第 3 章 開発した日本語コースとその実施結果
3.2 実施結果
3.2.1 第Ⅰ期(2014 年度後期)の実践の概要
第Ⅰ期の受講生は、2年生(1名)と3年生(4名:1年次入学2名・3年次編入2 名)の学部留学生、交換留学生(1名)、研究生(1名)、大学院生(1名)で、非漢 字圏出身5名と漢字圏出身3名、計8名が受講した。
(2) 第Ⅰ期のシラバスの設計及び調整
第Ⅰ期は、コース開始時のアンケート調査から読解能力の向上が喫緊の課題である と判明したため、シラバスの設計にあたっては、表3-5に示す通り、効率的な読解に 資するストラテジーを意識的に利用する活動に重点化して、課題解決型の活動を一回 組み入れた。表中のRSは、読解ストラテジー(reading strategy)を表す。
表3-5 第Ⅰ期(2014年度後期)の学習活動
週 主な活動内容
1 オリエンテーション
・授業の進め方の概要、読解ストラテジー(以下RS)とリフ レクション・ノート(資料11)についての説明を聞き、「読 むこと」についてのアンケートに答える。
2 ジャンルの特徴の 理解
・日本語のいろいろな文章をジャンルで類別して文章の書か れ方の違いに着目し、ジャンルごとの特徴を話し合う。
3 RSへの気づきと関心 の喚起
・RS の一覧をもとに、自分がよく使うものを想起し、クラス の人と意見交換をして、自分のRSの使用状況をふり返る。
(資料12)(資料13)※課外:課題文の読解
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RSの意識的利用に よる長文読解・自己 の考えの提示
・第3週課題文の読解で使用したRSを紹介し合い、効果的な RSや自分に必要なRSを確認し合う。
・課題文の内容をペアで確認して、自分の意見をまとめ、課外 で日本人と話したいことを書きまとめる。(資料14)
5 題名の役割の理解 ・「題名を読む」ストラテジーを使っていろいろな文章の題名 を読み、題名の働きについて話し合う。(資料15)
6 題名・冒頭部分・末尾 部分の特徴の理解
・説明的文章の題名、冒頭部分、末尾部分の特徴に注目して、
題名のパラフレーズ、問題提起文、結論表示文の働きについ て話し合う。
7 文章構造の特徴の 理解
・「文章構造をつかむ」ストラテジーを使って説明的な文章を 読み、内容について話し合う。
8 文章構造の把握 ・「中心文を見つける」「文章構造をつかむ」ストラテジーを 使って文章を読み、文章や段落の構造について話し合う。
58 (3) 第Ⅰ期の活動例と学習者の反応
読解ストラテジーの意識化を促すために行った一連の活動(第 2週-第8週)を時 間軸に沿って述べる。
第 2週では、日本語のいろいろな文章のジャンルを識別し、ジャンルによって文章 の書かれ方が違うことを確認した。
第3週・第4週では、学習者全員がストラテジーの意識的使用の経験がなかったた め、読解ストラテジーの自己点検表(表 3-6:資料 12 より抜粋)を用いて、自己の 9 要約の方法の理解(1) ・「要約する」ストラテジーを使って課題文の要旨をまとめ、
内容について話し合う。
10 要約の方法の理解(2) ・「要約する」ストラテジーを使って課題文の要旨をまとめ、
内容について話し合う。
11
RSの意識的利用によ る長文読解・自己の考 えの提示
・既習のRSを意識して課題文を読み、グループで内容を確認 し、自分の考えを発表し合う。
・「構成を考える」ストラテジーを使って、ペアやグループの メンバーと手話に関するレポートの構成について話し合う。
12 口頭発表準備
(テーマの選定)
・クラスのメンバーからアドバイスをもらい、口頭発表のテー マを決め、発表までの計画を立てる。(資料16)
13
口頭発表準備
(アウトライン作成・
資料収集)
・「構成を考える」ストラテジーを使用し、ペアの相手やグル ープのメンバーと話し合い、自分の発表のアウトラインを作 成する。(資料17)
14 口頭発表準備
(構成の検討)
・「構成を考える」ストラテジーを使い、ペアやグループから アドバイスをもらって、構成を決定し、自分の目標を決める。
(資料18)
15 口頭発表 まとめ ・口頭発表を行う。
<教材作成の参考とした素材>
日本語教育教材
・佐々木仁子・松本紀子(2010)『日本語総まとめN2読解』アスク出版
・一橋大学留学生センター(2005)『留学生のためのストラテジーを使って学ぶ文章の読 み方』スリーエーネットワーク
・アカデミック・ジャパニーズ研究会(2001)『大学・大学院留学生の日本語①読解編』
アルク
・亀井伸孝(2012)「手話の世界を訪ねよう」二通信子・門倉正実・佐藤広子(編)『日 本語力をつける文章読本 知的探検の新書30冊』東京大学出版会, 68-74
・学習技術研究会(2011)『知へのステップ 第3版-大学生からのスタディ・スキルズ』
くろしお出版 一般書・国語教科書
・苅谷剛彦(2009)「隠れたカリキュラム」岩間輝生・太田瑞穂・坂口浩一・関口隆一(編)
『高校生のための現代思想ベーシック ちくま評論入門』筑摩書房, 38-49
・中沢けい「雨の日と青い鳥」光村図書『国語2 (中学)』
