し合い「ほめられること」と「叱られること」の長所・
短所を話し合って、インタビューの計画を立てる。(資料21)
12
課題の意識化・課 題 の 答 え の 予 測
(課題設定)
・インタビューの結果を報告し合い、「ほめられること」と「叱 られること」の問題について話し合う。
・自分の疑問点を整理して、課題を設定する。
13
資料の内容把握・
課 題 の 答 え の 追 究(課題解決)
・二次資料を読んで概要を理解し、「ほめられること」の問題 点について話し合い、自分の考えを整理する。
・自分の主張の根拠として利用したい箇所を資料から選ぶ。
14
課 題 の 答 え の 追 究・引用表現の理 解(課題解決)
・二次資料を読んで概要を理解し、「ほめられること」の問題 点について話し合い、自分の考えを整理する。
・自分の主張の根拠として利用したい箇所を資料から選ぶ。
・引用の表現や方法を確認し、引用の練習をする。
15 自己の考えの提 示(まとめ)
・レポートの構成や表現についてペアやグループで助言し合 い、自分の考えを述べ方を検討して、構成を決める。
<教材作成の参考とした素材>
日本語教育教材
・一橋大学留学生センター(2005)『留学生のためのストラテジーを使って学ぶ文章の読 み方』スリーエーネットワーク
68 (3) 第Ⅱ期の活動例と学習者の反応
第Ⅱ期の活動の中で、課題解決学習で問題を発見して「課題設定」を行い、「課題解 決」のプロセスとなった第11週-第15週の活動について取り上げ、それぞれの学習 者がまとめとして提出した成果物(レポート)を見る。
課題解決学習の主題(子どもの育て方:ほめるか、叱るか)は、ほめる教育の重視が 過度と思われるほどに広がりを見せている昨今、「ほめられること」と「叱られるこ と」に内在するものを認識し、それらを理解することは大学生にも有益であると考え、
教員が選んだものである。異なる視点で示された資料の提供と自分自身の経験の想起、
日本人へのインタビュー活動を組み合わせることにより、学習者自身の疑問や矛盾が 問題発見の契機となって課題設定に生かされるとともに、課題解決の意欲に繋がるよ うに努めた。
具体的には、第11週で、「ほめて育てる」ことの効果や重視を示唆する資料と「ほ めて育てる」ことの賛否両論を記述した資料を用いて、読解及び話し合い活動を行っ た。さらに、「ほめられること」と「叱られること」の長所と短所を話し合い、資料21 を用いて、自分自身の経験から言えることを発表し合った。
第12週で、これらの活動で考えたことをもとに日本人に対して行ったインタビュー の結果を報告し合い、問題点は何かをクラスで話し合った。「ほめる教育だけではな ぜいけないのか」、「ほめる教育と叱る教育のバランスをどのようにしてとればよい か」などの課題を想定した。
第 13 週と第 14 週では、課題解決に向けて、異なる視点の新たな資料を提供した。
・鎌田美千子・仁科浩美(2014)『アカデミック・ライティングのためのパラフレーズ演 習』スリーエーネットワーク
一般書・国語教科書・新聞記事・インターネット記事
・Po Bronson and Ashley Merryman. (2009) NurtureShock New Thinking About
Children. 小松淳子訳(2011)「ほめられる子どもは伸びない」『間違いだらけの子育
て―子育ての常識を変える10の最新ルール』インターシフト, 18-38
・榎本博明(2015)『ほめると子どもはダメになる』新潮社
・中沢けい「雨の日と青い鳥」光村図書『国語2 (中学)』
・「女性の権利憲法判断へ 夫婦別姓 再婚禁止:年内にも初の最高裁判決」
2015年11月5日付西日本新聞
・「子育てとお手伝いに関する小学生母子の意識調査-毎日褒められている子どもは「友 達が多い」!?」(株)ライオン. www.lion.co.jp/ja/company/press/2014/.../2014063.pdf
69
「ほめる教育」の弊害を示す資料の提示である。「ほめられる子どもは伸びない」(ポ ー・ブロンソン他・小松訳, 2011)と本書の主張の要旨を文庫版にまとめた「ほめると 子どもはダメになる」(榎本, 2015)から一部を抜粋して自作した二つの読解資料で ある。いずれもやや難解な表現も含む長文であるが、多くの情報からタイトルやキー ワードに注目して自分の主張の根拠に必要な箇所を取り出す練習として、二つの資料 を個々人の必要に応じて利用するようにした。
課題解決学習のまとめとして、学習者は、以下に示す表3-10、表3-11、表3-12 のレポートを提出した。15週のコース終了2週間後に提出を課したものである。課題 設定をどう行い、結論につないだか、該当すると思われる部分に下線を施した。
表3-10 課題解決学習のまとめレポート例1
ほめて育てるとは本当にいいのか
学習者5(学部3年)
1.はじめに
「ほめて育てるしかって育てるか」のテーマに関して、筆者は周りの人に「ほめて育てる かしかって育てるか、どちらのほうがいい?」と言う質問を聞いた。10人の中に9人はほ めて育てる方がいいと答えた。多くに人はほめると子どもが嬉しくなり、やる気を出させて あげたほうがいいと思うからほめて育てる方がいいと答えた。筆者もインタビューした人た ちと賛成である。自分が育てられる子どもの立場だとしたら、しかられると嫌になり、いつ もほめられてくれると嬉しいと思う。そして、しかれて育てることは否定的なイメージを持 っているから誰でもしかって育てるよりほめて育てるほうが子どもたちの成長の影響に良い と筆者が思われる。
しかし、ほめて育てるに関する疑問が出た。ほめると嬉しいかどうか、やる気が出るかど うかは人によって違うのではないか、子どもはほめられすぎると甘やかされて育てられるの ではないかと考える。そのため筆者は本当にほめて育てるほうがいいのかを検討し、ほめて 育てるのデメリットを明らかにする。
2.筆者の経験とほめる行為の実験
筆者はほめて育てるのはどういう影響が子どもたちに与えるのかを検討としたら自分が 実際に経験したことから見ることは一番だと考える。筆者は子どもころから、他の兄弟より 賢いといつも言われていた。学校にもいつも成績がトップランキングであった。両親は筆者 が賢いだと思っているから、筆者をあまり勉強させていなかった。どんな試験でもどんな科 目でも筆者はきっといい点数を取れるからだと両親が信じていた。筆者も自分の頭が良いか らそんなに努力しなくてもいい点数が取れると考えた。
しかし、大学に入ると勉強のレベルは徐々に高くなり、筆者はいつものように自分が努力せ ずにも必ずできると思っていたが、思ったよりできなかくて成績がますます悪くなった。自分 が賢いと信じていた筆者は自分が本当は頭が悪いからできなかったと思っており、すぐ落ち 込むになった。
筆者の経験はドゥエック率いるコロンビア大学の研究チームがやっていた実験の結果の 通りである。その実験はニューヨークの公立校20校でほめる行為が生徒に及ぼす影響の研 究であり、5年生の子ども400人を対象とした実験であった。子どもたちは最初に簡単なテ ストをさせて、生徒のテストの成績より、2つのグループに分けていた。一つのグループは