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読解行為をふり返り、どんなストラテジーをどの程度使用しているかを点検する活動 を行った。その上で、自己点検結果をピア活動で紹介し合い、説明的文章の効率的な 読み方に必要なストラテジーや自分にとって必要なストラテジーについて話し合った。
発展活動として、課外に読解ストラテジーを意識して読む活動を課し、「隠れたカリ キュラム」(苅谷, 2009)を部分的に抜粋してふりがなを付けた教材文を複写して貸与 した。希望する学習者には、読解ストラテジーの分類表(資料13)も貸与した。
表3-6 読解ストラテジーの自己点検表(一部)
これらの活動を通して、学習者は、自分がよく使うストラテジーや自分にとって有 益なストラテジーをピア活動の相手に具体的に説明していた。クラス全体でも各グル ープの情報を共有する中で、みんなのストラテジーの使い方から共通性を見出し、有 用性の高いストラテジーや優先的に使用した方がいいと思うストラテジーを提起する 学習者も見られた。この学習を終えた後、2名の学習者が、「テキストの情報構造、テ キストの文体、スタイル、内容、トピック、タイトル。これは長い文章を理解するの方 法が使える」、「テキストが長くてたて書きだったので自分にとっては読みにくかっ た。そこで、読解プロセスを制御するための読解ストラテジーをよく使った。例えば、
1-1-3の1-1読む速度を調節するとか、1-1-9の指を使って読んでいるところをなぞる
というストラテジー」など、第3週で配布した読解ストラテジー(資料12・資料13)
の情報を利用したことを第10週の内省文で報告していた。
第5週から第8週には、読解ストラテジーの意識的使用を主眼とした活動を行った。
自作ワークシートを用いて、「題名読み」、「題名・冒頭部分の読み」、「題名・冒頭・
末尾部分の読み」、「文章構造の把握」などを行い、「二項対立の把握」に繋いで、文 章構造の把握に必要なストラテジーを段階的に使用する活動を行った。以下に、使用 したワークシートの作成意図と使用の概要を述べる。
(1) 自分が読解ストラテジーをどのように使っているか、ふり返ってみましょう。
A:よく使う B:ときどき使う C:あまり使わない D:使わない
①題名だいめい(タイトル)を読んで、何が書かれているのか予測よ そ くを立てる… A―B―C―D
②題名(タイトル)と一致い っ ちする内容の文を探さがす……… A―B―C―D
③パラグラフの初めか最後さ い ごの方ほうをまず読よむ ………A―B―C―D
④最初さいしょから最後まで、全部にざっと目を通す ………A―B―C―D
⑤主題しゅだい文ぶん(主 張しゅちょうを述のべる文)とそれを支ささえている文を区別する …… A―B―C―D
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まず、第5週で使用したワークシート(資料 15)は、「題名を読む」というストラ テジーにより、題名の重要性とその役割への気づきを促す活動に使用した。題名が文 章全体を簡潔に要約したもの、筆者が最も伝えたいものであるという認識の獲得をね らいとした。第6 週は、タスクを遂行していく中で、題名と冒頭部分、末尾部分から 説明的文章の構造を大枠で把握し、「キーワードを見つける」、「問題提起文を見つけ る」、「結論表示文を見つける」などのストラテジーを見いだす活動を支援した。具体 的には、ワークシートを使って、「ジャンルによる特徴の違い」、「題名の冒頭部分へ のパラフレーズ36 としての出現」、「問題提起文の提示」、「題名のパラフレーズの キーワードとしての出現」に注目した。さらに、文章の末尾部分から「結論表示文の 提示」、「題名のパラフレーズのキーワードとしての出現」を捉える活動を行った。
第5週、第6週の活動を通して、学習者が関心を持って活動する態度が観察され、
「題名は今までなんとなく読んでいた」、「説明的文章には絶対に問題提起文がある という共通点がある」「ジャンルによって違う読み方で読むべきだと確認できた」な どの内省が観察された。
第 7週は、文章全体の読解を通して、「文章構造を把握する」というストラテジー の利用を促した。文章全体の構造(序論・本論・結論)と段落内の構造(中心文・支持 文)に注意を向けさせることをねらいとしてワークシートを作成し、同一手順で課題 文を解読する活動を課してストラテジー使用の習熟を図った。
この活動を通して、学習者は、「主題文と支持文のことは知っていたけど、日本語 では考えなかった」、「時間がないときにこの読み方は使える」、「本論の主題文を読 むだけでは意味が分からないとき、支持文も読んだ方がいい」、「専門文章は専門用
語がたくさん入っているから主題文だけ読んでも理解できない」などと内省していた。
第 8週は、二項対立の文章の読解を課した。これまでの活動で使用したストラテジ ー、特に、「文章構造を把握する」というストラテジーの利用が促進されるよう、ワー クシートの設問を工夫した。
学習者の反応の中には、問題提起文と結論表示文を関連付け、教材文の題名に対し て焦点化の必要があるのではないかと提案するなど、これまでに使用したストラテジ ーを積極的に活用しようとする行動が多く見られた。
36 題名のパラフレーズとは,くり返しや同義語を指す(メイナード, 1997)。